Episode26:動物の雪にまみれて
この世界のTips26:ボードゲーム
この世界の創作事情については説明したが、ボードゲームも似たような状況である。
いや、正確に言えばもっとひどい。作者なんてわからないのに非常に面白いからと、どいつもこいつもこぞって売り出して異常な販売競争が起こり、結果現在、読者の皆様が目を疑うような値段で売られ、結果誰でも持っていると言えるに等しい。
そうしてこのボードゲームの文化は世界に浸透する。そしてそれは、それを元とした能力の存在も意味するようになっていた。
時刻は夕方18時。ノルウェーの日没はおよそ22時頃、周辺はまだ空が若干赤みを帯びたかも知れない程度だ。
場所は前回の街から北部へおよそ5km。遠くに街と森がちらほら見えるだけの、ほとんど何もないだだっぴろい雪原。
天候は吹雪。遠距離は陰があるおかげで大きなものを視認できるが、近距離はむしろ確認しづらい面倒な視界。
「『灼月・灰反炙境』!」
真っ先に開戦の火蓋を切るのはオーディン。彼の刀に金色の炎が宿り、彼は刀を前方へと振る。様々な動物の形をした雪の彫像たちは、まとめてあっけなく崩れ去った。
「オーディン!」
「わかってます!」
つい今しがたの手応えで、オーディンはこの雪の彫像軍団の脆さを確認する。なら優先されるは範囲。
「『喜歌月・流輪祭駆』!」
地面に刀を突き刺し、同時に周辺に金色のチャクラムのような斬撃エフェクトを放つ。彼を起点に渦巻状の軌跡を描きながら上昇するそのエフェクトに巻き込まれ雪の動物は片っ端から砕け、そして砕けた端から再生を始める。
「……やっぱ溶かした方がいいんじゃないすか!?」
「じゃあ聞くけど、お前この範囲一掃できる炎属性攻撃持ってんのか!?」
「持ってません!」
「一周回って清々しいなぁおい!」
一通りのツッコミを終えた後に、趙は槍を振り回す。彼を囲んでいた雪の彫像は一層されたが、もちろんこんなので掃討できるほど総数は少なくない。
「今から大技の準備に入る!目標は体力温存、わかったな!」
「りょっす!」
「そんじゃ、配牌開始だぁ!」
槍の尻側を地面に打ち付け、趙の周辺に13個の直方体型の小物体が出現する。
趙のオリジナルスキル「先打及第・後打大吉。」
中国で「まずは最高点、次に幸運を目指せ。」
自身の物理攻撃に付随して前提効果を発動し、物理攻撃ヒット一回ごとに「牌」を獲得。現実の麻雀に基づき「和了」に至ることにより、それをもととする特殊オリジナルスキルを発動する。
「和了の役がわからんだぁ!?自分で調べろ!ウィキペディアいったらだいたい載ってるから!」
ちなみに中国と日本では役も得点計算もだいぶ違うが、彼の場合両者のそれが混合して入っているため、正直考えるだけ無駄である。だって作者にもよくわからないのだから。
「(この状況、広範囲継続の小威力攻撃がベスト!)オーディン、こいつの操作主がどこでこっち見ているかわからん!なるべくスキルは乱発せずに広範囲のそれと通常攻撃だけで立ち回れ!」
「へいよ!」
早速趙の目の前に数体の熊型彫像が出現し、次の瞬間槍の横薙ぎで上半身からまとめて消し飛ばされる。趙のもとに6個の牌が姿を表す。
「『碰』!」
碰。本来なら手札の一部を晒すことで本来手に入れられない牌を無理やり手に入れる使い所を選ぶ選択肢だが、彼のオリジナルスキルの場合、同じ牌三枚消費で一回自身への攻撃を相殺するシールドを展開する出し得なスキルへと変貌している。
シールドの展開により防御による体力と神経の消耗を気にしなくて良くなった趙は、そのままストレートで敵の群れへと突撃し、当たるが幸いとばかりに槍を振り回して牌取得数を稼ぐ稼ぐ稼ぎまくる。
一方でオーディンもその様子を見て、彼の能力のおおよその性質を理解する。
「デカブツはこっちに回してください!」
「おうよ!」
趙からしてみれば小さい分密集している敵相手にヒット数を稼げるチャンス、オーディンは小さい敵相手だと予知したところで不可避の物量で潰されるリスクがあった。両者は位置を入れ替え、オーディンはその勢いのまま前方の大型彫像の群れに突き進む。
「デグレードスペシャル『留刀迎禍』!」
中央に突撃したオーディンは半径2mの狭範囲殲滅攻撃を繰り出す。周辺の彫像が跡形もなくなるまで砕かれ、オーディンは技の予備動作中に攻撃されないのに十分な間合いを確保する。
「『炎月・陽仙鳥』!」
彼の刀が炎を纏う。オーディンは横に薙ぐ形でそれを前方に向かって振り、炎でできた鳥形のエフェクトが前方の彫像を溶かし尽くしながら突き進む。
「(後ろ!)『灼月・灰反炙境』!」
振り返りざまに再び火属性攻撃を展開し、迫っていた数体の鹿型彫像を斬り捨てる。そしてその後通常こうげきで何体かの敵を斬り捨てる。熱を持っていた刀が雪に触れ、ジュウという蒸発音を立てる。そしてそれを何度か繰り返す。
パキン。
「!?」
軽い音と共に、オーディンの刀の刀身は根元付近からあっさりと砕けた。
ガラスなどが極端な例だが、大半の固体は急激な加熱と冷却を繰り返すと、結晶構造の変質に物質がついていけずに耐久力が大幅に落ちる。日本刀なら内外の急激な構造変化の差を利用して耐久力と切れ味を両立させる技術はあるが、オーディンの刀はそもそも西洋技術で作られた、オーディンの戦闘スタイルに合わせるためのまがい物である。おまけに機魂兵の装甲という、不純物と言わざるを得ないものまで混ぜ込んでいることを考慮すれば、これはむしろ持ったほうだといえるだろう。
とまあ言い訳をしたところで、現在進行系でオーディンの武器がぶっ壊れ、結果彼は手ぶらだという事実は変わらない。容赦なくか、それともこれ幸いと言わんばかりか、怒涛のごとく彫像たちはオーディンに襲いかかる。
「うわわわわわわわ、ちょっとタンマタンマタンマぁ!」
一気に慌てふためきながらオーディンは敵の少ない後方へと飛びのき、都合よく地面に落ちていた木の枝を拾ってすぐさま振るう。雪だるまを砕く分には十分な硬さをもった木の枝だったが、それが同時に複数となるとついていけずにまたしても折れる。
「クソが!」
「おい!」
趙の叫ぶ方を振り返るオーディン。猿型の彫像に数回殴られながら、趙が投げたのであろう一本の片刃の中国刀を投げられる。
「使え!」
それだけ言い、彼はすぐさま小型彫像の掃除へと戻った。
オーディンは刀を抜く。中国刀と日本刀の違いはいろいろあるし、そんなことを自覚するレベルで脳みそが足りないオーディンがいちいち覚えていられるはずもないが、刀は刀。ありがたい。
「『氷月・寒地威象』!」
脳足りんな彼だが、流石に先ほど刀がぶっ壊れた原因がなにかぐらいは察しがついた。彼は力技及び火属性の攻撃を使うことを一旦とりやめ、代わりに周辺に対し“この環境において最も”負荷の少ない、《氷属性》攻撃を繰り出す。
「(なんだ?氷属性無効確定の相手に氷出して何に……。)」
「『暗月・霹雷』!」
続いて上空から雷撃が落ち、彼が空へと突き出した刀を起点に周辺へと散る。
「(……超伝導か!)」
超伝導。まちがっても物理耐性を下げる超電導ではない。極寒気候の彫像、そこに氷属性の攻撃を重ね極低温となったこれらの彫像は現在、周辺の雪もろとも電気抵抗が限りなくゼロに近しくなっている。結果電流はオーディンの周辺で止まらず、超範囲攻撃となって彫像たちを襲う。電気抵抗が低い以上大したダメージは低いが、電撃耐性がたいしてあるわけでもない彫像たちを怯ませるには十分であり、そしてこれにより当初の彼の目的も達成された。
「よぉし自摸だ、連七対!」
彼がその場にいる誰にも見えるよう公開した牌は、一から七までの筒子が2つずつ並んでいた。
「『筒連七対・牌斬裂嶄』」
連七対。日本では大車輪だの大竹林だのに改変されているが、中国においてこれは数牌で連続した7つの対子を作ることで発生する。そして彼の場合清一色のため、強制的に役満となる。
役満の得点計算は今回は中国式に基づき88点。彼の攻撃力の88倍のダメージが載った円盤状の斬撃が、彼を起点に回転を繰り返しながら、合計56個にわたって周囲に展開される。オーバーキルにオーバーキルを重ねたような範囲攻撃が周辺の彫像を雪もろとも一掃し、周りに展開していた敵は跡形もなく消え去った。
「……!」
「よし、終わったか!」
ズシン。
「?」
嫌な予感、とでも言わんばかりの顔で両者は音のした方へ顔を向ける。
そこにあったのは、先程の熊たちや自分たちが人形に思えてくるほどの、巨大な人型の雪の像。建物ほどあるそれがどう作られたのかは謎だが、少なくとも自分たちの味方かと言われたら100%違うだろう。
「?あそこ!」
「何ィ?」
オーディンが指さす先へ趙は目を凝らす。
肩の上、人影。背格好からおそらく10代前半。
「……ターゲット、って考えていいよな?」
「多分。」
「よぉーし方向性変更!大技ガンガンだしてよし、とりあえずあの像をぶっ壊すところから始めるぞ!」
「応!」
仕切り直す二人に応じるかのように、像は咆哮を上げた。




