第12話
第12話
「白を知る者」
格納庫の戦闘は、ようやく静まり始めていた。
火花。
煙。
焼け焦げた化薬、暖衝材、金属の匂い。
破壊停止した装甲兵の残骸が、床へ転がっている。
リノは槍を肩へ担ぎ、大きく息を吐いた。
「っあー……疲れた」
「元気でしたよね、最後まで……」
カレンが呆れた声を出す。
だが彼女自身も、かなり消耗していた。
額に汗、頬に付く髪。
呼吸も少し乱れている。
ギアは双剣を戻した。
青白い刀身の光が消える。
その時。
ユリが静かに口を開く。
「その剣」
ギアが視線を向ける。
ユリは壁へ寄りかかりながら続けた。
「イリスから受け取ったな」
空気が止まる。
リノが振り返る。
「え?」
カレンの目も細くなる。
ギアは数秒黙っていた。
「……覚えてない」
本当だった。
気付けば持っていた。
ずっと昔から、自分の一部みたいに。
ユリは小さく息を吐く。
「そうか」
「知ってるの?」
リノが聞く。
ユリは少しだけ目を伏せた。
「あの人は、昔からそうだった」
“あの人”。
その呼び方だけで、少し特別なのが分かる。
「全部、自分で背負う」
静かな声。
ギアは初めて見る。
ユリの、少し柔らかい表情を。
「イリスを知ってるのか」
「ああ」
短い返事。
だが重い。
「私は以前、あの人の護衛だった」
リノが目を丸くする。
「マジ!?」
「まだ、中央がイリスを兵器として扱っていた頃だ」
カレンの顔色が変わった。
「待って……それ、機密指定の――」
「もう昔の話だ」
ユリは淡々としていた。
だがその目だけが、少し遠い。
「イリスは強かった」
静かな声。
「誰よりも」
ギアは黙って聞いている。
「だが、壊れそうでもあった」
その時だった。
格納庫奥で、小さな駆動音が鳴る。
全員が振り向いた。
旧型端末。
壊れていたはずの通信機。
白い光が点滅している。
ギアが近づく。
ノイズ。
乱れた映像。
そして。
一瞬だけ。
白い少女が映った。
イリス。
彼女は何かを伝えようとしていた。
《Gear……》
声が掠れている。
《来て》
ノイズ。
《第零階層へ》
その瞬間。
映像が途切れた。
沈黙。
リノが口を開く。
「……ゼロ階層?」
カレンがゆっくり首を振る。
「存在しない区画です」
「は?」
リノが身を乗り出した
「都市構造図に、そんな場所はありません」
カレンは困惑していた
だが。
ユリだけは知っていた。
静かな目で、暗い天井を見上げる。
「いや」
低い声。
「ある」
空気が変わる。
「都市の最深部」
…。
「中央が隠した、“最初の研究区画”だ」




