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遅れて重なる 第34話



第34話


「解の外側」



白い世界の崩壊が止まらない。

空間の裂け目から、 現実の警報音が流れ込んでくる。

赤い光。

軋む鉄骨。

遠くで叫ぶカレンの声。

それでも。

この場だけは、 異様な静寂に包まれていた。

ギアの問い。


『完全同期以外の方法は、本当に無いのか』


その答えを、 オブザーバーは即座に返さなかった。

黒い輪郭が、 僅かに揺れる。


〈検索中〉

〈過去試行記録を参照〉


無数の光が空間を走る。

歴代の同期実験。

失敗。

暴走。

人格崩壊。

そして死。


〈回答〉

〈完全同期以外の成功例は存在しない〉


オブザーバーが告げる。

博士が目を伏せる予想していた答えだった。

だが、オブザーバーは続けた。


〈ただし〉


静寂。

ギアが顔を上げる。


〈現在の個体G-03は、過去記録と著しく異なる〉


空間へ、 今のギアの波形データが浮かぶ。

そこには。

複数の異常値。

人格固定率。

感情維持。

同期拒絶反応。

そして


《外部干渉因子》


ギアが眉を寄せる。


「……何だ、それ」


オブザーバーが答える。


〈解析不能要素〉

〈登録名:KAREN〉


その瞬間。

ギアとイリス、 そして博士の表情が止まった。

現実空間の向こう。

崩壊する格納庫で、 必死にこちらを呼ぶカレンの姿が見える。


〈個体KAREN接触以降〉

〈G-03人格維持率が急上昇〉

〈同期暴走率が大幅低下〉


博士が小さく息を呑む。


「まさか……」


イリスも驚いていた。


「そんな事……」


オブザーバーが淡々と続ける。


〈感情接続による人格アンカー効果を確認〉

〈理論上、完全同期を経由せず存在維持が可能となる確率――〉


ノイズ。

数値が乱れる。


〈算出不能〉


ギアの鼓動が強くなる。

博士が震える声で呟く。


「人との繋がりが……同期そのものを書き換えてるのか」


オブザーバーは沈黙する。

それはつまり。

今までの実験に、 “足りなかったもの” が存在したという事。

効率。

適合率。

システム。

そんなものではなく。

もっと曖昧で、 非合理なもの。

イリスが、 静かにギアを見る。


「……あなた、変わったんだね」


ギアは何も答えない。

だが脳裏には、 カレンとの日々が浮かんでいた。

ぶつかり合い。

怒鳴り声。

呆れ顔。

笑った時間。

積み重なった、 “今”の記憶。

それは、 過去の繰り返しには存在しなかったものだった。

そして

オブザーバーが、 初めて僅かなノイズを混ぜて言う。


〈結論修正〉


黒い輪郭が揺らぐ。


〈個体G-03は、観測範囲外へ変質しつつある〉


静寂。

その言葉は。


“運命から外れ始めた”


という宣告だった。



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