Episode13:コンコルディア王国国立特殊訓練学校
この世界のTips13:コンコルディア王国国立特殊訓練学校
通称国立特練。
コンコルディア王国によって創設された学校。所在地は現実世界におけるリヒテンシュタイン公国のファドゥーツで、ファドゥーツ城をそのまま校舎として使用している。
国中から主に戦闘などを始めとした様々な能力に秀でた者を集め、養成した後社会に送り出したり国が雇ったりする、入学時の合格率は著しく低い分エリートを集め、国が学費や生活費含めすべての面倒を見る、国家を引っ張ってゆく次世代の者たちを育成するためのこの国で最高峰である学校。
時刻は4月12日、午後1時。
まぶたを開く。少しずつ視界が広がる。視界には、白色のカーテンと白い天井が写った。
「あ、起きた。」
目を覚ましたオーディンの顔を、ヘルマンが覗き込んだ。
「うぉあ!?」
驚いてオーディンが飛び上がる。かれが寝ていたのは、どこかの学校の保健室と思しき場所、そのベッドのうちの一つである。
「あ、あんた、誰だよ!?てかここどこ??」
あたりを見渡し、見たままは保健室だがそもそもなんの脈絡もない空間であるという事実、そして知らない人間が自分のそばにいるという意味不明な現実、それらに戸惑いながら大混乱に陥るオーディン。ひとまずヘルマンは挨拶した。
「はじめまして。」
「で、どこっすかここは。」
挨拶を終わらせ、その後オーディン、少女、エルヴァ、そして復帰したジークは再会を果たす。場所は少し移り、そこそこ豪華な椅子と机、そして本棚が壁にかかり、そこら中に大量の書類が散らばっている謎の部屋。そんなわけでオーディンはジークに尋ねた。
「ってか、いつの間に復帰したんだよお前。2日間閉じこもってたんじゃ……。」
「もう大丈夫。心配かけてごめんね、オーディン。」
「まあ、別にいいんだけどよ。」
ジークがその活気を取り戻すまでに何があったか、オーディンには知る由もない。
一方エルヴァは、事実上の初対面であった少女と挨拶を済ませておいた。
「よろしく。あたしの名前はルアンヌ=タクティシャン・サージュ。ルアンヌって呼んで。」
「私の名前はエルヴァと申します。」
そしてここはどこだとさっきから喚くオーディンのため、四人は外へと連れ出される。
「君等も一度ぐらいは聞いたことあるだろう?ドイツ州リヒテンシュタイン県ファドゥーツ、王国中の戦いの天才を集めて教育する…」
部屋のベランダで四人が目にしたのは、一つの城に匹敵する大きさの巨大な学校。
「コンコルディア王国国立特殊訓練学校だ。」
さて、説明文はまえがきに書いておいたが、この学校はこちらの世界にとってある種の名門校のようなものであるため、この学校がどのような場所か、一人を除き知らぬものはいなかった。
その一人に説明は終えたが、説明された・知っているとはいえ突飛どころの騒ぎじゃあなく、脈絡も何もないこの意味不明な状況を未だに読み込めない他の三人に比べ、エルヴァは比較的事態の受け入れがはやかった。
「で、私達をこのような場所に連れてきて何の用なのでしょうか?」
「そうそうそれそれ、君は事態の受け入れが速いね。まるで感情のないロボットだ。」
ヘルマンはエルヴァの肩に手を置く。
「諸事情でね。君たちを保護するために、端的に言ってしまえば君たちにこの学校に入学してほしいんだ。」
「「「「え?」」」」
四人は顔を硬直させた。
四人は先程の部屋に戻る。書類のせいで足の踏み場も無いこの部屋の、位置取りをしくじったオーディンは現在片足立ちを強要されている。
「君たちは知ってる?君たちがどんだけやばいことしてるか。」
「え?俺らなんかやったの?」
「ごめんごめん、『どんだけやばいことしたことになってるか』だわ。」
ヘルマンは近くの机においておいた報告書のうちの一枚をたたんで投げ、オーディンが指でそれをキャッチする。
「マヌエル君がだいたいは説明したって言ってたけど……。」
「ああ、あの責任転嫁どーたらこたーらの話?」
「どーたらこーたらじゃないか?」
ヘルマンとの会話をオーディンに任せ、エルヴァはあの場にいなかったジーク、ルアンヌの二人にマヌエルの件はじめ一体何があったのかを話した。
「なによそれ、ロンドンへの機魂兵誘導および今回の事件の教唆!?その逮捕状を発行した裁判所の連中頭沸いてんじゃないの!?」
「沸くも何も、考える頭はすでに上層部に奪われているからこうなるんですよ。」
「随分と他人事ねー。あなた一応そのうちの一名、ついでに国家保管物の窃盗まで加わってある意味一番狙われてるのよ?」
ルアンヌは呆れたような声で返した。そんなことをしている間にヘルマンの話は次のステップへ入る。
「でだな、一旦君等をぶっ殺したって偽装してからこの学校に入学させることで保護しようと考えたんだが……。」
「そう簡単にいくものでしょうか?」
「いかなかった。教頭はじめ一部教師がそいつに反対しやがってだな。校長といっしょに現在説得を試みてるんだけど、まぁどうにも。」
「それで、私達は何をすれば?」
「さっすが、話がはやいね。助かるよ。」
ヘルマンは棚から書類を取り出し、四人に手渡す。書類にはそれぞれ、教師の顔写真とチェック欄つきの課題の文章が複数。
「四人にはそれぞれ、こいつらが出した課題に挑んでもらう。もちろん単独では厳しいかもしれないから、こっち陣営の教師のサポートつきでな。」
まずヘルマンはルアンヌに向き直った。
「ルアンヌ君。君に出された課題のうち主なものは短距離瞬間移動の習得と最低5属性以上の魔法の披露、それからこの教師との魔法出力勝負だな。どうだ?」
「属性ならすでに火、水、風、雷、地、光、魔法エネルギー、まあ大概の属性はクリアしてる。教師との魔法出力勝負だっけ?彼女のレベルは?」
ルアンヌは渡された書類に載っている女性教師の写真を指差す。
「ステータスレベルは36、魔法はΕ級5レベル。単純なスペックなら君より上だが、練度から考えて多分だいじょぶ。あと知能低いし。」
「まあ、本番前にもうちょっとステータスレベルをあげといた方がいいわね。問題は短距離瞬間移動の方かしら。」
「魔法使いだとしても敵から逃げたりする機動力は必要だって名目だけど、まぁ普通の魔法使いはこんなもん習得しない。つまり言いたいことはわかるな?」
ヘルマンの笑顔の問いに、ルアンヌはため息をこぼしながら応じる。
「ええ。短距離瞬間移動ってどういうタイプ?」
「慣性突破の瞬間加速系だ。この系統は……。」
「あのさー、そろそろわけのわからん専門用語で会話すんのやめてくんね?聞いてるだけで頭痛くなるんだけど。」
ヘルマンとルアンヌの会話を聞くのにそろそろ飽きたオーディンが口を挟む。彼の場合、これ以上話が長引いたらそろそろ片足立ちがきついというのもあるのだろうが。
「わかったわよ。さっきこっち陣営の教師がサポートしてくれるって言ってたけど、私は誰のサポートを受けるの?」
「魔導科棟4階の主任教授室を訪ねてみろ。カッコよく言ってしまえば答えがそこにある。」
「説明めんどいってことね。わかったわ。先行くわね、オーディン。」
「勝手にしろ。」
そうしてルアンヌが部屋から一足先に退出する。彼女がなぜオーディンにのみ声をかけたのかは、まあ今は考えないようにしようとエルヴァは考えた。
次はオーディン。
「で、俺は?」
「君に与えられた課題は筆記試験で65%以上と一年生一人との模擬試合。一年生はランダムって言ってたけど、十中八九さり気なく上位層ぶっこんでくるからよろしく。学科は大丈夫か?」
「あったりまえよ。結局1+1の応用なんだからどうとでもなるって。」
「(6x+√24)(4x+√54)=0の時x=?」
「ルートってなんだ?」
5秒間の沈黙。空気はどことなく寒いオヤジギャグをかましたときに似ている。無論本人にその空気を作り出した自覚はないが。
「三品くん?」
「は〜い。」
呑気な声と共に扉が開き、糸目ののほほんとした表情の青年がひょっこりと顔を出した。そのまま彼は部屋に入ってくる。
身長177cm。薄茶色の髪をサイドテールにまとめ、糸目ににこやかな表情。こげ茶色のスーツに黄色いネクタイを着用し、なんとなくだがいかにもやり手の男であるという雰囲気を醸し出している。
「話はだいたい聞いてただろ、お前の担当はこいつだ。一刻も早く学科をどうにかしろ。」
「わっかりました〜。」
そのままその人物はオーディンの首根っこを掴み、彼を引きずって部屋の外へと言っていった。
「ちょっ、まっ、助けてくれ〜!」
「ジーク君は……露骨に難易度高めだな。学科試験全科目80%超え、及び在学生一人との模擬戦。学科は…」
「一応中学時代に受けた全国共通模試の成績なら全科目90点以上取れますけど、それ以外はなんとも。」
「となるとギリギリか……ならこれだな。」
彼は近くの机においておいた付箋を1枚ちぎり、そこに走り書きでメモを記した。
「君は中央棟二階のこの部屋へいってらっしゃい。拒否権はないしチェンジもないからな?」
ジークが部屋から退出する。ヘルマンはそろそろこの流れに飽きてきた。
最後はエルヴァの番だ。
「さてと……君は少し特殊なんだよな。君、ギルドランクは?」
「?一応Bです。」
「お前に出された条件が『単独でのギルドのAランク任務5件以上の処理』なんだけどサ、ランク上の任務って受けれたっけ?」
余談だが、Aランクがどれほどすごいかと言うと「並外れた才能を持っていない常人が目指す最高点」と言った感じ。それより上は才能があるものしか許されないランクらしい。
だとするとZなんてバケモノ専用ランクに居座っているヘルマンはどれ程の実力なのだろうかはさておき、エルヴァは答える。
「無理ですね。ギルド総則2編5章3節1款3条1項『全冒険者はギルドに許可された場合を除き、自分の保有するギルドランクよりもランクの高い任務を受理することはできない。』と明記されています。」
「よーそんなもん覚えてんな。ってかそんなシステムあったんだ。」
「一応聞きますが、私が仮にギルドに許可を申請した場合通るでしょうか?」
「通んないだろうね。うちの上層部は馬鹿だが完全な無能じゃない、そういうショートカットを妨害するぐらいの脳みそは持ち合わせてる。やるなら正当な根拠を持って正々堂々いかないと無理なやつだよ。」
「なるほど。」
「Aランクに昇格するのに必要なプロセスはなんだっけ?」
「1:Aランク以上の冒険者3名以上の推薦、2:書類選考、3:戦闘試験の合格、4:志願制のAランク冒険者と合同でAランク任務を達成し、その上でその冒険者からの推薦を得ること。この4つですね。」
「1番は僕と理事長、あとアレンの枠を使えばいけるな。2番は……お前確か履歴書や身分証明証の類一切を持ち合わせてないんだよな?」
「はい。申し訳ございません。」
「謝ってもしょうがない。しゃーないから当面は書類上のミスどうこうで戸籍に登録されずに育ったやつってことにしよう。なーに、証拠が残ってないんだからバレようがないし、そもそもこの国は地方にはとことん無頓着だから詮索もしてこねぇだろう。口裏合わせはまかせたぞ。」
「はぁ……。」
国の元帥は自ら法律違反を犯した。なんだこれ。
「戸籍捏造はこっちでやっておくとしてだな……あとはAランク以上の冒険者の確保は……ちょっとまってろ?そこの本とかテキトーに読んでて。」
そう言い、ヘルマンはスマートフォンを取り出したかと思えば、どこかに電話をかけ始めた。エルヴァは言葉に従い、一冊の本を手に取る。
表題は「スペシャルスキルとは」。
「あ、もしもし、カーリ君?いまちょっと時間いい……」
ヘルマンの声をバックミュージックに、エルヴァはその本を読み始めた。
「エルヴァ君!?」
「あ、すみません。気が付きませんでした。」
ヘルマンがエルヴァの読書中の顔を覗き込む。およそ10分、ヘルマンはエルヴァの読書を待っていたらしい。恐ろしく彼の読むスピードが速いので待ってやろうと考えたが、途中で飽きてしまったそうだ。
「話はつけておいた。同行する冒険者は確保できる。あとは次の試験までの約半月、戦闘能力を底上げしておくことだな。なんかやっておきたいことがあったら、今なら僕が直々に特訓してやるぞ。」
エルヴァは少し考える。
「それなら……。」
「えっと……ここであってる?」
一方、ジークは一つの扉の前で、延々と自問自答を繰り返していた。
あのあとヘルマンに案内された部屋に、何回か迷子になりかけながら、なんとかたどり着いたジーク。誰か教師がいる部屋に案内されるのかと思いきや、扉の前の看板には……
“校長室”。
「うん、間違いだ!もう一回出直して教室の場所を……。」
自分に何度も言い聞かせ、立ち去ろうとしたジーク。しかし彼の願いも虚しくと言うべきか、彼の後ろでその部屋の扉が開き、一人の人物が部屋の外へと出てきた。
「こんにちは。君がジーク君かい?」
「……ハイ…ソウデス…。」
ジークは冷や汗をだらだらかきながら、錆びついた歯車のような歪な動きで振り返った。
声の主は男性であった。8:2わけの赤髪をツーブロックにまとめ、真紅の瞳のその左目の上に片眼鏡をかけたイケメン。穏やかながら気を抜かせてもらえない表情をし、とてもきれいな白ワイシャツと青ブレザーに黒ネクタイ、黒ズボンを着用し、見た目が完全にエリート社員のそれだ。
彼は続ける。
「ああよかった。ヘルマンから話は聞いているよ。私が君の入学試験対策の教鞭をとる、この学校の理事長、エンデル=レイン・クールメイステルだ。」
エンデル=レイン・クールメイステル。26歳男性、まぎれもなきこのエリート中のエリートを教育するための教師、その中で最も偉きこの学校の校長を務める男。
エンデルは握手を求め手を差し出す。ジークの人生にとって最も無駄に緊張する握手であった。




