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第13話

第13話


「第零階層」



 格納庫の空気は、まだ火薬の匂いが残っていた。

 壊れた装甲兵。

 焼けた床。

 赤い警告灯。

 その中で、リノだけが妙に元気だった。


「ゼロ階層って何かカッコよくない?」


「響きだけで判断しないで下さい」


 カレンが即座に返す。


「絶対危険な場所です」


「でも行くんでしょ?」


「……それは」


 カレンが言葉を止める。

 ギアを見る。

 視線が静かに重なる。

 ギアは短く言った。


「行く」


 迷いは無かった。

 ユリが壁から身体を起こす。


「なら急げ」


「追っ手?」


「ああ」


 短い返事。

 その時。

 格納庫の照明が一瞬だけ明滅した。

 次の瞬間。

 全モニターへ、白い線が走る。

 ノイズ。


《route open》

(経路を開放)

 静かな機械音声。

 イリスだった。

 その区画の奥底に。

 閉鎖されていた大型搬送ゲートが、重い音を立てて開いていく。

 地下へ続く昇降路。

 暗い。

 深い。

 底が見えない。

 リノが覗き込み、顔をしかめた。


「うわ……絶対何か出るやつ」


「既に十分出ています」


 カレンが疲れた顔で返す。

 ギアは昇降路を見つめていた。

 何故か懐かしい。

 知らない場所のはずなのに。

 その時。

 頭の奥で、小さな声がした。


《おかえり》


 ギアの呼吸が止まる。

 イリスの声。

 優しい。

 温かい。

 だが同時に、ひどく寂しそうだった。


「……ギア?」


 リノが顔を覗く。


「顔、変だけど」


「元からです」


「カレンうるさい」


 少しだけ空気が緩む。

 ユリは先に昇降機へ乗り込んだ。


「来い」


 巨大な盾を背負う姿が、暗闇へ沈んでいく。

 ギアも歩き出した。

 その後を、

 リノ。

 カレン。

 続いていく。

 昇降機の扉が閉まる。

 重低音。

 ゆっくり下降が始まった。

 地下深階層。

 誰も知らない区画。

 第零階層。

 その途中。

 カレンが小さく呟く。


「……変ですね」


「何が?」


 リノが聞く。

 カレンは端末画面を見ていた。


「この都市、地下区画が有り過ぎます」


「?」


「普通の都市構造じゃないんです」


 その声が少し硬い。


「これでは…まるで……」


 そこで言葉が止まる。

 ギアが続きを口にした。


「実験場みたいだな」


 沈黙。

 カレンがゆっくり顔を上げる。


「……何故、それを」


 ギア自身も分からなかった。

 ただ。

 知っていた。

 ずっと前から。

 もっと深い場所で。

 その時だった。

 昇降機が止まる。

 薄暗い通路をだいぶ歩いた。

 ぼんやりと目の前に扉が出現した。

 ユリが慎重に扉を開ける。 

 入った途端。

 衝撃。

 暗転。

 次の瞬間。

 全員の前へ、白い光景が広がった。

 無数の培養槽。

 白い床。

 静かな研究施設。

 そして中央。

 一つだけ開いたカプセルの前に、

 白い少女が立っていた。

 長い髪。

 赤い瞳。

 イリス。

 だが。

 彼女は少しだけ困ったように笑っていた。


「……遅い」



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