第14話
第14話
「記録に無い場所」
白い研究施設は、静か過ぎた。
電磁音すら小さい。
まるで時間だけが止まっている。
リノが周囲を見回す。
「……何ここ」
「研究区画でしょうか」
カレンも警戒を解かない。
だがその表情には、隠せない動揺があった。
都市管理局のデータに、 こんな場所は存在しない。
いや。
違う。
存在を“削除”されている。
それが一番近かった。
イリスは少し困ったように笑う。
「久しぶり」
その声だけで、 ギアの胸が妙に苦しくなる。
「……ここは何だ」
ギアが聞く。
イリスは答える前に、 周囲の培養槽を見た。
無数に並ぶ白いカプセル。
その多くは壊れている。
空だ。
「ここは、ゼロ階層」
静かな声。
「最初の研究区画」
カレンが目を見開く。
「まさか……」
イリスは続ける。
「都市の始まり」
空気が止まる。
リノが首を傾げた。
「都市って後から出来たの?」
「そう」
イリスは頷く。
「最初は研究施設だけだった」
白い光が、彼女の髪を揺らす。
「人は、“新しい人類”を作ろうとしていた」
その時。
ユリの目が少しだけ伏せられる。
ギアは見逃さなかった。
「……知ってたのか」
ユリは短く答える。
「ああ」
リノが驚く。
「え、マジで?」
「私は元々、この階層の警備側だった」
カレンが息を飲む。
「ゼロ階層直属……?」
その響きだけで異常だった。
中央管理局より、更に前。
都市の核。
ユリは静かに言う。
「ここでは、人間を作り替える研究が行われていた」
重い沈黙。
リノだけが少し顔をしかめる。
「……嫌な感じ」
「正常です」
カレンが珍しく不機嫌に即答した。
イリスは悲しそうに微笑む。
「みんな、未来を救いたかった」
「でも、間違えた」
ギアが聞く。
「何をした」
イリスは数秒黙った。
赤い瞳が揺れる。
そして彼女は、 中央の巨大培養槽へ視線を向けた。
一番大きい。
一番古い。
そこだけ、今も稼働している。
半透明の白い液体の中。
何かが眠っていた。
人影。
長い髪。
細い身体。
リノが固まる。
「……え」
カレンの顔色が変わる。
ユリだけが静かに目を閉じた。
そしてギアは、 言葉を失う。
培養槽の中に居たのは。
イリスだった。




