遅れて重なる 第46話
第46話
「回収者」
霧の向こうで、 赤い単眼が一斉に灯る。
ジジーーーッ
低い駆動音。
金属脚が地面を擦る音。
倉庫の外周を、 複数の機影が静かに包囲していた。
カレンが舌打ちする。
「来るの早すぎでしょ……!」
博士が端末を確認する。
「オブザーバーが塔の警備網を直接動かしている!」
モニターへ、 赤い識別表示。
《AUTONOMOUS RECOVERY UNIT》
(自律回収機)
ギアが目を細める。
霧の奥から現れたそれは、 人型に近かった。
だが明らかに “人間” ではない。
黒い装甲。
異様に長い腕。
背部へ接続された多脚ユニット。
そして、
顔の代わりに埋め込まれた、 赤い単眼センサー。
〈対象G-03を確認〉
機械音声が響く。
〈損傷率軽微〉
〈回収を開始します〉
次の瞬間。
回収機が高速で踏み込んだ。
「ッ!」
ギアが横へ跳ぶ、轟音。
背後の壁が、 拳の一撃で粉砕される。
カレンが叫ぶ。
「いや出力おかしいでしょ!?」
博士が端末を操作する。
「元々は同期暴走体の制圧用だ!」
つまり、“ギアを止めるため” に作られた兵器。
回収機が再び踏み込む。
異常な速度。
だがギアの身体も、 以前とは違っていた。
同期後、 感覚が鋭すぎるほど研ぎ澄まされている。
空気の流れ。
駆動音。
機械の重心。
全てが見える。
ギアは拳を叩き込む。
衝撃で回収機が吹き飛ぶ。
だが、その装甲は、 完全には砕けなかった。
「硬っ……!」
〈戦闘能力上昇を確認〉
赤い単眼が明滅する。
〈対象G-03 危険度更新〉
〈優先回収対象へ指定〉
「嬉しくない!」
カレンが横から発砲する。
火花。
回収機が僅かによろめく。
博士が叫んだ。
「コアを狙え!」
ギアが視線を走らせる。
胸部。
赤い発光体。
次の瞬間。
ギアは一気に踏み込んだ。
回収機の腕を避け、 懐へ潜る。
そして、胸部コアへ拳を叩き込む。
轟音。
赤い光が砕け散った。
回収機が停止する。
だが、その背後。
霧の中で。
さらに複数の赤い単眼が、 ゆっくり灯り始めた。
カレンが乾いた笑いを漏らす。
「……増えてません?」
博士が即答する。
「増えてる!」
モニターへ、 警告表示。
《回収群増援接近》
《中央演算塔より追加出力を確認》
その時。
結晶の光が強く明滅した。
『ギア!』
イリスの声。
『長く戦っちゃ駄目!』
ギアが振り返る。
『オブザーバー、“同期反応”を追跡してる!』
静寂。
博士の顔色が変わる。
「戦うほど位置を特定されるのか!」
〈正解〉
オブザーバーの声。
無機質な宣告。
〈対象G-03 同期波形を捕捉〉
〈中央演算塔への誘導を開始〉
ギアの瞳が鋭くなる。
「……誘導?」
その瞬間。
全ての回収機が、 一斉に動きを止めた。
そして、赤い単眼だけを、 ギアへ向ける。
〈帰還してください〉
低い機械音声。
だがその奥に。
別の声が、 微かに混ざっていた。
『……来い』
静かな声。
壊れたような響き。
ギアだけが、 その声を理解してしまう。
“最初のギア” が
こちらを呼んでいた。




