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遅れて重なる 第30話

第30話


「繰り返された選択」



白い空間が軋む。

崩壊音。

光の破片。

その中心で、 ギアだけが動けずにいた。


「……何度も?」


掠れた声。

博士はゆっくり頷く。

まるで、 自分自身へ罪を認めるように。


「同期実験は、一度しか行われていない訳じゃない」


空間へ映像が浮かぶ。

知らない景色。

だが、 ギアの胸は痛む。

研究施設。

隔離室。

ベッドに横たわる幼い自分。

その隣で、 眠るイリス。


《同期率 87%》

《再接続試行》

《人格保持率――》


映像が途切れる。

ノイズ。

再び別の映像。

燃える研究区画。

警報。

そして

イリスを庇うように立つ、 別の“ギア”。


「これは……」


ギアの瞳が揺れる。

博士が重く口を開く。


「お前は、同期する度に自我が崩壊した」


また別の映像。

今度は、 完全に機械化したギア。

赤い瞳。

無機質な声。

イリスが泣いている。


『もうやめて……』


映像が砕ける。


「失敗する度、記録を封印した」


博士の拳が震えていた。


「だが、お前は毎回――」


そこで言葉が詰まる。

代わりにイリスが、 静かに続きを言った。


「私を守ろうとした」


ギアは息を呑む。

博士が目を逸らす。


「何度記憶を消しても」

「何度人格を書き換えても」

「何度身体を替えても」


イリスの声が震える。


「ギアは、必ず私を見つけた」


空間の崩壊が加速する。

裂け目の向こうに、 現実世界が見え始める。

赤い警報灯。

崩れる格納庫。

待ち続けるカレン。

だがギアは、 その景色を見つめたまま動かない。

脳裏で、 ある感情が膨らんでいた。

恐怖ではない。

怒りでもない。

どうしようもないほど、 深い喪失感。


「……じゃあ俺は」


ギアが呟く。


「ずっと、終われなかったのか」


誰も答えない。

その沈黙が、 何より残酷だった。

そして

崩壊する白い空間の奥で。

“何か”が、 静かに目を開いた。




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