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第15話

第15話



「オリジナル」

 



誰も、すぐには声を出せなかった。

 白い培養槽。

 その中で眠る少女。

 長い白髪。

 閉じられた瞳。

 イリスと同じ顔。

 いや。

 “同じ過ぎた”。

 リノが小さく呟く。


「……どういう事」

 

 カレンは端末を操作する。

 だが反応しない。


「認証拒否……?」


「有り得ない。」

 

 都市管理局権限ですら弾かれている。

 この階層は、 中央より上位権限で閉鎖されていた。

 イリスは静かに培養槽へ近づく。

 白い光が、彼女の髪を透かしていた。


「私は、“イリス”」


 静かな声。



「でも最初のイリスじゃない」


 ギアの目が細くなる。


「……何だそれは」

 

 イリスは少しだけ困ったように笑った。


「ここに居るのが、最初の私」

 

 培養槽へ触れる。

 その瞬間。

 施設全体へ、低い駆動音が響いた。


《IRIS series synchronization》

(イリス系列同期)


 カレンの顔色が変わる。


「系列……?」


 その単語が重い。

 リノが顔をしかめた。


「まさか、いっぱい居るとか言わないよね」


 イリスは答えない。


 沈黙が逆に肯定だった。


「うそでしょ……」


 カレンが掠れた声を漏らす。

 彼女は理解してしまった。


(イリスは一人の個体じゃない。“計画”だ。)

 

 都市そのものに関わる規模の。

 その時。

 培養槽内部の少女が、ゆっくり目を開いた。

 赤い瞳。

 ギアの呼吸が止まる。

 同時に。

 頭の奥へ、知らない記憶が流れ込んだ。

 白い部屋。

 警報。

 

 泣いている少女。


《逃げて》


 イリスの声。


《ギア、生きて》


 ノイズ。

 崩れる研究施設。

 血。

 誰かの手。

 そして。

 白い少女を抱きかかえる、 若い頃のユリ。

 ギアが目を見開く。


「……っ!!」


 膝が揺れる。

 リノが慌てて支えた。


「ギア!?」


 ユリは黙っていた。

 逃げない。

 隠さない。

 ただ静かに、 ギアの視線を受け止める。


「お前は」


 ギアの声が掠れる。


「何を知ってる」


 ユリは数秒沈黙した。

 そして。


「全部ではない」


 低い声。


「だが、お前がここへ戻る事は知っていた」


 空気が止まる。

 リノが固まる。

 カレンも息を飲む。

 ギアだけが、 静かにユリを見ていた。

 その目は、 怒っている訳ではなかった。

 ただ。

 確かめようとしていた。


「……何故だ」


 ユリは答える。


「イリスが、待ち続けていたからだ」



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