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黒猫魔族の異世界社会見学【改稿版】黒猫になった俺がポンコツ魔王の娘を人間社会で教育してたら、世界を救う羽目になってしまった  作者: 5414


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第22章 ベッサン

クワンリに報告すると、やはり猫族の隠密調査員はいなかった。


猫は環境の変化を好まない。


魔族領を出るどころか、自分の家や縄張りからも、あまり外へ出たがらないらしい。


引きこもりかよっ!


いや、俺も猫だから気持ちは分かる。


安全な寝床と飯があって、クワンリがいるなら、わざわざ知らない場所へ行く必要などない。


それなら、あの猫は何者なのだろう。


王都へ現れたのは三か月ほど前。


クワンリによれば、山が崩れた時期と重なっているという。


偶然とは思えない。


山が崩れ、今まで閉ざされていた場所から何かが出てきた。


そう考えると、胸騒ぎの理由にも説明がつく。


もっとも、相手が敵だと決まったわけではない。


同じ猫なら、一度くらい話をしてみたい気もする。


野良猫たちには、見つけたら後をつけ、ねぐらを探してほしいと頼んでおいた。


しかし、目撃した猫たちは、そいつの特徴がどうしても思い出せないらしい。


白かった気もする。


黒かった気もする。


大きかったような、小さかったような。


見たはずなのに、何も印象へ残っていないという。


「潜伏を使っているやもしれん」


クワンリが腕を組み、時代劇の人みたいなことを言った。


姿を隠すのではなく、自分の印象を薄くする能力なのかもしれない。


これ以上は、考えても推測の域を出ない。


今できるのは、王都中の野良猫情報網を使って探すことだけだ。


チョビオたちへ任せ、俺たちは次の情報を待つことにした。


   *


思念と潜伏らしき能力を持つ猫がいる。


ノルから報告を聞き、私は間違いなく魔族だと思った。


しかし、三か月前から王都にいるのなら、私たちの魔族領から来た者とは考えにくい。


猫族は自分の縄張りからほとんど出ない。


まして、外郭山脈を越えて人族領へ来るとは思えなかった。


そうなると、この人族領には、以前から魔族が暮らしていることになる。


見た目だけでは、人族と魔族の違いはほとんど分からない。


違いといえば、魔族には親指ほどの小さな尻尾があるくらいだ。


服を着ていれば、見分けることは難しい。


私たちとは別に、ラナからこの世界へ渡ってきた魔族がいるのか。


あるいは、その子孫が人族に紛れて暮らしているのか。


まずは情報を集めなければならない。


ノルに頼ってばかりでは、どうにも格好がつかない。


薬の販売を早く始め、私も人族の話を聞くことにしよう。


   *


有力な情報は、意外にもサルマとの雑談から得られた。


クワンリは薬を売る準備で忙しく、鹿車へ籠もっている。


俺もサルマも相手をしてもらいたいのに、軽くあしらわれてしまった。


寂しい者同士で話をしていた時だった。


この国には、魔性石を使う魔道具の普及に大きく貢献した地方貴族がいるらしい。


俺の前世でいう、産業革命を起こしたような人物だ。


「サルマが産まれた頃からです」


ならば、二十年ほど前か。


そう思ったが、サルマは五十年ほど前だと言う。


この見た目で五十歳?


ウソだろ〜。


コロボックルの平均寿命は、二百年ほどらしい。


はいはい、さすが異世界。


人族の見た目で年齢を判断するのは難しいが、コロボックルはさらに難しい。


サルマを子供扱いしていたが、人族なら立派な大人だった。


それでも、慌てた時の様子はどう見ても子供っぽい。


衝撃から立ち直り、話の続きを聞く。


その貴族が治めているのは、王都から南西にある、山脈に囲まれた盆地だった。


昔から純度の高い魔性石が採れる、一大採掘地なのだという。


採掘された魔性石は王都へ運ばれ、魔道具工房で加工されて国中へ広がっていく。


王都で一番大きな魔道具工房は、王宮が運営しているらしい。


盆地。


魔性石の採掘地。


クワンリの故郷と、条件がよく似ている。


魔族が暮らしていても不思議ではない。


クワンリも同じ考えだった。


その盆地の名は、ベッサン。


ユイコリウス侯が治める土地である。


魔性石の有効な使い方が王宮の研究所で発見されたのは、五十五年前。


それまでの暮らしは、日本の江戸時代のようなものだったらしい。


魔道具の灯りが夜の闇を追い払い、鉄道が街と街をつないだ。


人々は便利で豊かな暮らしに憧れ、故郷を離れて都会へ集まった。


鉄道の通っていない地域へ物を運ぶため、ユイコリウス侯は気球船を発明したという。


気球船によって魔性石の採掘はさらに盛んになり、大きな鉱脈も見つかった。


便利な魔道具は国中へ広がり、人々は隣の家と便利さを競うようになった。


便利であることが、豊かであることになった。


お金を稼ぐことが人生の目標になり、やがて金が神様より偉くなる。


どこの世界でも、同じような道をたどるものらしい。


この世界で一旗揚げるなら、魔道車や魔道バイクでも作れば、異世界のフォードになれるかもしれない。


まあ、子供ノルの姿では難しいが。


そもそも俺には、エンジンの仕組みを一から作れるほどの知識もない。


前世の便利な物を知っているだけで、何でも発明できるわけではなかった。


それより今は、ベッサンへ行く方法を探さなければならない。


鉄道は山脈の麓までしか通っていない。


そこから先は、危険な山道を越えることになる。


クワンリの故郷と同じだ。


「タイホウさんに相談してみてはどうでしょう?」


サルマの提案を受け、クワンリとサルマが気球船へ向かった。


船を一隻借りるとなれば、いくらかかるのだろう。


今の持ち合わせで足りるのだろうか。


金はクワンリが管理している。


最近は騙されて変な物を買うことも減ったので、任せるようになった。


それでも、食うに困っている人を見つけると、すぐに金を渡そうとする。


今は、渡してよいのは朝食一食分ほどまで、という決まりを作って守ってもらっている。


しばらくして、二人が戻ってきた。


タイホウの気球船は整備を終え、いつでも出発できる状態らしい。


だが、動かすための魔性石がない。


気球船に使う魔性石は、荷主が用意するのが決まりだという。


近くまでなら船に残った魔力で飛べるが、ベッサンを囲む山脈を越えるには、純度の高い魔性石が必要になる。


ありますよ!


ありますともよ!


俺には、へそくりの魔性石がある。


子供の姿で穀物商人から譲ってもらった、拳ほどもある魔性石だ。


恐る恐るクワンリへ打ち明ける。


少し睨まれた。


やっぱり怒られる。


そう思った次の瞬間、両手で揉みくちゃに撫でられた。


脳が揺れる……。


「でかした!」


クワンリに褒められた。


なんだか久しぶりな気がする。


ちょっと嬉しい。


タイホウがベッサンへ行くのは、これが二度目らしい。


一年前、魔性石の引き取りを頼まれ、山脈を越えたことがあるという。


風を読むのが難しく、ひどく苦労したと苦い顔をしていた。


「オババがいれば、全然平気ですよ」


横からサルマが口を挟む。


サルマは初めてのベッサン行きが楽しみらしく、少し興奮していた。


俺が隠し持っていた三つの魔性石は、どれも純度が高かった。


航行には、一つあれば十分らしい。


残りの二つは持っていてよいと、タイホウが言ってくれた。


クワンリは皮袋へ入れ、腰から下げることにした。


近くに魔性石があるせいか、顔色もよく、身体の調子もよさそうだ。


手に入れた方法は褒められたものではない。


だが、クワンリが元気なら、持ってきてよかったと思う。


いよいよ明日、俺たちはベッサンへ向かう。


 


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