Episode21:械跡・18式機魂兵第53号「Charism」
この世界のTips21:18式機魂兵
機魂兵は、兵種別に番号を振られている。たとえばEpisode5の回想シーンで登場している機魂兵のうち、剣を装備していたのが02式、銃を持っているのが11式、大砲(?)を装備していたのが13式、といった具合だ。
そして、本編Episode7に登場した、人とある種似たような挙動を取る巨大な機魂兵。単純に図体がでかい機魂兵ならすでに別のものが存在し、人型にこだわらなければなんなら戦艦や飛行船だって存在する。
だがしかし、この新しい種類の機魂兵は、まるで人が乗り移ったかのような、人間に近しい動きをする。最初はロンドンを襲撃した一体だけかと思われたが、その後機魂兵がコンコルディア王国への足がかりとしているアゾレス諸島に存在する前線基地に同様の機魂兵が何体も観察され、コンコルディア王国をはじめとする各国はこれらの機魂兵のために新しい分類をつけることとなった。
18式機魂兵。それが奴らのあたらしい通称だ。
ロンドンの郊外にある墓地。
その北側の端には、一つの巨大な墓石がある。かつての戦争でなくなった同志たちをはじめとする、亡骸なき英雄のための墓石。それには、その同志たちの名前が刻まれている。
多くの名前は25年前に刻まれたものであり、いまやそれは雨に削られ苔が巣食っている。しかしその内に一つ、つい最近彫られたのであろう、汚れ一つないきれいな名前があった。
それにはこう彫られていた。
「Christina=Charis・Bladesmith」
時は5月14日、正午の12時。日はすでに最高高度だ。
場所は前回に引き続き機魂兵だらけの洞窟。
外の天気は一応晴れ。ただし洞窟の中にいる彼らにはあまり関係がない話でもある。
「あれは……」
洞窟をある程度進んだ場所にあった曲がり角。曲がり角の内側の過度に隠れながら、ようやく暗闇に慣れてきた目を凝らしてその先を覗き込む。
視線の先にあったのは、自然の洞窟に元からあったとは到底思えない金属製の巨大な扉と、その前で佇む複数体の機魂兵。
ジークとエンデルは小声で話し合う。
「(……どう見ても怪しいですよね、あれ。)」
「(怪しいと言うか、確定と言っていいでしょうね。)」
機魂兵の一体が、音声を感知した方を確かめるべく振り返ったタイミングで、両者は角に引っ込んだ。
「(どうしましょうか。私達ならあれらを始末すること自体は簡単ですが、始末し切る前に確実に警鐘を鳴らされますね。)」
「(では力押しで正面突破を試みますか……)」
「(いや、それは難しいでしょう。目撃情報によれば村を襲った機魂兵の数はおよそ数百、そしてこの付近の監視塔はそれらが飛び立ったら見逃さない程度の能力は備えている。その上で付近の情報網がそれを捉えていないということは、必然的にこの基地に村を襲った数百体が収容されているとみて間違いないでしょう。この大多数と交戦するのは得策とは言えません。)」
「(なら一旦撤退して応援を呼びますか?)」
「(それも望み薄ですね。撤退して数百体を制圧できる応援がやってくるまで確実に半月はかかる。その間こいつらがここを離れない保証もない。)」
「(では……。)」
「(一つ、私に面白い作戦があります。)」
そう言い、エンデルは腰のポーチから、モンスターをおびき寄せるための発煙筒を取り出した。それも大量に。
時間は流れおよそ1時間半。外でモンスターの鳴き声と、機魂兵たちの銃撃音が響き始める。
「(始まった!)」
ジークは天井を見上げた。
作戦は非常にシンプルだった。
まず二手に分かれる。
ジークはあの曲がり角で、機魂兵にバレないように地属性魔法を使って隠し部屋を作る。消音に気を払いながら、彼は秘密基地(仮設)を敵の基地の中に作った。
そしてエンデルは一度外へ出て、発煙筒を使って大量のモンスターをおびき寄せた。
想像はつくかつかないか、機魂兵の敵対対象は認識した生物全てに及ぶ。モンスターという一種の「生物」の大量の来襲に慌てふためいた機魂兵は、モンスターともども、それが二人の人間の企てた芝居とも気が付かずに総力戦を開始した。
洞窟内部に警鐘が鳴り響き、音で確認する限り先程門の前でたむろしていた機魂兵たちも洞窟の入口へ走っていったようだ。ジークは壁越しに聞こえる足音でそれを確認する。と、その時、部屋の隅っこに設置しておいた魔法陣が輝き、瞬間移動魔法を使ってエンデルが姿を表す。
彼は自分の武器である三節棍を構えながら扉の前に立ち、ジークのいる方に振り向く。
「首尾はどうですか?」
「問題ありません。先程、見張りの機魂兵がどこかへと走り去っていったところです。」
「いいでしょう。」
そう言い、エンデルは秘密基地(仮設)の扉を開け、外へ顔を出す。飛び出した直後に先程の角へ飛び出て、残っていた一体の機魂兵が警鐘を鳴らす前に三節棍でその頭部を叩き潰す。
「さてと……あとはこの扉を敗れるかどうか、賭けですね。」
そう言い、彼は三節棍の、3本の棒のうち2本を同時に扉に叩きつけた。
「壱将弐官参兵」、略して「三軍」。それが彼の使う武器の銘だ。
三節棍とは本来、滅多に使われない武器だ。長さも形状も、つまり重心が常に変わり続けその分バランスを崩しやすく、そして振り回し方次第では自分に当たるその形状。初心者が握れば自滅確定演出、熟練者とて思い通りに操るなんて不可能に近い。
だがこの武器がそれを可能とした時、この武器の性能は化ける。
この武器の特殊能力。三節棍を構成する棒のうちの2本、または3本を誤差0.1秒以内に対象に叩きつけたときに発動し、あたった本数をNとして
その打撃力を、数値にしてN乗まで跳ね上げる。
ギルドランクSSを誇る彼の膂力、そして武器の特性による相乗効果で生み出された圧倒的な破壊力が、厚さおよそ20cmの鋼鉄の扉を吹き飛ばす。ひしゃげて鉄板となった扉は、先程の隠密行動はなんだったんだと言わんばかりの轟音と共に地面に倒れ落ちた。
「wow…」
もうジークはなんて反応して良いのかわからなかった。
「行きましょうか。」
「……はい!」
警鐘が鳴り響く。外のモンスターの群れへの対処が必要な中繰り出された僅かな警備は、二人の侵入者によって、歯牙にもかけられず打ち倒され、その残骸をそこら中に打ち捨てられる。
基地を駆けずり回り、二人は奇妙なドーム状の場所にたどり着く。
足元は鈍色の鋼鉄、その所々を壁や天井伝いに巡り輝く黄色のエネルギーの流れ、天井には近代的な照明があるが薄暗い環境。
そしてその中央に佇む一体の機魂兵。
全長およそ4mほど。後頭部にパラサウロロフスのような角を持ち、赤色の目を輝かせ、全身を純白の装甲で覆ったその体の肩には刻まれたあった。
「53-Charism」と。
その白い機魂兵が侵入者の迎撃を開始するよりも前に。
その場にいた全員が戦闘開始に入るよりも前に。
少年が、その手の剣を相手の首筋数センチに迫らせていた。
「機魂兵!」
ジークの剣の刃に魔法力がほとばしる。それが魔法攻撃力を伴ったもの、すなわち自分にダメージを与えるものだと判断した白い機魂兵は素早くシールドを展開する。
しかしそれは悪手であった。
シールドがジークの剣を彼ごと弾き飛ばしたと同時に、ジークのいる方を振り向いた白い機魂兵の後ろにエンデルが回り込み、その手の武器を振るう。人型である以上壁よりも起伏が多く、三節棍の3本の棒すべてがほとんど同時にヒット。数値にして3乗になった攻撃が、シールドの中和能力とぶつかりあたりに火花を散らす。
衝撃を殺しきらなかったのか、それとも警戒で後ろに下がったのか、白い機魂兵は飛び上がって二人からおよそ数メートルの距離を取る。
『一撃でシールドエネルギーの15%。なかなかやりますね。』
「「!?」」
あの強烈な一撃を受けてまだ85%、よりも前に、二人にはもっと驚くべき事があった。
「喋った!?」
これまで機魂兵は、こちら側を襲うことこそあれど、喋るという行為を働いたものはどこにも存在しない。そのため、人間側は長年機魂兵にはそういう機構がないのだと考えてさえいた。
だがしかし、目の前の個体は喋っている。合成したような不自然さのある、凛々しい女性の声で。
『おや、機魂兵が喋るのを視るのは初めてでしたか?てっきり彼がなにか煽っているものだと思いましたが。』
「あの時?お前はなんの話をしてるんだ!」
切っ先を突きつけて今にも飛びかかりそうな姿勢になるジークの問に、白い機魂兵はその顔に手を当てる。形が変わるはずもないその顔は、しかしどうしてか嘲笑っているようにさえ見えた。
『あの姿は滑稽でしたね!何もできずにただ想い人の最期を視ることしかできない、哀れでちっぽけで価値のない人間の姿は!』
「待て!」
エンデルが制止しようと手を伸ばす。だがその言葉は、一人の少年の理性を吹き飛ばすには十分すぎた。
ジークはまたたく間に白い機魂兵に肉薄し、その剣を振りかぶる。しかしその一撃はシールドに阻まれ、技を放った隙をつかれてジークは蹴り飛ばされる。
「『テスト・エイ・ヒュウア・トゥッレス』!」
即座にエンデルが手のひらにチョークを生成し、それを投擲する。おそらく相当な計算量が必要な問題を詰め込んだチョークは白い機魂兵の頭部の横に直撃し、白い機魂兵はおよそ2秒間動きを止める。その隙にエンデルはジークの元へと駆け寄り、回復魔法で当面の傷を治した。
『なるほど、これは厄介ですね。ですが、これならどうですか?』
そう言い、機魂兵が腕を掲げると同時に、周囲に存在したシャッターというシャッターが開く。そこからおよそ200、いや300はいるであろう機魂兵たちが姿を現した。
「(もう迎撃を終えたか!)ハッ!」
脳内で対抗策を考えるよりも前に、条件反射的にエンデルは地面に三節棍を打ち付ける。飛び散った瓦礫のうち大きなものが機魂兵のうちのいくらかをはね飛ばし、小さいものはその目を砕いたり銃をつまらせたり、そして粉塵があたりを覆い隠す。
「ジーク君、ひとまずここは……!」
「『スライアテンション』!」
エンデルが言い切るよりも前にジークは粉塵の中を薄い部分を伝って縫うように移動し、粉塵で二人の姿を視認できない白い機魂兵の顔面に剣を突きつける。
『残念でしたね。』
だが、粉塵が晴れてジークが見たのは、目の前に迫る白い機魂兵の掌であった。掌は剣を躱してジークの上半身と顔を乱雑に掴み、そのまま地面に叩きつける。彼は勢いのあまり地面にめり込み、そのまま意識を失った。
「ジーク君!」
とっさにエンデルも動き出し、機魂兵へスキルを放つべく三節棍を握り直し白い機魂兵へ迫る。しかしその距離がおよそ1メートルになるところで、白い機魂兵は地面からジークの体を掘り起こし、それを掴んだ左腕をエンデルに向けて突き出した。
『いいのですか?このままでは彼の上半身が潰れますよ?』
「くっ……!」
エンデルは憎悪の表情をむき出しにして相手を睨む。だがそれだけ、この状態で彼はノーモーションで放てかつ状況を打開できる術を持ち合わせていなかった。その状態で機魂兵は気を失っているジークを掴んだ左腕をエンデルのいる方へと突き出しながらゆっくりと後ろへ歩き出す。その後ろにあるのは、やつでも通れそうな大きさのシャッター。
『目的は終了しています。ここは一旦退き……。』
「おい。」
その時、意識を失っていたはずのジークが白い機魂兵に話しかける。
『?』
「5秒だけ待ってやる。この手を離せ。」
『……去勢も甚だしいですね。あなたは上半身を拘束されているのですよ?その状況で何ができ…』
「…4…5。」
「5」。そう言い終わるや否や
白い機魂兵の手は、見えないなにかによって斬り飛ばされていた。
『!?』
白い機魂兵は驚いたような素振りを見せる。シールドを展開するどころか、気付くよりも前にすでに斬られていた腕に。しかしジーク、いや、ジークのフリをしているなにかは、そんなことをよそに、あたりに展開した機魂兵の群れを見つめる。
「……見通しがよろしくないな。」
そう言い、彼は腕を横に振る。
「!!」『!!』
直感的に機器を察知したエンデルと白い機魂兵は各々しゃがみ、飛び上がる。しかしそのことをしなかった機魂兵が、次の瞬間腕の高さから、まるで包丁でまとめて斬られた野菜のように切断される。ジークの中の者はその腰についている、黒曜石で作られた両刃剣のアクセサリーをその手の上にのせて見つめる。
「まぁ、よかった。保険が正常に発動して。」
『なんなんですか、あなたは!』
「ん?まぁそうだな……。」
白い機魂兵の問いに、彼は頭をかく。そして答えた。
「彼の“兄さん”ってとこかな。」
その目は、黒いなにかに塗りつぶされ、その中で瞳の位置には白い六芒星のが刻まれていた。




