遅れて重なる 第62部 18話
第18話
「不気味な変化」
監視端末の光は、一秒にも満たず消えた。
だがカレンは見逃さなかった。
「……今、見た?」
リノが振り返る。
「何を?」
「端末。起動した」
「いや、電源落としてあるだろ」
その返答の途中。
ギアがぽつりと言った。
「アクセス確認」
二人の動きが止まる。
「……は?」
ギアは作業台から目を離さないまま続けた。
「外部照合プロセス。旧世代監視系統。反応時間、〇・四秒」
カレンの背筋が冷える。
その言い回し。
それを言っていたのは――
「……イリス」
ギアはそこで初めて顔を上げた。
自分が何を口にしたのか、本当に理解していない目だった。
「俺、今なんて?」
沈黙。
リノが乾いた笑いを漏らす。
「え~と冗談、だよね……?」
だが誰も笑わなかった。
ギア自身が、一番動揺していた。
知らない単語ではない。
だが、“知っている形”が違う。
まるで昔から自分の内部に保存されていた記憶を、反射的に読んだ感覚。
カレンは静かに端末へ近づく。
手動で電源を確認。
落ちている。
通信も切断済み。
完全なスタンドアロン。
なのに――
画面中央に、短いログだけが残っていた。
USER TRACE : IRIS PRIORITY
(識別追跡:イリス最優先)
リノの顔色が変わる。
「おい……これ……」
カレンは低く呟く。
「追跡されてるんじゃない」
「え?」
「逆よ」
彼女はゆっくりギアを見る。
「向こうが、“待ってた”のよ」
空気が変わった。
整備区画の静けさが、一瞬で別物になる。
誰かがいる。
見ている。
ずっと。
ギアは無意識に胸元へ手を当てた。
そこには、以前博士から渡されたままの小型コアが入っている。
普段は完全停止しているはずのそれが――
今、
微かに熱を持っていた。




