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黒猫魔族の異世界社会見学【改稿版】黒猫になった俺がポンコツ魔王の娘を人間社会で教育してたら、世界を救う羽目になってしまった  作者: 5414


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第16章 痛い

……痛い。


全身の関節が、ギシギシと悲鳴を上げている。


なんだか、寝るとこんなのばかりだ。


寝るのが怖くなる。


そんなことを言っている場合じゃない。


全身が鈍い痛みに包まれていた。


また変身でもするのだろうか。


変身する能力があるのか?


身体を痛めるだけで、役に立たない変身能力。


そんなもの、いらんわ!


   *


ノルが苦しそうにしている。


様子を見に来たサルマは、ノルの異変に気づくと、オババを連れてくると言って走り出した。


風読みの名は、ミノルバだったか。


あの老婆なら、この状況を打開する方法を知っているのだろうか。


私には何もできない。


藁にもすがる思いでノルを抱き締め、背中を撫でながら待った。


やがて、サルマがミノルバを連れて戻ってきた。


儀式に使うような道具を、いくつも抱えている。


ミノルバはノルの額へ自分の額をつけ、ぶつぶつと何かを唱え始めた。


呪文だろうか。


しばらくすると顔を離し、大きく頷いた。


「だいたいのことは分かった」


「どういうことなのだ。ノルは助かるのか?」


「焦りなさんな。今から説明してやる」


ミノルバは、コロボックルのシャーマンを務める術師らしい。


意識を神の領域へ飛ばし、天啓を聞くことができるという。


ノルがこの世界の魂ではないことも、最初から分かっていたそうだ。


「この世界にある魂の総数は決まっている」


人が山を切り開き、動物や植物が減ると、人の魂が増える。


逆に人が減れば、草木が生い茂り、野生の動物が増える。


そうして、人と自然の魂の釣り合いが保たれているのだという。


だが、ノルはその摂理に組み込まれていない。


大人の猫なら問題は小さかった。


しかし、成長途中の子供になったことで、身体の成長速度に異常が起きているらしい。


「このままでは身体がもたない。猫に戻す呪術を行う」


人や動植物には、それぞれ神が宿っている。


ミノルバは、その神と話すことができるそうだ。


本当かどうかは分からない。


だが今は、信じるしかない。


呪術はコロボックルに伝わる秘術なので、私は部屋の外へ出なければならない。


ノルを強く抱き締め、頭へ口づけた。


「必ず、助けてやってくれ」


ミノルバは黙って頷いた。


私はノルから手を離し、部屋を出た。


どうか神よ。


ノルを助けてくれ。


   *


オババに額をくっつけられた。


誰と話しているのかは分からない。


少なくとも、俺ではない。


クワンリへ魂の総数がどうとか説明しているが、頭が回らない今はどうでもよい。


とにかく、この痛みをなんとかしてほしい。


俺の周りを、オババとサルマがうろうろしている。


顔へ布を被せられ、そのまま全身をぐるぐる巻きにされた。


何をされるんだろう。


ちょっと怖いんですけど。


クワンリ、助けて。


口元だけ開いた隙間から、渋くて青臭いものを流し込まれる。


鼻をつままれ、苦しいので仕方なく飲み込んだ。


すると、少しずつ痛みが和らいでいく。


身体が熱くなり、意識がぼんやりしてきた。


また、黒い霧が見える。


変身するのか。


それとも、このまま死ぬのだろうか。


理想とは、だいぶ違う死に方だな。


そんなことを考えながら、意識を失った。


   *


どれほど待っただろう。


部屋の扉が開き、ミノルバが出てきた。


「秘術は終わったよ」


私は立ち上がり、駆け寄った。


「強制的に猫へ戻す呪術を使った。しばらく経過を見たい」


ミノルバによれば、この船はカイゼルへ寄ったあと、そのまま王都まで向かうらしい。


「カイゼルでは降りず、王都まで乗っていな。タイホウには、ワシから話を通しておく」


「しかし、そこまでしてもらうわけには……」


「サルマは、お前から高価な魔道具をもらったのだろう。気にせず、こやつの面倒を見てやることだ」


そう言うと、ミノルバは行ってしまった。


部屋へ入る。


ノルは布で巻かれたまま、ベッドに寝かされていた。


サルマが、その傍らについている。


布の隙間から、黒い霧が漏れていた。


『心配しなくて大丈夫。猫の姿へ戻っている途中だから』


サルマはそう言うが、不安は消えない。


私はベッドの横へ座り、布の上からノルの身体へ手を置いた。


黒い霧が消えるまで、ただ祈りながら待ち続けた。


   *


母を思うと子供に。


恋しい女を思うと猫になれる。


ふざけてないですか、神様。


見ていて、さぞ楽しいでしょうね。


あれから三日。


四回ほど変身を繰り返した結果、ようやく分かった。


最初に猫から子供になった時、俺はクワンリを母親のように感じていた。


一人で目を覚まし、心細くて泣きそうになった時は、


俺はおじさんだから泣かないもん。


そう自分を励ましながら、猫の姿でクワンリへ告白した夜を思い出した。


すると黒い霧に包まれ、猫へ戻った。


あとの二回は、クワンリとサルマとオババの前で試した。


どう使えというのだろう。


猫の身体は役に立つ。


子供の身体は、まったく使い道がない。


クワンリは、俺のことをオババと相談すると言って部屋を出ていった。


一緒に行くと言ったのだが、病み上がりなのだから安静にしていろと止められた。


今は猫へ戻り、慣れ親しんだ身体でご機嫌だ。


カーペットをガジガジする。


ソファーの下へ仰向けに潜り込み、底へ爪を立て、背中を床に擦りながら進む。


なかなか楽しい。


大きな蜘蛛と目が合った気がする。


固まっている蜘蛛へ、早く逃げろと思念を送った。


虫には通じないらしい。


仕方ない。


続きをやろう。


逆ガジガジ、気持ちいい。


遊び疲れて昼寝をしていると、クワンリが戻ってきた。


オババと俺の身体について考えていたらしい。


本人の前では言いづらい話もあるので、置いていったという。


正直なやつだ。


だが、なんかむかつく。


(クワンリさん。俺を見てもらえませんかね)


クワンリは、なかなか目を合わせようとしない。


話によれば、俺の人型は今の子供の姿で、黒猫が獣落ちした姿らしい。


子供の姿で長く過ごすと、身体が異常な速さで成長する。


あの痛みは、骨や筋肉が急激に成長していたためだった。


身体へ負担をかけないよう、少しずつ人型へ戻り、また猫になる。


それを繰り返せば、長い時間はかかるが大人の姿になれるという。


ただし、年を取れば老化も異常な速さで進み、すぐに死を迎える。


これが、クワンリが目を合わせてくれない理由なのだろう。


なら、人型にならなければよい。


そう考えたが、獣落ちした姿で長く過ごせば、今度は心が獣へ引っ張られる。


人であったことを忘れ、本当の獣になる。


それが、魔獣だという。


人型が死なないため、不死身に近い。


傷はすぐに治り、首を落とさなければ死なない。


長く生きる魔獣は、狡猾で賢い。


そして、人型への渇望から、人を食う。


ネズミも追いかけなかった。


さっきだって、蜘蛛を逃がしてやった。


逆ガジガジは、ちょっと気持ちよかったけど……。


何を動揺しているんだ、俺は。


それでも、八方塞がりではないか。


人の姿なら、身体が急激に老いていく。


猫の姿なら、心が獣になっていく。


おいおい……。



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