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遅れて重なる 第28話

第28話


「境界の向こう側」



白い空間の亀裂が、 ゆっくりと広がっていく。

まるで世界そのものが、 限界を迎えているようだった。

ギアは胸元を押さえる。

鼓動が速い。

だがそれは恐怖だけではない。

“何か” が近づいている。

そんな感覚。


「時間がないの」


イリスが呟く。

彼女の輪郭が、 僅かに揺らいでいた。


「この空間も、もう長く維持できない」


「維持……?」


「ここは、私の記憶領域」


イリスは静かに周囲を見渡す。


「同期した意識が、一時的に接続されてるだけ」


ギアは眉を寄せた。


「じゃあお前は、本当に存在してるのか?」


その問いに、 イリスはすぐ答えなかった。

代わりに、 ゆっくり微笑む。

寂しそうに。


「ねぇギア」


彼女は問い返す。


「“存在”って、何だと思う?」


ーーーーーーーーーーーーーーー


白い空間へ、 再び映像が浮かぶ。

研究所。

笑っている幼いギア。

その隣にいるイリス。

二人は、 本当に普通の子供のようだった。


「私達は、ずっと一緒だった」


イリスの声が震える。


「実験の時も、隔離された後も」


映像が切り替わる。

暗い部屋。

苦痛に耐えるギア。

暴走する同期波形。

警報。

研究員達の悲鳴。

そして

幼いイリスが、 泣きながらギアへ抱きついていた。


『やめて、 ギアが壊れちゃう!』


その瞬間。

映像全体が激しく乱れる。

ノイズ。

赤い警告表示。


《適合体G-03 臨界到達》


ギアの頭へ、 激痛が走った。


「ッ……!」


膝をつく。

記憶が戻る。

いや。

封じられていたものが、 無理やり開いていく。


『切り離せ!』


『もう同期を止められない!』


『このままでは二人とも――』


博士の叫び。

泣き崩れる研究員。

その中心で。

幼いギアが、 イリスへ手を伸ばしていた。


『大丈夫』


笑っていた。

苦しいはずなのに。


『俺が、残るから』


ギアの瞳が揺れる。


「……残る?」


イリスが、 静かに頷いた。


「あなたは、自分から選んだの」


空間の亀裂がさらに広がる。

崩壊が始まる。


「私を生かすために」


その言葉と同時に。

ギアの脳裏で、 最後の封印が砕け散った。






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