遅れて重なる 第42話
第42話
「夜明け前」
倉庫の外で、 雨上がりの風が吹いていた。
東の空は薄く白み、 長かった夜が終わろうとしている。
だがギア達の表情は、 誰一人明るくなかった。
中央演算塔。
オブザーバー中枢核。
そして
そこに残されているかもしれない、 イリスの元データ。
希望にも見える。
だが同時に、 深すぎる罠にも思えた。
カレンが古い机へ腰掛ける。
「整理するわよ」
指を一本立てる。
「放置したらオブザーバー完全復活」
二本目。
「でも行けば、イリスを戻せる可能性がある」
三本目。
「そして大体こういう時は、最悪のオマケが付いてる」
博士が苦く笑う。
「否定できんな」
ギアは黙ったまま、 掌の結晶を見つめていた。
青白い光。
微かな脈動。
それはまるで、 消えかけた命の残火だった。
『……ギア』
イリスの声。
結晶から、 小さく響く。
「起きてたのか」
『少しだけ』
ノイズ混じりの声。
だが以前より安定している。
オブザーバーとの接続が、 逆に存在維持を助けているのかもしれない。
イリスは静かに言った。
『無理しなくていい』
ギアが顔を上げる。
『私の事、もう十分――』
「却下!」
即答だった。
カレンが吹き出す。
博士まで少し目を細めた。
ギアは真っ直ぐ結晶を見る。
「何回繰り返しても助けに行くんだろ、俺」
短い沈黙。
『……うん』
「なら今さらだ、止まれない」
イリスが、 困ったように笑った気配がした。
その時。
倉庫奥のモニターへ、 突然ノイズが走る。
全員の視線が向く。
黒い画面。
そこへ。
一瞬だけ、 人影が映った。
誰もいないはずなのに。
カレンが眉をひそめる。
「……今の見た?」
博士が立ち上がる。
次の瞬間。
モニターへ、 大量の文字列が流れ始めた。
〈接続確認〉
〈外部端末アクセス〉
〈識別コード照合〉
そして
画面中央へ、 一行の文字が浮かぶ。
《G-03 帰還を確認》
空気が凍る。
ギアの背筋に、 嫌な寒気が走った。
オブザーバーの声ではない。
もっと、 “人間” に近い何か。
そして続けて、 新たな表示が浮かび上がる。
《中央演算塔 第零層にて待機中》
博士の顔色が変わる。
「第零層……?」
カレンが低く言う。
「嫌な予感しかしないんだけど」
その時。
結晶の青い光が、 急激に明滅した。
イリスの声が震える。
『……来る』
静寂。
『ギア』
彼女は、 今までで一番怯えた声で言った。
『 “最初のギア” が、まだ残ってる』




