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ENDESTALE  作者: 中尾 奏治
Prelude:モノガタリの始まり
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13/20

Episode12:ややこしい話には電撃を

この世界のTips12:今回の事件の話

さて、ロンドンが機魂兵の軍勢によって襲撃されたという話題は国中を沸騰させた。25年前の機魂兵との戦いを知るものもそうでないものも関係なく、ある者は恐れ(おのの)き、ある者は復讐を誓い、あるものは家族の安否を問うたりなどしている中、その後新たな波紋を起こしたのは、政府のとある発表だった。それを簡単にしてしまうとこうだ。

「今回の事件について、機魂兵に関する全ての事柄はまったくのデマであり、実際にはこれはある三人の人物によって行われたテロ活動である。この事件を教唆し、実行した人物として、ジーク=スカイラー・ウォーカー、オーディン=ツキヒコ・ハーヴェイ、アレン=イーサン・ウォーカー、以上3名をSランク危険人物に指定する。」

4月12日午前に発表されたこの発表に疑問を抱くものこそ多かれど、誰一人真実を追求しようとするものはいなかった。悲しきかな、世間とはそういうものなのである。

もちろんこの事件の重要関連人物にもう三人、襲われた街を守りきれなかった防衛隊長、未来半ばでその命を落とした哀れな少女、そして戸籍もなく政府すらあまり把握できていない一人の者がいる、ということを、誰も知る由もない。


4月12日、朝の7時。エルヴァがオーディンを探して武器屋に訪れる少し前。


エルヴァは一人、防衛隊施設内の図書館においてあった資料に目を通していた。


内容は魔法について。Tips3にて提示したものと同じため内容は割愛するが、彼にとってはこれを学ぶことは重要らしい。


その他周辺に存在した関連する資料に目を通すこと一時間。図書館の扉が開き、一人の若い防衛隊職員が顔を出した。

「エルヴァさん、すこしお時間よろしいでしょうか?」

「はい。どうかなさいましたか?」

「えっと、お客様がお見えでして……。」


4月12日、午前12時。

場所は引き続きロンドンの街の西だった廃墟。戦闘により残っていた建物の残骸も崩れ、あるいは地面含め黒焦げになっている。

天気は大きく変わり雷雨。空に電気が満ち溢れる。




「だーれが弟分だてめえこの野郎!ふざけんのも大概にSayよ!」

真っ先に場違いLv.100の言葉をあげたのはオーディンであった。彼はそもそも彼の窮地を救ったはずの少女に何の遠慮もなく罵声を浴びせる。

「年下は大人しく弟として自分の運命を受け入れなさいよ!このモーム!」※Mome…ガキンチョ

「なーにが年上だこの鯖読み女!3ヶ月差で年上とかイキってんじゃねえ!」

「なんですって!?ふざけんのも大概にしなさいよ!?」

「こっちのセリフをパクるな卑怯者!太陽で焼き殺すぞ!」

だんだん白熱し、幼稚になっていく二人の口論。エルヴァとマヌエルはなんとなく二人から距離をおいた。


数分後、白熱していた口論は熱を放って落ち着いたのかだんだんとトーンが下がり…

「で、これはどういうことかしら?」

その声と共に少女が振り向き、殺意のこもった視線をマヌエルに向ける。まずい、間の抜けた会話が数分の間に完全に油断していた。

「っ!」

「『φως(フォース)』!」

マヌエルが身構えるよりも先に少女は腕を振り下ろし、それと同時に彼女の右斜め上の後方の空中に紫色の線で描かれた魔法陣らしきものが出現し、中心部からマヌエルに向かって直径およそ30cmのビームのようなものを放った。

文字通り光速の攻撃。とはいえ相手が狙う箇所が予測できれば避けるのは不可能ではない。マヌエルは素早い身のこなしでそれを回避し、反撃の魔法を放つ準備を始める。

「『ηλεκτρο(イレクトロ)πληξία(プレクシア)ζβροντή(ヴロンティ)』!」

マヌエルが指を鳴らすと同時に、空の雷雲から複数の雷撃が彼女に向かって降り注ぐ。

だがしかし、雷撃は全てある程度彼女に近づいた段階で全て消滅してしまった。

「(けされた!?アンチマジック系!?)」

マヌエルはひとまず彼女から距離を取る。彼は広範囲の雷撃を彼女に向けて放ち、結果雷撃が消された場所が彼女を中心としたドーム状になっていることに気がついた。

「(いや違う!自分の周辺を超高密度の魔法力で満たす事によってその莫大なエネルギーでかき消しているんだ!)」

言うには簡単、だがそれには膨大な魔法力または魔法力への操作能力など相当な能力が求められるはず。おそらく彼女は少なくとも魔法の実力において、マヌエルを上回る実力を持っていると見て間違いはないだろう。マヌエルの首筋に冷や汗が垂れる。


「オーディン!それと、誰だか知らないけど、突っ込むのは任せたわよ!」

「わかってるわボケ!」

少女が指示を出すよりも前にオーディンは再びマヌエルに接近戦を仕掛け、エルヴァもそれに続く形で突進を敢行した。

「『Cuélebre(クエレビレ )』!そっちの奴を抑えろ!」

前回オーディンが呼び出した水の馬を消し飛ばした、飛び散る電気のスパークでできた羽の生えた蛇が再び現れる。蛇は呼び出されると同時にマヌエルが指さしたオーディンに狙いを定め、ひとまず口にあたる部分から電撃を放った。

「そんぐらいすでに対策思いついてんだよ、バカが!」

そう言いながらオーディンは前方へ飛び込み、受け身からの一回転によって勢いを殺して停止する。そしてそれと同時にどこからともなく弓を取り出して矢を放った。

目標は相手の蛇の放った雷撃、その少し下方向へ逸れる場所。

みなさんも御存知の通り、基本的に空気は電気を通さない。雷のようなものの場合あくまでもあまりにも高い電圧に空気が無理矢理電気を通されているだけであり、空気中の塵などのより電気を通しやすい物体があればすぐさまそちらへそれてしまう。

そういった理論のもと、電撃は矢の方向にそれ、そのままオーディンよりも近い地面に流れ、そのエネルギーは完全に無駄にされた。

だがしかし矢ならそのうち尽きる。そうマヌエルが考えていた矢先…


「選手交代だ!」

オーディンが叫ぶと同時に、蛇の体に数カ所の穴があく。エルヴァの投げた石礫が蛇の体を貫いたのだ。しかし元から蛇の体は固体ではなかったが故に穴はすぐに塞がる。

「(やはり意味なし。単純な物理攻撃は効果が薄そうですね。私も皆さんみたいに、魔法が使えたらよかったんですけど。)」

エルヴァが今更なことを再確認している間に蛇はエルヴァを標的として認識し、すぐさま口を開けて次の電撃を放つ準備を開始する。一方、蛇からヘイトを解除されたオーディンは、刀を握り直して少女とともにマヌエルに再び戦いを挑んだ。

さて、エルヴァは相手の攻撃準備をいちいち待つほど甘っちょろくはなかった。彼は地面に転がっていた小さな瓦礫の中から金属製の破片を投げて蛇の口の中にある溜まった電気エネルギーの球にそれを当てる。結果電気はあらぬ方向に誘導されて攻撃は暴発し、蛇は怯むような様子を見せた。

「(しかし怯むだけ。この様子じゃあ電撃をカウンターで返したところで時間稼ぎが関の山といったところでしょうか。)」

そのように分析しながら、エルヴァと蛇は互いに決め手を欠いたまま似たような応酬を何度か繰り返した。何度も怯む内に蛇の高度は少しずつ下がり始め、あと1~2mほどで地面に接触するぐらいで蛇のy座標は固定された。

エルヴァはそれを見て何かを思いつき、先程の応酬で蛇が再び怯んだ後に周辺の瓦礫から鉄筋を拾った。長さおよそ2.5mほど。

「(十分。)」

エルヴァはそれを握りしめると同時に自らの武器を腰に固定し、懲りずに同じような攻撃を繰り出そうとする蛇に再び瓦礫を投げた。一瞬だけなぜここまでワンパターンなのかと考えたエルヴァであったが、当の召喚主であるマヌエルが現在オーディンと少女の相手につきっきりなので具体的な指示を出している余裕がないのだろうと考えた。まあ出されても困るのだが。

蛇はまたしても怯み、そして前方を睨む。ただし今回は、エルヴァはすでにそこにいなかった。

「これで終わりです!」

蛇が怯んでいる間に周辺の廃墟を利用して、そこを蹴るように移動し蛇の真上へと飛び上がったエルヴァは、右手に握っていた鉄筋を蛇に向かって投げつけた。鉄筋は蛇の体を貫いて地面に突き刺さり、ちょうどその鉄筋を挟んで蛇と地面が触れ合う形となる。

避雷針と同じ理屈。おそらく空気抵抗を利用して形を保っていたその蛇を構成する電気は、一瞬で鉄筋を伝って地面へと流出し、瞬く間に蛇の体は完全に崩壊した。


自分が召喚したものが消滅するという感覚がマヌエルに共有され、結果一瞬だけ彼の思考を阻害する。そしてこの状況で、それは非常に嫌な要素であった。

「油断したな!『立待小手月(たちまちこてづき)』」

オーディンの刀がマヌエルの手首を直撃する。現実において普通の人なら重傷確定だがここはファンタジーであり相手ははるか格上、ほとんどダメージにはならない。しかしそのスキルの特殊効果かマヌエルは衝撃で武器を取り落とし、その行動を一瞬だけ封印される。

「今だ!」

その声と同時に、髪をなびかせながらマヌエルの後ろに回り込んでいた少女が、その右手の掌をマヌエルの背中に押し当てる。

「『scellant magique』!」

マヌエルはそのジャミングされ文章からどのようなものかを察しづらくされているスキルの発動と同時に何か違和感を覚え、すぐさま二人の間を抜け出して距離を取った。


「(物理攻撃、魔法使いが?一体何を……)」

魔法を放つ準備をしながらマヌエルは思考を巡らせ、そして思考が終わるよりも前にその違和感の正体に気がついた。魔法が使えない。魔法力こそあれど、それを魔法という機構に流し込むことができない!

「(魔法封じ!それも僕みたいな圧倒的格上相手に!なんて高度な技と才能!)」

マヌエルは魔法を封じられた状態で残った魔法力を眼球へと集中させ、彼の魔法を封じた少女の魔法のレベルを推し量った。

「(あの魔法力量、彼女の総合レベルから考えておそらくΖ級!こちらがΔ級とはいえレベル自体は圧倒的に上である事を考えても、総合魔法力なら勝てても複雑な魔法への能力はあちらのほうが上!)」

マヌエルの思考を、あってほしくない面倒な事象が巡った。単純なステータスでの押し合いならマヌエルに分があるが、複雑な魔法操作なども考える全力の魔法勝負だとどうなるかわかったもんじゃない。そしてあいにく相手は一人ではない。未来視というチート能力持ちの侍のおまけつきだ。

「オーディン、そいつの電撃は封じたわ!トドメは任せたわよ!」

「おう、あんがとよ!」

少女の言葉に勢いを取り戻し、オーディンは大技を放つ準備に刀を右上に振り上げながらマヌエルに向かって走る。

「(事後が面倒だから使いたくなかったけど仕方がない!)」

マヌエルは覚悟を決め、ポケットから小さなボイスレコーダーのようなものを取り出した。彼は左手だけの操作でそれのスイッチを入れる。

「後学のために教えてあげるよ。」

彼は残った右手と取り直した槍でオーディンの攻撃をしのぎながらそれを上に放り投げる。

「僕みたいにいちいち手札を小出しにするような奴は、だいたい第二第三の切り札を用意しているものさ。」

「「(録音用魔法器具。一体何を……?)」」

今度はオーディンと少女が違和感を覚え、そしてその思考が終わるよりも前に





『『眠れ』』




男性の音声が再生される。それと同時に、あたりにいた全ての生物にすさましい眠気が襲いかかった。

マヌエルに向かって突進していたオーディンも意識が虚ろとなる。彼の目は空を飛んでいたカラスや近くに潜んでいた動物がぼとぼとと地面に落ちる様子がうつった。

「(クソが、なんだこれ、意識が……)」

かくいう後ろにいた少女も限界だった。彼女はすでに地面に杖を突き立ててそれを支えにして持ちこたえるはずがそれを起点に眠りに落ち、オーディンは絶対にベッドにするには硬すぎる茶色の地面に無防備に倒れ伏して眠る。危うく振り上げていた刀が自分に突き刺さるところだった。

そのような感じで、マヌエルの取り出したボイスレコーダーの再生した謎の音声は、その効果で周辺の全ての生物を強制的な眠りにつかせた。

残ったのは、魔法力を変質させて耳栓のようにすることで事前に対策しておいたマヌエル。


と……




「なんで意識を保っていられるんですか!」

マヌエルは今だ平然と立っているエルヴァにうわずった声で叫んだ。


エルヴァは特に何も考えなかった。どういう原理で二人が戦闘不能となったのかは謎だが、戦闘不能になったという事実には何一つ変わりないし、魔法やオリジナルスキルなど普通考えられないことが起こりまくっているこの世界で今更驚くようなことでもない。今そんなことを考える必要は、少なくとも相手のその手段の媒介であろう音声がおそらく自分には無効であるとわかった時点で考える必要もない。

エルヴァは次で勝負を決めることを決めた。彼はスピードを出すため武器を逆手持ちに変更し、その武器を右手にマヌエルへと向かって突進した。

マヌエルは槍を構え、ちらりと空を見上げる。先程まで数匹のカラスが飛んでいた空はいま文字通り空っぽだ。つまり、上層部(クソども)が監視に使っている動物はいない。

マヌエルは再びエルヴァに視線を移す。彼は槍を低姿勢の状態で構え……


槍を地面に落とした。

エルヴァはそれを見てすぐさま急ブレーキをかけ、結果両者の距離がおよそ1mのところで停止した。

「戦闘しゅーりょー、やめですやめ。これ以上あなたと戦闘しても利益はありません。」

マヌエルはやれやれとでも言わんばかりの顔つきで全身から力を抜き、槍を手放したその両手を上に掲げた。彼が偽っているのでなければ、明らかな降参の合図だ。

エルヴァは怪訝に思った。この勝負がどうなるかはわからないが、少なくとも現時点で彼が自分を仕留められないと考えうる要素はないはずである。彼の魔法を封じた少女が倒れた以上十中八九彼の雷魔法も復活しているはずで、雷魔法が自分に無効であるとは誰も言っていない。逆もまた然り、向こうがこちらを仕留めたいのだから勝てると確信したところで襲いかからない理由もない。

彼がどうなるかわからない勝負を楽しむバトルジャンキーなら話は別かもしれないが、戦う前の会話の内容からしてそれもない。

なら、考えうる可能性はのこり一つ。


「正直に話しましょう。こちらにあなた達を殺すという意思そのものはありません。」

こちら側を処刑するという宣告自体が、そもそもの嘘という可能性。それはたった今マヌエルの発言によりその確信を深めた。









一方、防衛隊にはマヌエルに続いてさらなる来客が来ていた。

「ま、まさか元帥閣下がこんな辺境までお越しになさるとは……。」

「そういうのいいから。で、例の彼はどこだい?」

ソファに座る相手の青年はにこやかに返した。身長205cm、にこやかな顔つきで耳までぐらいの長さの整った黒髪で黒い瞳。白人で、八頭身のすらりとした体つきで、軽装寄りの黒い軍服を装備している。

間違いない。4月11日の夜、アレンが出会った青年、ヘルマンだ。

「そ、そちらでしたらただいま自室に閉じこもっております。」

「閉じこもる?なんでだ。履歴書と活動報告書を見てる限りそう簡単に鬱を患ったりするような性格じゃあないだろ?あ、元帥権限で見させてもらったよ。」

「それなんですが……。」

ガイスターは彼に何が起こったのかを全て話した。彼は戦闘にこそ参加できてないが、それでも指導者としてアレンなど無事な人間に何が起こったかを確認するということをやるぐらいの選択肢をとるぐらいできる。

約5分間。話を聞き終わったとき、ヘルマンはソファに背をもたれて両目を覆うように顔に手をおいた。

「仲の良い幼馴染の死、か……。まあむしろ、友情大好きなそいつがぶっ壊れるにはちょうどいいし、むしろクリティカルダメージか。」

そういうとヘルマンは卓上のお菓子をつまむ。ショートブレッドの超高級ブランドのもので、1缶あたり50T(トレーディア)=5000円ぐらいするビスケットがみるみる減っていく。経理係と思しき防衛隊職員がそれを見て少し冷や汗を垂らし、それを見たヘルマンはちょうど2/3を食べ終えたところでビスケットの入ったバスケットをガイスターに差し出す。

「ほら、せっかく用意したんだ。とりあえず君も食べなよ。」

「は、はい。」

戸惑いながらガイスターもそれをつまむ。割と節約を心がける方であるガイスターは、何気に初めて食べた高級ビスケットの味に少し感動した。

そんなわけで男二人はビスケットを平らげ、ついでに魔法を使って加熱するタイプのポッドに入っていた紅茶も飲み干した。ヘルマンが「こうすると圧力が高まってもっと加熱できるんだぜ」と魔法でカップ周辺の空気を固定して紅茶を臨界点まで跳ね上げていたが、見なかったことにしよう。もちろん皆さんは真似しないように。

「じゃあ、そろそろ案内してもらおうかな?」

「は、はい!こちらです!」

ガイスターはすぐさま立ち上がってドアを開け、普段の彼からは想像できないほど落ち着きをなくしながらヘルマンを先導した。


道中、白一色の変わり映えしない廊下を歩きながらヘルマンは呟く。

「(にしてもあの野郎、ただでさえここんとこの(エピソード)の更新忘れてたくせに、ここまで変な方向に沈めて何企んでんだ?)」

「なにかおっしゃいましたか?」

「ああなんでもない、こっちの話。」

立場が違いすぎるとはいえいちいちこちらの出方を伺いすぎるガイスターに、ヘルマンは辟易としながらそう返した。


そうして彼らは部屋の前に立つ。そしてドアノブを握る。

開かない。

謎解きゲームなら鍵を探すところだが、あいにくそんなものはこの部屋の主と共にすでに部屋に閉じこもっているだろう。

「申し訳ございません。2日ほど前からずっとこうでして……すぐにこじ開け…」

「だいじょぶ。」

そう言い、工具を持ってこようとクラウチングスタートに入ろうとするガイスターをとめてから、ヘルマンはドアを枠から外れて木っ端微塵になるように蹴っ飛ばして無理矢理扉を開けた。部屋に入れるようになったという点以外何一つ大丈夫じゃない。

「失礼したね。こっちにも事情があるから無理矢理入らせてもらったよ。」

ジークは無反応だ。2日間食事も水分摂取もせずにやつれた彼は、目の前にこんな変人がやってきたにもかかわらず、動じることもなくベッドの上で体育座りの姿勢を保ったままずっと何も無い一点を見つめている。

「あまりこの長ったらしい名前を名乗るのは好きじゃないんだけどね。フルネームを名乗るのはマナーだから仕方がない。」

青年は頭をかきながらため息をつくと、表情をにこやかに矯正してからその右手をジークに向かって差し出した。

「僕の名前はヘルマン。ヘルマン=ヴォルフガング=フォレンダー=ヴァール・ファン=レーレ・アルバート=ラインハルト・ロンメル=ライトブリンガーって言うんだ。よろしく。ヘルマンって呼んでくれ。」

しかしジークは反応しない。数秒後、ヘルマンは残っていた左手で頭をかく。

「まいったな……これどうやって動かそう……?」

「な、何か必要でしたら……」

「あー大丈夫大丈夫、それより二人にさせてくれ。」

「了解しました。おい!誰もここに近づけさせるな!」

そうしてヘルマンはガイスターたちを追い払う。ヘルマンはドアをストレートにぶっ壊したことを若干後悔し、魔法で不可侵・不可視の結界を張って外部と部屋を遮断する。

ヘルマンは面倒くさそうに頭をボリボリかきながら思考をフル回転させ始めた。

「あのバカ、テンプレどおりに行くとしたって調整ってのをしらんのか?ここまで落としたまでは良くても、そっから先考えてねぇようじゃただのバカだぞ。」


と、その時、一人の防衛隊職員が現れた。そういえばここにいること自体は隠蔽しているわけではないし、音を遮断する結界も張っていない。

「失礼します。」

「ん?」

「逃走した機魂兵の追跡に成功し、奴らのアジトを見つけました。」

機魂兵、その単語の発音と同時にジークの指がかすかに動いたのを、ヘルマンは見逃さなかった。

「なるほど。ここを襲った機魂兵は?」

「はい。現在はアゾレス諸島に建設した前線基地と思しき場所で目撃情報と一致する巨大な機魂兵複数体が指揮を取っているところが発見されました。そのうちの一体の特徴は、報告にあったロンドンを襲撃した巨大な機魂兵の特徴と一致したそうです。」

「そうか。」

ヘルマンはニヤリとした。それに対し防衛隊職員も、部屋の外側で、まるで相手が自分と同格であるかのように同じ表情で返した。

「では、私はこれで。」

そういい、防衛隊職員は立ち去った。ヘルマンは呟く。

「妙なこじつけ感もあるけど、まあギリギリ及第点ってとこか。シナリオとしては割と…。」

何か聞き取れない事をブツブツとしばらく一人で喋ったあと、ヘルマンはジークに向き直った。先ほどとは違いその目を僅かに動かしているジークに対し、ヘルマンは手を差し出す。

「今の話を聞かせたうえで、素晴らしい提案をしようじゃないか。君は何をしたい?」


ジークはヘルマンの手を取った。

ヘルマンを無言で見つめる彼の、血走った、しかしそれでいて強い眼光を放つ目は、彼の意思を示すには十分だった。


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