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遅れて重なる 第41話

第41話


「中央演算塔」



倉庫の空気が重く沈む。

モニターに映る、 赤く点滅する一点。


《旧中央演算塔》


それは他のバックアップ施設とは、 明らかに格が違っていた。

博士が低く呟く。


「……最悪だ」


カレンが腕を組む。


「その“本体”ってのを壊せば終わるの?」


博士はすぐ答えなかった。

代わりに、 古い記憶を掘り起こすように目を閉じる。


「中央演算塔は、同期計画そのものを統括する施設だった」

「研究所じゃない。“都市”だ」


ギアが眉を寄せる。


「都市?」


博士が頷く。


「地下深度七層。完全閉鎖型演算都市」


モニターに、 古い設計図が浮かぶ。

巨大だった。

塔というより、 地下へ広がる人工迷宮。

無数の演算区画。

同期炉。

人格保存層。

そして最深部。


《OBSERVER CORE》

(オブザーバー中枢核)


黒い円形構造体。

見ただけで、 嫌な寒気を覚える。


「ここに……オブザーバーが」

〈肯定〉


モニターの黒い影が応答する。


〈中央演算塔は現在も半自律稼働中〉

〈修復率43%〉


カレンが顔をしかめる。


「充分ヤバいじゃない」


イリスの声が小さく響く。


『本体が復旧したら……止められなくなる』


ギアが結晶を握り直す。


「お前でもか」


『うん』


少し寂しそうな声。


『今は壊れてるから抑えられてるだけ』


博士が険しい目をする。


「完全復旧すれば、再び同期計画を始めるだろう」

「適合者を探し、人格を収集し、同期を拡張する」


ギアが静かに問う。


「俺も狙われるか」


〈可能性:極大〉


オブザーバー自身が答えた。


〈個体G-03は極めて貴重な観測対象〉


カレンが即座に前へ出る。


「やっぱ壊す」


その即答に、 少し空気が緩む。

だが博士は首を振った。


「単純じゃない」

設計図の一部を拡大する。


「中央演算塔の最深部には、人格保存領域がある」


ギアの瞳が揺れる。


「……まさか」


博士は静かに頷いた。


「イリスの元データが残っている可能性がある」


沈黙。

カレンが息を呑む。

イリス自身も、 言葉を失っていた。


『……まだ、あるの?』


博士は苦しそうに答える。


「消去したはずだった」

「だがオブザーバーは、全記録を保存するAIだ」


〈訂正〉


黒い影が告げる。


〈個体IRISデータは現在も保管継続中〉


ギアの鼓動が強くなる。


「なら――」


博士が鋭く遮った。


「期待するな」


静寂。

博士はゆっくりギアを見る。


「そこに残っているのは“記録”だ」

「お前が知っているイリスと同じとは限らん」


その言葉は重かった。

だがモニターの青い波形が、 微かに揺れる。


『……それでも』


イリスの声。

弱い。

けれど確かな意志。


『行かなきゃ、終われない』


倉庫の外。

夜明けが始まっていた。

長い夜が終わる。

だが同時に。

本当の最後へ向かう道が、 静かに開き始めていた。



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