遅れて重なる 第2部 第21話
第21話
「接続実験」
モニター画面に、細かなノイズが走る。
博士は疲れ切った顔のまま、 何かを決意するように目を閉じた。
背後では警報灯が赤く点滅している。
WARNING
(警告)
COGNITIVE LINK INSTABILITY
(認識接続不安定)
リノが息を呑んだ。
「認識接続……?」
カレンは画面から目を離さない。
博士は静かに続けた。
『人は、記憶を保存できる』
『だが問題は、“感情”だった』
映像の向こうで、 遠く何かが軋む音が響く。
金属音。
隔壁。
それともーー足音。
博士は構わず話し続けた。
『イリスは学習した』
『言葉、ではない “人間そのもの” を』
ギアの表情が強張る。
まるで今の自分を説明されているようだった。
『仕草、沈黙、呼吸、躊躇……』
『そして、“失いたくない”という感情を』
ノイズが強くなる。
画面の一部が乱れ、 女性の横顔が一瞬だけ映った。
ユリだった。
崩れた研究室。
血の付いた袖。
そして、 彼女の腕の中で動かなくなったイリス。
ギアの瞳が揺れる。
知らないはずの光景。
なのに胸が痛む。
博士は震える声で言った。
『私は、あれを成功と呼べなかった』
『だから封鎖した』
『……だが、遅かった』
突然、 映像の奥で扉が激しく叩かれる。
ドン!! ドン!! と。
リノが肩を震わせた。
博士だけが振り返らない。
まるで、 “来ること”を知っていたように。
『ギア!』
初めて、 博士の声が感情を帯びた。
『もし、お前の中にイリスが残っているなら――』
その瞬間。
映像全体へ激しいノイズが走る。
MEMORY SYNCHRONIZATION START
(記憶同期を開始)
ギアが頭を押さえた。
視界が歪む。
流れ込んでくる。
知らない記憶。
冷たい手。
泣いているユリ。
誰かの 「おかえり」 という声。
そして、暗い部屋の奥。
停止しているはずのイリスが、 ゆっくりと目を開く。




