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ENDESTALE  作者: 存象 創者
CHAPTER3:交差
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Episode30:“人”

この世界のTips30:黒人差別

黒人差別。現実世界であったら欧米で昔起こり、現在はほとんど見なくなったといえようこの現象。

この世界でも同様のことが起こっている。ただしひどいのはこの世界は“実力主義”、早い話戦いにおいてより強さを出せる者が発言権を持つ世界であり、人口としても少数な上、謎の原因で実力を持つ者が白人層に比べて極端に薄い。

そしてモンスターはそんなのお構い無しで襲ってくるから、上記のそれが災いし、黒人には「白人に守られるしかない弱い奴ら」というレッテルが貼られてしまっている。もちろん表向き人種差別を認めない政府がそれを黙認するはずもなく、それなりの取り締まりも行われているのだが、公務員にも限界がある以上全て防止することはできない。

人間はなにかを見下すことを心の拠り所とすることがある。この法則は、異世界に行ったところでそう簡単にかわらないらしい。


ヘルマンが二人の位置情報の捕捉を失うおよそ1日弱前。


そしてこの通話のおよそ1日ちょっと前、5月16日の朝7時

場所は廃校から数キロメートル北の街。ジークとカレンの目標がいる場所である。

天候は晴れ。日の明るさだけ見れば暖かそうだが、周辺環境が雪まみれなのでどうにもならずただ眩しいだけである。


ジークとカレンの両名は、レストランで外の席に腰掛ける目標を発見していた。

日焼けより僅かに濃く焼けているような焦げ茶色の肌で失礼な話ハゲな、スーツ姿に屠畜業者用のエプロンとナタを身に着けたおよそ30~40代と見受けられる男性。

写真とその姿を何回も見直し、確信を得る。

「間違いないでしょうね。おそらく、あの人がトリノって人です。」

「なるほど、ありがとね。」

礼もそこそこに、カレンは腰の武器に手をかけた。それを見るやいなや、ジークはそれを慌てて止める。

「ちょちょちょちょ待ってください!何してんですか!」

「え?いや、取り押さえようと……。」

「不審者疑惑だけで実力行使するやつがありますか!突撃するにしてもせめてまず対話を挟みましょうよ!」

「え?でも……。」

「(あなた先輩たちのなかじゃ唯一のまとも枠だったでしょうが……!)」






「ああ!?てめ今なんつった!!」

と、そこで怒号が響く。ジークは先輩を制止していた手を話してそちらを伺う。二人が見たのは、トリノが店員と諍いを起こしている場面であった。

店員「(ッチ、めんどくせーな。)いえ、なんでもございません。」

「嘘つくなよ!今確かに黒人出てけって言ったよな!」

「さあ?何かの勘違いではないでしょうか?」

「なんだ?俺が嘘付いてるってのか!ぶっ殺すぞ!」

おとぼけ顔で応答する店員の胸ぐらを掴み、トリノが怒鳴りかかっていた。瞬発的に剣に手をかけて突撃しようとしたカレンの襟首を掴んでジークはそれを止める。

「、離してください!早く止めないと……!」

「さっきの言動からしてあなたが止めに行ったら余計なことになりかねないんですよ!ちょっと待っててください!」




と、カレンを待機組にしてから、つかみ合うトリノと店員のところにジークが駆け寄る。当然ながら、両者は共にそちらに注目する。

「失礼します!」

「あぁ!?」

「Bランク冒険者のジークと申し上げます。怒声が聞こえたので駆けつけましたが、どうかなさいましたか?」

「ん、ああ、こいつが……」

「助けてください!突然言いがかりをつけて、掴みかかってきたんです!」

「んだと、てめ、ふざけんなよ!?」

「ま、まあまあ落ち着いて……ひとまずお互い手を話してください。」

「、ッツ、ハァー。」

ものすっごく不満そうな顔とため息で、トリノは手を離す……だが店員は依然として、トリノの腕を掴んだ手を離そうとしない。

「あの……離してください?」

「無理ですよ!このまま離したらまた掴みかかってくるかもしれません!」

「その場合はこちらで止めますので、とりあえず離して……。」

が、店員は意地でも離そうとしない。

「すいません?公平性に欠けますので……。」

「(ったく、てめーも黒人側かよ。これだから博愛主義気取りは……。)」

「?今なんか言いましたよね?」

「言ってません。」

「な?言ったろ?こいつクソなんだ!」

「なるほど……。」

博愛主義、か。ジークは少し己を振り返る。幼少期からお人好しとか言われたことなどは割とあるが、こういった皮肉の意味で使われたことはあまりないかもしれない。



こういう時用にちょうどこのあいだ解決策を思いついた気がする。ひとつ、試してみよう。

「ところで、あなた頬にほくろがありますね。割とおっきい泣きぼくろ。」

「ん?ああ、だから何d……?」

「知ってますか?黒人の方々の肌とほくろはおなじメラニンから来ているんです。つまり同じ“不浄”の要因、今すぐ切り落としましょう。」

一瞬店員は怪訝な表情をしたものの、猟奇的な目を称えながらジークがゆっくりと歩み寄るのを見て、思わずたじろいで一歩下がり、あわてて言い返した。

「な、なんだよ!少しぐらいまじっててもいーじゃねーかよ。」

「へえ、少しならいいんですか。」

そういうと、彼はまるで客の一人であるかのように自然に席に座る。一瞬周りの者達は、彼の意図を読めず困惑した。だがそんなのどうでもいいと言わんばかりに彼は背もたれに体重をあずけ、椅子を若干傾けながら上を仰ぐ。

「にしてもきれいなお店ですね。きっとこれまで、数え切れないお客さんを相手にしてきたのでしょうね。」

「……そのとおり!当店はこれまでおよそ数千はお客さんたちをお出迎えしているんですよ。ようやくあなたにもこの店の素晴らしさがわかってきたようですね。」

きょとんとしっぱなしのトリノを置いてきぼりにして、途端に店員は誇らしげになる。

「ええ。数千……なるほど。」

彼は椅子と体を正常な向きにもどし、その勢いで若干前かがみになりながら、店員に目を向けた。

「その数千からしてみれば、いま黒い肌の方が一人やってきたところで、あなたの肌面積に対するほくろと似たようなものでは?」

「……は?」

何をいってるんだこいつは。そう言いたげな顔で店員はストレートに言う。

「……なんの屁理屈ですか?ジョークでもわらえませんよ。」

「なるほど、確かにこれをみれば屁理屈かもしれませんね。」


「ところで、肌が黒い方は呪われた品種というのは、どういった理屈からくるものでしょうか?」




「……ッチ、クソが!」

店員はそれだけ吐き捨て、そのままどこかへと行ってしまった。店はどうした店は。

ジーク「ふう……(案外刺さるもんだな……安っぽいことしか言えてないけど、なんでだろ?)」

「……ありがとな!」

椅子に座ったまま、ふう、と息をつくジークの手を、感激の表情で彼の手を握りぶんぶん振るのはトリノ。ジークは困惑を顔に浮かべないように配慮しつつ、彼の手を握り返して返事をする。

「ああ、いえいえ。これぐらいお気になさらず。」

「いやいや気にするぜ。昨今白い肌の美形どもがのさばってる中折俺みたいな顔が良くない黒人を気にするなんてめったにいねーんだぜ?ほんっとうにありがとうな!」

「……あのー。」

「ん?」

見ていてそのままいるのも気まずくなったのか、おずおずとした様子で話しかける。間抜けな声でそれに反応し、トリノは当然僅かな疑いの目を向ける。

「んん?だれだおめー。」

「あ、えーっと、僕の先輩です。」

「へえ。いったいどうしたってんだ?」

「彼女は揉め事を言葉で解決することに長けていないので、もしもの時に備えて少々離れた場所で待機していたというわけです。」

こういう嘘を即時で作るのは、防衛隊で経験を培ったジークのある意味での得意技であった。なお本人は一ミリもうれしくない。し、言われている側も結果的に大してフォローできていない。






「失礼します。」

「「「ふぇあ!?」」」

うしろからぬっと現れて声をかけた男性の声に、三人は素っ頓狂な声を出す。


ジーク達は声のした方を振り返る。身長186cm、男性。七三分けにした黒髪と細長い吊り目……。

「おっと、失礼しました。驚かせてしまいましたね。どうも。」

「……って、アメリオ先生!?」

「残り二方とは初対面ですね。こんにちは、アメリオ=レイモンド・マースと申します。」

そう言い、彼は手を差し出す。

「え、ああ、よろしく。」

「よろしくお願いします。」

「あなたのことに関してはすでに聞いています。どうも、私がアメリオです。」

「え?あ、あの、普通に初対面なんですが……。」

「?ここで合流する手筈となっているはずなのですが、ヘルマンさんから何も聞かされていませんか?」

「あ、えーと、いえ、特に何も。」

「(すっごい大きなため息。)……あのヘルマン(バカ上司)……。」

「……。(どうしようすっごい気まずい)。」

ジークは「またか」と言わんばかりの表情で上を仰ぐアメリオを前に、自身が保つべき表情を見失った。その状況が数分続いた。




「……とりあえず、現在の進捗はいかがですか?」

「あ、こちらのグループはなにも。現在可能性があるユニークモンスターを排除した結果モンスターの類の仕業ではないだろうと結論づけましたが、その過程、モンスターとの戦闘で生徒一名が負傷、現在療養中。概ねそんなところです。」

「なるほど……こちらの調査が終わる見込みはどのぐらいを見積もっています……?」

「わかりません。少なくとも、おおよその依頼難易度にあった組み合わせとはいえ、SSランクとSランクがそれぞれいるマヌエルさんのグループと趙慈さんのグループよりは遅れて、そこと合流するかもなといった感じです。というか正直僕らも来たばかりなのであまり調べられてませ……。」

        ↓「言い終わってませんよ!?」

「わかりました。では、私があらかじめ調べておいた調査地点があるので、そこをひとまず調べましょう。」

「(先輩なのに置いてけぼりにされている)」

「別に無理してついてこようとしなくても構いませんよ?あなたが座学も指導も絶望的に下手だというのは教師として把握済みですので。」

「〜〜〜〜〜!!!!」

どうすればいいのかわからず気まずいカレンの思考に対し、心を読んだかのタイミングでやってきたアメリオの容赦のない台詞により、カレンは声にならない叫び声をあげた。

一方、置いてけぼりにされているのは彼女だけでもなかった。

トリノ「あのー、俺はどうすれば?帰って良いタイプ?」

「ええ。後日また伺いますので、今日は帰っていただいてかまいません。」

「わかった。じゃあなジークさん、あんがとな!」

「敬称つけないでください!なんか恥ずかしいので!」






ジーク達三人は一旦トリノとわかれ、街の東側に向かって歩いていた。

「えっと、今これどこに向かってるんですか?」

「前述の通りです。私が行方不明者の最後の目撃情報の位置とこの街の地図から割り出した地点がいくつかありますので、そのうちの一つをまず調査しましょう。」

「わかりました。」

「……と言ってる間に到着しましたね。」

「あのー……入口はどこです?」

カレンは戸惑う。三人が立ち止まった場所には扉などがあるわけでもなく、路地裏の何にもない行き止まり……。

「何言ってるんですか?目の前にあるでしょう。」

アメリオが床……にあるマンホールを指さす。

「……マジですか?」

「大マジです。それとももっとカッコいい秘密基地の入口でも想像してましたか?」

「いやそうじゃなくて、え、下水道入るんですか!?」

「マンホールに入るんですから当然でしょう。安心してください。ドブネズミはいますがゴキブリも氷属性の鳥もいません。というか後輩を見習ったらどうです?」

隣を見るカレン。後輩(ジーク)はすでに姿を消していた。

「うええ……。」

「そんなに嫌でしたらあなたは来なくて大丈夫ですよ。その代わり……。」

そう言い、彼はマンホールの蓋の下のはしごに足をかける。

「本日の12時にワンコインシャワー2名分予約。わかりましたね。」

有無を言わさず彼はマンホールに消えていった。

「今どき5T(トレーディア)で利用できるワンコインシャワーなんてあるかな……?」

日本ならあんまないね。




「あれ?カレンさんは?」

「置いてきました。別にいても役に立たなそうでしたので。」

「彼女Aランクですよね。Dランクの僕よりは役に立つと思うんですが。」

「これは私の持論ですが、やる気のないAよりやる気あるDの方が価値は……。」

そう言いかけ、アメリオは突如歩みを止める。

「……見えますか?」

「え?」

「(ハァ。)目に魔法力を集中させてください。」

そういい、彼は目に魔法力を集中する。魔法力の流れが見え、結果床についた魔法力の残穢が構成する足跡が見える。

「あ、見えました!」

「見ること自体はできて当然です。私に言われず自律的にできるようになってから合格点ですから。」

「(手厳しい……。)」

「とりあえずこれに従って移動しましょう。あてもなくマンホールをさまようよりはましでしょうしね。」






足跡を追跡した二人は、やけに広い空間に出た。およそ教室ほどの広さのある、貯水地点となっている場所。もちろん下水なので、たまっている水は粘性と濃い灰色を帯び、強いわけでこそないものの悪臭を放っている。

「下水の合流地点でしょうね。足跡が消えています。おそらく、この場所で水中に潜って姿をくらませたのでしょう。」

「……こんな下水の中を?」

「別に何も生身だとは言っていませんよ?」

そう言いながらアメリオは当たりに転がっていた石ころを拾い、勢いをつけて水中に投げ込む。意味のないように見えるこの行動は、登場人物の大半が人類を余裕で凌駕するバケモノに等しいこの世界では意味のある行為。アメリオの場合、石に最初につけた勢いだけで、50mなら水中を水の抵抗で速度を殺しきられることなく貫通できる。ましてや

音は何もなかった。

アメリオはもう一つ石を取り、今度は別の角度で投げる。やはり、着水時以外の音はしない。

「相当深いですね。」

「ええ。少なくともこれにより、潜水艦などといった突拍子もない推測の選択肢を否定できる要因がなくなりました。」

「そんなことまで考えるんですか……。」

「……臨戦態勢。」

「え?」

突拍子のない言葉に、ジークの目が点になる。


「Vvvvueeee」

「!」

唸り声。ジークがその方向を見る。人間の形のそれに鱗とヒレ、魚の頭をつけたような怪物(モンスター)が、三叉槍を構えてそこにいた。

「……“魚人(マーマン)”…。なんでここに……。」

「憶測は後です。」

そう言い、アメリオは木刀を取り出して振るい、ジークが向いているのとは反対側に存在する通路に目を向ける。ジークの向いている通路とは違い、およそ数倍の体躯を持つ巨大な“マーマン”がそこにはいた。

「勝てなそうだったら呼んでください。」

「……僕そんなに弱い判定なんですか?いや、自覚はありますけど……」

「いえ、そういう問題ではありません。私は社会人で君は一応は未成年。そして君は今のところ仮でも生徒。社会人、そして教師として、私にはあなたを守る義務が付随します。」

「あの、これでも僕冒険者Dランクにくわえ防衛隊勤務も……」

「しかし、この際言っておくと、あなたは冒険者としては、戦闘能力を考えずとも未熟です。」

木刀を振るいながら、アメリオは話し続ける。彼は木刀を持っていない左手に魔法力を集中させ、魔法を放つ準備をする。

「仕事を受ける。自分の時間や労力を差し出す。報酬をもらう。理不尽を経験する。そういった経験を積み重ね、自分を制御できるようになることが、人を一人前の冒険者たらしめるのです。」


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