Episode33:それぞれの準備を前に
この世界のTips33:ソースエネルギー
最初に断っておくが、「ソース」とは調味料の方ではない。どちらかというと調味料の発音は「サース」とも聞き取れる感じで、こっちは純粋に「ソース」だ。スペルはSource(調味料の方がsauce)。
Source energy Sourceとは「源」という意味を持つ。略称はS・E。
ソースエネルギーは、人間やそこらの生物のみならず、この世界の全ての存在が体内に生み出し、蓄積している特殊なエネルギーの呼称である。
魔法を使用するための魔法力とは異なるもので、主に通常のスキルや身体能力の強化などに使用される。戦闘で使用すればその分総量は減るが、同時に常に自動回復を続けており、その回復量は本人の実力が高いほど増えるため実際のところは体調不良や実力不足などでも伴わない限り枯渇などはまずない。
体内に蓄積されたソースエネルギーは、身体の各部へ流すだけでなく、身体の外へ放出したり、他の物体・生物へ流し込んだりすることもでき、
・ 身体能力の強化
・攻撃や防御への付与
・身体の特定部位への集中
・身体の外部への放出
・他の対象への流し込み
・エネルギーの流れや方向の操作
・エネルギーの圧縮・拡散
・エネルギーの遮断・制御
・エネルギーを利用した特殊なスキルの発動
などに使用することができる。
ソースエネルギーの量や出力、制御能力には個人差があり、それらによって戦闘能力やスキルの性能が変化する。もちろんこれは個人差もあるし、成長によって十分変化する。
また、当然ながらソースエネルギーを扱うには一定の制御技術が必要であり、単純に保有量が多いだけでは十分に能力を発揮できない。一方で「全ての存在」が保有しているため、極僅かな量であれば日常でも無自覚で使われていたりする。
この世界に存在する全ての存在、そのあらゆる活動の源となるもの。それがソースエネルギーである。
某元帥
「これ最初の方で語っておくべき話じゃなかった?」
名前がなかなか決まらなかったんですごめんなさい。
「……フー。」
とあるホテルの一室で、アメリオが息をつく。
謎の少女は、相当な戦闘能力を持っていた。
「アハハ、おじさんやるね!普通の人だったら最初で死んでるもん!」
これみよがしに血のついた巨大な包丁を振り回しながら笑いかける少女を前に、アメリオはネクタイで左腕の二の腕を縛った。
最初。そう、最初が問題であった。
戦闘開始直後、少女が左手を鳴らす。おそらくそれが何らかの合図か何かだったのだろうが、複数体の“マーマン”がどこからともなく現れ、一斉に彼におそいかかる。
「!?」
“マーマン”の低レベルな知能からは想像もできないほど統率の取れた動きに一瞬驚愕するも、その程度に遅れを取るようなXランクではない。すぐに彼はそれを弾こうとして。
「っ、ぐっ!」
その直後、“マーマン”の群れを巻き込む形で横に薙がれた相手の刃。アメリオは咄嗟に防御の姿勢を取ろうと一瞬の逡巡、そして先程振り回した武器は間に合わないという判断の結果、彼は左腕を捨てた。
切断、とまではいかなかった。彼女の刃に骨を切断する力はなく、結果主要な動脈や神経なども無事に済んでいる。
一方で、そう簡単に止まらないレベルの出血。伴う痛みについては精神力でどうにかするとしても、うかつに左腕を使えば出血が加速してこちらのHPを奪うだけだ。そうなると、緊急時以外使うことは得策とは言えない。
余裕綽々の笑顔で先程の包丁もどきを振り回す少女を前に、アメリオは淡々とかえす。
「褒め言葉よりも、あなたの身柄が欲しいですね。」
「もーおじさん、ノリがいいんだか悪いんだかわかんないよそれ。あとそれ、言っちゃなんだけど味方変えなくても変態の言葉だよ?なに?新手のナンパ?」
「生憎ですが、私は犯罪者を恋愛対象にするような精神は持ち合わせておりません。」
このような会話を繰り返しながら、依然として少女はアメリオに攻撃を仕掛け続ける。アメリオは当然防御をする。
そしてカウンターを何度も狙うが、いずれもカウンターに移行した途端に“マーマン”が出てきて彼女の盾となり、そしてカウンターの後隙を突かれて自分が逆にカウンターをくらう始末。何度目かの試みを境に、彼は防戦一方となる。幸いにも彼女自身の刃物の攻撃力そのものはそれほどでもなく、若干手を抜いたところでアメリオは問題なく弾くことができる。が、
「」
相手も莫迦ではない。それを察した少女は、自分を控えに回し、絶え間なく“マーマン”をけしかける作戦に変更した。
こうなるとアメリオには少々分が悪い。というのも、彼はあくまでも、いうなれば《対単体特化》の《物理》アタッカーであり、こういった集団戦には向かない上、「“マーマン”には電撃属性や氷属性、炎属性などほとんどの魔法がとても有効」という相手のディスアドバンテージも、魔法をメインに回せるほど得意としない彼には活かせない。
「『アードべーフィング』!」
アメリオは隙をついて地面に木刀を突き立て、そして遅らせてS・Eを流し込む。地を覆う莫大なエネルギーの奔流、それらが収束し木刀を通じて地面へと流れ込んだ直後、周囲の地面が大きくひび割れ打ち砕かれる。
「わーあ、すっごい威力だね!でもそんなんじゃ体力持たないんじゃないの?」
「ッ!」
ごもっともであった。対集団の術を補うためにわざわざ習得しただけのこのスキルには燃費という面は一切考慮されておらず、実際に十数回連発すればS・Eが枯渇するのは目に見えた話。
そしてそれを見計らったかのように、少女が腕を振り上げる。下水道の地下水路という地下水路、その至る場所から、まるでそこを埋め尽くすかのような勢いで大量の“マーマン”が出現する。
「あはははは、じゃあ、おじさんの体力がどれぐらいで尽きるか根比べ……?」
少女の言葉が最後まで続くより前に、アメリオの奇妙な行動に目を見開く。
彼は唐突に飛び上がって、木刀を天井に突き刺し、そこからぶら下がっていた。「ぷらーん」という効果音がこれ以上ないほどに似合うその様子は、とてもシュールで……
「……何間抜けしてんの?」
思わず少女も目を点にする。
しかし当人は至って真面目であった。
「このモンスター、下水道全体に巣食っていますよね?」
「…?うん、そうだけど。」
さっきからのアメリオの様子のせいで、少女は煽るのも忘れている。
「なら、いっそこの当たり一帯ごと壊したほうが話が早いので。」
そう言うと同時に彼が木刀を掴んでいないほうの拳を振るい、木刀を突き刺したすぐ横の天井を殴る。わずかに遅れ、先ほどとは比べ物にならない総量のS・Eが建物中を駆け巡る。
「『アードべーフィング・インストーテン』!」
「(S・Eが走った!天井も壁も全体かつ広範囲、そしてこのエネルギー量!つまり……!)」
次の瞬間、下水道を構築する壁という壁、天井という天井に亀裂が走り、すぐさま砕け散った。
「(この辺一帯壊す気での超範囲攻撃!)でもこれじゃ、おじさんも逃げられ……!」
少女がアメリオの方を振り返った時、アメリオの姿はすでにそこから消えていた。
「……あれー?」
それこそ間抜けな声をあげる少女の頭上に瓦礫が降り注ぎ、下水道全体に崩落の轟音が鳴り響く。11時30分の出来事であった。
『で、下水道全部ぶっ壊して来たってわけね。その被害総額誰が建て替えると思ってんのよ。』
電話越しにヘラヘラと相変わらずの態度をしているヘルマンの声が聞こえる。アメリオはベッドに腰掛けて、通話越しのスマートフォンを片手に悠々自適にコーヒーを口に含む。
「人として尊敬するに値しないあなたの、無駄に金のたまった銀行口座です。」
『おお、めっちゃいうじゃねーかよ。』
「そんなことはぶっちゃけどうでもいい。確認は取れましたか?」
『確認してきたよ。そいつらが神隠しの被害者で間違いないだろうね。』
「やはりですか。」
前回見た“マーマン”の死体の残骸のうちの一つ、その中の一体が指にはめていた指輪。アメリオがどさくさに紛れて回収しておいたそれを、小規模な移動魔法を使用してヘルマンのいる王立特練に送信しておいた。その結果、それは神隠しの被害者の一人がいなくなる前はめていた指輪と同一であるという事実が判明。
『おまけにある種の呪いを使用して自分の指から外れないようにしてんだから、ある種「のろいのそうび」だよね。まあそのおかげで特定できたんだけどSA。』
「あなたはもう少しシリアスな空気というのを学んだらどうです?」
『無理DEATH!』
「ではペナルティに私が帰り次第書類仕事割増しておきますね。」
『やめて?ガチで死ぬから。仕事も止まるから。』
「役立たずおバカの話はさておき、この後はどうしましょう?」
『まって今何にルビふった?まあ、そうだね。ひとまず……gg………tて、そ……gggggggg。』
「?」
『……あれ?波これどうなって……zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz……。』プツン
「……。」
切断が遮断される。
気候だの故障だのが云々というのは理由とは考えにくい。金だけは無駄にある奴と直通でつながることができるアメリオのような者には全員特別仕様のスマートフォンが配られており、たとえ猛吹雪だろうがサイクロンだろうが砂嵐だろうが、どこでも波がつながるような超強力な通信が可能な機器を渡されている。もちろん、わざわざ壊れるような扱いもしていないし、そこそこの戦闘でぶっ壊れるよう脆い作りもしていない。
ともなれば可能性があるとすれば、それは結界や対通信による妨害。
「……!」
アメリオは睨むような険しい顔付きで外を睨む。
結界魔法が構築されていた。街一つほど覆える大規模なそれはすでに完成されており、いまさら脱出は不可能だろう。おそらく先程通信がちぎれたのもこれだ。ご丁寧にも隠蔽魔法が施されていて一般人はそれに気付くこともない。パニックが起こらなそうなのはよいことだが、街の外の人々が違和感を覚えず応援を出さないのは良くないこと。周辺とは閉鎖的な関係であるこの街をわざわざ立ち寄って確認するようなもの好きはいないし、こちらからは先程の通信妨害。
「(……こちらで解決するか、あのバカが違和感を覚えて誰かを派遣するのを待つか……。)」
およそ午前7時の出来事であった。
「どれ、そこのお主。」
「……僕ですか?」
早起きの跡残る寝癖、そして朝のシャワーをすませたまま飛び出してきたかのような髪の形状で、アメリオたちと昨日泊まったホテル周辺をジョギングしていたジーク。とある路地で、彼は一人の占い師に呼び止められた。
占い師の雰囲気?まあ、いかにも……路傍に机と雑な布数きれを構え、それっぽい服装をして、だいたい当たりそうなこと言って信憑性をもたせた後適当なこと言ってその辺の奴らから金をもらおうとしてる……って感じの。まあ要するに胡散臭いタイプの、老婆の占い師だ。
「そうじゃ、お主じゃ。一つ、お主の未来を占……。」
「遠慮します。」
そのまますたすたと立ち去ろうとするジークに、占い師はどこからか取り出したマジックハンドで彼の服をつかみ、すがるように身を乗り出して引き止める。
「まてまてまてまて、占うのはただじゃから!場合によっては色々売るだけじゃから!」
「もっとたちが悪いタイプじゃないですか!より一層遠慮します!」
と一悶着あった末、結局ジークは逃亡に失敗した。
「(どうしてだよ!)」
「では占おうぞ……さて、何を占おうか。」
「(こっちが決めるのか!)……じゃあ、……もうなんでもいいです。」
「では……。」
占い師がいつの間にか取り出した水晶球に手をかざす。
一瞬、当たりが無音になった。朝となり起き始めた人々が生み出す喧騒も何も聞こえなくなった。だがジークがそれに気付くことはなかった。もとから聞いてもいないし、気付いたところで、占いという状況が生み出す雰囲気の副産物である静寂だと片付けるだろう。
「石……一つの石が、お主を変える。」
「…石……ですか……?」
「そう。だが、路傍に転がるようなものではない。お主を軽くおしつぶせる、大きな石じゃ。」
「……。」
「その石は全てを壊し、お主の友も敵も傷つけ吹き飛ばすだろう。だがその石に恨みなど持つことなかれ。その石は運命に導かれたのだ。」
「(……。)」
ちょっとだけ聞き流してさっさと立ち去ろう。そう思っていたジークだったが、いつの間にかその考えは忘却の彼方へとなくなっていた。
「しかしそれをただ受け入れるのもまた違う。お主に必要なのは、一度その石を《拒絶》すること。するとその石はそれまでの形を喪い、代わりにお主にとある新たな物を遺すじゃろう。それを受け入れ、お主の新たな伴とせよ。さすれば、それはお主を神と巡らせ、新たなる道と力を示すであろう……。」
「っ!?」
そしてその時、ジークも結界が構築されつつある様子を視認した。続けざまに彼はそれに隠蔽魔法が使われていること、つまり一般人がこの事実を知り得ないことを。そして、周囲に冒険者の姿がないということは、明らかにこの街のギルドがこの事態に対処しきれていないということを、確認する。
「!」
すぐさまジークは駆け出す。ギルド庁舎へ。あの規模の結界の排除に役立つほどの実力を持っていないことがわからないほどバカではないが、一方でどこか嫌な予感を拭いきれなかった。それ故に、彼は駆け出した。
老婆がはっと、意識を再起動されたかのような素振りを見せる。
「……あれ?わしは何を……?ありゃ、さっきの小僧はどこへ……。」
そんな老婆のいる場所、その裏にある薄暗い路地で、
この世界に似つかわしくない、白ワイシャツ・紺ブレザー・黒ズボンという学生服に身を包んでいる少年がほくそ笑んでいたことに、誰一人として気が付かなかった。
「えーっと、今日の天気は……晴れときどき曇り……。」
少年はにこやかな表情でつぶやき、そしてスマホを取り出す。そして、結界に覆われて見えないはずの空を見上げ、「やれやれ」といわんばかりの顔で片目を閉じて、
「……上空から飛来してくる隕石にご注意くださいってとこかな……。」
彼は体重を預けてくれていた建物の壁から自分を引き戻し、そしてブレザーのポケットをガサゴソと探りまわると、そこから一本の金属製の鍵を取り出す。
「巻き添え食らってもあれだし、かーえろっと。」
そうつぶやいた彼の目の前の壁に、突如として白い片開きのドアが出現する。彼はドアノブに鍵を差し込んでそれを開け、どことも知れないドアの中へと入る。
少年がドアを閉めた直後、ドアは最初から存在しなかったかのようにその姿を消した。その一連の出来事に気付いたものは、どこにもいなかった。
時刻は午前6時55分であった。
そして、午前7時5分。場所はギルド庁舎内。
「なあ。」
「ああん?」
椅子に腰掛けて朝からだらだらと飲んだくれていた一人の若い男に、何を思ってかトリノが話しかける。
「聞きたいことがあるんだ。今少し時間良いか?」
「へっ。いつまでもB止まりの雑魚が俺様に話かけんじゃねーよ。このブラックが。」
そう言い、男はそっぽを向いて再びジョッキを傾ける。
トリノは少し、昔のことを思い出す。何年前だったか、この目の前の若い男が後輩だったころの話。
「僕、ミンクスっていいます!ランクはEランクです!今日からあなたの指導を受けることになりました!よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな……って思ったけどさ、俺でいいのか?」
「はい?」
この頃の彼はまだCランクであり、Bランクの先輩はすでに複数いる。そのことを伝えた時、彼はこういった。
「そんなことありませんよ!先輩のランクが何であれ、先輩であることに間違いはないんですから!」
「(人って変わるもんだからなあ……成長も退化も含めて。)」
思い出したくもないことだったはずなのに、どこか感慨深ささえ覚えるトリノ。だが、目の前の男はもはやそれすら覚えていないのであろう。
とすれば、やることは一つ。
次の瞬間、トリノの腕が男の頭を鷲掴みにし、そのまま地面に叩きつけた。
「なあ、答えろよ」
「う……」
「俺のお袋をやったの、お前か?」
「はぁ!?……な……何だよそれ……!」
「……どうなんだよ。」
血まみれになって床に這いつくばる男と、床に屈んで、恐怖を覚えるほど冷静な顔付きでそれに質問を投げかけるトリノ。
彼は男のその返答を聞くと、少し残念そうな顔付きをしてから立ち上がり、近くに偶然転がっていたナイフを拾い上げると、それを男の左手の甲から突き刺した。
「!……があっ!」
「俺の質問ちゃんと聞いてたか?まずはYESかNOぐらい言おうぜ?だれだってそれぐらい……。」
「そこまでだ!」
トリノの背後で、ヒーロー服…いかにもな黄色いスーツに赤いマントをつけ、ついでに仮面舞踏会のそれのようなマスクを顔につけ、服の胸部にはZと書いた…なんというか恥ずかしいやつ…を身に着けた中年の男性が、決めポーズ(?)を取ってからトリノを指さして叫ぶ。
ある意味当たり前だが、トリノは「なんだこいつ」と言った顔で見るのだが、一方で群衆の反応は違った。
「Aランク冒険者のゼルトさんだ……!」
「噂じゃその実力はSランクに匹敵するらしいぞ……!」
「いけ!Bランクの雑魚なんて軽くやっちまえ!」
群衆のざわめきからその男の素性を知り、そしてトリノは尋ねる。
「なんか用か?」
「とぼけるな!貴様がギルド庁舎内で暴行を働いているという通報が届いているんだぞ!」
「いやいや、俺はただ質問しただけ……。」
「黙れ問答無用!」
そのままトリノの言葉を遮り、男は殴りかかる。
「人の話を聞けって。」
「ぐほあ!?」
床の材木を割りながら、トリノの拳を落とされた男が地面にめり込む。
「……?うそだろ……?」
「ゼルトさんが……何しや……!」
「ああもう、うるさいな。ちょっと黙っててくれよ。」
トリノが指を鳴らす。庁舎内の空間に突如白濁色の煙が満ちる。数秒もしない内に、言葉もなくその場にいた群衆がバタバタと音を立てて倒れはじめ、またたく間にその場に立っているのはトリノだけとなった。煙が晴れたところで、彼は先程殴り落とした男を拾い上げ、そしてその胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「まあいいや。お前にもちょっと聞いておきたいことが。」
プッ
「……。」
「黙れ犯罪者!貴様に言う事など、グァァアァ!?」
果敢な表情でつばを吐き掛けた直後、男の左手の人差し指が握りつぶされる。
「おいおい、質問しているのにその対応はないだろ?」
「だま、ガフゥ!」
続いて腹に掌底。思わず男は吐きそうになる。それをトリノは、いたって冷静な、それでいて怒りを超えた何かをたたえた眼窩を男に向ける。
「なあ、答えてくれよ。」
バタン
庁舎中に響き渡る音と共に、ドアが開き、誰かが駆け込む。
駆け込んだ少年の目にうつったのは、床一面に倒れた何人もの人、そしてそのうちの一人を持ち上げ、ただ一人立っている人物。
「何してるんですか!!」
少年、防衛隊として何度も事件に直面していたジークの思考が追いつくのは早かった。
それに対し、応答はとても冷ややかであった。
「悪い、引っ込んでてくれ。」




