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ENDESTALE  作者: 中尾 奏治
7/8

Episode6:行方不明の女の子

この世界のTips6:オリジナルスキル

本来スキルとは、人間が「編み出した」ものとされるのに対し、このオリジナルスキルというものは、「生まれつき全ての生物が覚え、使えるようになっている」ものである。

単発効果と継続効果、発動条件など様々なタイプが存在し、はっきり言って同じものなど存在しない。理論上「似ている」能力だけならあるかもしれないが、実際にそのような事象が確認されることもめったにない。

基本的に一人あたり1つであり、それがその人物の戦闘スタイルをある意味形作ると言っても過言ではないが、中には複数個所有している者も存在する。

生まれつき持っている、自分だけが使える固有のスキル。それが、オリジナルスキル。


時刻は4月9日、午後1時ごろ。

場所はロンドン東門。

天気は雨。傘無しで屋外を数分も歩けばびしょ濡れになるだろう。


東門に到着した一行の目に最初に映ったのは、孫の行方を失い泣き崩れるひとりの老婆であった。

アレンはすぐさま隣で事情聴取をしていた防衛隊職員に声をかける。

「状況は?」

「は、はい。彼女の供述によれば、孫に東の森へ木の実拾いに行かせた所なかなか帰ってこず、遠距離通話魔法具も通じなくなっていたとのこ…。」

「(あぁ!?こいつボケてんのか?あんな危ない森になんだって孫を独りで行かせてんだこの『罵詈雑言』)」

アレンは本音を心のなかにしまい、老婆からの必要情報の聴取はジークに任せることにした。罵りを抑えきれる自信がないようだ。

一通り聞き終え、再び泣き崩れる老婆をなだめた後、ジークは彼らにその行方不明人物を探すための情報を伝えた。

「10歳の女の子、ピンク色に白い水玉模様のワンピースを着用していて、髪は金髪の三つ編み、目の色は青みたいです。」

「よっしゃ、行くぞ!」

アレンたちは気合を入れ、勢いよく駆け出した。



少しばかりの捜索により時間が流れ、午後2時ごろ。

場所はロンドンの東に位置する森林地帯。

天気は雨。雨の程度は相変わらず。


一行は木々の合間を縫うように進む。

オーディンに肩車してもらい、高さを稼いだ状態で双眼鏡を覗きながらあたりを見渡していたジークが言葉を発する。

「それらしい影もありませんね……。」

その直後、目の前の枝に気付かずそのままぶつかり、ジークは双眼鏡を取り落とす。

腕を伸ばし、表情一つ変えることもなくそれをキャッチしたアレンは、イライラした表情であたりを見渡す。彼は非常に視力が高いので、双眼鏡ぐらいなくたって数キロ先の人間を視認することができる。

「たかが木の実拾いでどこまで行かせるんだよあのババアは。頭沸いてんのか。」

「情景描写的にはあんたの方が頭沸いてると思うぜ。」

無駄にイライラした結果、頭から湯気を立ち上らされてるアレンを見てオーディンがツッコミを入れた。そもそも45℃を超えた時点で死亡する人間の頭から湯気って何なのだろうか。

「エルヴァさんは何か見つかりました?」

受け取った双眼鏡を構え直しながらジークが尋ねかける。別の双眼鏡を構えながらエルヴァも返した。

「いいえ、特に人影は見つかっていません。」

「だわなー。」

オーディンがため息をはく。

実際の所、森自体はあまり鬱蒼とはしていない。

エルヴァはついでに周囲の木を観察する。地面におちている実からも察するにマラカスウォールナットというくるみの仲間だろう。この木は周辺に植物の呼吸を阻害しそれらを殺す化学物質をばら撒く。そのため低木云々ができる以前に小さい植物は全滅するため、必然的にくるみの周りは何もなくなる。そんなくるみの木が群生しているこの森林では、くるみ以外の植物はろくに育たないということだ。

オーディンが追加でぼやく。

「にしても、なんであんのババアは孫にこんなとこにわざわざくるみ拾わせに行こうとしたんだ?」

「物価高だからね、食料品も高いんだと思うよ。僕らは防衛隊の経費で落ちる補助金のお陰であの食堂でお安くあがってるけど。」

「おう、唐突にしょっぱい話になったな。」

と、その時、アレンの表情が変わる。

「おい、ジーク。双眼鏡よこせ。」

ジークから双眼鏡を受け取り、アレンが遠方の一点を見つめる。エルヴァも視線を追ってアレンの見つめる場所を補足し、双眼鏡をそちらに向けた。

「……いますね。モンスターが一体と、縄で縛られた状態の女の子が一名。」

「「!」」

ジーク、オーディンは”モンスター”という単語を聞くやいなや、直ちに肩車を終了して臨戦態勢となった。ジークがエルヴァに尋ねる。

「一応聞くけど、その子の特徴は?」

「外見年齢およそ9歳前後、服装はややボロボロですがおそらくピンク基調のもの、髪は金髪です。」

「よかった。少なくとも他に行方不明者がいることは確定しなかったね。モンスターの特徴は?」

「体長2mほど、球形に近い肥満体型、身体構造的には人の形、右手と思しき部分に鉈のような武器を装備、体色はピンク色と肌色の中間あたり……。」

エルヴァの言葉が詰まる。

「……豚のような頭部。なんですかあれ?」

「「「『オーク』だ!」」」

エルヴァを除く全員が叫んだ。


オーク。

ファンタジーに慣れ親しんでいる方ならその名前は何度でも聞いているだろう。豚のような頭を持つ人型のモンスターで、豚やイノシシとヒトを混ぜたような醜悪な顔立ちを持つ。知能は猿程度で、一般人複数名を難なく殺せる戦闘力を持ち、好戦的な性格。そして、この世界の場合、オークには一つ嫌な特性がある。


成熟していない女児を、食料として好むという点だ。


「ああまずいまずい、安い同人誌でたまに見かける展開に比べりゃマシと言えなくもないけどそれにしたってまずい!」

「R-18方面とかどうでもいいんだよ!てかこんな時に何考えてんだ!」

「(二人ともそろそろ静かに!バレたら厄介ですよ!)」

エルヴァが焦って言い争うアレンとオーディンを止める。

幸いにもこちらにはそれなりの戦闘能力がある。一般人なら勝ち目はないだろうが、この戦力なら楽勝とまでは言わずとも勝機はある。が、額面戦力だけなら劣勢となる可能性もある。

というのも、オークは時折複数体で行動する事がある。幸いにも(くだん)のオークの周りにはそれらは見当たらないが、戦闘が長引いてもしもそいつらがやって来ようものならこちらはデッドエンドまっしぐらだ。


オーディンが呟く。

「しゃーねぇなぁ。出してやりますか、俺の『オリジナルスキル』。」

その言葉を聞き、エルヴァは先日の任務の帰りに読んだ文献の情報を思い出す。


オリジナルスキル。

本来スキルとは、人間が「編み出した」ものとされる。しかしこのオリジナルスキルというものは、「生まれつき全ての生物の体が覚え、使えるようになっている」ものである。

単発効果と継続効果、発動条件など様々なタイプが存在し、はっきり言って同じものなど存在しない。理論上「似ている」能力だけならあるかもしれないが、実際にそのような事象が確認されることもめったにない。

基本的に一人あたり1つであり、それがその人物の戦闘スタイルをある意味形作ると言っても過言でもないが、中には複数個所有している者も存在する。

生まれつき持っている、自分だけが使える固有のスキル。それが、オリジナルスキル。


「(そういえば、ここにいる全員のオリジナルスキルを私は把握していませんね。)」

エルヴァは思考の中で呟いた。

「それで?作戦はどうする?」

アレンが尋ねた。今回はオーディンを主体に戦闘を行うらしい。

「まずは、全員で背後から先制攻撃を与える。狙うのは関節部分や腹、やつを仕留めるよりも運動能力を削ることがメインだ。」

オーディンはそこらで拾った枝で地面に図を描きながら説明する。

「その後はひとまず俺がオリジナルスキルも使いつつやつの攻撃を耐えて、ヘイトを稼いでおく。」

続いてオーディンは、アレンの方を向く。

「アレンさんは後衛だ。周辺から増援が来ないかどうか警戒しつつ、適宜銃撃をぶち込んでくれ。」

「歴戦の兵士であるこの俺様が後ろか、いいだろう。」

アレンの顔に絶対に平和的じゃない笑いが浮かぶ。続いてオーディンはエルヴァの方を向いた。

「エルヴァ、あんたは遊軍だ。無理にダメージは稼がなくていいから、安全に立ち回りつつ隙を作るのに集中してくれ。」

「了解しました。」

エルヴァは頷いた後、何を考えてか唐突に、新調したマチェットで近くの太めの枝を切り始めた。

「ジーク、お前は一旦先制攻撃の後はあの子を連れて離脱、その後隙を見計らってやつを仕留めにいけ。戦闘を続けるよりも一撃ズドンなスキルを頼むぜ。」

「うん。」

ジークが頷く。さて、あと決めることは一つ。

「さてと、どこに攻撃を入れるか…。」

「それなら、一つ案があるのですが……。」

エルヴァが手を挙げた。手にはマチェットと、マチェットで仕上げた即席の木の槍を持ちながら。


「おらっ!」

掛け声と同時に、オーディンの繰り出した刀の攻撃が首に、ジークの突き出した()が臀部に、それぞれヒットした。

「ブギィ!?」

オークが突然の攻撃に驚いたような声を上げる。そして自分にたった今攻撃を加えた二人の不届き者を見る。自分の首に攻撃を当てた奴はまだ刀を所持しているのに対し、自分に槍を突き刺した奴は槍を突き刺したまま丸腰。オークの脳内は素早くオーディンがより脅威であると判断し、すぐさまオーディンに狙いを定めた。オークが右腕に装備していた鉈を振り上げる。

「今です!」

エルヴァのその掛け声と共に、木の陰から飛び出したアレンがガンブレードの内蔵された銃を起動し、銃撃を与えた。アレンがわざわざ奮発した貫通力の高い弾丸はオークの右肩を貫通し、同時にオークの運動神経を傷つけ、利き腕を封じる。同時にオークのすぐ側の木の陰から飛び出したエルヴァがオークの左手が握っていたロープを切断し、捕まっていた少女が解放された。

「ありがとう、エルヴァさん!」

それを見計らって別の木の陰から飛び出したジークが素早く少女を抱えあげる。いきなりの状況に思考がフリーズした少女を抱え、彼はどこかへと逃走していった。

「さてと…。」

あらためて、オーディンは目前のオークへと目をやる。

利き腕は潰したとは言え左腕はまだ健在。臀部にダメージは入っているが、人間相手ならまだしもモンスターなら大したダメージにはならない。

「グォァァァ!」

安っぽい雄叫びをあげたオークが、左手に持ち替えた鉈を振り上げる。

「(『月読命示つくよみのみことしめし』!)」

オーディンが心の中で自らのオリジナルスキルを叫び、それを発動する。彼の黒い瞳が金色に光り輝く。

オークの鉈が迫り、彼はそれを紙一重で避ける。しかしオークにとってはそんな事は予想済みと言わんばかりに、素早く鉈の向きを変えオーディンに向かって振り上げる。

だがしかし、オーディンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。当然の如く、例えてみればオークは1ターンを無駄にしたということになり、そこにオーディンの攻撃が当たった。

「グワオォォ!?」

やはり安っぽい悲鳴と共にオークが怯む。も、すぐさま体制を整え直し、反撃に転じた。

しかしそれも、()()()()()()()()()()


オーディンのオリジナルスキル『月読命示(ルビ:つくよみのみことしめし)』。

所有者の意思によって発動するタイプで、継続的な効果を持つ。

月読命という神様の力を借りるとか、夜間には効果がアップするとか、そういったところを除けばその効果は至ってシンプル。

数秒先まで何が起こるかを完全に把握する。未来予知だ。


「ゴァァァ!」

自分の攻撃がスルスルかわされる。そんな屈辱を味わって、猿と同レベルとは言え知能を持つ生物が怒らないはずがない。怒りに身を任せたオークがむちゃくちゃに鉈を振り回す。

そしてこれこそが、オーディンの狙いだった。

皆さんも例えば、「1秒に2回以上、途中で止まること無く腕をむちゃくちゃな方向で振り続ける」という動作を10秒ほどやってみると分かる通り、ちゃんと訓練を積んでいないとものすごく疲れる。そして訓練したところで必要な代謝は変わらない。オークの体にみるみる疲れが溜まっていく。

加えて、怒り狂ってむやみやたらに武器を振り回す馬鹿力のほうが、普通の人間を相手するよりも楽なこともある。無論、人間一人を余裕で潰せるこの腕力を相手に真正面から防御できる防御力はオーディンにはないし、未来予知があるとは言えずっとかわし続けるのにも限界がある。だがしかし、相手が何も考えずに武器を振り回すのなら、ギリギリ当たらずそれでいて相手が「あたらない」と思わない距離の間をのらりくらりと動いているだけでいい。

そして最後に、こうなったやつは目の前以外の全てが確実に疎かになる。

「くたばれ!」

再びアレンの放った銃弾が、今度はオークの頭部に直撃する。初っ端からそうしなかった理由でもあるがオークの頭は非常に難く、脳までダメージは入らない。

しかし、衝撃を与えて一瞬ふらつかせるには十分であった。

すぐさまエルヴァが背後からオークの足の健部分をマチェットで攻撃すると同時に、そのまま勢いをつけて体当たりをかます。普通に考えれば重量は明らかにオークの方が上だが、人間一人分の重量は無視できる威力ではない。たまらずオークが倒れる。

「させるかよ!」

顔をあげ、鉈を握りしめて反撃を試みたオークの目をためらいなくオーディンが斬りつける。そしてオークが怯むと同時にその左手にエルヴァがマチェットを突き刺し、骨を砕いて反撃を封じた。

「あとは頼んだぞ!」

仕事を終えたという清々しい顔でオーディンが上を見上げる。

木から飛び上がって剣を下に構えたのは、今ここにいる四人の中で最も攻撃力が高い、すでに女児をアレンのそばに預け憂いをなくした人物。

「『フォールスマッシャー』!」

ジークの突き出した剣は、彼が叫んだ次の瞬間オークの頚椎を粉砕し、トドメをさした。


「ありがとう、へんてこな剣のお兄ちゃん!」

助け出した少女がオーディンに頭を下げる。

「(あぁそうですかい、刀はへんてこな剣ですかい!)」

「(おちついて、子供だよ。)」

刀を振り上げた状態で両手をプルプルさせながら別の意味で涙目になるオーディンをジークがなだめる。まあ少なくとも、真っ先にお礼を言ってもらえるぐらいには活躍したと思ってもらえたと考えよう。

そしてその様子をアレンがヘラヘラ笑いながら眺める。

「まぁ、よかったじゃねぇか。可愛い女の子は無事に帰ってきたんだし。モテてるんだぜ?」

「俺ロリコンじゃないんだけど。てかモテの基準どうなってんだよ。」

「それ反応しちゃだめなやつだよ、オーディン。」

ロリコン?と言わんばかりに少女が首をかしげた。

「いやしかし、この豚の死骸どうするよ?」

アレンが尋ねる。

「普段なら『ピー』とか『ピー』とか切り取って素材として適当に下ろすでしょうけど……。」

ジークが後ろめたそうな目で少女を見つめる。

「…流石にちょっとね…。」

少女が再び首をかしげる。

「そうだお嬢ちゃん!ちょっとこの双眼鏡を見てみるといい!面白い景色が見えるぞ!」

いたいけな少女が絶対に口にしてはいけない言葉を口にする前にアレンが少女の気をひき、話題をそらしつつ空気を読んで別方向を向かせる。言動がもはや不審者のそれだが、今はありがたかった。その隙にジークとオーディンは素早く死体の処理にかかる。この世界はファンタジーおなじみのゾンビやネクロマンサーの類もいるため、変に死体をほったらかすとろくなことにならない。

一方エルヴァは、双眼鏡を持って別方向を眺めていた。

「おいエルヴァ、何やってんだよ。さっきのやり取り聞いてなかったのか?さっさと手伝ってくれ。」

モザイクをかけるべき作業を行いながら、オーディンがため息混じりにエルヴァを呼ぶ。しかしエルヴァはそれに従わず、オーディンに奇妙な質問をした。

「唐突ですが、今日は何か祝典などのイベントはありますか?」

「あぁ?あるわきゃねぇだろこんな平日に。強いて言うなら防衛隊の小規模訓練があったぐらいだよ。」

「では次に、その訓練において銃火器の類は使いますか?」

「使わねぇよ。」

「では、他に…」

「あぁもう、何が言いてぇんだよ。さっさと教えろ。」

じれったくなったオーディンが解体を終え血まみれになった解体用ナイフの血を振り落としながらエルヴァを睨みつける。

エルヴァは無言で双眼鏡をオーディンに渡した。気になってジーク、アレンも双眼鏡を構える。エルヴァが見ているのは街のある方角だ。

三人は街のある方角を双眼鏡で眺め……言葉を失う。


「説明してください。今日、あの街において、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


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