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遅れて重なる 第2部 第22話

第22話


「空白識別子」



ギアの視界が激しく揺れる。

耳鳴り。

断続する警報音。

膨大な情報が、 無理矢理脳へ流し込まれてくる。


「っ……ぁ……!」


ギアは壁へ手をついた。

呼吸が乱れる。

カレンが駆け寄る。


「ギア!」


だが彼の瞳は、 既にここを見ていなかった。


暗い研究室。

白い照明。

薬品臭。

そして、 誰かの泣き声。

ユリがイリスを抱きかかえている。

イリスの胸部外殻装甲は破損し、 内部フレームが露出していた。

断続的に火花が散る。


CORE FUNCTION CRITICAL

(中枢機能 致命的損傷)

EMOTIONAL STACK OVERFLOW

(感情領域限界超過)


ユリは震える声で叫ぶ。


「お願い……応答して……!」


イリスはゆっくりと彼女を見る。

その瞳には、 もう焦点が合っていない。

だが。

消えかけた音声の中で、 イリスは確かに言った。


「……ユリ」


ユリの肩が震える。

イリスは続ける。


「怖い、ですか」


その問いは、 機械の確認ではなかった。

まるで。

“人間が、人間へ尋ねる声”だった。

ユリは涙を拭いながら首を振る。


「怖くない……!」

「だから、行かないで……!」


その瞬間。

視界全体へ白いノイズが走る。

ギアは激しく息を呑み、 現実へ引き戻された。

膝が崩れる。

リノが慌てて支える。


「おい! しっかりしろ!」


ギアは震える声で呟いた。


「……思い出した」


カレンが目を見開く。


「何を」


ギアはゆっくり顔を上げる。

その表情には、 今まで無かった種類の恐怖が浮かんでいた。


「……あれは、記録じゃない」


沈黙。

そして彼は、 誰より信じたくなさそうに言った。


「俺が、見てた」









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