↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
So-and-So  作者: 一途貫
PR
13/15

#13 主が突きつける選択

「■■■■を殺させないよ!」


ルーソがアドレムの肩に飛び掛かる。ルーソは大きな牙で、アドレムの肩に噛み付いた。だけど、アドレムは悲鳴も呻き声すら上げない。それどころか、自分とほとんど変わらない大きさのルーソの一撃を受けても、びくともしなかった。


「ルーソ、君もいい加減分かるだろう。何度繰り返しても、君は彼の結末を変えることはできないんだよ」


アドレムは躊躇いもなくルーソの首根っこを掴み、床に叩きつけた。有無を言わさずアドレムは、ルーソの腹にレイピアを突き刺す。黒い毛が血で焦茶色に染まる。ルーソは歯を食いしばりながら、小さな呻き声を漏らした。


「確かに私の力じゃ■■■■を助けられないかもしれない。だけど、■■■■は死にかけてた私を拾ってくれたんだ! だから■■■■は絶対守るわ!」


ルーソの叫びをかき消すように、アドレムはレイピアを深く刺しこむ。ルーソの口から叫びの代わりに血の泡が溢れでる。すると、一発の弾丸がアドレムのシルクハットを掠めた。ウィルだ。ウィルがパチンコ玉を打ち出していた。アドレムはため息をつき、レイピアを引き抜いて一気にウィルに詰め寄る。ウィルの胸元目掛けてレイピアが空を切った。ウィルは躱すも、右腕に斬撃を受ける。腕の縫い目が千切れ、綿が飛び出した。バランスを崩し、ウィルは倒れる。


「君はもう少し物分かりがいいと思ったんだけどね」


「俺はこいつが生きようが死のうがどっちでもいい。だけどな、こいつ自身が決めるまでは、俺はこいつをみすみす殺させたりはしねぇ」


片腕を千切られながらも、ウィルは口でパチンコ玉を引いていた。二人の息の根を止めようと、アドレムはレイピアを携えて近づいてくる。止めて! 二人には手を出さないで!

ボクは身を乗り出すも、激しい苦しみに襲われ、足が止まる。アドレムがボクの体からハートを引っ張り出し、赤い光を覆うように握りしめていた。ハートはアドレムの拳の中で乱反射する。


「私は君の死だ。君の命は私が握っているんだよ」


アドレムが更に強く握ると、ボクの胸の血管は止まっていく。声も出せず、ボクはその場に崩れ落ちるしかなかった。冷や汗とともに、ボクの温もりが抜け落ちていく。


「させないわ!」


ルーソとウィルは痛む体を奮い立たせ、アドレムに飛び掛かる。策も技もない。ただ、ボクを守るためだけに。アドレムは羽虫を追い払うように、二人を片手で切り捨てた。血と綿が飛び散っても、二人はアドレムに向かっていく。今まで二人は何度ボクが死ぬのを見てきたんだろう。何度分かりきった結末に向かったんだろう。もう、ボクの命なんか諦めればいいのに。そうすれば、君達は傷つかずに済んだのに。


「私は■■■■に生きていて欲しいの! 生きて、また笑っていて欲しいんだ!」


ルーソがハートを持っている手に噛み付く。アドレムは忌々しげに、血が滲むルーソの腹を蹴り上げた。これまで悲鳴をあげていなかったルーソだけど、耐えきれず弱々しい悲鳴をあげた。ウィルは弾を口に咥え、片手でパチンコ玉を打ち出す。アドレムは、すかさずレイピアでウィルの腹を切り裂く。だけど、弾はアドレムの手に命中し、ハートがアドレムから離れた。


「■■■■! 決めるのはお前だ! ハートに自分の意思を伝えろ!」


かつてないほど感情のこもった声で、ウィルが叫ぶ。アドレムはウィルの残った腕を踏みつける。


「君達も所詮、この世界の住人として彼が作った都合の良い存在だ。そんな事はとっくに分かりきっているだろう」


そうだ。ルーソもウィルも、ボクが親友として作った存在。作られたはずなのに、二人はボクの為に戦ってくれているんだ。ボクに生きていてほしいから戦っているんだ。ボクも戦わないと。アドレムと。ボク自身の死と。ボクはハートを引き寄せた。アドレムは手をかざし、ハートを引き戻そうとする。突風に煽られたように、ハートはアドレムに引き寄せられた。だめだ。死に負けるものか。ボクは自分から伸びる赤い糸を引っ張り、ハートを掴んだ。ハートはボクに掴まれると、赤い剣に変わる。生きたいと叫ぶように、ボクと剣を繋ぐ糸が何度も脈打つ。戦うんだ。ボクは震える手で剣を構え、アドレムに向き合った。アドレムの仮面の奥にある瞳が僅かに揺れる。


「……それでいいんだ」


アドレムは静かに言い放ち、ボクに斬りかかる。ボクは両手で剣を握り、アドレムの一太刀を受け止めた。少しでも生きることを諦めたら、押し潰されてしまいそうだ。レイピアとボクの命との距離がつまる。


「君は彼女がいない世界に絶望して、この世界を作った。君がこれから先、生きたところで彼女はいないんだよ」


アドレムはボクを真っ二つに切ろうと更に力を増す。そうだ。彼女は戻ってこない。ボクのせいでフィンデルは死んだんだ。…………だけど、フィンデルは、ボクに生きてほしいから今まで助けてくれたんだ。その思いを無駄にするものか! ボクの思いが強くなると、剣はレイピアを押し返した。よろけるアドレム。ボクは一瞬攻撃を躊躇った。アドレムは、すぐさまボクの肩目掛けてレイピアを突き出す。ボクは一閃を躱して、床に転げた。


「君は何もない世界で生きていくつもりかい?

そんな世界で生きていくくらいなら、自分も消えてしまった方がいいと、君は随分前に結論を出したはずだよ」


アドレムは、ボクと剣を繋ぐ赤い糸を断ち切ろうとする。刃が当たって途端、ボクの全身に気を失ってしまいたくなるほど激しい痛みが走った。糸は血管が切れるように赤い糸屑を撒き散らす。神経を直接切断しているようだ。ボクは床でのたうち回った。いっそのこと死んでしまいたい。ここから消えてしまいたい。涙や悲鳴の代わりにそんな思いが頭の中を駆け巡った。


「私達はあなたの側からいなくなったりしないわ!」


「■■■■。確かに俺達はお前に作られた空想の登場人物だ。だがな、お前に選択をしてほしいっていう意思は、お前の考えたものじゃないぞ」


二人がアドレムの剣を止める。赤い糸と剣はすかさずボクの元に来た。二人は防御する動作もなく、アドレムの一太刀を受け止めた。ルーソの額が切れ、ウィルのフードが外れる。二人はついに体力の限界を迎え、その場に倒れた。


「さて、どうする? ■■■■。君が戦わないというなら、最初にこの二人に消えてもらうよ。君は彼女のみならず、今まで支えてくれた友達も自分のせいで死なせるんだよ」


アドレムが二人目掛けてレイピアを振る。考えるよりも先にボクは剣を構えて、アドレムに突っ込んだ。苦し紛れにボクは剣を振り下ろす。陶器が割れるような音とともに、剣が激しく煌めいた。たまらずボクは目を瞑り、その場に座り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。