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ENDESTALE  作者: 中尾 奏治
Prelude:モノガタリの始まり
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11/21

Episode10:使者

この世界のTips10:回復と蘇生

この世界には回復魔法が存在する。魔法を使うことで欠損した体を再構築するこれはありとあらゆる裂傷を修復できる。


だが、この世界に死者を蘇生する魔法はない。何をどう頑張ろうと、魔法で失われた魂を戻すことはできない。


4月12日、朝の9時。

場所は相変わらずロンドン、今回のスタートは例の武器屋。

天気は晴れときどき曇り。9時なのにまだあたりは薄暗い。




「よう。今日は何の用事じゃ?オーディン。」

例のごとくオレアンの経営する武器屋に来店したオーディン。だがその姿はどこかやつれていた。意味不明な品物の数々が並ぶ棚を背にカウンターに頬杖をついているオレアンに、オーディンは真顔のまま鞘に納めた刀数本を突き出した。

「ああ……レンタルの刀、返しに来た。」

「おお、そいつはどうも……お前、何回ボロボロにしたら気が済むんじゃ?」

オレアンは受け取った刀を見るやいなや、皮肉を送った。なるほど、彼が受け取って抜いてみせた刀はどれもかしこもひびだらけ、かろうじて刀としての形を保っていると言っていいほどボロボロだ。いや、普通に修理代請求案件だ。

今の彼は止まらなかった。自分の疲労も怪我も顧みず、武器が壊れて戦えなくなるまでただひたすらにモンスターを狩る男となっていた。

「悪い。それと、折れた俺等の武器の修理、おわったか?」

「おうよ。こいつだ。」

オレアンは目の前のカウンターにオーディンの刀とジークの剣を置く。衝動的に刀を抜いたオーディンは、少しだけその刀身を眺め、妙な違和感を覚えた。

「素材、変えた?」

「まったく、お前そんなキャラじゃなかったじゃろ。そういうのについてはお前は馬鹿丸出しで騒いで、そこにジークが……ああ、あいつは今ここにいないんじゃったな。」

ため息をつくオレアン。彼はようやく客の前で頬杖をつくのをやめ、不意にカウンターの下をガサゴソと探り始めた。

「……お前らがぶっ壊しまくった機魂兵、その装甲の一部を砕いて混ぜ込んだんじゃ。何らかの条件が必要なんじゃろうな、このボロ屋じゃ無理だったが…。」

そう言いつつ、オレアンがカウンターの上に錆びついた青色の残骸を置く。つい先日この街を襲った機魂兵のうち、エルヴァに鎧袖一触で斬り伏せられたものの装甲だ。

「試してみろ。」

「……。」

その言葉に、オーディンは無言で刀を振り下ろしてみた。……ガキンと音を立て、刃は食い込んだ。弾かれるのではなく、確かに食い込んだ。

「とまぁこんな感じで、だいぶカットされるとは言え物理でもダメージを与えられるようにはなったぞ、だいたい30%ぐらい。感謝してくれよな?お代はいつも通り防衛隊にツケとくけど。」

「…なんで…」

「あ?」

「なんでこんな事やったんだ?意味ないだろ?」

「ああ、それがな、変なコゾーに頼まれてな。」

「コゾー?」

「そうだよ。暗がりでよく見えんかったが、背丈だけならジークと同じぐらいのコゾーがやってきたんだ。変な格好してたぜ?本人は学生服だって言ってたけど。」

オレアンは近くの棚から飴玉を取り出し口に放り込む。色合いからしてストロベリー、おっさんが小さな飴玉を舐める構図ってどうなんだろうか。

「んで、そいつが言ってたわけよ。『信じるか信じないかはあなた次第ってやつだけどね、ジークだっけ?彼はもうすぐ復活する。その時には機魂兵を壊すことにそれしか見えてないぐらいの執着を抱いているだろうから』とな。」

「どういうことだ?」

「さぁな。なんかあのあと衝動的にやっちまったわけだが、ひょっとしたら厨二病のコゾーの戯言かもしれんし、はたまた…。」

と、その時、店のドアが開く。ベルがピアノで言うドの音を出した。

「ベルつけたのか?」

「ああ。こうすればベルの音量でドアの開け方がわかると思ってな。てめーらが騒ぎに来たとしても、お前の乱雑な開け方で察知できるってわけよ。ま、今んとこお前のキャラが変わったせいでほぼ無意味になってるけど。」

入ってきたのはエルヴァだ。どうやらここまで走ってきたらしい、服に何枚か木の葉っぱがついている。しかしなぜだろう、全然息切れしていない。エルヴァはその違和感を薙ぎ払うようにそのままで喋り始めた。

「失礼します。防衛隊に客人が訪れていらっしゃいます。ジーク、オーディン、エルヴァ、以上三名に関して用があるので至急防衛隊防衛施設中央棟3階応接室まで来いとガイスターさんがおっしゃっていました。」

「はぁ?この状況で?」

「中央軍部、それも元帥からの直接の用事だから直ちに来い、ともおっしゃっていました。」

「……嫌な予感しかしねぇな。」

「中央」などという権力を振りかざす使者、こういう輩には大概ろくなやつがいないと、彼の勘は告げていた。いや、現実だろうとフィクションだろうと普段関わりのない場所の権力を振りかざす奴の大半はろくな奴ではないのは共通事項かもしれない。


店を出て、二人は小走りで防衛隊施設へと向かった。距離的に全力疾走よりもこっちのほうが持久力を考えたら早くつくだろう。石畳の床とレンガと木材でできた傷物の町並みが、ゲームのオートスクロールよりやや速めの速度で視界を通り過ぎてゆく

「そう言えばお前、ここ2日間なにしてたんだ?」

「何がですか?」

「何がって、防衛隊の施設とかに顔も出さずに図書館行ったりどっかいったり…。」

「それなら、ギルドの登録試験を済ませてきました。」

「HUH?」

「他の防衛隊の皆様から勧められましたので。受け方や必要事項などを図書館にあった資料で学んできたうえで試験に望んできて無事合格してきました。」

そう言い、彼は顔写真付きの免許証のようなカードを差し出す。「ギルド所属冒険者証明カード ランク:B」と書かれていた。

「はぁ!?まてまてまて!Bランクってなんだよ!俺等だってDランクなのに!」

参考までに言っておくと、ジークやオーディンのDランクは先輩として威張れるようになれる上に軽犯罪を数回繰り返すレベルでは資格を剥奪されないぐらい立場が安定し、給料も日本円換算で月収30万とまぁまぁおいしいところなのに対し、Bランクは新人を率いたりする、「人生ほどほどな凡人の最高到達点」とまでされているランクだ。軽犯罪が軽く流されるレベルに16歳で到達しているジーク、オーディンも大概だが、およそ20歳でこの域に達しているエルヴァは端的に言ってバケモノである。

「なんでも戦闘試験で試験官の方を下したのが決め手になったみたいです。あと筆記試験は満点だからってカンニングを疑われました。」

「まじかよ……ちなみにこっそり人に会ってたってのは?」

「先輩と名乗る方に「お金をよこせ」とか言った感じの事を言われてました。断ったら襲いかかってきたので二度とこちらに手を出せないぐらいには(なぶ)って捕縛して防衛隊の他の方に突き出していたのですが、聞いてませんでしたか?」

「聞いてない。あの野郎ども、今度あったらぶっ飛ばしてやる……嬲った?」※嬲る……ようするにボコるの上位互換。

「はい。」

「いや『はい。』じゃねーんだよ。こえーよ。普通そういうのはボコるにしても加減ってもんがなぁ……。」

……随分とおしゃべりしてるけど、お前らガチで走ってるんだよな?


そんなわけで、二人は他の防衛隊職員への挨拶もそこそこに、防衛隊施設内を駆け、四階の応接室までたどり着く

「失礼しまーす。」

白色で単調な応接室に入って真っ先に目に入ってきたのは、ソファに座る一人の気弱そうな少年だった。

身長177cm、リバースショートにしたダークブラウンの髪と、目の下に若干のくまがうかがえる緑色の瞳をもった容姿。顔立ちは良いのだが、どこか卑屈ささえ見える表情だ。全体的にひょろひょろとしている。上着のない長袖の白い学生服を着用しており、彼が座るソファの横にはおそらく彼のものであろう騎兵槍と、刃が複数回折れ曲がったような形をしたパルチザンがおいてある。

「お、来たか。」

そういったのは、彼の相手をしていたのであろうガイスターであった。彼にしては珍しく、口調の割に顔に大量の冷や汗が浮かんでいる。だが、例のバカはスキル「空気を読む」を持っていない。

「だれっすか?こいつ。」

「バカモン!頼むから今だけは礼儀というものをわきまえてくれ!」

「あ、自分、こういうものと申します。」

そういい、少年は名刺代わりかギルド所属冒険者証明カード、通称ギルドカードをオーディンたちに差し出した。「マヌエル=インへニオ・ガルシア ランク:SS」。

「……まじか……!」

オーディンすら驚愕を見せる。SSランクとは、このコンコルディア王国にも数名しかいないような、そして言ってしまえばこのブリテン島やフランスなど小国一個を単独で陥落させることができるほどの猛者の証明なのだ。

「まあでも、来てくれてよかった。ジークさんはまだ回復していないんですよね。」

「は、はい。」

ガイスターがしどろもどろに答える。なるほど、機嫌を損ねようものなら一瞬でこの街を更地にできるようなバケモノを相手にしたら誰だってこうなるだろう。しかし当のマヌエルと名乗った少年自身は、物腰柔らかに丁寧に接してくる。

エルヴァは少し考えた。

「(先程見えたギルドカードの年齢を見た限り17歳、ジークさんたちと1歳差。この年齢とこの態度から見るに、おそらく単純な交渉ならこちらに分もがある……。)」

「では彼ら少しお借りしますね?西まで案内しても?」

「わ、わかりました。」

そうして、マヌエルというその少年とオーディン、エルヴァは部屋の外へと出ていった。


街の西は特に被害が酷かった。そこらにクレーターにも似た砲弾などの痕が残り、建物は全体の50%も保っていれば奇跡で、地面は石畳が壊れ焦げ茶色の地面が剥き出しとなり、誰もおらず、もはや壊れた街というより街だった廃墟となっていた。

「で、SSランクの人間がこんなところに何の用事だ?」

「……いきなりで悪いんだけどまず質問。この襲撃による損害って、誰に責任が行くと思う?」

「なんだよ。俺等を煽ってんのか!?」

彼なりに感じていた責任感を思いっきり逆撫でされ、オーディンがマヌエルに詰め寄る。マヌエルはそんなつもりはないと言うように手を挙げた。

「違うよ。一般的に考えて、襲撃した奴ら以外、つまり味方陣営で誰に責任が行くと思う?」

「軍部上層部の誰かしら、でしょうね。」

エルヴァが口を出した。

「防衛隊の方々から話を聞きましたが、そもそも防衛隊の方々には満足な装備を買うだけの予算すら中央からは渡されていなかった。そして中央からの監察官すらその事を知らず、資料の記録を見ている限り途中で何かしらによって中抜された様子すらない。そうなると、大本はこちらに回す予算を大幅に削減した軍部上層部となるわけです。無論推測の域を出ませんし、削った金がどこに行くかは余計知りませんが。」

「まあ、そんなところかな。」

そう言い、マヌエルはおもむろにエルヴァの腰につけられたあの武器を指さした。

「それと知ってた?その武器、ウェルトシュナイダーって言うんだけど、国家厳重保管物だったんだよ?」

「そうなんですか。」

マヌエルは周囲を眺める。見るも残酷に破壊され尽くした街を。予期できぬ敵国の襲撃と、出すものも出さぬ上層部の犠牲となったものを。

「…もう言いたいことはわかるかな?」

「…?」

「……ええ。」

何もわかっていない顔のオーディンに対し、エルヴァは何かを察した表情で頷いた。

「君たちに本来渡すはずだった金をケチった結果この惨劇の責任を被せられそうになった上層部が、持ち出しそのものが国家への反逆になりかねないものを使った君たちとその当事者を見た結果だした結論……。」

マヌエルは騎兵槍を取り出し、右腕でそれを振りかぶった。

「ジーク=スカイラー・ウォーカー、オーディン=ツキヒコ・ハーヴェイ、エルヴァ。以上3名を、危険物取締法違反罪、大量殺人罪、現住建造物等破壊罪、及び国家反逆罪。以上の罪状により……。」

彼の槍を起点に、目に見えるほど膨大な電流が迸った。彼はそのままやりを振りかぶり、二人に向き直る。

「死刑とする。」

先程までの気弱そうな表情はもうない。冷酷な目をした国家級の強者が今、先日自らとその街を守るための選択に迫られた二人の人物に牙を剥いた。




4月11日、夜10時。

場所はポーランドのワルシャワ、そこにある要塞のような施設。

天気は晴れ。空に浮かんだしし座が輝いている。




アレンと青年が別れた後の話。




一人用のソファでくつろぐヘルマンのポケットでスマートフォンが着信音を発した。デイヴ・ブルーベック・カルテットによる楽曲「Take Five」だ。

「あ、もしもし、|HierHermannヘルマンです。マヌエル君?何の用だこんな時間に?」

ヘルマンは電話を取るなり間髪入れずに用件を聞いた。

「ああ、上層部から3人を殺れって命令がきたと?えー、そんなの無視……『家族がどうなるかわかっているか?』と言われた、だって?」

青年は大きくため息をつく。そのまま彼は手に持っていた鉛筆を怒りのままに握りつぶし、怒りのままに酒をあおってから電話に戻る。

「ああもう、どいつもこいつもことごとく物事をややこしい方向に持っていきやがって。ジャズシンガーを見習え、深く考えずに楽しませてくれるだろ、この『元帥という地位にいる人物が絶対に口にしては行けないであろう罵詈雑言の数々』。」

そう言い、青年は少し考える仕草をしてから、受話器越しに気弱な少年に言った。

「よし、もうとりあえず殺してくれ。話はそれからだ。」


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