遅れて重なる 第36話
第36話
「帰還」
〈未来予測――不能〉
その言葉を最後に。
白い世界が砕け散った。
轟音。
視界が反転する。
重力。
熱。
警報。
ギアは激しく床へ叩きつけられた。
「ッ……!」
現実。
崩壊寸前の格納庫だった。
赤い非常灯が点滅し、 天井から火花が降り続いている。
中央炉心は限界を超え、 金属音が悲鳴のように響いていた。
「ギア!!」
カレンの声。
次の瞬間、 彼女が勢いよくギアへ飛びつく。
「この……バカ!!」
震えていた。
怒っているのに。
泣きそうな顔で。
ギアは呆然と、 彼女を見る。
温かい。
確かな体温。
現実の感触。
「……戻って、これたのか」
カレンはギアの胸ぐらを掴む。
「勝手に消えるな!」
その言葉に。
ギアは、 初めて実感した。
自分は、 “今” へ帰ってきたのだと。
その時。
格納庫中央の旧式フレームが、 低く駆動音を鳴らした。
ギアが振り向く。
コクピットは閉じている。
だが。
胸部コアだけが、 淡い青白い光を放っていた。
まるで。
まだ誰かが、 そこにいるように。
博士がゆっくり歩み寄る。
その表情は、 疲弊しきっていた。
「……終わったのか」
誰に向けた言葉でもない。
ギアは静かに尋ねる。
「イリスは」
沈黙。
博士は答えない。
代わりに、 旧式フレームのコアを見つめた。
そこへ。
オブザーバーの声が、 最後に響く。
〈同期空間 閉鎖確認〉
〈個体IRIS――反応微弱〉
カレンが顔を上げる。
「微弱……?」
〈存在消失は未確認〉
静寂。
ギアの鼓動が強くなる。
博士が目を見開いた。
「まさか……維持されているのか?」
オブザーバーは、 僅かなノイズを混ぜながら続ける。
〈原因不明〉
〈理論値外現象を継続観測中〉
その瞬間。
旧式フレームのコアが、 一度だけ強く明滅した。
青い光。
優しく。
まるで応えるように。
ギアは息を呑む。
「……イリス?」
返答は無い。
だが。
コアの光は、 完全には消えなかった。
崩壊警報が激しさを増す。
〈中央炉心崩壊まで残り60秒〉
カレンが叫ぶ。
「話は後! 逃げるわよ!」
天井が崩れる。
炎。
落下する鉄骨。
だがギアは、 最後に一度だけ振り返った。
旧式フレーム。
淡く灯るコア。
そして
通信ノイズの奥から、 微かに聞こえた気がした。
『……おかえり』
ギアの瞳が、 静かに揺れた。




