表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/81

遅れて重なる 第35話

第35話


「現在という答え」



白い世界が、 ゆっくりと崩れていく。

だが先ほどまでの絶望的な崩壊とは違っていた。

空間そのものが、 “迷っている”。

壊れるべきか。

維持すべきか。

まるでオブザーバー自身が、 結論を出しきれずにいるようだった。


〈観測継続〉


黒い影が揺らぐ。


〈個体G-03は規定外変異を確認〉

〈原因特定不能〉


ギアは静かに立っていた。

その視線の先。

裂け目の向こうでは、 カレンが必死に何かを叫んでいる。

声は届かない。

だが分かった。

戻れ、と。

生きろ、と。

そう叫んでいる。

イリスが、 その姿を見つめながら小さく笑った。


「……いい顔するようになった」


ギアが振り返る。


「え?」


「前のあなたは、もっと危うかった」


イリスは少し寂しそうに続ける。


「誰かを守る時、自分を消す事を迷わなかった」


博士が目を閉じる。

否定できない。

過去のギアは、 常に “自己犠牲” を最適解にしていた。

だから何度も壊れた。

だが今は違う。

ギアは静かに言う。


「……俺は、お前も助けたい」


イリスの瞳が揺れる。


「でも、自分も消えたくない」


その言葉。

それは、 過去のどのギアも口にしなかった願いだった。

オブザーバーが反応する。


〈矛盾を確認〉

〈両立は理論上不可能〉


「なら」


ギアがゆっくり前へ出る。


「理論を外れる」


空間が震えた。

オブザーバーの輪郭へ、 再びノイズが走る。

博士が、 僅かに笑う。


「……本当に変わったな、お前」


ギアは苦く笑った。


「変えられたんだよ」


脳裏に浮かぶ。

カレン。

仲間達。

ぶつかり合った日々。

失敗。

怒り。

笑い声。

その全部が。

“死んでも繰り返すだけの存在”だった自分へ、 現在を与えていた。

オブザーバーが低く告げる。


〈再定義開始〉

〈個体G-03は“循環個体”ではない〉

〈新規存在カテゴリを設定〉


ノイズ。

赤い光が明滅する。


〈名称未定〉

その瞬間。

イリスの輪郭が、 急激に薄くなった。


「……!」


ギアが駆け寄る。

イリスは苦しそうに微笑んだ。


「時間切れ、みたい」


白い粒子が、 彼女の身体から零れ落ちていく。

現実世界との接続が、 限界を迎えていた。

ギアが手を伸ばす。


「待て!」


イリスは静かに首を振る。


「大丈夫」


消えかけた彼女は、 穏やかな目でギアを見る。


「今度は、一人じゃないから」


その言葉と同時に。

白い世界の崩壊が、 一気に加速した。

そして

オブザーバーが、 最後の観測結果を告げる。


〈結論〉


静寂。


〈未来予測――不能〉



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ