Episode4:モンスター退治
この世界のTips4:モンスター
人間に害をなす存在のうち、犯罪者など人間に分類できないものを人々はモンスターと呼ぶ。一般的に大きく以下の二種類に分類される。
変異型モンスターは、既存の生物が遺伝子学的な変異を遂げ、人間に脅威を持つレベルまで成長したモンスター。スキルを身につけるなど従来の獣に比べ脅威度は強いが、習性はあまり変わらないため行動は読みやすい。ただしその多くが人間に敵対的になり、特に肉食系はそれが激しい傾向にある。
もう一つはファンタジー系モンスターで、早い話スライムだのゴブリンだの、それこそファンタジーにしか登場しないモンスターのこと。一般的にスキルなどを覚えていることが多く、また同じものといえど強さに差があることが多い。また、このうちには本作にしか登場しないモンスターもある程度含まれている。
そんなわけで時は過ぎ、現在午後3時。
場所は街の北にある件の洞窟。薄暗くて、魔法で作り出した明かりがないと歩くことすらままならない、。
オーディンが暗がりの中ジークに尋ねる。
「任務の場所ってここであってたよな?」
「うん。たしかここに討伐対象のモンスターの巣があるってあの人も言ってたよ。」
「こんな洞窟にねぇ。」
「正確に言えば、洞窟内をたどることで出られる断崖のうちの一箇所にだけど。」
「なーるほど。で、さっきからクリスティーナは何してんだ?」
クリスティーナは何をしていたのか?ランプ片手に地面にことがっている半透明の直方体の物体を拾い集めていた。
「街のおばちゃんたちに言われたのよ。どうせならここの洞窟の『ソルテッドティラミス』集めてきてって。」
エルヴァはその会話を横に、彼女が拾い集めているそれを拾って見つめていた。なるほど、いくつかの層に分かれた岩塩が重なって直方体を形成している。おそらく岩塩→ソルト(salt)、層に別れた直方体→ティラミス(Tiramisu)という意味だろう。ソルテッドティラミスを直訳すると「塩漬けティラミス」になりかねないが。絶対不味い。
「あー、そういえばここの特産品なんだっけ?なんか味変するから飽きないとかなんとか。」
オーディンが呟く。たしかによく見ると層ごとに色、つまり成分が若干異なる。それらが微妙な変化をもたらすことにより逆に飽きない味を作り出しているということだろうか。
「まったく、ほどほどにしろよ、な!」
言い終わるよりも前に、オーディンがクリスティーナの頭上に向けて刀を突き出した。
コウモリの死骸が刀に突き刺さっていた。
「こういったやつが襲ってくるだろ?」
「ああ、ごめんごめん。」
と、コウモリの死骸からこぼれ落ちた光の固まりが、オーディンの体に吸い込まれるように消えてゆく。
本に書いてあった文献だが、この世界にはLVSという概念が存在する。Lvだと思っただろうが、LVSだ。
簡単に言えば、Level of Vitarity and Sirit(生命力と魂のレベル)、結局のところ略せばレベルとなる。一般的にはステータスレベルと略されることが多い。
全ての生物やモンスターは、死亡する時に光の粒子を落とす。これは一般的に「Energy of the Xalted Power of Spirits(崇高な魂の力のエネルギー)」と称されるが、略せばEXPsである。これらは死亡した生物やモンスターの魂のエネルギーが凝縮された後放出されたものであり、その量と密度は死亡したものの強さに準じて高くなる。
生物やモンスター、特に人間は撃破した相手のこのEXPsを吸収することが可能であり、吸収したものはその量や質に応じて強くなれる。具体的に言えば、基本人間にはそれこそHPやMPなどを始めとしたステータスが存在し、それぞれレベルの数値に応じた二次関数・三次関数式を基準に上昇、能力はそのステータスの数値に比例して増加する。
これがEXPsとLVSの関係と実態である。
この世界のEPG的なシステムの原理をざっと解説し終えたところで、一行は洞窟から高い崖にせり出した岩棚のような場所に出た。オーディンは真っ先に縁に駆け寄り、崖下を見下ろして感嘆する。
「うっわ、高ぇー。こっから落ちたらひとたまりどころの騒ぎじゃねえなあ。人間としての原型が残るかどうかも怪しいぜー。」
「あ、みて!」
ジークが指差す先にあるのは、いくつかの動物の骨が転がっている巨大な鳥の巣のような物であった。
エルヴァが骨のそばに歩み寄り、かがみ込んでじっと骨を見つめる。
「大ヨークシャー種の豚、サイズからしておそらく成体……近隣でさらわれていた家畜の情報からして同一と考えて間違いないでしょうね。」
「おお?よくわかんねーけど、そうときまりゃここで罠でも張っておくか!」
「いや、多分そうもいかないよ。」
「なんでだ?」
ジークの口出しにオーディンは不思議そうな目を向ける。
「今がだいたい4時前後、それで目撃情報からして普段そのモンスターが狩りからここに帰ってくるのも……」
その時、彼らの頭上に巨大な影とともに、大きな羽ばたき音が降ってきた。
全長約10m、紫色の薄い翼にはそれぞれ爪のようなものがついており、足の部分は非常に細くできている。頭部にはとさかのようなものと1mぐらいありそうなくちばし。モンスターだ。
「…4時前後ってわけね。確かにこの場で罠張れるようなやつはいないわよね。」
クリスティーナが何かを察したような顔になった。
ジークが剣を構えながら仲間に呼びかける。
「間違いない!こいつが討伐対象のモンスターだ!」
「了解!」
モンスターを含め、その場にいた全員が臨戦態勢に入った。
ジークが剣を抜いて前方に構え、オーディンが刀を抜き下段の構えをとり、クリスティーナが金属製の杖を取り出す
ちなみにエルヴァだけは、マチェットを構えつつも別のことを考えていた。
「(見た目はケツァルコアトルスに似ている気がしますね。)」
ちなみにケツァルコアトルスとは、大体恐竜時代の白亜紀末期あたりで空を飛んでいた、最も巨大な翼竜の一種である。
『ヘイストケツァール』
主に北大西洋沿岸周辺に生息するモンスター。
全長約10m、体高約1m、紫色の翼を持つ翼竜型モンスターの一種である。
名前の通り、周辺の家畜などを始めとした動物を好んで略奪し捕食する、まさしく強盗(heist・ヘイスト)のようなモンスター。
戦う時は、その翼による吹き飛ばし攻撃に注意。
引用ー「山岳地方のモンスター集」※架空の書籍です。
「来るぞ!」
オーディンがそう叫ぶのとほぼ同時に、『ヘイストケツァール』が翼を羽ばたかせる。
即座に武器を地面に突き刺して耐えたジーク、オーディン、エルヴァはいい。問題はそもそも武器に鋭利な部分がないクリスティーナであった。
「きゃああ!」
重装備をつけているわけでもないクリスティーナが敵の生み出した風によって吹き飛ばされる。
「『新月面』!」
オーディンが大きく跳躍し、羽ばたき攻撃を終えて次の動作に移ろうとしていたモンスターの顔面に刀を振り下ろす。が、刀はモンスターの額に傷をつけただけであっさりそれた。
「チッ、浅いか!」
頭蓋骨部分に弾かれ致命傷とはならなかったが、それでも一瞬だけ怯ませるには十分であった。
「『スリーエッジ』!」
その叫びとともに、オーディンの眼の前に割り込むような形で躍り出たジークが3連続の突き技をモンスターの腹部に当てた。
腹部を三連続で貫かれた敵が悲鳴をあげる。その隙に背後に回り込んだエルヴァが敵の首の部分に向かって飛びかかり、一回転したかと思えばその遠心力を利用して斬りつけ攻撃を行った。
しかし敵もただ黙ってやられるほど甘くはない。
切れ味が足らず敵の首に刀身が少し食い込んだあたりで止まってしまったマチェットを、大きく身動きすることによりエルヴァごと振り落とす。敵は続けざまに身を翻し、目前にいたジークとオーディンを吹き飛ばした。咄嗟に受け身を取るもジークだけは衝撃を殺しきれずに地面に足をこすり、左腕に傷を負った。
その直後、敵が空高く飛び上がったかと思うと、空中で反り返るように一回転し、その後こちらに向かって急降下をし始めた。
狙いは、先程自分の首を切り落とそうなどと考えやがった、今現在モンスターに振り下ろされて崖際に追い詰められているエルヴァである。
「エルヴァさん!危ない!」
ジークが足元にあった石を拾ってモンスターに向けて投げつける。その石は見事敵の顔面に命中し、敵のヘイトを一瞬だけジークに移した。
しかしそんなことをしたところでまだエルヴァの処刑宣告がちょっと先延ばしされただけである。モンスターは今度はジークに向けて急降下を開始した。
「さて、どうす…」
突如背後からクリスティーナの叫びが飛ぶ。
「『πῦρ α・βολίδα』!」
クリスティーナの杖の先端からこぶし大の火の玉が放たれ、それはまっすぐモンスターの胴体にあたる。火は敵の全身に燃え広がり、モンスターはたまらず急降下をストップした。モンスターは羽ばたくことによって消火を試みている。
「『φροντίδα』!」
その隙にクリスティーナが杖の先端から光の粒子の塊のようなものをジークに向けて発射する。光の粒子を浴びたジークの体は、彼女の放った魔法により少しだけ回復した。
そうこうしているあいだに敵は全身の炎の消化に成功し、怒り狂ったような声をあげる。
「へっ、第二フェーズ突入ってさ!」
オーディンがヤケクソになったような顔で再び刀を構える。
しかし今度は中段の構え。次の戦闘で勝負をつけるつもりだ。
「ああ、ここまできたらやるしかないよね!」
ジークも泥で汚れた顔に爽やかな笑顔を浮かべると同時に、剣を握る手に再び力を入れる。
クリスティーナも二人に笑顔で返し、杖を握りしめる。
そんな中、エルヴァだけは一人地面に屈んで、手のひらサイズの石を拾い上げていた。
「来るぞ!」
オーディンが叫ぶと同時に、モンスターが空中で一回転し、勢いをつけて彼らに再び突っ込み始める。
「学習してねぇのか?クリスティーナ、やってやれ!」
「『πῦρ α・βολίδα』!」
オーディンが少し横へとずれると同時に、クリスティーナが敵めがけて再び火の玉を放つ。
が、あいにく敵も完全なバカではない。敵は少し体をそらす事によってそれをかわす。
「クソッタレが、小賢しい知恵身につけやがって!」
オーディンが刀を再び構え、目前の敵に備えた。
が、モンスターは前面にいたジークとオーディンの二人を完全に無視した。
思っていたよりもモンスターは賢かった。モンスターの狙いは、先程自分を丸焼きに仕掛けたクリスティーナ一択であった。
「まずい!」
ジークが振り向くが、今更敵に追いつくことなど不可能だ。
ジークとオーディンの顔に、焦りと無力感とそのほかいろいろの入り混じった表情が広がる。
その瞬間であった。
エルヴァが突然滑り込むようにモンスターの下側に駆け込み、それと同時に体を捻らせ勢いをつけながら黒い何かを投げた。
黒い何かがモンスターの翼に当たる。次の瞬間、モンスターの翼がその黒い物体が貫いた部分から大きく引き裂かれた。
突然翼の片方に巨大な穴が開けられ、モンスターはバランスを崩し地面に墜落した。
「エルヴァさん!一体何を…」
ジークとオーディンが駆け寄ってエルヴァに問いかけ、彼の武器を見てすべてを察した。
彼のマチェットは先端部分から刀身の半分ぐらいがおおきく欠けていた。おそらく先程拾っていた石でマチェットを壊し、砕いた刃を敵に投げつけたのだろう。
翼竜の翼は肉と羽で構成されている鳥のそれと比べ、被膜というちょっと分厚いだけの皮しかない。そのため、たとえ一箇所でも穴や切れ目が入った途端、そこから大きく皮膜が裂け羽は機能を喪失するのだ。
エルヴァはしばらく自分の使用不能となったマチェットと、羽こそ失えど意識はそのままでもがき続けるモンスターを交互に見つめ、その後ジークたちのいる方へと振り返った。
「すいませんが、とどめは任せてもよろしいでしょうか?」
ジークとオーディンはその一言でぼーっとしていた意識を取り戻し、素早くモンスターに近寄る。二人で敵にとどめを刺す時はいつも同じ、狙うは急所、ジークは肋骨の隙間を通り心臓、オーディンは首。
「「おわりだ!」」
剣を突き刺された心臓が活動を停止するのが早いか、分厚く骨もある首を切り落とした方が早いか、いずれにせよモンスターはようやくその生命活動を停止した。
それからの流れは意外と速かった。
討伐証明に首を持ち帰れるよう血抜きをしつつ、のこった体の方は死骸に惹きつけられて余計なモンスターがやってくるのを防ぐために崖下に放り出した。
そして血を抜いた首を持って詰め所で討伐証明を行い、その手続きの後帰りの馬車に四人は乗り込んだ。
「それじゃぁ、帰ろうか。」
「おうよ。」
「うん。」
「はい。」
記録-4月11日の新聞
4月9日未明、イングランド島、ロンドン。
機魂兵による大規模な襲撃が発生。甚大な被害を出す。
制圧のため現地に居合わせた防衛隊職員複数名及び民間人2名が応戦し、
うち民間人1名 死亡。




