Episode11:死刑宣告
この世界のTips11:この世界の歴史①・この世界の戦争
この世界はおよそ10000年の文明が存在する。そしてそのうち、世界を巻き込む巨大な戦いはプロローグの伝説を除き19回起こった。
最初の12回は西暦500~5000年あたりの間に勃発し、それは“魔王”という称号を名乗る12人のモンスターなどを率いる者と、それに対抗すべく徒党を組んだ人類の間に起こった戦いであった。これらはいずれも人間側の勝利で終わり、12人の魔王はいずれも封印か殺害された。
のこり7回、人間の性というのは異世界でも変わらないらしく、それらは人間が国家同士で争って起こした大戦だ。うち6回は西暦5000~6000年の間に繰り返した。それから人間も反省に反省を重ね、国際連合を始め様々なものを組織し、ときに手を組み、ときに睨み合い、徹底して戦争を起こさないようにしてきた。それ故6000年以降のおよそ4000年、この世界は平和なはずであった。
そして今から25年前、Episode5で言及された第19次世界大戦。多数の機魂兵を従えたバルコール帝国がコンコルディア王国へ突如宣戦を布告し、そしてアイスランドの戦いで決着したこの戦いだが、今その機魂兵が襲来したことにより、物語は第20次世界大戦へ突入しつつある。
4月12日、午前11時。
場所はロンドンの街の西、だった廃墟同然の場所。地形は荒れ、舗装されていない地面が剥き出しになり、周辺の建造物は壊れ、環境はもはや人口よりも自然に近いかもしれない。
天気は曇り。湿度が高くて空気中の塵も多く、
雷が荒れ狂うのには最高の環境だ。
「ちょっとまてよ!なんで俺等が死刑に……。」
オーディンがその疑問を投げかけ終えるよりも前に、すでにマヌエルは一筋の閃光と共にオーディンの目の前に肉薄し、容赦なく槍を突き出そうとしていた。
「…っクソが!」
一瞬の混乱。しかしオーディンもただ黙ってやられるたちではない。彼は恐ろしく速い抜刀術でマヌエルに対し攻撃を放ちそれを迎え撃つ。
「遅い。」
再び閃光がほとばしり、オーディンの背後に再びマヌエルが立つ。一瞬。そう言うにふさわしい時間で、マヌエルは彼の背後に回り、それを追う目を持たないオーディンを再び混乱へと突き落とした。
「っ!?こんの…!」
オーディンが振り向きざまに刀を振るうが、やはり閃光が走り、マヌエルは彼から距離を取った。再び彼は穂先をオーディンに向ける。
「させません!」
エルヴァは咄嗟にマヌエルに向かって攻撃を加え、オーディンがその刀を複数回振る分の時間を稼いだ。その間にオーディンは詠唱と前戯を終え、スキルを発動する準備を整える。
「『葉月・盆召霊獣』!」
オーディンが地面に刀を振りかざすと同時に、土でできた牛が地面から、水で出来た馬が空中から出現した。
「(召喚獣!?いや、おそらく東洋の技術『式神』のほうが近い!)」
マヌエルは槍を構える。いくらSSランクといえど、いつだって相手は自分を殺せる可能性があるから挑み戦いになるということは忘れない。彼の目に油断はなかった。
「(地面相手に電撃を打ち込んでも地面に流されるだけ。なら先に水から叩く!)」
そう心の中で呟くとほぼ同時に、マヌエルは水でできた馬に肉薄した。
「『ηλεκτροπληξίαδ・παραλυτικό ηλεκτροπληξία』!」
彼の掌が馬の首の部分に沈み込み、それと同時にスタンガンと同レベルの電撃が流れ込む。
が、馬の水でできた体には、それはなぜか全くと言っていいほど効かなかった。そして彼が攻撃を放った後の隙を狙って土の牛が彼に頭突きをくらわせる。
「(まさか、純水!?)」
意外かもしれないが、一般的に水が電気を通すのはナトリウムを始めとしたイオンとなる物質が溶けているから。塩を始め様々なものが溶けている海水とは対照に、完全に何も溶けていない水は、イメージに反して恐ろしく電気を通さないのだ。最もそれほどまでに純粋な水は滅多に存在しないため電気属性が水属性にこうかばつぐんという認識が完全に間違っているわけでもないが、あいにく相手は式神、いまだ未知の部分が多い技術を使った存在なのだ。
「どうしたどうした、SSランクっても所詮この程度ってか?」
オーディンはマヌエルを煽った。もちろん虚勢、その気になればマヌエルがこの街ごと彼らを瞬殺できることを。物語時系列にしておよそ2時間前も言った通り、本来SS級とは小国なら単独で制圧できるほどの強さを持った人物にくだされる評価であり、彼は本気を出しさえすればこのロンドンどころかブリテン島のすべてを黒焦げにできる。
だが出来ない。
「俺等を処刑するになら変に街を破壊するわけにはいかねえよなぁ!?俺等に街破壊したって罪着せるんだからよぉ、えぇ!?」
そのとおりだった。変に高火力の技を使って余波で街を破壊しようものなら上層部の計画はパーになってしまう。相手が抵抗するから戦闘になるのであって、本来なら秘密裏の処刑が正解であるということは忘れてはならない。
「じゃあ、頭数を増やそうか。」
そう言いマヌエルが腰につけた魔法による体積無視の容量を持つポーチから取り出したのは、なんの変哲もない約10個のドローン。
「あ?そんなもんが何になるって……。」
「『ピロト・エレクトリコ』。」
彼の掌にのったドローンに電流が走った次の瞬間、ドローンはひとりでに起動し、まるで誰かに操縦されているかのように動き出す。
「?あんなの動かしたって囮にしか……!」
どうやって操縦しているのかは後回しにするとしても、彼は気付いた。ドローンの下部についている、カメラならぬカメラ型超小型マシンガンに。
「そこカメラ型にする必要あったか!?」
「オーディンさん!」
「わかってる。あいつのあれはどんな魔法系統にも存在し得ない。間違いなくオリジナルスキルだ。」
マヌエルのオリジナルスキル『piloto electrico』。
これも彼の意思によって発動し、継続的な効果を持つ。
電気をエネルギーに動く機械に自らの魔法の電気を流し込むことで、その機械を電流の続く限り自らの意思で使役することができる。
「クソッタレ!電撃魔法ありきなぶんバカみたいな性能のやつか!」
諸事情により、この世界の電撃魔法は他属性に比べ習得や使用が容易ではないらしい。そしてそんな魔法がないと使えないなど、こういった制約があるオリジナルスキルは、一概にバランス調整とでも言わんばかりに強力なものとなる。
「(まるでゲームのキャラクター設計みたいな設定。)」
エルヴァは余計なことを考えた。
「『chispa rápida』。」
「(ああもう、詠唱読まれないようにジャミングいれんじゃねえよ、腹立つなぁ!)」
マヌエルの差し出した指先から青い電流がほとばしり、一直線にオーディンへと向かう。
「『土懐精霊牛』!」
先程オーディンが呼び出した土でできた牛がマヌエルとオーディンの間に割り込み、その身で電流を受け流す。電流は茶色い牛の体表のうち当たった部分を若干焦がしたが、人間に例えればこんなもの擦り傷が関の山だ。
「だろうね!」
マヌエルが指を鳴らすと同時に、戦闘の混乱に乗じてオーディンを包囲していた4機のドローンが一斉に彼に銃口を向ける。彼のオリジナルスキル?軌道が見えたところで避けきれるとは限らない。オーディンの顔が僅かに青ざめる。
だがしかし、その次の瞬間には全てのドローンが撃ち落とされた。エルヴァが地面の石を投擲したことによりプロペラが破損し、操縦不能となったドローンはそのまま地面に墜落していった。下手な暴走を防ぐためかエルヴァは追加で石を投げ、マシンガン4つを完全に破壊する。
「(なんて正確な投擲……!よし、あっちから封じる!)」
わずかな逡巡、そしてマヌエルは腕を上空に向かって振り上げる。
「『ηλεκτροπληξίαζ・βροντή』!」
上空の一箇所に雲が集まる。瞬く間にそれは黒く染まり、一瞬の輝きの次の瞬間にはエルヴァに向かって雷を落とした。
「させるかよ!」
オーディンが手を振り上げるとともに再び先程の土でできた牛がエルヴァの上に飛び上がって彼をかばう盾となり、全ての電流を受け流す。
「ならこうだ!」
マヌエルのポーチからさらに十数機のドローンが飛び出し、先程のドローンと合流して土でできた牛に一斉射撃を浴びせる。流石にそう簡単には壊せないが、曲がりなりにも土でできた彫像もどきを怯ませるには十分だった。
「今のうちに、『καλώ・Cuélebre』!」
マヌエルの背後から羽の生えた蛇の形をした電撃が飛び出し、水でできた馬にかじりつくように突撃を敢行する。
「バカが!効かねぇっつって……!」
羽の生えた蛇が消滅すると同時に、水でできた馬は空気となり弾け飛んだ。この現象を理解できないと言わんばかりの顔で見つめるオーディンに対し、エルヴァはむしろ比較的理解が早かった。
「(電気分解、なんて出力!)」
目算だが馬を形作っていた水全てを電気分解で消し飛ばすのに必要な電力はおよそ2200kWh…そこまで考えたところでエルヴァは気付いた。いまだ残っている電流が起こした火花、そして水を電気分解して残るのは何か。もっと簡単に言うと、水素と酸素と火花をまぜたら何になるか。
「(――水素爆発!)オーディンさん、伏せて!」
「っ!?クソが!」
叫ぶと同時にエルヴァは地面に伏せる。オーディンはすぐさま状況を把握するも間に合わないと判断し、少しでも衝撃を殺すために、集中射撃でボロボロとなっていた土でできた牛を突発的に自分の前に呼び戻し、刀を地面に突き刺す。
閃光。一瞬遅れて轟音と灼熱。合計しておよそTNT2トンに匹敵するエネルギーがあたりを埋め尽くす。
「ゲホッ、ゲホッ……やっぱ自分の近くで使うもんじゃないな。」
膨大なエネルギーにより発生した水蒸気と、それが冷えて瞬間的に水滴となることで発生した霧の中で、それらを払いのけるように左手を振りながらマヌエルは一人呟いた。
あれだけの爆発、そして爆心からの距離は数メートルに満たないこの場所。常人はもちろん、彼のような実力者だって爆発をもろに喰らえばただじゃ済まない。この爆発を起こした張本人であるからには心の準備はできており、地面に槍をついてその力で無理矢理地面をえぐることで穴を作りそこに飛び込んでいたおかげで比較的軽傷ではあるが。
「って、まずい!消し飛んだら生死もへったくれもないじゃん!どうしよ……。」
マヌエルは頭に手を当て、うろたえた表情を見せる。そんなことを考えている間に霧は晴れ、……彼は次の瞬間見た。
自らに左足で蹴りを放つ青年の影と、腹に刀を突き立てんとする少年の影を。
「(――刀!)」
マヌエルは避けるという選択肢を捨て、自らにとって最も致命傷となりうる攻撃を防ぐことに全神経を注いだ。結果どうにかオーディンの突き出した刀を明後日の方向に逸らすことには成功する。その代わり、額面戦力だけならこの場において最も警戒しなければならない人物、その繰り出した蹴りが顔面へ直撃することを許してしまった。
鼻、そして歯及びその周辺の骨にヒビが入り、毛細血管が衝撃でずたずたになり、振動が脳にまで伝わって脳震盪を起こす。マヌエルは口周りからの出血を抑えるように手を当て、後ろ向きに吹き飛ばされた状態からどうにか受け身を取った。
「顔面における多数の損傷…直ちに戦闘を止めることをお勧めします。無論、その程度であなたが止まってくれればの話ですが。」
瞬発性を重視し武器を逆手持ちに構え直し、ゆっくりと歩み寄りながらエルヴァは戦闘停止を促す。その足取りはゆっくりで、いつでも彼の反撃に反応でき…。
「…でしょうね。」
騎兵槍を大きく振り、予想通りといわんばかりにそれをかわすエルヴァから距離を稼ぎながら、マヌエルは体勢を直す。血を拭ったその顔の傷はまるでなかったかのように消えていた。
「回復魔法まで使えんのかよ!どうなってんだお前の魔法力は!」
オーディンが悪態をつく。あとから聞いた話だが、回復魔法は他のものより魔法力消費が多く難しいとかなんとか。いや、今はそんな事を言っている場合ではない。
「エルヴァ!前!」
「念の為」で隠しておいた回復魔法という手札を晒すことでむしろこれ以上怪我に気を使う必要がなくなり、マヌエルは自らを省みない突撃を敢行する。それの突き出した穂先はすでに、エルヴァの胸を捉える一歩手前まできていた。普通なら防御するところだが、この30cmもない距離だとそれは間に合わない。
ならばどうするか。
「(攻め!?この状況で!?)」
マヌエルは目を見開いた。エルヴァはむしろ身を乗り出し、武器をマヌエルに向かって振るったのだ。マヌエルはすぐさま身を引き無傷でそれを回避するが、同時に狙いがそれ、槍もエルヴァの脇腹の横を通り過ぎた。
両者再び武器を構え直す。膠着状態、このままいけば持久戦となり、実力差の劣るエルヴァ達が敗北するのは目に見えて明らか。
マヌエルも、相手がその程度のことぐらいわかるということは容易に想像できる。だから彼は相手に合わせ、むしろ短期決戦を選んだ。自身の魔法出力を高め、電撃を乗せ静電気の火花を散らす槍を構える。構えからして速度特化、次の一手で少なくとも王手まで持っていく気だ。
「のけ!」
それに対しオーディンがエルヴァの前に出た。単純な速度だけなら確実に負けるが、未来が見えるなら話は別。彼は『月読命示』を発動する。
「(発動したはいいが、生憎フルオートじゃない分発動し続ける他ないし、かといって変に発動時間を延長すればオーバーヒートと同じ理屈で利用不可能、詰み一直線だ。)」
オリジナルスキルを発動しつつも、オーディンの頭を一つの悩みが占領する。
そしてその問題は、次の瞬間消え失せた。
「(エルヴァ!?)」
なんと、エルヴァがいつの間にか彼の前にでて、オーディンの方を見るマヌエルの死角から彼に襲いかかった。もちろんマヌエルもすぐにそれに気がつく。だがすでに両王手だ。
「(助かった。これならあいつがどっちを迎撃しようとも、もう片方があいつを仕留められる。勝てる!)」
オーディンは希望を見出す。そしてその希望は……
一瞬で打ち砕かれた。
「『ηλεκτροπληξίαθ』…」
先程放った雷撃の魔法より2ランク上、周囲に雷と同等の電撃が無差別にばらまくこの魔法、その準備としてか彼の持つ槍に膨大な電気が込められる。
「(θ級!?そんなもん食らったら確実にお陀仏だぞ!)」
おまけに全方位範囲攻撃のため、攻撃を仕掛けに超接近しているエルヴァはもとより、刀というこの場において避雷針にしかならない武器を持って十分射程圏内に踏み込んでいるオーディンもたとえ未来予知を使ったって回避不可能だ。
エルヴァとオーディン、両者ともにそれを理解していた。今更回避は不可能、防御しようとも敗北確定、ならどうするか。
「(ここで潰す!)」
二人はマヌエルに向かって突撃を敢行した。
「『Αστραπιαία・ Καταιγίδα』!」
準備動作を終え、莫大な電力が周囲に放たれようとしたまさにその時……
「『μαγείαπαραλλαγή・NégationSymétrique)』!」
3人のうちのどれでもない大人びた女性の声が後ろから響くとともに、今まさに放たれようとしていた電撃が正体不明のエネルギーの膜のようなものに包まれ、その膜が放つ魔法エネルギーと相殺し合うことにより消滅する。
「「「っ!?」」」
三人は一斉に声のした方を向く。
「久しぶりね、オーディン?」
そう問いかける声の主は、およそ17歳ほどの少女だった。身長173cm、凛々しい顔つきでそれなりに起伏はあるものの全体的にスレンダーな体つきで首ぐらいまで伸ばした黒い髪と茶色い瞳が特徴で、全体的に大人びており、20歳と言われても違和感はないかもしれない。魔法使いのような黒いローブと帽子を身につけている。
彼女はこちらに歩み寄りながら身を乗り出す。
「ニュースで散々騒いでたからこっちの様子を見に行ったと思ったら随分と面白そうなことになってるじゃないの。何がどうしてこうなったのか、私にも教えてくれない?」
そして彼女は背中に装備していた木製の、先端に赤色の宝石が埋め込まれた杖を取り出す。
「とりあえず、私の弟分に手を出してる理由から、50文字ぐらいで簡潔に言ってもらおうかしら?」
エルヴァが知らない来訪者に気を取られ、オーディンも心当たりが災いしたのか呆気に取られてる中、マヌエルは一人額に掌を打ち付けた。
「ああもう、また話がややこしくなった。」




