Episode24:役割分担/先行・熊探し
この世界のTips24:天候
現実世界もそうなのだが、この世界の気候は非常に煩雑な条件で決まる。
例えば雲が流れてきたところで、空気中の魔法力がどうとか言ってそれが消し飛んだり雷雲に進化したりする。仮にそれを含めて予想できても、天候に影響しやすい能力を使える人物が暴れまわったら何が起こるかわかったものじゃない。天候に干渉するスキルも存在するし、それを何も考えず連発しそうな、知能の足りない化物も存在する。
つまり、この世界において天候がご都合展開以上に変わりまくることなんて当たり前のようにある話なのだ。
「だからみんな、外出時は折りたたみ傘の携帯が欠かせないんだよね。一人一本カバンの奥に仕込んでるのさ。」
一番高頻度な元凶がなにかほざいていた。
さて、前回から時間をおいて廃校に到着した一行。
廃校に目標が潜んでいないことを特にハプニングもなく確認し、ちょうど日が暮れたところで、彼らはいらないハプニングをゲットした。
何度も言うようだが、ここは廃校だ。つまり室内は荒れてるしまともな備品などない。そんななかで彼らが得たハプニングとはなんなのか……?
「つまり寝具とかその辺諸々ないわけだけど、どこに泊まるのよこれ。アタシは知らないけど、マヌエル、あんたなんか言われてない?」
「言われてないし、あの人の性格からして多分こっちでなんとかしろってあれだと思う。」
馬鹿はその辺に関して、特に考慮してなかった。
そこから夜が明け、5月17日の朝の6時。
場所は例の雪原から更に少し北に進んだところにある廃校。山の上にあるから周囲を見張るには最適だが、学校としての立地は最低に近い。みんなも嫌でしょ?登校の旅に十数分も坂を登り続けるの。
天気は猛吹雪。防寒グッズと魔法具諸々のお陰で生活そのものは可能だが、少なくとも外出すれば舞い散る雪と極寒で物理的にも身体的にも意識的にも色んな意味でお先真っ暗である。
「四手に分かれよう。」
旧職員室で転がっていた机と椅子を並べて作ってみたなんちゃって会議室。そこで、マヌエルが提言する。彼は近くに置いてあったボロボロのホワイトボードに、三人の人物の顔が写った顔写真を貼り付ける。
会議に出席しているのはマヌエルを含め7名であった。残り1名、エルヴァが欠席しているのは、この猛吹雪がやむ目処を探すために屋上に出て雪まみれになりながら空を観測しているからだ。
「任務を出したギルド側で、被害者が行方不明になった時間帯に消息不明になってたり怪しい行動してたりって人をある程度絞り込んでいたんだ。ここにいる三人はそのうち、事件の起きた全都市で目撃されている人物たちだ。」
逆にそんな、それこそ意味不明条件に当てはまる人物が三人もいるのか。ジークは一瞬そう思った後、考えないことにした。
趙が手を上げる。
「なんで四手なんだ?まとまってる時とかに一網打尽にすりゃ速いだろ?」
「そもそもその四人はまとまってないどころかなんの接点も見受けられなかったんだ。そんな四人がたまたま一緒にいるタイミングを待つのは時間がかかりすぎる。」
「あー、そっちか。」
「それにモンスターの可能性も捨てられないしね。とりあえず昨日の夜に相手ごとの相性から逆算して二人ペアを考えておいたから、ひとまずそれに従うって形で良いかな?」
「「「異論なーし。」」」
マヌエルは写真のうちの一枚を取り、それをジークの座っている椅子の前の机に置いた。写真に写っている人物は、日焼けより僅かに濃く焼けているような焦げ茶色の肌で失礼な話ハゲな、スーツ姿に屠畜業者用のエプロンとナタを身に着けたおよそ30~40代と見受けられる男性の写真だ。
「ジーク君とカレンさんはこいつをお願い。」
「まず誰ですか?これ。」
「トリノって名前らしい。ギルド登録情報から逆解析した困ったら職権乱用の情報によれば、国籍不明のBランク冒険者らしい。」
「国籍不明……。」
「そもそもトリノって名前が普通どこでも聞かない明らかな偽名だからね。強いていればニュートリノに似てなくてもないけど、New(あたらしい:という意味の英語)とNeu(強いて言うならドイツ語でNewと同意味だが、基本これそのものの独立した意味は持たない)じゃスペルも違うし。」
「???」
なるほど、と納得するジークの左隣で、カレンは「あたまのわるいひと」になっていた。なお、持ってきたところで軒並み凍るため、一行が持ってきたアイテムの中に“ばなな”は入っていない。
そんな、実は少し前の定期テストの成績がヤバかった人を縦置き横置き、マヌエルはジークに最後の目撃情報が入った位置情報などを共有する。
そうしてから、今度は趙に写真を差し出した。写真に写っているのは、胴体の上側ぐらいにまで伸ばした白髪が目隠れとなっている、少年とも少女とも判断できない10代ぐらいの子どもの写真。
趙はプロテインバーをかじりながら何いってんだこいつという顔をした。
「……こんなのが容疑者Bだぁ?」
「正味そのへんは僕も信じがたいんだけど、やってることが犯罪がいくら秘匿情報を漁ってもtheyの戸籍登録が見つからなくて、見た目はともかくステータスだけなら最上級の候補なんだ。」
「そのtheyってなんだよ。三人称複数:英語→「彼ら」だからどう考えても一人の奴相手に使う代名詞として不適切だろうがよ。」
「そうも言えないんだよ。性別不詳な上に今これ日本語でお届けしている以上適切な三人称がわからなくて、以前やったゲームの英語版のやり方をそのまま。」
「アンテ手法かよ。あーもう、うざいイヌが今すぐこいつ連れてワープしてきてくれねーかなー。」
「やめて?それ以上は多分怒られるから。」
なお、イヌを呼び出すために十分なでんせつのたから、ホットドッグ、闇の国の王子製・チャレンジャードッグボタン、骨・(またはスケルトンのスペシャルこうげき)のいずれも彼らは持ち合わせていないので、趙の望みが叶うことは決してない。
「まあいっか。で、吾はこの流れで誰と組むんだ?」
「オーディン君とお願い。theyのオリジナルスキルとかがなんとも言えないんだけど、オーディン君のそれなら予測不能状況でもある程度対処することが可能なんだ。詳しくは道中で彼に聞いてほしい。」
「もう理解するしかないけど、ほんとそのtheyが違和感しかねーな。」
「わかったから。」
「で、アタシは?」
待ちきれなくなったのか、学校の近くに生えていたいくつかの野草を煎じて食欲をそそられない色をしているお茶をすすって、さっきまで大人しくしていたドロテアが手を上げる。表情的におそらくおいしくはなさそうだ。
「ドロテアさんはモンスター征伐でお願い。」
「なんでよ。流れ的にカレンよりもアタシを採用したほうが容疑者の方確実にしょっぴけるでしょ。」
「ドロテアさんの場合、オリジナルスキル的な問題で人間相手と戦うといろいろと面倒だから……。」
「ああもうまどろっこしいわね。で、アタシのバディは?」
「ルアンヌさんにおねがいするよ。いいかな?」
「ええ。わたしは構わないわ。」
「それじゃあ、今エルヴァさんがついでに付近のモンスターの索敵もやってるから。」
「へ?」
ドロテアの背に冷や汗が走る。
「なんで?」
「だって、雪原にこの気候限定で出没するモンスターがいたりして、そいつが今回の事件に関わってたら面倒だから、今のうちに始末してもらおうってわけ。大丈夫だよ、ドロテアさん達の手に負えないレベルだったら予定変更で僕が向かうから。」
「まって。この猛吹雪の中出撃しろと?」
「うん。」
「(……天性の社畜にこれ以上言っても無駄ね。まぁ、こんな気候でわざわざ出てくるアホな生物なんて……)」
と、彼女が考えていた矢先。
部屋の扉がガラリと音を立てて開き、雪だるまかと見紛うほど雪まみれになった防寒具に身を包んだエルヴァが顔を出した。顔を覆えないタイプの防寒具のはずなのになぜ凍傷を起こしていないのか気になるところだが、今問うべきはそこではない。
「おかえりなさい。天候とモンスター、それぞれどうでした?」
マヌエルの問いに、雪を落とした防寒具を脱いで近くにあったハンガーにかけながらエルヴァは答える。
「天候は、はっきり言ってダメそうです。少なくとも周辺の雲の規模及びそこから逆算した降雪範囲、地形と高気圧及び低気圧の位置から計算する限り、今日一日は止まないでしょう。」
「そうですか。モンスターは?」
「基本的に活動していませんでしたが、一体のやや巨大な熊と似たモンスターが出ていました。この付近に出没する熊型モンスターとおおよその身体情報は一致していましたが、サイズは明らかに異常でしたので一致するとは言えませんね。おそらくユニークモンスターの類だと思われます。」
「(クマ型モンスター……ここの周辺に出てくるモンスターの平均レベルとユニークの上昇傾向から逆算して……)うん、いけるね!早速よろしく!」
「(KU☆SO☆GA☆YO!!)」
心の中でドロテアは全力の悪態を吐いた。
「ああそれと、ユニークモンスターの解説は彼女たちがそいつを対峙するときにまえがきで書いときます。」
「さらっと次回予告すんな。タイミングも演者も間違ってるから。」
とはいえ、戦闘及び探索のじゃまになるからという理由で生命線に関わるものも含めた荷物の大半はこの廃校においていくのだ。おまけに食料品もおいていく以上、野生の動物だのモンスターだのがよってくる可能性もある。
そんなわけで、各自交代で自身の任務を後回しにしてこの廃校を見張ることになった。目標追跡のために一人は目標を補足できる位置に滞在しつつ、もう一人は瞬間移動魔法を使用してこの学校に戻るという流れが決まったところでじゃんけん大会が開かれ、見事最下位となったエルヴァを当面の見張りに仕立て上げ、彼を置いて残り7名は各自自身の目標が存在する目標地点へと散らばることになった。
さて、廃校から南へおよそ数百メートル。
雪原を徘徊する、およそ体長10mはありそうな、目が全体的に真っ赤になった雑なタッチの熊型モンスター。そのモンスターの背後から、二人の人影が歩み寄る。
「うっお、やっぱ寒みーな。さっさと始末して帰ろ。」
「その前にちゃんと防寒具着たらどうです?」
先程まで着ていたはずの防寒具を地面に放り出して腹まで露出したタンクトップ姿となったドロテアに、防寒のエンチャントをかけた魔法使い用の黒ローブを身に着けているルアンヌが順当なツッコミを入れる。
「えーやだよ。どうせ戦闘であったまるんだから、汗が染み付く前に脱いどいたほうが速いでしょ。少なくともアタシはそうする。」
「……まぁ好きにしたらいいですけど。」
そして彼女は、ようやくこちらがわの存在に気づいた熊型モンスターと向かい合う。モンスターが臨戦態勢に入ったのを見て、彼女は左掌に右拳をうちつけた。
「そんじゃ、いっちょやったりますか!」
そう言い、彼女は一瞬でモンスターに肉薄し、その胸部に掌底を当てる。
次の瞬間、モンスターはただの物言わぬ肉となり、地面に倒れ伏した。
「……(掌底一発、明らかに特筆するべき物理的な破壊力も魔法学的な技も伴っていないのは私にだってわかる。なのに一撃?なぜ……)」
「ん?どした?」
「ああ、いえ、なんでも。」
ふーん、と疑問符をまだ投げたそうな顔のまま、ドロテアはつい先程倒れたモンスターを足蹴にし、その毛をひと握り引きちぎる。
「こいつは目当てじゃないわ。毛の具合からして、明らかに若い個体。さしずめあのユニークの舎弟枠ってとこかしらね。」
「そんなのもわかるんですか?」
「ああね、アタシ、こうみえてモンスターの生態と生物学専攻してたから。」
そう言って彼女は掌の上の毛を息でふっと飛ばし、残った毛を払い落としながらますます荒れ放題となっている雪原上の吹雪を眺める。
「あー、やっぱこれじゃ相手の捕捉もクソもねぇわ。しゃーないわね、こいつ使うか。」
そう言い、彼女は自身の横に倒れているモンスターの頭に手を乗せる。
モンスターは目を開き、その体を起き上がらせた。




