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遅れて重なる 第45話

第45話


「塔へ」



夜明けの光が、 ゆっくり瓦礫の街を照らし始めていた。

だが空気は重い。

世界そのものが、 まだ悪夢から醒めきっていないようだった。

倉庫の奥。

博士が古びた端末へ、 中央演算塔のルートを表示する。


「正面からは入れん」


立体マップが回転する。

巨大な地下構造。

幾重もの封鎖区画。

崩落した連絡路。

そして最深部。


《ZERO》


カレンが口笛を吹く。


「ほんとに都市ね、これ」


博士は頷く。


「かつては数千人規模で運用されていた」

「研究員、警備、演算管理、同期監視……」


そこで言葉を止める。

今はもう、 誰もいない。

残っているのは、 壊れたシステムと亡霊だけだ。

ギアが地図を見る。


「侵入経路は」


博士が一点を拡大する。


《旧搬入口 B-17》


「ここなら外部電源ラインに繋がっている」

「完全封鎖されていなければ潜り込める」


カレンが嫌そうな顔をする。


「“されていなければ”ね」


その時。

結晶が、 微かに点滅した。


『……気をつけて』


イリスの声。

ノイズ混じり。


『演算塔の中は、普通じゃない』


ギアが視線を落とす。


「普通じゃないって?」


短い沈黙。

そして


『記録と現実の境界が曖昧になってる』


倉庫の空気が静まる。

博士が低く呟く。


「情報汚染領域か……」


カレンが眉を寄せる。


「つまり?」


博士は苦々しく説明する。


「同期空間が現実へ侵食している状態だ」

「記憶、感情、過去の記録……それらが物理空間へ干渉する」


ギアの脳裏に、 白い空間が蘇る。


「幻覚じゃないって事か」


「最悪の場合、現実そのものが書き換わる」


カレンが即答する。


「やっぱ最悪じゃない」


だがギアは、 妙に静かだった。

むしろ。

どこか納得している。

今まで見てきたもの。

繰り返された記憶。

同期空間。

オブザーバー。

全てが、 その“歪み”の延長線上にあった。

博士がギアを見る。


「中央演算塔へ入れば、お前は確実に狙われる」

「最初のG-03は、お前を“完成形”として認識する可能性が高い」


ギアは静かに答える。


「だから行く」


カレンが肩を竦める。


「止めても行く顔ね、それ」

「止めるか?」

「無理」


即答だった。

そのやり取りに、 ほんの少しだけ空気が和らぐ。

だが次の瞬間。

倉庫の外から、 低い駆動音が響いた。

全員の動きが止まる。

ギアが振り向く。

外。

霧の向こう。

何かがいる。

赤い単眼。

無機質な光。

そして、複数の人影。

博士の顔色が変わった。


「……自律警備機か!」


モニターへ警告表示が走る。


《中央演算塔 外縁警備群 接近》

《観測対象 G-03 捕捉済》


オブザーバーの声が、 静かに響く。


〈回収プロセスを開始します〉



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