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遅れて重なる 第47話

第47話


「呼び声」



霧の中で、 無数の赤い単眼が揺れている。

だが回収機達は、 もう攻撃してこなかった。

ただ。

ギアだけを見ている。


〈帰還してください〉


機械音声。

その奥に混ざる、 もう一つの声。


『……来い』


静かな声だった。

怒りも、 憎しみも感じない。

なのに。

背筋が凍るほど、 哀しかった。

ギアの頭へ、 断片的な映像が流れ込む。

暗い部屋。

一人きり。

何度も繰り返される同期実験。

崩壊する人格。

それでも。


『イリス』


その名前だけを、 呼び続ける声。

ギアが眉を押さえる。


「くそ……!」


カレンが腕を掴む。


「聞くな!」


ギアはハッとする。

声が、 直接意識へ入り込んできていた。

博士が険しい顔で言う。


「最初のG-03は、お前へ共鳴している」

「存在波形が近すぎるんだ」


回収機達が、 一歩だけ前へ出る。


〈誘導を開始します〉

〈抵抗は不要〉


カレンが銃を構える。


「いや普通に抵抗するけど?」


その瞬間。

霧の奥から、 巨大な影が現れた。

地面が震える。

今までの回収機とは違う。

三倍以上の巨体。

多脚戦車のような下半身。

上半身だけが、 歪な人型を保っている。

胸部には。

赤ではなく。

青白いコア。

博士の顔色が変わる。


「……まさか」


モニターへ、 新たな識別名が表示される。


《TYPE-ALPHA》

《初期同期対応回収機》


ギアの鼓動が強くなる。

その機体だけ、 異常だった。

まるで。

“自分” の気配がする。


〈G-03へ最適化済み〉


低い駆動音。

そして、機体の奥から、 あの声が再び響く。


『……お前は』


ノイズ。


『俺なのか?』


静寂。

ギアの呼吸が止まる。

カレンがギアを見る。

だがギアは答えられない。

その問いは。

相手へ向けられたものではなく

自分自身へ突き刺さっていた。

TYPE-ALPHAが、 ゆっくり一歩踏み出す。

地面が軋む。


『何故』


声が近づく。


『まだ、お前は壊れていない』


その言葉に。

ギアの中で、 何かが強く軋んだ。

もし。

カレンがいなかったら。

博士が止めなければ。

イリスと出会わなければ。

目の前の存在こそ、 自分だったのかもしれない。

TYPE-ALPHAの青白いコアが、 脈動する。


『教えてくれ』


静かな声。

本当に。

壊れそうなほど静かな声だった。


『どうして、お前は』


ノイズ。


『まだ、“ 一人じゃない ”んだ』




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