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黒猫魔族の異世界社会見学【改稿版】黒猫になった俺がポンコツ魔王の娘を人間社会で教育してたら、世界を救う羽目になってしまった  作者: 5414


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第24章 山猫族

あの二つのカメムシ城を見た夜、昔のことを思い出した。


方向音痴の女のせいで……。


いや、おかげで焚き火大会をすることになり、ふんわり焼き上がった干物を食べた、あの月夜である。


うまかったなぁ〜。


そっちではない。


クワンリの故郷に伝わる、月から来た船の伝説の方だ。


やっぱり、あれは月から来た宇宙船なのだろう。


長い年月の間に土が積もり、苔や草に覆われ、大きな木まで生えている。


それでも、気球船の上から見た姿は、どう見てもサンダーバード二号だった。


今は宿の開かない窓から、その宇宙船がある方角を眺めている。


黄昏れているわけではない。


それしか、やることがないのだ。


宿泊施設は、旅行者用というだけあって、部屋だけは立派だった。


柔らかい寝台が二つあり、食卓と椅子も揃っている。


窓には厚い硝子がはめ込まれ、外の景色はよく見えるのに、どこにも開けるための取っ手がない。


街を囲む城壁と、その向こうへ突き出した宇宙船の一部が、遠くに見えていた。


時々、小さな飛行装置が上空を横切る。


観光客の宿というより、外を眺めるために作られた展示箱の中へ入れられた気分だった。


クワンリとサルマは、薬草の本を広げている。


時々、同じ薬草を指差しながら、採取する季節や加工方法について話し合っていた。


オババは椅子へ深く腰かけ、目を閉じている。


眠っているのかと思ったが、俺が動くたび、片方の目だけを開けてこちらを見る。


今朝は、案内役と一緒に市内の博物館へ行く予定だった。


昨日見た宇宙船について、何か分かるかもしれない。


そう思って少し楽しみにしていたのだが、約束の時間を過ぎても案内役は来なかった。


最初は遅れているだけだと思った。


さらに待っても、廊下から足音一つ聞こえない。


様子を見に行こうとしたサルマが、扉の取っ手へ手をかけた。


動かない。


何度押しても、引いても、扉は開かなかった。


鍵は室内側からかけられていない。


外から、閉じ込められている。


要するに、監禁されたということだ。


俺も扉の下へ鼻先を近づけてみた。


外の空気は入ってくるが、隙間は前足一本も通らない。


猫ならどこからでも抜け出せると思われがちだが、俺は柴犬ほどの大きさがある。


普通の猫用の隙間では、頭さえ入らない。


壁や床へ耳を当ててみても、隣の部屋から物音は聞こえなかった。


旅行者全員が閉じ込められているのか、それとも俺たちだけなのかも分からない。


そのことについて、全員を集めて話し合った。


話し合ったはずなのだが、どうにも緊張感がない。


「そんなわけはない。きっと何かあって、迎えに来られないだけだ。皆、優しかったではないか」


クワンリは監禁という言葉の意味すら分かっていないような態度で、昨日買った包丁を磨いている。


刃先を明かりへかざし、満足そうに頷いた。


閉じ込められている部屋で包丁を磨くお嬢様。


優しかった人たちが見たら、今度こそ本当に危険人物だと思われそうだ。


「でも、扉は外から閉められています」


サルマが言った。


ようやく危機感を持ってくれたのかと思った。


「クワンリさんが、そう言うのでしたら、きっと何か事情があるのだと思います」


そっちかよ。


オババに期待してみる。


オババは腰の袋から干し豆を取り出し、ボリボリと食べ始めた。


「食事を運んでくる者が、そのうち事情を話すじゃろ」


呑気な奴らだ。


仕方がないので、俺が考える。


何が原因だったのだろう。


思念を使った時、魔力が漏れたのか。


入国審査での下手な芝居が、見抜かれたのか。


クワンリは上品なお嬢様を演じようとして、審査官へ一度だけ「苦しゅうない」と言っていた。


あれは、ちょっと違う。


可哀想なので、その時は何も言わなかった。


だが、あの一言で怪しまれたとは思えない。


それなら、もっと前から目をつけられていたのかもしれない。


思い当たる出来事が、一つある。


鬼人がいた村へワイバーンが襲ってきた時、クワンリは赤龍へ姿を変えた。


逃げていったワイバーンは、それを見ている。


この世界で、ドラゴンへ変身できる魔族は珍しいらしい。


クワンリのように魔族の王の血を引く者でなければ、ドラゴンにはなれない。


もし、あのワイバーンがベッサンへ報告していたなら、ここの支配者はクワンリが何者なのか知っている可能性がある。


ベッサンでは、魔性石の採掘が何十年も続いている。


王都へ大量に送り続けているのなら、こちらの鉱脈は枯れ始めているのではないか。


だから、新しい採掘地が必要になった。


外郭山脈の崩壊で見つかった、クワンリの故郷。


豊富な魔性石が眠る、まだ人族の手が入っていない土地。


人族を使い、「通商」という名前で魔性石を持ち出そうとしているのかもしれない。


ワイバーンが、この土地の支配階級なら、ドラゴンが魔族の王の血を引くことも知っているだろう。


クワンリ本人だけでなく、クワンリの故郷まで狙われている可能性がある。


そう思うと、黄昏れている場合ではない。


何とかして、この部屋を出なければならない。


しかし、扉を壊せば、こちらから正体を明かすようなものだ。


窓は開かない。


案内役も来ない。


考えても、よい方法が浮かばない。


俺だけ子供の姿になり、扉を壊さずに何とかする方法も考えた。


だが、監視されている場所で変身するのは危険すぎる。


それに、子供になったところで鍵を開ける道具もない。


無理に抜け出せても、クワンリたちを残して一人で逃げるつもりはなかった。


そのうち、陽の当たる窓辺が暖かくなってきた。


猫の本能に引っ張られ、瞼が重くなる。


クワンリが狙われているというのに。


今は寝ている場合ではないというのに。


俺は答えを出せないまま、眠りへ引き込まれていった。


   *


何か、いい匂いがする。


カチャカチャと皿の音が聞こえる。


ご飯の時間だ。


「ンンンンンンンンーん」


前足を伸ばし、背中を反らしてから、皆のいるところへゆっくり歩いていく。


俺たちは監禁されている。


それなのに、食事を運んできた担当者も、クワンリも、サルマも、オババも楽しそうに話していた。


本当に呑気な奴らである。


担当者は、申し訳なさそうに食事を二食分置いた。


朝に迎えへ来られなかったので、昼の分と合わせて持ってきたらしい。


そういう問題ではないと思う。


転生して、この世界では一日二食が普通だと知った時の衝撃は、今でも忘れられない。


三食食べるのは、働き盛りの者や裕福な者くらいらしい。


今は食事の回数より、扉が開かなかった理由である。


担当者の話では、街で政治的な問題が起きたという。


そのため、案内役をこちらへ回す余裕がなかった。


クワンリを見ると、目が合った。


ほら、監禁ではなかっただろう。


そう言いたげな、見事なドヤ顔をしている。


いや、だから外から鍵をかける必要はないだろ。


街で起きている揉め事について、担当者は詳しく話したがらなかった。


それでもオババが世間話をするように聞き出し、だいたいの事情は分かった。


山猫族とワイバーン族の間で、争いが起きているらしい。


街中が、猫の手も借りたいほどの忙しさなのだという。


俺は貸したくないが……。


って、山猫族!?


探していた。


やっと見つかった。


この土地には、本当に猫の魔族がいる。


それなら、王都に現れた思念を使う猫とも関係があるかもしれない。


俺たちは、どちらの陣営に閉じ込められているのだろう。


ワイバーン族か。


それとも、山猫族か。


そして山猫族なら、猫の姿をした魔族が、人の姿へ変わる方法も知っているのではないか。


俺は、人間に戻れるかもしれない。


 


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