Episode17:比較的グロテスクな俗にいう“ざまぁ”
この世界のTips17:この国の王
このコンコルディア王国にも、王国として国王および王族が存在する。
君臨すれども統治せず?そんなものは知らん。この国の王はちゃんと政治を行い、ある程度暴走しないための対策だけ用意して当たり前のように統治を行っている。
要するに、この世界の王様は絶対的な権力を有するってこと。下手にその気に触れようものなら命はないので皆さんお気をつけて。
エルヴァはつぶやいた。
「そういえば前回、二連続でエピソードを投稿してたのはなんだったんでしょうか?」
ミスって先のエピソードを予約登録して、取り消せないそれを取り繕おうとした結果だよ。てか登場人物が第四の壁超えて口出すな。
時刻は5月7日午前11時、受験者同士で競い合う時間がちょうど終わるタイミング。
場所はベルリン、あいも変わらず試験会場。
天気は曇り。そこそこ肌寒く、怪我人には少しやさしくないタイプの天気。
「心配すんなよ。耐久力強化の魔法をかけておいたから、今のそいつの耐久力はそこらの鋼の鉄よりも上だぜ?」
試験の模擬戦闘用の木剣を受け取ったエルヴァに、試験監督補助のおっちゃんは笑ってみせた。別に彼はイケメンの類ではないが、なんというか安心できるような感覚がする類の笑顔だ。
「ありがとうございます。」
「いいってことよ。」
手を差し出し御礼の言葉を述べるエルヴァに、監督補助は握手で返した。
「期待してるぞー!新米!」
「やったれー!」
「アンネ様!そんな無礼な輩なんかやっつけちゃってくださーい!」
「アンネ様ー!こっち向いてー!」
「アンネ様ー!」
「アンネー!頑張れー!」
受験を終えた生徒や、その他関係者が観客となり応援や野次を飛ばす。今のところアンネ優勢だ。
「さあー張った張った!オッズはアンネ様1.05倍、新米が21倍だぁ!締切はあと5分、アンネ様に賭けて堅実に行くか、新米に賭けて大穴狙うか!」
「(いつのまにか博打になってーら。)」
ちなみにこの場合、賭けられた金額の比率はだいたい20:1だ。普通ならこういう時にイラッと来るんだろうな、とエルヴァは考えた。
さて、先程まで受験生達が大乱闘を繰り広げていた石畳の闘技場、その中央でエルヴァとアンネは向かい合った。アンネは全身に楔帷子を身に着けたガッチガチの装備で、自信満々といった顔で鉄の剣を振りかぶる……ん?
「さあ、今この場で泣いて謝って真実を公言するなら見逃してあげるけど?」
「御冗談を。それはそうと、試験は木剣なのではないですか?」
「何言ってるのよ、これは試験管の特権よ?冒険者ってのはねぇ、いつでも不利な条件で相手に向かい合える実力を持ってなきゃいけないの。」
しかしこの試合になるまでのエルヴァと同様の試験を受け付けた試験管は全員木剣だったような?と考えたエルヴァは試験官を見る。……そっぽ向いて口笛、もうわかりやすいどころか清々しいまでのクロだ。
「まぁいいですけどね。赤ん坊がおもちゃの剣を装備したって変わりませんし。」
「ふふっ、すぐそのいけしゃあしゃあとした口からズタズタにしてあげるわ!」
試合開始のゴングがなる。別にボクシングではないが。
「では行くぞ!『アドバンストラッシュ』!」
宣告と同時に先手を打ったのはアンネだった。彼女はエルヴァめがけて飛びかかり、同時にその勢いにのって相手を斬りつけるスキルを発動する。だがエルヴァは特に手を打つことなく、それを涼しい顔で躱した。
「なかなかやるな!ならこれならどうだ、『ピットヒット』!」
エルヴァから見て左側から、彼女は相手の脇腹めがけ突きを放つ。だがこういった技はわざわざ受け止めずとも、適当に横から力を加えるだけで軌道はあっさりそれ、受け流してしまうことができる。
「『ライドブレイド』!『オスカーゴート』!『グランドバースト』!」
ダッシュを利用した攻撃、上空に飛び上がっての刺突、全方位へのやたらめったら斬撃を振り回す攻撃。そのままアンネの繰り出したいくつかのスキルをのらりくらりとエルヴァがやり過ごした後、しびれを切らしたのかアンネが激昂する。
「おのれ小癪な!貴様も男なら、正々堂々と受け止めて見せろ!」
「(この女は回避という概念を知らないのだろうか?まあいいや、そこまで言うなら……)」
アンネがその剣を振り上げて再びエルヴァとの距離を詰めたのを見計らい、彼はその左手を剣の軌道へ意図的に差し出した。
「『クラウドコントロール』。」
エルヴァが彼女の剣を手で受け止める。と同時に、その状況を彼女が把握するよりも前に彼はその剣の側面から彼の木剣を叩きつけ、アンネの剣を叩き折った。彼女の剣は攻撃力重視で耐久性はそれほど高くないものであり、側面から力いっぱい叩けば一般人程度のちからでも案外折れる。
「…っなっ!」
「(おっと、あっさり終わってしまった。このままじゃまたいちゃもんを……。)」
遅れてアンネはその状況を察し、焦ってエルヴァから飛び下がって距離を取る。この瞬間、焦りの表情で逃げの姿勢を見せた彼女と悠々とその場に立っているエルヴァ、どちらが有利かは誰の目にも明らかだった。
だがしかし、彼女は唐突に両の掌をエルヴァに向ける。
「だがこの程度で勝てると思うな!『ὕδωρπαραλλαγή・|waterprison』!」
「(これは……?)」
「おおっと、彼女の奥の手発動!相手を脱出不可能な水球に閉じ込めてそのまま窒息させる恐ろしい技だぁ!」
「(おいまていつの間に実況出てきた。)」
「どうだ、動けないだろう!貴様を起点に維持され続ける水の檻の中でくたばってしまえ!」
「(しかも親切な解説付き。)」
エルヴァは呆れる。しかしなるほど、これはそれなりに厄介だ。エルヴァは自分を中心に魔法によって生成された水の球の中で複数回身動ぎしてみたが、この水球の魔法と慣性の法則はエルヴァをその内に包みこんで離さない。たとえパニックになったりしなくとも、常人なら一分程度で気絶するだろう。
「(まあ、脱出する必要があるのかどうかは別ですけどね。)」
彼はその水球を身にまとったまま、アンネに向かって歩き出す。水球には彼を重力と地面との摩擦から離す機能はないらしく、彼は悠々と彼女に向かって歩くことができた。
「!?」
予想外の行動だったのだろう。アンネは驚愕の表情を見せる。だがしかし、彼女はこの魔法を維持するために、その中腰で相手に手のひらを向けた姿勢のまま身動きができない。
たしかにこの水球からの力技での脱出は不可能だ。だがしかし、この水球そのものに対象の行動を妨げるような効果はなく、強いて言うなら水の屈折云々で視界が悪くなることぐらい。彼女を木剣の射程範囲に収めるまで近づくのに、何の支障もなかった。
「しまっ…!」
「(終了です。)」
アンネがエルヴァの考えに気が付き次の手を打つより前に、エルヴァは彼女の脇腹に木剣を叩き込んだ。
アンネが激痛に脇腹を押さえてかがみ込み、それに伴ってエルヴァを包む水球も崩壊し、ただの水となってあたりに散らばる。
数分後、ようやく激痛から復帰したアンネは立ち上がる。彼女はしばらく放心したかのようにぼーっとした後、彼女の降参宣言を待って棒立ちしていたエルヴァに指を指しながら言い放った。
「み、認めるわ。この私相手に、小休止まで持ち込んだことは。」
「は……?」
「私はまだ戦えましたが、あなたが戦闘手段を失ったゆえに戦闘を終えましたので、今は仕方なく休憩と認め……。」
喉元すぎればなんとかとは言うが、何を言っているんだこいつは。左手を握りしめ右手で相手を指差すという典型的なポーズを取りながらわめく彼女の話を聞くに、彼女は今回のこれは自分が譲歩しただけであり、だからこそ引き分けだと言うらしい。
「(なるほど。)」
エルヴァの中で、今の状況の分析が完全に終わる。だめだこれは。この言い分を通してしまったら、自分が実力もなく試験に何らかの手段で合格したという話が裏付けられてしまう。つまり侮られ無駄な争いを起こすどころか、この試験自体通らない。今この場でツンデレの可愛さとかそういうのを求めているならまだしも、諸事情で未来ある少年少女三人の命がかかっているこの状況ではこれは害悪にしかならない。
じゃあどうすればいいか?エルヴァの思考は、冷酷で、しかし合理的なある一つの結論を導き出した。
「ですが、下賤な者の割にそれなりに実力を持っていることは認めましょう。しかし、まだ試合は終わっていません!さあ、今こそ決ちゃ……。」
彼女が言い終わるよりも前に、エルヴァの拳が彼女の鼻っ面をへし折っていた。
観客席、それも屋根付きの豪華な客席で見ていたカーリ。右腕であぐらをかきながら試合の一部始終をしっかり見ていた彼は、エルヴァの拳が炸裂したところでやや驚いた表情を見せ、目を見開く。
「よーう、元気してるか?」
それとほぼ同時に彼の後ろのドアから、聞き覚えのある声と共に黒髪で高身長の青年が入ってきた。
「あ、ヘルマン先生、お久しぶりです。」
「おいおい、お前もう卒業しただろ?今更先生呼ばわりか?」
「でも社会人だって、昔の恩師に出会ったときとかだいたい先生呼びですよ?」
「確かに。」
物語の開始の少し前、ヘルマンが19歳(元帥就任の4年後)に創立させた例の特練学校の教師を務めていた時に、カーリは彼の受け持っていた生徒であった。たった2歳差、それ故にこの二人の距離感も相当近い。厳密にいえば、立場差を利用してヘルマンが超高難易度
「で、そっちは?なんか面白いことになってるっぽいけど。」
「ええ。面白いのかどうかは別として、すごいことにはなってますね。あ、あなたの性格的にこういうのは好みでしたっけ?」
二人は会場に視線を戻す。
蹂躙。それが一番ふさわしい状況だった。彼女が今の状況を把握するより前に、彼女が反撃しようとする前に、彼女が何か手を打とうとする前に、エルヴァの拳か蹴りのいずれかが炸裂する。それがずっと続く。代わり映えも何もない、ただ一方的な攻撃の連続だ。
腕で応戦しようとすればアッパーで骨にダメージを与えつつ攻撃をいなし、蹴りを放とうとすればその足を持ち上げて地面に叩きつけ、魔法を放とうとすれば詠唱封じにその口へ拳をくらい、このコンボから逃げ出そうとすればその行動に移す隙に漬け込んで重い一撃を叩き込まれる。逃れようのない一方的な攻撃、格ゲーの即死コンボのような蹂躙が半永久的に続いていた。
さて、視点を客席の二人側に戻そう。普通ならこんな試合はそうそう見ない。賭けの対象としても試合としても面白くないし、なんなら俗に言う「ざまぁ」展開でももう少しサクッと終わる。
「僕はそのへんが少し気になってるんですよ。」
「何が?」
「あなたから紹介状をもらいましたが、そのどこにもああいうことをやりそうな情報はなかった。リョナが趣味の変態というわけでもないし、ただただ相手をボコりたい戦闘狂というわけでもない。なんなら彼の性格的には、アンネにいくら罵られようと軽く流すと思ってたんですが……。」
「ああ……“リスク”を潰しにいったな。」
「なんですって?」
ヘルマンは近くの椅子に腰掛け、くっくっと悪い笑みを浮かべながら職員が持ってきたビール……ノンアルコールのやつ……を流し込む。これが社会人の反面教師か。
「……たとえばさ、カルネアデスの舟板ってやつあったろ?ギルド登録筆記試験のあれ。」
「ああ、あの誰でも突破できる死文化一歩手前のことですか?」
「そうそうそれ。そこの問題の一般的な回答、曲がりなりにもここのギルドマスター2年ぐらいやってんだから見たことあるだろ?大概は副にまかせて逃げてるらしいけど。」
「あはは、まぁ普通の奴らがどういう回答するかは知ってますよ。回答欄ギッチギチになるまであーだこーだ倫理と合理の間をウロウロしてるような文章の末ようやく結論出すんですよね。僕は仲間と自分の取捨選択の模試になってそこそこいいシステムだとは思いますけど。」
「そこなんだがね、彼の回答も見たんだ。」
「……割とギルド内で高度な機密情報のはずなんですけど……。」
「そこはまぁほら、Zランクの権限ってやつ。」
これが職権乱用というやつか。
「まったく、あなたという人は相変わらず……。」
「ちょっとまった。おい、そろそろ止めたほうがいいぞ。」
と、ここで急に冷静になったヘルマンがカーリに忠告する。
その一言でカーリも我に返り、試験会場の方に再び視線を向ける。
試合は未だに続いていた。
全身を激しく殴打され、もはや腫れ上がって血の色に染まっていない場所を探すほうが難しいような無残な状況にあるアンネが、エルヴァに胸ぐらを掴まれ持ち上げられた状態で何かを呟く。
「ゆ……るし……ゆる……。」
だがエルヴァは容赦しなかった。彼はアンネの口を殴って彼女の言葉を強制中断させ、そして手を話し、彼女を股間から蹴り上げる形で彼女を上空数メートルまで蹴り飛ばす。
その後彼は飛び上がって彼女と同じ高さまで追いつくと、彼女の頭を下方向に蹴ってその勢いで更に上昇する。そして反対に下へ飛ばされ砕けた床にめり込んだ彼女の脇腹に、上空約10mから重力の勢いを集中させた踵を彼女の脇腹へめり込ませた。もはや意識も朦朧とし、それでも彼女は大量の血反吐を吐く。
「そこまで!」
その様子を見てカーリは試合を止めさせる。その声を聞いた途端、先程までの残虐っぷりが嘘であったかのように、エルヴァは平然と、さらに追加で繰り出そうとしていたその拳を止めた。試合会場に救急班が慌てた様子で担架を運びにゆくのを見て、彼は平然と言ってのけた。
「あまり動かしたりしないほうがいいですよ。おそらく内臓、手応えから察するに小腸と大腸に加え膀胱と膵臓が破裂を起こしています。先ほど入口で販売していたポーションを持ってくるのがよろしいかと。」
彼は自らの服についた返り血を拭いながら無関心そうな顔でそう言い、そして見るも無残な襤褸雑巾に等しい姿となった、自分がそうした女性のそばに座り込み言った。
「後学のために覚えておくことをおすすめします。」
「喧嘩を売る相手はせめて、何をしてくるかわかる相手にしましょう。」
「(『手応えから察するに』!?いやそんなことより、あんだけ自分で叩きのめしておいてこの言い草!?常人にできることか!?)」
「言っただろ、奴は異常もいいところなんだって。さっきの話の続き覚えてるか?」
ヘルマンはこんなのは見慣れているとでも言わんばかりに平然と振る舞っている。一方カーリは、彼女のような重症者こそみたことあれどそれを自らの意思で平然と作ってみせる異常者は見たことがない。彼は苦笑いした。よもや一国家に匹敵する力を持ってなお、ただ一人相手に恐怖を覚えることになるとは。
ヘルマンは続ける。
「『相手を生かす義務があるなら助ける。そうでないなら見捨てる。いずれにせよ、その場において最も後が楽な方を取る。』それだけ、たった2行だよ。お前はこんな回答するやつ見たことあるか?」
さて、あの後、彼に喧嘩を売るものは愚か、彼の事を侮るような行動を取るものすら現れなくなった。
理由はわかっていた。エルヴァがあの試験の後に庁舎内を闊歩している間に、彼に関する噂話を耳にしたのだ。そこでは彼はこう呼ばれていた、『アンタッチャブル』と。
「(『アンタッチャブル』か。いいじゃないか、今の私にぴったりだ。)」
さて、残りの試験はAランクと共同任務をこなすだけ。そのためにはそれに付き合ってくれる方を探さなくてはならない。ギルド庁舎のロビーにはこのイベントのために呼び集められたAランク冒険者が溢れ、合格者たちは彼らに声をかけている。エルヴァも当然その輪に入ろうとしたわけだが……。
先程の試合の結果が悪い方向に作用したようで、Aランク冒険者は全員彼を気味悪がって近寄ろうとすらしなかった。
「(前言撤回。全然良くない。)」
この場合どうなるんだろう。エルヴァは、これが不安というものか、と考えるのであった。
さて、エルヴァたちが退場してから清掃も終わり、試合を再開した会場にて。
暇つぶしにやってきているヘルマンと、業務から逃げるために視察を言い訳にこの場に逃走しているカーリ、二人の青年は真っ昼間から業務をサボって会場に入り浸っていた。
ふと何かを思い出したカーリがヘルマンに話しかける。
「そういえばなんですけど。」
「ん?」
「アンネってどこ出身でしたっけ?」
「ああ、確かあいつならうちの王の第37王女だったぜ。もともとの王族としてのプライドと、そういうコネを使わず実力でAランクになってみせたという事実があいまってあんなんになっちまったんだよなー。」
「そうでしたね。全く、実際に実力はそれなりにあるし、乱用しないとはいえ王族が後ろ盾だからなかなか口出せなくて……まあAランクの職権は乱用しまくりですけど。」
「まーね。実際うちの王の親バカっぷりは世間公認だもんな。まあ、それが原因で王女が冒険者になるっていう夢を止められなかったのもまた事実……。」
王族のプライドとそれなりの実績を持ったお嬢様冒険者、それを因果応報とはいえ尊厳含めて何もかもボコボコにしたどこの馬の骨かもわからない新人冒険者、そしてこの国で一番えらい権力を持つ王様。そこまで言ってようやく、二人の青年の頭の中に一つの、これから何が起こるかという答えが浮かび上がる。二人は顔を見合わせた。
「「あ。」」




