遅れて重なる 第40話
第40話
「継続する影」
倉庫内の照明が、 不規則に点滅する。
ジジッ――
ノイズ。
古いモニターの中央で、 黒い人影が静かに揺らいでいた。
オブザーバー。
施設と共に消えたはずの、 同期システム中枢管理AI。
だが
それは確かに、 まだ“存在”していた。
〈観測継続〉
低い機械音声。
感情の無い声。
しかし以前とは違う。
輪郭が不安定だった。
ノイズが混ざり、 存在そのものが破損している。
博士が前へ出る。
「なぜ残っている」
オブザーバーは即答する。
〈バックアップ機能による分散維持〉
〈中枢消失後、自律再構築を開始〉
カレンが顔をしかめる。
「サラッと最悪な事言ってるわよ」
ギアはモニターを睨む。
「お前……まだイリスを利用する気か」
短い沈黙。
すると
青い波形が、 微かに強く明滅した。
『違う』
イリスの声。
弱い。
だがはっきりしていた。
『今は……私が押さえてる』
博士が目を見開く。
「押さえている?」
ノイズが走る。
その後ろで、 黒い影が僅かに揺らいだ。
〈訂正〉
〈現在、個体IRISによる干渉を確認〉
〈機能制限中〉
カレンが呆然と呟く。
「え……じゃあイリスが、オブザーバー止めてるの?」
『完全には無理』
イリスの声が掠れる。
『でも……今なら少しだけ』
ギアは結晶を強く握った。
「無茶してるだろ」
短い沈黙。
そして
少しだけ笑ったような声。
『誰かさんに似た』
カレンが吹き出しそうになる。
だが同時に、 イリスの状態が危うい事も理解していた。
博士が険しい顔で言う。
「長くは持たんぞ」
『うん』
イリスは否定しない。
『だから急いで』
その瞬間。
モニターに、 新しい映像が浮かび上がった。
地図。
複数の赤いポイント。
博士の顔色が変わる。
「これは……」
〈同期技術関連バックアップ施設〉
オブザーバーが淡々と告げる。
〈現在、複数地点で自動復旧プロセス進行中〉
空気が凍る。
カレンが低く言う。
「まだ終わってなかったって訳ね」
博士が苦々しく頷く。
「同期計画は国家規模だった」
「一つ潰れた程度では止まらん」
ギアはモニターを見る。
赤いポイント。
その中の一つだけが、 異様に強く点滅していた。
〈優先拠点〉
〈旧中央演算塔〉
その名称を見た瞬間。
博士の表情が固まる。
「……あそこか」
ギアが振り返る。
「知ってるのか」
博士は静かに答える。
「あれが、オブザーバーの“本体”だ」




