第5話 分岐
【注意】
少しだけグロテスクな描写や性描写があります。
大丈夫な方のみどうぞ。
***
「クソッ!あのアマ調子に乗りやがって!」
俺は近くにあった木を殴りつける。
全部あの女のせいだ。
あの女のせいで俺の人生は滅茶苦茶だ。
アイツは俺の人生の不純物だ。
俺の生まれた村はには昔から言い伝えられている話がある。
その昔、雪女ととある男が恋に落ち家庭を築いた。
それが俺達一族のご先祖様。
故に髪が白く生まれてきた女児はもれなく当主として育てられ一族の為また白髪の女児を産み一族皆で育てるのが雪女の一族に生まれた者の責務だ。
しかしアイツの髪は黒かった。
故にアイツとその母親は一族内でもカーストは最下位。
皆していい様に二人を扱き使い時にはサンドバッグにしていた。
後継者第一候補の小雪が無能と発覚するまでは。
その頃涼香の母親は一族からの冷遇に耐えられず自ら命を絶った。
そして涼香の母親が逝去した後、代役として先代当主の弟の愛人が現当主となった。
そしてその叔父の愛人が産んだ女児が白髪の女児だった。
その事を知り一族は大いに歓喜した。
しかしそれも束の間だった。
小雪には雪女として備わっている筈の能力が全く使えなかったのだ。
だが反対に涼香はその力を自在に扱う事ができた。
そして一族内は正統後継者を巡り小雪派と涼香派で完全に敵対することとなった。
しかしその張本人涼香は小雪の生まれたその日に屋敷から姿を眩ましたのだ。
「全く何処までも自分勝手な奴らだ……!
全部尻拭いをするのは番わされる俺だと言うのに!!」
だがこのまま手ぶらでノコノコと村に帰るわけにもいかない。
俺は小雪派の者達から預かったとある呪具を取り出す。
「今に見ていろよ……!」
それは周辺の村に伝わる呪石だった。
小雪派の人間はいつしか涼香の力を奪う事を考えはじめた。
そしてこの呪石は大陸では別名【悪魔の石】と言われている。
この呪石を使えば石が吸収した能力を使用者が扱えるという代物だ。
そんな石にあの女……涼香の能力を取り込むのだ。
方法は至って簡単。
「アイツの魔核に魔力を込めた呪石を突き立てればいいだけだ。」
待っていろお前の死はもうすぐだ。
***
あれからどれくらい時間が経ったのだろう。
私はあれからすぐユウと共に寝室に篭りきりになっていた。
ユウは奴との件で火がついたのだろう。
気が付けばまるで枷が外れた獣の如く互いの欲望をぶつけ合っていた。
結局あの晩だけの関係は互いの欲望に負けズルズルと続いてしまった。
もう何度目かもわからない程まぐわい子種を腹の中に注がれる。
駄目なことだと判っている筈なのに止められない。
罪と言う名の背徳感は枷になるどころか私達の快楽を増長させる為のスパイスになってしまっている。
だがユウにとっての私もそうなのだろう。
逃げ出したとはいえ一応私にも婚約者はいるのだ。
ふと気付けば外は少しずつ明るくなってきており時計を見れば朝の5時を指している。
「ではそろそろ私は朝の支度に参ります。」
私は服に着替え仕事前の湯浴みに向かう為準備をする。
だがベッドを抜けようとすれば唐突に私の腰に彼は抱きついてくる。
「何処にも行ってくれるな。」
「無茶を言わないでください私にも仕事があるのです。」
彼はまるで子供の様に拗ねている。
私だってもっとユウの側に居たい。
だが現実ずっとこのままではいけないのだ。
こんなどうしようもない私達にも朝が来てしまうのだから。
私は自分を奮い立たせ寝室を出た。
***
結局彼女は仕事に向かう為部屋から出て行ってしまった。
陽の光すら入らない真っ暗な寝室に一人取り残される。
朝は苦手だ。
あんな眩しい陽光を浴びて平気な吸血鬼がいる訳がない。
俺は深く布団を被り二度寝をすることにした。
昨晩の疲れもあったのだろう。
数分もすれば少しずつ睡魔が襲ってくる。
私の大切な物を容易に奪うこの理不尽な世界が私は嫌いだ。
どれだけ私の事を想ってくれる人がいたって私が関わった瞬間にそれらは崩壊してしまう。
もうそれならいっその事——
「この世界なんて無くなってしまえばいい。」
「!?」
俺は勢いよくベッドから起き上がった。
どうやら俺は夢を見ていた様だ。
しかし夢にしては生々しい感覚がした。
きっとあれは予知夢という奴なのだろう。
俺は夢であの銀髪の男に銀製のナイフで刺される。
そしてそれを見た涼香は狂気に染まってしまう。
そんな考えたくもない悍ましい夢。
「最悪な目覚めだ……。」
俺は顔でも洗ってスッキリしようと思い井戸へと向かった。
外は既に日は沈み星々がまばらに瞬いている。
井戸で顔を洗い眠気を飛ばす。
『少しさっぱりした。』
もうすぐ約束をしていた客人が屋敷に来る時間だ。
急いで戻り支度をせねばならない。
屋敷に戻ろうと後ろを振り返ればそこには見覚えのない少女が立っていた。
「誰だ君は?」
「……。」
「ここは私有地のはすだ。
子供とはいえ立派な不法侵入だぞ。」
「ごめんなさい」
そう言うと子供は俺の元へ駆け寄ってくる。
「でもこれだけ言わせて」
少女は俺の顔を見てこう告げた。
「このままだと死んじゃうよ」
じゃあねと少女は要件でも済ませたかの様にそそくさと何処かへ消えて行ってしまった。
「何だったんだ今のは……。」
あの夢といい正体不明の少女といい俺の仕事や私生活の邪魔になる様な出来事ばかりで頭が重くなる。
俺は重い足を動かし身支度を済ませる為自室へ向かった。
***
「聖夜祭ですか?」
今日はシルキーとの茶会の日だ。
そこで俺は彼女に思い切ってデートの約束を取り付けようと思い勇気を出して本題を切り出した。
「今年センチュラルでも私達の婚約をきっかけに信仰者数が増えてきていてな、今年は我が国でも聖夜祭を行う事になったんだ。
なのでよければ一緒に露店などを回りたいのだが予定の方はどうだろうかと思って聞いたんだ。」
「勿論ですわ!と言いたいところなのですが……私の実家は一応教会なので儀式への参加が義務付けられているのです。
抜け出すのも恐らく難しいかと思います。」
シルキーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いやこちらこそ忙しい時にすまない。
私も配慮に欠けていた。」
俺は婚約者から盛大にデートを断られてしまう。
「いえそんなことありませんわ。
でもその後にあるニューイヤーパーティには是非私を呼んでくださいね。」
軽くは無いが男としてのプライドが傷つく事を考慮してくれた様で、彼女は俺に優しい笑みを浮かべながら可能な限りの提案をしてくれた。
シルキーにこんなしょうもないミスのフォローをさせてしまう不甲斐ない婚約者で申し訳なくなる。
茶会がお開きになった後俺はシルキーを見送る。
「なんだか疲れた……。」
最近俺はあの変な夢を毎晩の様に見る様になった。
そのせいなのか最近いつも不眠気味で仕事や人間関係に身が入らなくなることが増えた。
状況や場面が切り替わる事はあれど基本的に行き着く結末は同じだ。
豪雪と揉める涼香に俺は割って入る。
しかし俺はそこで豪雪に背中を刺され倒れる。
そして夢の最期に涼香は強力な魔力を纏い苦しんでいる。
「いかん」
このままだと気持ち悪くて戻してしまいそうになる。
俺は必死で吐き気を堪え波が治るのを待つ。
そんな未来なんて起こって欲しくはないのだ。
どうかこれが正夢にならない様にと願う。
***
ユウとの夜から数日が経った。
今日は雲行きが怪しい為早めに外の作業を終わらせようと屋敷の外に出ていた。
「待ちくたびれたよ。」
「……何の用ですか。」
声のした方を見ると屋敷の門の外に奴がいた。
「しらばっくれるなよ。
今日こそ俺とお前の立場をわからせてやらないといけないからな。」
そう言うと彼は私に手を差し出す。
「さあ優しくしているうちにこちらに来い。
さもなければ俺はこの屋敷に火を放ちあの男ごとヴァーミリアン家を潰す。」
「……っ。」
奴の目は本気だった。
私の中に怒りとどうしようもない焦りが生じる。
私だけならどうなったって構わない。
しかし彼だけは巻き込んではいけない。
「……彼に……彼とこの屋敷だけは手を出さないとこの場で誓えるのなら……。」
そう言うと奴は満足そうに歪んだ笑みを浮かべた。
「そう、それでいいんだ。
お前は利口で助かるよ。」
私は門の外へ出る。
すると豪雪は遠慮もなく腕を掴み屋敷から私を引き剥がす様に早足でどんどん私を引っ張って行く。
『ごめんなさい私がここに居てはユウ様に迷惑をかけてしまう。』
暫く歩くと木々の奥にもう数十年は使われていないであろう廃墟が見えてくる。
「ここは……」
「この辺で良いかな。」
すると奴は私の首を思い切り掴んだ。
「ぐぁっ」
「おやおや、お高く留まった氷宮家のお嬢さんもこんな情け無い声が出るんですねぇ。」
力は緩むことなく気管をギリギリと押さえつけ血管を押し潰す。
段々と回らなくなる思考。
抵抗を止めると奴は腕をようやく放した。
「ガハッゴホッ」
「さて、楽しみはこのくらいにしておきましょう。」
そう言うと奴は懐から何かを取り出した。
「残念だけどここで今君には死んでもらうよ。
恨むなら僕じゃなくてお前自身の境遇を恨むんだな。」
私の胸元めがけて鋭く尖ったガラス片が振り下ろされる。
嗚呼これで私は終わるのだな。
こんなに死んでしまいたいと消えてしまいたいとさえ思っていたのに今際の際になって今更私は生きたいと思ってしまった。
私は間一髪ガラス片を食い止める。
「残念だったな!」
しかしそれはどうやら囮だった様だ。
死角から飛び出してくるナイフに対応が遅れる。
「手を退けろ!」
瞬間奴の身体が吹き飛ぶ。
「ガッ」
「……何故此処に……!?」
そこにはここにいるはずの無いユウが立っていた。
「此処最近よく俺の元によく虫の知らせが届くものだから気のせいでは済ませられなくてな。
モーエヴィンと共に涼香の様子を監視していたという訳だ。
もうすぐモーエヴィンもこちらに来るだろう。」
「……そうでしたか。」
私は安心したのか腰が抜けてしまう。
「怪我はないか?」
「はい、無事です。」
「良かった……。」
彼は私を優しく抱き寄せる。
「もう勝手に何処かへ行くな。」
ユウはあの日の朝私にかけてくれたあの言葉をそのまま私にかけてくれた。
私の心は一瞬で満ち足りていく。
彼の抱きしめる腕の力は強くなるばかり。
私も彼の背中に手を回そうとした。
刹那彼の腕から力が抜ける。
寄りかかるユウの背中には鋭く尖ったナイフが刺さっていた。
「ユウ様!!」
「アハハハハハ!コレは大変愉快だ!
まさかお前如きがセンチュラルの大臣様に庇ってもらえるなんてな!」
背後からはとても愉快そうに笑う豪雪が立っていた。
「……さぁ茶番は終わりだクソアマ、とっとと呪石に取り込まれろ。」
豪雪はひとしきり笑うと急に静かにこちらを見据える。
その瞬間私の視界は真っ赤に染まった。
「……ガハッ」
私は長年封印していた氷魔法で奴の胸部を串刺しにした。
奴は真っ白な地面をその穢らわしい血反吐で汚していく。
私は間髪入れずにそいつの首を氷の剣で跳ね飛ばす。
私は動かなくなった奴を跳ね飛ばしユウに駆け寄る。
あんなに愛おしく暖かかった彼はぐったりと横たわったまま動かない。
体温もどんどん下がってきている。
私は今出来る限りの処置をユウに施したがどうやら致命傷を受けてしまっている。
どれだけ声をかけても反応はない。
これでは数十分も持たないだろう。
「………。」
私の大切な物を容易に奪うこの理不尽な世界が私は嫌いだ。
どれだけ私の事を想ってくれる人がいたって私が関わった瞬間にそれらは崩壊してしまう。
もうそれならいっその事——
「この世界なんて無くなってしまえばいい。」
瞬間私の身体はあまりの苦しみと痛みで地面に伏してしまう。
「あがっ……」
体内の奥から今までに感じたことのない程膨大な魔力が溢れ出してくる。
まるで血液がマグマにでもなってしまった様な感覚だ。
私は暫くその場から動く事ができず苦しみ悶え続けるしかなかった。
少しずつ意識が遠退いていく。
視界の隅に救援であろうモーヴィの姿が見えた。
『彼なら安心してユウ様を任せられるな。』
私は体力が尽きなんとか繋ぎ止めていた意識が飛ぶ。
結局こんな事になってしまうんだったらいっそのこと
『ユウにちゃんと気持ちを伝えておけば良かった。』
to be continued……




