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ENDESTALE  作者: 存象 創者
Chapter2:スノーグラウンド怪事件
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Episode28:“覆面”(1) 埋もれた顔

「……え?……は?……今なんて……?」

「では聞きますが、今回の任務は“容疑者の確保”なのですよね?」

「え……はい……でも……。」

「では、
































どうして私に、あの方の命を守る義務があるのでしょうか?」





時刻は深夜24時。

場所は前回の街から北部へおよそ5km。遠くに街と森がちらほら見えるだけの、ほとんど何もないだだっぴろい雪原。

天候はまだ雪。吹雪に比べればマシかと思いきや、強風のおかげで体感温度は対して変わっていない。




「……あぁ?」

マヌエルよりも先にカイズの方が反応を示す。

「ふっざけんな!こんな罪もない女見捨てるとかどうかしてんだろ!」

「こんな罪もない女を人質にしているあなたに言われたとことで。」

「……!」

忌々しそうな顔をするカイズ。

「(おそらく本気だ。見たところ、奴はそこまでバカじゃない。下手に俺に逆らえば、こいつが死ぬってことはわかりきってるはずだ。だがそれでもあの態度、おそらく……)」

しかし、数秒して唐突に口角が上がる。

「……おい、そこのお前!」

カイズは叫ぶ。そして、呼びかけられてビクリとするマヌエルに、今自分が握っているのとは別の一本のナイフを投げ渡した。ナイフは銀色に輝き、マヌエルの顔を映し出す。

「それでそいつを殺せ!」

「……!」

ナイフを拾い上げるマヌエル。だが、この場の打開策を思いつかない彼は、助けを求めるかのようにエルヴァに視線を向ける。かつて自分と斬り結んだ時、あれだけ予想外を叩き出してくれた彼は、少なくともまぬえるには見えないベクトルで物事を見ているはず…。

しかし、エルヴァはマヌエルに見向きもしなかった。そのまま、彼は返事だけを返す。

「やりますか?私はかまいませんよ。」

彼は両手の投げナイフをしまい、ナイフを構え、目線だけをマヌエルに送る。

「その代わり……全力で抵抗しま(素直に死ぬ気はないで)すけどね。」

「おい!はやくしろ!」

「……〜〜ッ!!」

こうしている間にもカイズのナイフは女性の喉を掻き切ろうとしている。もはや迷っている暇などなかった。





意外にも先制攻撃を仕掛けたのはエルヴァの方であった。マヌエルがナイフを構えてエルヴァに向かい合った時、すでにエルヴァはナイフをマヌエルの目前まで突き出していた。

迂闊にスキルを使用してカイズを訝しませるわけにもいかない。マヌエルは無言のまま基礎武術のみでそれを弾くが、それとほぼ同時に、エルヴァは新しく取り出したナイフを左手に持ってそれで攻撃を仕掛ける。両手持ちナイフのローテーションによる高速の連撃、マヌエルは弾くのがやっとであった。

「(だめだ!攻撃を仕掛けられない!)」

マヌエルは裁くことに全集中を裂くことはせず、自らの多少の負傷を承知の上での反射神経に委ね、その思考をこの状況をどうにかするための手段を模索することに割く。が、彼のそれには一つ問題があった。

そもそも彼は、SSランクになるまであまり時間をかけていない。目の前にいるエルヴァが異常すぎるというだけで、彼も実際2~3年くらいでこのレベルに上り詰めている。その裏にはモンスター狩りによる徹底的なレベル上げがあったりしたのだが、そういったものに重きをおいた彼の育成方針は、こういった対人トラブルの対処の学習を一切させていなかったのだ。




SSランクのマヌエルと、それより二、三段下のエルヴァ。普通に考えれば、底力の差で本来マヌエルの圧勝で終わるはずだったが、現在マヌエルが押されているように見えるのには理由がある。


まず、彼は現在ほとんど近接戦闘手段がない。本来の近接武器を槍という長柄武器に設定している彼は、ナイフなんて使い慣れない武器ではほとんど戦うことができない。くわえて相手はただでさえ全武術制覇している技術お化け(エルヴァ)はマヌエルの得意とする槍術に至っても何段か上であり、ましてや使い慣れないナイフではどうにか相手の攻撃を受けるのがやっとである。

くわえて、魔法にも使用制限がある。もともと魔法発動の触媒(魔法使いの杖的な役割)を槍にまかせていた彼は現在精密性を失い、狭範囲集中系の攻撃を封じられている。力任せに広範囲の魔法をぶっ放すのだけなら簡単だが、それをやるとエルヴァも、カイズも、女性も、なんなら周辺の街も消し炭になってしまう。絶対に使えないし、エルヴァもそれをわかって攻めてきている。結果的に彼は防御主体にならざるをえない。



では、これはエルヴァの独壇場となるのか?そうでもない。

まず、好き勝手暴れられないのは彼も同じなのだ。といっても彼が街を一撃で消し飛ばせる高火力広範囲攻撃を持ち合わせているわけではないのだが、彼は現在使用しているナイフ以外は迂闊に使用できない。未だ女性の首にナイフをつんつんしているカイズにもし彼に届きうる武器を見せたが最後、女性をそのままストレートで殺されかねないからだ。自分らを捨てるぐらいなら彼は彼女を見捨てるが、しかし少なくとも現在はその時ではない以上、うかつに行動もできない。

そしてなにより、ランクとそれに伴うステータスの差が大きい。たとえ相手が特化していない超接近格闘戦であっても、動体視力や素早さはまだしも、膂力と防御力に基礎的な物理攻撃力はマヌエルに圧倒的な分がある。現在は相手の戦術を削ぐことで技術勝負に持ち込ませているが、もし彼が攻撃に出た場合、エルヴァがそれを受けられるかと言ったら答えは否である。つまり押しているように見えて、実際のところ押された時点で敗北が確定する以上押し続けるしかないという状況である。

が、このまま切り合っていても埒が明かない。エルヴァは一計を講じる。


「!?」

唐突にエルヴァが左手の力を緩め、マヌエルがナイフを弾くと同時にその左手に握られていたナイフは空高くへと弾き飛ばされる。

「……なにを!?)」

意図が読めず混乱するマヌエル。だが敵の攻撃頻度が1/2に落ちたのに変わりはなく、次第にマヌエルは攻勢に出始める。一方で状況を打開する策は未だ思いつかず、気がつけば切合の中でエルヴァがマヌエルに押される形となっていた。

「(だめだ……一旦力を緩めて!)」

「おい、手ェ抜くんじゃねーぞ!」

見計らったかのようにカイズから野次が飛ぶ。思ったよりも奴は鋭いようだ。マヌエルは相手に悟られない巧妙な手の抜き方を習得していない。

「(だめだ!普段力任せに戦いすぎてた!)」

一歩、また一歩と、エルヴァは後退しながらマヌエルの攻撃をしのぎ続ける。が、もはや壁までの距離はおよそ数メートル程度、もう何回もこの手段は使えない。

「(だめだ、万事休……!)」













「ぎゃああああああ!?」

唐突に後ろから叫び声。マヌエルは、目の前の敵も忘れて思わず振り返る。

彼の視界に移ったカイズ、その、ナイフを掴んでいたはずの右腕には、エ(・)ル(・)ヴ(・)ァ(・)の(・)も(・)の(・)と(・)同(・)じ(・)ナ(・)イ(・)フ(・)が(・)刺(・)さ(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

「!?」

カイズの神経がそれで損傷を受けたのか、彼は右手で握っていたナイフを取り落とす。すぐさま彼は女性を突き飛ばしてそれを拾いに言ったが、すでに彼の頭上では、装備をすでに持ち替えたエルヴァが両手に白銀色のマチェットを構えていた。

「っ!てめ……!」

だがもう遅い。





エルヴァの凶刃が、カイズの右腕を斬り飛ばした。

「!」

だが相手も、言ってしまえばそれだけ。意外にも彼は判断が早く、痛みで泣き叫んだりすることもなく素早く止血すると、着地の硬直からエルヴァが復活するよりも前に逃げ出していた。

そしてエルヴァが見たのは、










謎の力により変形し、全く別人の顔となる、カイズの姿であった。

「『インパーソンマスク』!」



オリジナルスキル「インパーソンマスク」

ある《特定の条件》を満たした、全く別人の顔に自らの顔を変型させる。



「これでもくらえ!」

去り際にカイズは数本の投げナイフを放つ。躱して終わりだろうと一瞬だけ考えたエルヴァ達であったが、偶然か意図か、その射線状の最後には、先程まで人質となっていた女性がいた。そのまま考えるまでもなく、エルヴァもマヌエルもナイフを弾く。

が、弾いたナイフと弾くために振るった武器はしっかりと彼らの視界の邪魔をした。そしてそれは、彼が逃げ切るのに十分な時間を稼ぐことに成功した。すぐさまマヌエルは追撃に入ろうとする。

「……追いましょう!」

「いえ、待ってください。」

「なんでですか?このままじゃ逃げられ……。」

「……る可能性もありますが、このまま二人でノコノコ追っていったところで、万が一彼がここに戻ってきた場合、そこの女性はどうするつもりですか?」

「……!」

マヌエルははっとする。件の女性は、外傷こそ追っていないもののすでに腰は抜けて体幹がガッタガタになっており、少なくとも明らかに動ける状況でない。担いだりして運ぶ?割と騒がしかったとはいえ先程の戦闘は周囲にはバレていない状況であり、この状態で運び出したら傍から見てこっちが不審者扱いだ。

「……でも、一体どうす……。」

「先程の顔ですが…」

エルヴァはすこし考える素振りを見せる。そして言った。

「もうすでに見分ける手段はついています。」

















人混み。道をゆく者戻る者、両方ごちゃまぜで、誰も自分がぶつかったりしたとしても、お互いの顔なんて見ようともしない。

「おい、あれ見ろよ。SSランク冒険者のマヌエルさんじゃね?」

誰のものともわからぬ声で、ふと人混みにそんな言葉が流れる。ある者は物珍しさに当たりを見渡し、ある者はまるで興味もないかのように各々の路地へ消えてゆく。

「失礼します!このあたりで人を探しているのですが、ご協力願いますか!」

そんな声が響く。なんだなんだと野次馬が集まる。一方で、それほど人気が高いわけでもない彼に協力する気がわかなかったのか、何人かはむしろ避けるかのようにその場から離れた。


そのうちの一人、白いローブを被った茶髪で糸目の男が、人気のない路地へと入った。












そして前触れもなく、建物の陰から突き出された剣に腹を貫かれ、そのまま壁へと固定された。

「……!?〜〜!!……?」

「見つけましたよ。返送は看破しました。」

暗闇の中から姿を表したのは、つい先程まで自分たちと小競り合いを起こした二人の冒険者のうち、Aランクの方。

「……クソが、なんでわかったんだ……。」

忌々しそうに歯を食いしばるカイズに対し、エルヴァは剣を深く刺しながら告げる。

「先ほどのマヌエルさんの声に誰よりも早く、それこそ喋り始めた段階で反応してましたから。」

「ひっでえなあ。てことはあの女ほったらかしじゃねーのか?俺以外に仲間がいたりしたらどうす……。」

「『本物のマヌエルさんが見張っていますよ。』」

「!?」

カイズは目を見開く。エルヴァの口から発せられたそれは、聞き分けなどつかぬほどマ(・)ヌ(・)エ(・)ル(・)の(・)声(・)と(・)同(・)質(・)で(・)あ(・)っ(・)た(・)。

「なんだよそれ……それがてめーのオリジナルスキルか!?」

「いえいえ、たまたま声の波長の分析が得意で、それを真似するに足る技術も持っていたってだけですよ。『たとえばこんな風に。』」

まるで相手を挑発するかのように、カイズの声を使いながら、彼はにこやかに笑う。

「ところであなたのそのスキル……死者、いえ、自分自身で殺した者が対象ですよね?」

「何だと?」

「いえ、これで……えーっと、こういう時はなんと言うんでしたっけ?」

そう言いながら、エルヴァはポーチから取り出した一枚の紙きれを取り出す。


「検死証明書 ルーファ=エデル・ゴウン」

その人物の顔は、今カイズがとっている顔と全く同じであった。


「わざわざ死人のそれを取るというわかりやすい法則で助かりましたよ。途中で何回も顔を変えていたのも不自然でしたけど、それが全員すでに過去に不審死を遂げた人物でしたのでね。」

「んだと……まさかてめぇ、この顔の持ち主と知り合いだったか……?」

「いえ。全くの赤の他人です。」

「なん……〜〜!!」

腹を貫いた剣を足蹴にしてぐりぐりと、カイズの悶絶する声も気にせずに壁に押し込めながら、エルヴァは紙に飛び跳ねた血を拭い、ご丁寧に折りたたんでポーチへとしまう。

「さて、伺いたいことがいくつかあるのですが、よろしいでしょうか?ああ、最終的には口は割らせますけどね。」

「〜、フン、やれるものならやってみ……(モガッ)!」

威勢よく吠えてみせるカイズの口に、先程の発言と矛盾するということを無視して、エルヴァは無言で布の塊を詰め込んだ。そしてポーチから、何十本もの針が入ったケースと、緑色の液体が入った試験官を取り出す。

「……?」

「えー、こちら私が冒険中に見つけた“ペニーグラス”という植物の汁を絞って、そこに含まれる毒素を抽出したものとなります。ちなみに、ただ植物を荒らすモンスターがいればだいたいどこにも生えていますよ?」

まるでセールスマンのような笑顔のトークを見せながら、彼は試験官の液体を針の先端にちょんちょんとつけ、そしてそれをまるで武器かなにかのように構える。

「こちら経皮で摂取できるものとなっておりまして、致死性は低く超大量に投与しないとろくな効果もでませんが、一方少量で激痛をもたらすそうで、私自身が確かめたわけではないのですが……摂取した部分周辺の肉を獣にかじられて抉られるような痛みに襲われるらしいです。」

「(モ(ま)……モガ(まて)……)」

ニコニコの笑顔のまま、彼は液体をつけた針を右手に、残った左手でカイズの服を剥ぎ取り、上半身を露出させる。恐怖か寒さか、だんだんとカイズの顔が青色に満ち始めるが、そんなものお構いなしだ。

「気になってたんですよね。痛覚で精神が機能しなくなるのと、心が折れて廃人になるのと、神経が壊れるの、果たしてどれが先なのか?」

「……!………!!」









「とりあえず、あなたで実験してみますかね。」

静かで悪趣味なこれが終わるのは、おそらく1時間ほどであろう。


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