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ENDESTALE  作者: 中尾 奏治
6/7

Episode5:少し前の歴史

この世界のTips5:機魂兵

およそ30年前に始まった第19次世界大戦にて、南北アメリカ一帯を実効支配する国家“バルコール帝国”が開発した、自立軌道の人型兵器。意思を持たないその実態はロボットに近く、バルコール帝国本土のどこかから発信される電波的な指令を受け取りそれに従って行動する。

二足歩行タイプや四つ足のもの、飛行型までその形態は多種多様である。いずれの赤い光を放つ眼のようなものが付いており、ビームも放つことが可能。並の武器や物理攻撃では傷一つつけられない特殊な装甲に加え、いずれにせよ人間の平均を凌駕する圧倒的な戦闘力を持つ。しかし、魔法にはあまり耐性がなく、物理攻撃であっても防御無効化などの特殊効果があればダメージは通る。機構内には魔法エネルギーを貯蔵するシステムがあり、魔法エネルギーを動力源に動いている。

機神兵の目的は主に人間の殲滅と思われるが、前述の通り自己意思を持たないため探求は不可能。

その圧倒的な戦闘能力によってコンコルディア王国を蹂躙し続けたが、今回のエピソードでも語る通り25年前の戦いにおいて一度撤退を強いられ、現在はどこにも出没せずにいる。

4月9日の午前6時ごろ。

場所はヨーロッパ・グレートブリテン島、ロンドン。

天気は小雨。神経質な人以外なら傘はいらない。


「ふーっ、帰った帰った。」

馬車から降りたクリスティーナが腕を背中の後ろで伸ばしながら呟く。

「にしても馬車も案外寝心地悪くないわね、ジーク。」

「うん…。」

そう返すジークの目は血走り、目元にはくま。明らかに寝不足だ。


オーディンが小声でエルヴァに尋ねる。

「(なぁ、あれ一体何があったんだ?お前割と遅くまで起きて本読んでたよな?見てたら教えてくれ。)」

「(特に何もありませんでしたが。そういえば、クリスティーナさんがジークさんの肩に眠りながら寄りかかってましたね。)」

「(あー、そりゃアウトだ。あいつの神経そんなんに耐えられるほど太くねぇからな。)」

皆さんも想像できるだろうか。可愛らしい異性が眠りながら無防備に自分の肩に寄りかかってくる光景。そしてその状況で、純粋な思春期真っ只中の男子は眠れるか、いや眠れない。

「(これが反語ってやつか。)」

「(今の話題そこじゃないです。)」

オーディンのせいで説明がめちゃくちゃになった。


「だーかーらー、どうしてこの程度のことも理解できないんですか!職員の残業を減らす以前に休日が足りないという事実に私は気付いた、だから職員には一度一律休日を与えるべきだと言っているのです!」

「てめぇのことなんか知るかよ、現実を見ろバカタレ!この量の仕事を休日も取りつつこなせる天才はうちにはいねぇんだよ!それともあれか?職員が休んでる間に出てきた案件は全部てめーが処理するってのか?実技訓練万年最下位のお前が?笑止千万じゃボケ!」

「「(まーた始まってーら。)」」

ジークとオーディンの二人の脳内に同時に同じ思考が浮かんだ。音声を付けてもおそらくハモるぐらいだ。

クリスティーナと別れてから三人は隊長に任務完遂を報告しようとした。まではいいが、運悪くちょうどガイスターとマリーナの口論のタイミングに巻き込まれてしまった。

ガイスターとマリーナはお互い掴みかかりそうな勢いで、更にその口喧嘩を白熱させる。

「現実を見ろ現実を見ろって、あなたには現実を見るしか能が無いんですか?そんなんだから時代遅れの観点からいつまで立っても抜け出せず、結果的にそれにつきあわされる職員も今このような目にあっているのですよ?」

「時代遅れって点は否定しねぇけどよ、てめーのその地に足がついてないどころか現実から離れすぎて大気圏までぶっ飛んでる思考回路よりゃましだよ!それともなんだ?お前そんな主張で人気を得られると思ってんのか?公民の授業中学生から受け直した方が良いぞ?」

「あのー…」

「「あぁ!?」」

激化する二人の口論にジークが控えめに口を挟む。この状況に割り込めるあたり彼も大概頭のねじが足りないのかもしれない。

「任務が完了しましたので、そのー…確認を…。」

「よこせ!」

ガイスターがひったくるように書類を受け取り、1秒程度だけ眺めて胸ポケットからペンを取り出し素早くサインをする。

「ほらよ!」

紙は普通はまっすぐ飛ばないという事実を無視してガイスターはその書類を放り投げ、再び口論を開始する。それと同時に、書類を受け取ったジーク及び一緒にいたオーディン、エルヴァの三人は直ちに外へと飛び出した。

ジークがぼやく。

「あぁもう、書類渡すたびになんか余計な苦労を背負ってる気がする。」

「考えるな。感じるな。反応したら負けだ。」

オーディンが肩をたたきながら彼を慰めた。


彼らが部屋の扉の前で一息ついていたタイミングで、誰かがジークの肩に背を置いた。

「よう、久しぶりだな!」

声の主は、一人のイケオジだった。身長183cm、ポニーテール型にまとめた長めのブロンドヘアとひげが特徴的で無駄のない肉付きをしており、迷彩柄で普段は無駄に胸元を開けたジャージと長ズボンのような服装をしている。左手、右手ともにほとんどの指に指輪がつけられている。そして背中には普通誰も使わないぐらい異様に分厚くて長い鉈のような武器を装備している。

素早くジークとオーディンが姿勢を整え、右手を額に当てて敬礼を取る。

「アレンさん!お久しぶりです!」

アレン=イーサン・ウォーカー、45歳男性。かつて防衛隊に所属していたいわばジークたちにとっての大先輩であり、今はコンコルディア王国本土の軍に所属している、いわばエリートだ。そして、もともと孤児であったジークの養父でもある。

アレンがジークの肩に手を置く。

「見ない内にデカくなったな、ジークにオーディン。成長期の男子はみてて楽しいねぇ!」

「あざっす。」

オーディンが普段の素行を引っ込めて素直な対応をする。エルヴァは若干驚いた。それほどこの男は尊敬されているというのか。

そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、アレンがドアを少し開けその中を覗き込む。その途端中から口論の轟音が溢れ出した。

「これだから時代遅れは困るんです……!」

「黙って聞いてりゃこの……!」

アレンがその顔に苦笑いを浮かべる。

「あーあ、あの二人も相変わらずだな。ちょっくら止めてくるわ。」

そう言ってアレンが扉の内側に入った数秒後、小気味よい金属音が二回と共に口論が鳴り止んだ。アレンが扉から顔を出す。

「飯、行こうぜ。奢ってやるよ!」

扉の中は見ないことにした。


「で、結局連れて行った結果ガチで大戦果をあげちまったと。」

食堂にて、アレンが自分の前に運ばれてきたシェパーズパイをかじりながら話す。あたりにパイの上のミートソースの香りが広がる。

「ほんとびっくりしたぜ。のらりくらりと動いててやる気あんのかと思った瞬間ノベルみたいな活躍するんだからよ。」

いつも通りのライスと味噌汁(ミソスープ)の組み合わせでライスを頬張りながらオーディンが答える。エルヴァはペペロンチーノを食べながら、なんだかすごいメタな話をしているように感じていた。にしてもここの食堂はやたらメニューが豊富だ。

「王都の方での仕事はどうでした?」

ジークがフィッシュアンドチップス…チップス大盛りをつまみながら尋ねる。

「ここより酷かったぜ。どいつもこいつもやれ奸計だのやれモグラだの…」

オーディンが「?」という表情をする。

「モグラ?」

「スパイって言えばいいかな?要するに組織に長い間潜り込んで色々探る人のことだよ。」

「スパイってなぁ便利な言葉だぜ。とりあえずスパイっていっときゃぁ優秀な新人を秒で潰せるんだからよ。」

「随分とそんな偉い方々と近づけたんですね。」

「何いってんだ?俺はこの業界において割と誠実だってことで名を馳せてるんだぜ?」

「(金払ったらの話だけどな。)」

そう呟いたオーディンの顔面は次の瞬間白飯に埋まっていた。


数秒間の間があった。

「そういえば、アスカの家族は元気か?」

半ば唐突にアレンが問いかけた。先程までとは打って変わって真剣な雰囲気で。

問いかけの対象はジークであった。

「はい。もう彼女のことはあまり気にせず、だいぶ周りに溶け込んでいます。」

少しだけ声のトーンを落としながらジークが答える。

「はぁ……かつての友の忘却を悲しんだらいいのか、それとも友の家族が平和に暮らすことを喜んだらいいのやら。」

アレンの脳内に、彼がまだ若い頃の情景が浮かんだ。ジークとオーディンの脳内にも、かつて聞いた情報をもとに、同じような情景が再生されはじめた。


一方エルヴァはすでに食事を終え、空気を読んで席を離れることにしたようだ。手早く食器類を片付け、食堂のおばちゃんたちの配膳の手伝いに回っている。

「(では皆さん、ここからは回想シーンとなります。読んでおいたほうがストーリー的には楽しめると思いますが、長いのが嫌な方は私がこの次に喋るまで読み飛ばしてください。)」

まてそのアナウンスはお前の仕事じゃない。






今から25年前。

人類は鋼鉄でできた人型の兵士『機魂兵(きこんへい)』に…。





襲われていた。





日時は7月22日の午後11時ごろ。

場所はヨーロッパ・アイスランドの西・レイキャビク郊外の平地。

天気は土砂降り。時刻も相まって一寸先は文字通り闇となっている。

先程から何回も明滅する爆発と魔法の光がなければの話だが。


あたりは砲煙弾雨に包まれていた。

戦場に一体の兵士が現れる。体長約3m、色は薄灰色。ガスマスクとヘルメットを身に着けたような頭部で、目の部分を赤色に光らせている。全身の関節部以外を鎧とはまた違う灰色の装甲で包んだ、人形の機械の兵士、機魂兵。

その機魂兵が背中についている箱形の装置から二つの筒型の兵器を展開し、その先から青色に光るエネルギーの弾を打ち出す。

狙いは、十数メートル離れていた人間の兵士。

2発のうち1発は外れたが、もう一発が一人の兵士に当たった。全身を軽い鎧で包んだ哀れなその兵士は跡形も残さずに吹き飛んでしまった。

その直後に現れた、おそらく隊長なのであろう、他のものと違い羽のような装飾のある兜を身に着けた人物が後方に向かって号令を飛ばす。

彼の叫んだ方向から車輪に載せられた大砲が現れ、その先端から赤色の光を放つ。

先ほどの哀れな兵士を粉砕した鋼鉄の兵士がそれに被弾し、今度はしっかり残骸を残して粉砕された。

だが、先ほども言ったように砲煙弾雨に包まれた戦場がこの程度でおわるはずもない。同じような鋼鉄の兵士がすぐそばに数えきれないほど現れ、先ほどの大砲に集中砲火を浴びせた。

一瞬で沈められた大砲を見て、隊長が号令を下す。

「撤退!撤たぁーい!」

周りにいた複数の兵士も、我先にと逃げ出した。


先ほどの場所とは少し離れた場所にて。

今度は金属製の無骨な剣のようなものを持った機魂兵の大群が迫る。兵士たちが剣や弓、銃を手に必死に応戦するが、どういうわけかまるで攻撃が効いていない。機魂兵の装甲が全ての攻撃をはじいている。兵がいくら力を込めて振り下ろした剣も、雨のように降り注ぐ矢も、無数に放たれた銃弾も、すべて無慈悲に弾かれている。

その場を仕切っていた隊長らしき人物も目が兜に覆われた状態でもわかるぐらいに顔を青ざめさせ、その場にいた全員に全力で撤退を命じた。

その少し後方で、光り輝く丸い水晶球の前で兵士が叫んでいる。おそらくこれが連絡機器の類なのだろう。

「伝令!伝令!こちら左翼第三陣地!こちら左翼第三陣地!02型機魂兵の群れが接近中!数は測定不能!繰り返…!」

彼の報告が最後まで終わるよりも前に、先ほどの機魂兵のうちの一体の剣が彼の胴体を縦向きに貫いた。その機魂兵はまるでごみを払いのけるかのような乾ききった動作でその兵士を後ろに向かって放り投げた。


圧倒的な攻勢を前に人間側が明らかに押されていた。全ての兵士が恐怖に算を乱してがむしゃらに逃走する。

しかしその中を一人の影が逆流した。

その人物が腰から武器らしきものを抜く。だいたい柄の部分が20cm、刃の部分が1mほどのそれは、おそらく片刃の剣のようなものであり、その幾何学的な装飾のようなものがなされた灰色の武器には、一見刃がないようにさえ見える。

一体の機魂兵が彼の存在に気付き、剣を上げる。

その人物はその攻撃を軽々とかわすと、高く飛び上がると同時に武器を振りかぶった。

その途端、武器から黄色く輝く光の刃が展開された。

その人物はその刃を機魂兵に向かって振り下ろす。先ほどまで全ての攻撃を弾いていた機魂兵の装甲が、まるで紙のように切り裂かれる。人間でいう左肩から右わきまでを袈裟切りされたその機魂兵は、謎の人物が着地すると同時に爆散した。

爆発の光がその人物を照らす。すらりとした体つきで、軍隊支給の軽装の上に黒いマントを着用した、首元まで伸ばした黒髪と黒い瞳を持つ20歳ぐらいの男性であった。

この爆発に惹きつけられたのであろう。周辺にいた機魂兵の群れが一斉に彼を向く。

だが、その人物は臆することもなく不敵な笑みを見せ、武器を構えなおした。


しばらくして…。

2人の兵士がこちらへとかけてくる。

その中の一人…ブロンドヘアで首ほどの長さの長髪を持った同じく20歳程の男性で、ヘルメット以外の軍隊支給装備と、妙に刀身が分厚い剣を装備している人物…が先ほどの人物に叫んだ。

「トール!全軍に撤…」

彼の言葉が終わるよりも前に機魂兵たちの砲撃が彼らを襲った。先ほどの人物が築き上げていた機魂兵の残骸の山に彼らは身を隠す。

トールと呼ばれた、先ほどの人物が聞き返した。

「で、なんだって?」

「全部隊に撤退命令だ!軍をフェロー諸島まで退かせ、そこで態勢を立て直すってよ!」


「なぁるほど。で、()()()撤退命令はでてんのか?アレン。」

アレンと呼ばれたその長髪の青年は、極めて難しくかつ複雑な表情をした。

「……『殿を務める第23中隊は指定の位置にて遅滞行動を行い、本隊の撤退完了まで戦闘を継続せよ』だってさ。」

「はぁ!?聞いてないんですけど!それってつまりあの腰抜けどもを逃がすために死ねってことよね!?嫌なんだけど!」

アレンの言葉に、杖のような武器を持った女性が声を荒げる。やや黒寄りの赤色の瞳にルビー色の瞳を持ち、おそらく年齢は20歳ほど、小柄な体型をめちゃくちゃに動かして暴れようとする彼女の頭を、トールが押さえつけた。

「おちつけって、アスカ。んなこと言ったって仕方ないだろ。」

「だからって…!」

「というか、いい加減まともな軍隊用の言葉遣いってのを覚え…」

再び爆発が彼らを襲い、残骸の山の半分ぐらいを吹き飛ばした。


アレンが山越しに向こう側を覗き込む。大量の機魂兵が、迫ってきている真っ最中であった。

「おっと、第二陣か?」

アレンは青ざめつつもその顔に半ば無理やり笑いをたたえた。

「そろそろいった方がいいみたいだぜ?」

「おうよ!」

男性陣はとてもせっかちだったようだ。彼らはすぐに瓦礫の山を飛び出し、敵に向かって突っ込んでいった。

「はぁ!?ちょっ……」

二人のあまりにも無鉄砲すぎる挙動に戸惑ったアスカは、しばし迷ったようだが、覚悟を決めたように杖を握りだした。

「あぁもう、どうにでもなりなさい!」

彼女も残骸の山から身を乗り出し、やけくそ顔で二人の後を追った。


三人は走り出した。

絶望の戦場へ。

たった三人の勇士と、疲れも知らない無数の兵士。結果のわかりきっている戦いが、いま幕を開けた。


「『ロードスラッシュ』!」

トールが空を裂く一閃を放つ。彼は一体の機魂兵を挟んでその反対側まで瞬間的に移動し、それと同時にそのの機魂兵の胴体が切り裂かれた。

他にも多彩な技を放ちトールが次々と機魂兵をなぎ倒していくその後ろで、複数体の機魂兵の群れがアレンに向かって銃口を向ける。

一方アレンは、それらから数メートル離れた場所で武器を構えた。

「かかってきやがれ!」

アレンのその叫びを皮切りに、機魂兵が一斉射撃を開始した。

「くたばりな!『リフレクトインパクト』!」

彼がその背中の奇妙な武器の、尖っているわけでもない先端を機魂兵に向ける。


彼のこの武器は「ガンブレード」と呼ばれる、マチェットのような武器の分厚くした刀身に銃を仕込んだというとてもシンプルなものである。銃を仕込んでいる分重量は増えるし、純粋な銃ではないからその分扱いの難しさもあるが、それを克服すれば遠近両方で戦える汎用性の高い武器となる。


彼のガンブレードの先端から放たれた銃弾は弾けるように周囲に衝撃波を撒き散らし、先程の機魂兵たちの放った銃弾をすべて弾き返した。その衝撃波が機魂兵の群れを押し倒し、跳ね返された銃弾が地面に倒れた彼らにトドメをさした。


数秒もしないうちに、アレンの後ろからアスカが怒号を飛ばす。

「ちょっと!派手なのはいいけど、こっちまで巻き込まないでよね!あんたのその技、跳ね返したあとのことなんにも考えてないんだから!」

彼女が対峙していたのが先程のエネルギー弾を飛ばす砲兵型であるにもかかわらず腕に切り傷のようなものがある辺り、おそらく先程弾いた機魂兵の銃弾がかすりでもしたのだろう。

「おぉ、すまんすまん。ま、大目に見てくれや。」

「あんたって奴は…!」

その次の瞬間、剣ではなく斧を手にした機魂兵が彼女の後ろから斧を振り上げて飛び上がった。

「なめてんじゃないわよ!『スピアロッド』!」

アスカが振り向きざまに杖を槍のようにすばやく機魂兵に向かって突き出し、無謀な機魂兵をその勢いで転倒させる。

続けざまに彼女はトドメの一撃を放った。

「これでも喰らいなさい!『ηλεκτρο(イレクトロ)|πληξία

《プレクシア》ζ・βροντή(ヴロンティ)』!」

彼女が杖を振り上げると同時に一本の雷が空から降り注ぎ機魂兵の機体を直撃し、その体を黒焦げにしてしまった。

「おっとぉ……こりゃうかうかしてられねぇ、なぁ!」

アレンが頭を掻きながらそうぼやいたかと思うと、その直後振り返り、遠心力を利用してガンブレードを振り、いつの間にか忍び寄ってそこで槍を構えていた機魂兵を沈めた。

「俺を欺こうなんて、20年は早いんだよ、ボケ!」

地面に倒れた機魂兵の頭部に銃口を突きつけながら、アレンはそう言い放った。

「『ロードスピン』!」

そうこうしている間に機魂兵に囲まれていたトールは、むしろその状況を利用して自分を中心とした回転攻撃を仕掛けることによって、周りにいた機魂兵の群れを一網打尽にしてに仕留めた。

しかしその時…。


突然、トールの目から輝きが失せ、まるで魂が抜けたかのように脱力し、地面に倒れ伏す。

「トール!」

焦燥した顔でアレンが叫ぶ。その直後、無抵抗で地面に倒れ伏したトールに、トドメをささんとでも言わんばかりに現れた一体の機魂兵が手に持っていた斧を振り上げる。

「させるか!」

アレンはすぐさま銃弾を放ち、その被弾時の僅かなノックバックで機魂兵の態勢を崩してとどめを先延ばしにする。その後、すぐさま彼は機魂兵がいる方向とは真逆に銃口を向けた。それとほぼ同時に空中に飛び上がったアレンは、銃口から放たれた衝撃の反動をあえて受ける事により機魂兵に向かって素早く直進した。

そのままアレンは機魂兵の頭に勢いを利用してドロップキックをかまし、転倒させられた機魂兵の頭にガンブレードを突きつけた。

「チェックメイトだ!」


機魂兵の頭を吹き飛ばしたアレンは、息を整えるのも忘れてトールに駆け寄った。

「おきろ!おい!大丈夫か!」

その言葉に反応し、よろめきつつもトールが起き上がる。

「…見りゃわかるだろ?」

彼はこの一瞬でやつれたようにさえ見えてしまうほど悪くなった顔色の上に、それでも笑いを浮かべた。

「…まだまだいけるぜ。」

アレンは叱りつけるかのようにトールに怒鳴った。

「バカ言ってんじゃねぇ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「おいおい、自慢の視力2.5はどこいったんだ?まだまだ五体満足だっての。」

その時、辺りに轟音が響く。


音の源を二人が眺める。

それは足音であった。先程よりも遥かに巨大な、まるで巨人のような機魂兵が、数え切れないほどの機魂兵を率いて彼らに向かって迫ってきている音。はたしてこの轟音は、巨大な機魂兵の足音なのか、それとも率いられている機魂兵の響かせる音か、はたまたその両方なのか。

「意地でもあたしらを仕留めたいらしいわね。」

後ろから追いついたアスカが冷静に絶望の一言を放つ。しかしトールは笑いを崩さない。

「それだけ奴らも必死ってわけじゃねえのか?なら、まだ勝機はあるんだけどな。」

と、その時アレンの腰についていたトランシーバーのような装置が通知音を発した。

「何だ?」

アレンは素早くそれのスイッチを入れ、スピーカーに耳を当てる。そして数秒後…。

「本隊避難完了・ついでに撤退用の船舶も全部避難完了…」

アレンが呟く。少し間をおいた後、アレンは最後の一言を放った。

「そして、第23中隊壊滅。生き残ってんのは、俺達だけだ。」

アスカが驚愕の表情と声で聞き返す。

「うそでしょ!?中隊長は!?」

「俺に連絡したのがその中隊長殿だ。本人が『俺とお前ら以外全員死んだ』といった直後に聞こえてきたのが、中隊長殿の悲鳴だからな。音的に多分死んだ。」

三人は一周回って少しだけ笑った。絶望に絶望が積み重なり、もはやいちいち落ち込んでいる心の余裕すらないのだ。


アレンが迫りくる敵を眺める。

「戦えるのは3人だけ、んで今迫ってきている機魂兵の数が、だいたい100前後ってとこか。」

「正確には半病人が一人だから、3人じゃなくて2.5人よ。」

「誰が半病人だって?」

「ま、あっちにしちゃ2.5も3も変わらないわね。」

機魂兵は無慈悲にも迫り続ける。


しかし現実はもっと残酷であった。

「きゃぁあ!?」

なんの前触れもなくアスカが悲鳴を上げる。

振り向いた二人の目に写ったのは、巨大な右手でアスカをその手の内に握りしめている一体の巨大な機魂兵であった。先程の激戦で疲労しすぎた3人は、この暗闇と別方向から迫る轟音のせいでこの建物ほどのサイズの機魂兵の接近にすら気づかなかったのだ。

トールが武器を構え、今にも飛びかかりそうな姿勢をしながら叫ぶ。

「何をす…!」

直後、何かが力ずくでつぶされる音とともに、その機魂兵の右手から大量の赤い液体が溢れ出した。

何が起こったのかを理解するには、それだけで十分だった。

アスカの靴が砕けた骨の破片と肉片と共に機魂兵の手の隙間から地面に落ちる。握りつぶされた彼女の大切ななにかが、雨に濡れた地面に落ちた靴のように泥に塗れた。

先程の機魂兵の群れも、すぐそこにまで迫ってきている。死は刻一刻と彼らに近づく。


「……一つ質問なんだけどよ。」

「ん?」

絶望の状況の中、妙に落ち着いた声でトールがアレンに問いかける。

「さっき言ってた、その半病人だっけか?その0.5人分の魂一個で、あの無機物どもを何体やれると思う?」

次の瞬間、トールの持っている武器の刃を造り出す光が輝きを強めた。

アレンの顔が何かを察したような顔になり、その表情が引っ込むよりも前に驚愕の表情を浮かべる。

「まさか、お前…!」

「始末しきれなかったら残りは頼むぞ!アレン!」

そう言うや否や、まだなにか言いたげなアレンを振り切ってトールは敵の群れに向かって疾走した。

「うおぉぉぉあぁぁぁーーー!!!」

トールが雄叫びを上げる。彼の武器の光の刃が伸びたように見えたかと思うと、その刃はみるみる光を強めていった。

その光はどんどん辺りを飲み込んでいく。アレンも、巨人のような機魂兵も、100をも超える機魂兵の群れも。辺りの地形でさえも。

誰も何も見ることができなかった。







そしてその光が収まり、その場に立っていたのは…。


アレン一人だけであった。

あのあと機魂兵の追手はやってこなかった。トールの活躍により痛手を負いすぎたのか、いまさら逃げ帰った本隊と敗残兵一匹を始末するまでもないと思ったのか、あるいはその両方か。いずれにせよ奴らはそれから25年、ただの一度も現れることはなかった。




「失礼します。」

その一声と共に、エルヴァがアレンの回想をかき消した。

「あ?なんだ?」

思いびたりから現実に引き戻され、アレンが大人気なくも若干不機嫌そうに返す。

「ガイスターさんが先程…。」

「あー前置きはどうでもいい。要件だけ言ってくれ。」

「では、要約すると『ロンドンの少し東に広がる森林地帯で女児1名が行方不明になった。ジーク、オーディンの2名は捜索に向かえ。アレンさんはもお手数ですが向かってほしい。』とのことです。」

先程まで過去に入り浸るものだったアレンの目つきが、次の瞬間臨戦態勢のそれに変わる。

「…お前はどうする?」

「特に何も。ついてこいというならついていきますし、ついてくるなと言うなら待ちますが。」

「よし、ついてこい!」

その言葉を皮切りにアレンが立ち上がり、すぐに街の東門の方向へと駆け出した。エルヴァもそれについていき、そしてジークとオーディンも残っている食事を流し込むように口の中に収め、後を追いかけた。良い子は真似しないように。


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