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遅れて重なる 第39話

第39話


「残された観測」



雨は夜明け前には止んでいた。

空はまだ暗い。

だが東の端だけが、 微かに白み始めている。

崩壊した研究施設から離れた廃倉庫。

ギア達は、 そこで一時的に身を潜めていた。

古い照明。

冷えた空気。

静かな発電機の音。

カレンは壁にもたれたまま、 眠そうに欠伸をする。


「……最悪の夜勤だった」


ギアは少し笑った。

その掌には、 あの青い結晶がある。

光は弱い。

だが確かに、 まだ脈動していた。

博士は端末へ向かったまま、 険しい顔を崩さない。


「どうだ」


ギアの問いに、 博士は苦々しく息を吐いた。


「施設のメインサーバーは完全消失だ」

「だが……」


端末に、 赤い警告表示が浮かんでいる。


《外部アクセス痕を確認》

《データ転送ログ 一部欠損》

カレンが顔をしかめる。


「逃げられたって事?」


「恐らくな」


博士は疲れた目を押さえる。


「オブザーバー自身か、あるいは同期技術の断片か……」


その時。

ギアの掌の結晶が、 微かに点滅した。

三人の視線が集まる。

そして

倉庫内の古いモニターが、 突然ノイズを走らせた。


〈接続確認〉


カレンが飛び起きる。


「うわっ!?」


画面は真っ黒。

だが中央に、 青い小さな波形だけが浮かんでいる。

博士が息を呑む。


「これは……」


ノイズ。

そして

聞き慣れた声が、 小さく響いた。


『……博士』


空気が止まる。

博士の目が見開かれた。


「イリス……?」


『完全な復元は……まだ無理』


声は途切れ途切れだった。

まるで深い水底から、 無理やり届いているように。


『でも……少しだけ繋げられる』


ギアが一歩前へ出る。


「お前、本当に……」


ノイズ。

青い波形が揺れる。


『ギア』


その呼び方だけで、 十分だった。

ギアは言葉を失う。

カレンは、 何故か少し安心した顔をする。

だが博士だけは、 表情を曇らせていた。


「イリス」


低い声。


「どうやって接続している」


短い沈黙。

そして


『オブザーバーを使った』


その瞬間。

倉庫内の空気が凍る。

ギアの表情が変わる。

博士が鋭く言う。


「どういう意味だ」


ノイズが走る。

イリスの声が、 少し苦しそうに歪む。


『オブザーバーは……まだ終わってない』


照明が明滅する。

モニター全体へ、 黒いノイズが滲み始めた。


〈観測継続〉


低い機械音声。

聞き覚えのある声。

カレンが息を呑む。


「まさか……!」


モニター中央。

青い波形の後ろに。

黒い人影が、 静かに立っていた。


















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