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黒猫魔族の異世界社会見学【改稿版】黒猫になった俺がポンコツ魔王の娘を人間社会で教育してたら、世界を救う羽目になってしまった  作者: 5414


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第13章 風読みと赤龍

気球船は、予定より一日早く牧場へやってきた。


食料品や日用品を降ろしていた船長は、タイホウと名乗った。牧場主とは、馬車で行商をしていた頃からの長い付き合いらしい。


私たちをカイゼルまで乗せることも、快く引き受けてくれた。


船賃は牧場主から受け取っていると言い、湯浴みのできる便所までついた個室へ案内される。


随分と奮発してくれたらしい。


鹿車と一角鹿も一緒に載せられる。


乗組員は十人ほど。ほかに、四人部屋へ獣人が三人、二人部屋へ穀物商人と助手、もう一つの二人部屋へ風読みの老婆と孫娘が乗っていた。


今日は荷を降ろし、明日、牧場の加工肉や乳製品を積み込んで出発する予定だという。


久しぶりの地上だから、今夜は牧場の肉で焼肉をすると船長は喜んでいた。私たちも誘われた。


ノルへ伝えると『バーベキューだ』と訳の分からない言葉を使った。


だが、とても嬉しそうなので、私も頬が緩んだ。


そこへ、風読みの孫娘が訪ねてきた。


私が薬や魔術具を作ると聞き、話をしてみたかったらしい。


少女の名はサルマ。祖母はミノルバ。二人はコロボックルという種族で、天候を見極め、気球船の運航を助けているという。


サルマの背丈は、私の腰ほどしかない。子供だと思ったが、すでに成人しているらしい。


『気球船は高度を変え、目的地へ向かう風の道へ乗る。風読みの腕で、着くまでの日数が大きく変わるのだ』


サルマは誇らしそうに胸を張った。


彼女の故郷は、外郭山脈の麓にある大樹海だという。コロボックルは昔から、農業、漁業、海運など、天気に左右される仕事場へ派遣されてきた。


風読み協会が仕事を斡旋し、最近は気球船が増えたことで、腕の良い者は引っ張りだこらしい。


サルマは、祖母が引退する前に一人前になるため、同行して修業をしている。


『いろいろな場所へ行けるから、私はこの仕事が好きだ』


照れながら言う姿が、微笑ましい。


薬草にも詳しく、私とは話が合いそうだった。


猫が好きなのでノルへ触ってもよいかと尋ねられたが、ノルの機嫌次第だと答える。


ほかの女へ撫でられるノルを想像すると、なぜか心がざわついた。


自分の心の狭さを恥じていると、サルマが薬の調合を見たいと言った。二人で鹿車の荷台へ向かう。


孤児院で使うために作ったが、効果が今ひとつだった魔術具を譲ると言うと、サルマは高価な物は受け取れないと涙目になった。魔術具がなければ薬を作れないと説明し、ようやく受け取らせる。


それでも祖母に怒られると心配していた。


二人で薬を作っていると、ノルが呼びに来た。もうそのような時間になっていたらしい。


サルマと顔を見合わせ、笑った。好きなことをしていると、時間が過ぎるのを忘れてしまう。


サルマがノルへ手を伸ばし、猫パンチを受けた。可哀想なので、少しだけ触らせてやってくれと頼む。


先ほどのざわつきは、不思議なほど消えていた。


ノルは私以外には懐かない。


少し誇らしい。


私も心が狭いな。


精進しなければ。


   *


バーベキューと聞き、猫の身体になったことを悔やんだ。


人の身体なら、もっと楽しめたはずだ。


猫の胃では、少ししか食べられない。食べ過ぎれば胃がもたれるし、吐くことになる。


毛玉を吐くのも苦しいが、美味い物を吐くのは勿体ない気持ちまで加わるので、もっと苦しい。


会場を巡回していると、準備ができたらしく船長がクワンリを捜していた。鹿車の荷台へ迎えに行く。


クワンリと小さな女が楽しそうに薬を作っている。


なんだかクワンリを取られたようで面白くない。


その女が俺の頭を撫でようとしたので、猫パンチで断った。クワンリに少し触らせてやってくれと頼まれ、仕方なく背中だけ許す。


本当は、頭は信頼できる者にしか触らせない。孤児院の子供たちは例外だ。


子供には甘い猫なのだが、この女は見た目だけが子供で、実際は違うらしい。


だから頭は触らせない。


机から降りる。


「んにゃっ」


どうしても着地の時に声が漏れてしまう。


『可愛い!』


背中で声を聞きながら、会場へ向かった。


俺はクワンリにしか懐かないのだ。


俺も心が狭いな。


精進しよう。


   *


翌朝、ミノルバの指示で気球船が浮き上がった。


最初は進行方向とは逆へ流されたが、高度を上げると船首がゆっくりカイゼルへ向いた。魔道機関のプロペラは、離陸時の微調整に使っただけだった。


あとは風へ乗り、風切り音だけを残して静かに進んでいく。


船体は気球から吊られているのではなく、直接取りつけられているため、これでも揺れは少ないらしい。


船酔いで寝台へ沈むクワンリへ、サルマがそう説明していた。


窓の外では、小さな雲の群れが同じ速さで流れている。


幻想的な景色だった。


俺は船内を巡回し、荷室の一角鹿も見てきた。これといって問題はない。


この一角鹿は寡黙で男前だ。


ネズミも見つけたが、後ろ髪を引かれる思いで見逃す。無駄な殺生はしたくない。


だが、猫じゃらしの時のように本能へ支配されたら、止められるか少し不安だ。


気がついたらネズミを咥えていた、では洒落にならない。


カイゼルまでは、うまく風の道へ乗れれば二日ほどらしい。


障害物のない空は、やはり早い。


クワンリの様子を見に戻ると、少し良くなったのか、魔草をふかしていた。


一鳴きして足首へ擦り寄ると、いきなり抱き上げられ、全身を撫で回される。嫌いではないが、今はそういう気分ではない。


身体をくねらせて逃げた。


俺は猫じゃらしで遊んでほしいのだ。


まだ本調子ではないと断られたので、窓辺の小机へ飛び乗った。


雲の切れ間に、大きな鳥のような影が見えた。


数羽が船と一定の距離を保って飛んでいる。


第三の目で視力を強化した。


翼竜だ。


さすが異世界。


感動している場合ではない。


(クワンリ! 翼竜が並走してる。どうしよう)


クワンリは魔草を深く吸い窓の外を確認した。


『ノルはここにいろ。私が船長へ話してくる。いいな、ここにいるんだぞ』


ふらつく足で部屋を出ていく。


心配だ。


気づかれないようあとを追った。言いつけを破るが、心配なのだから仕方がない。


船長と短く話したクワンリは、航行中立入禁止の甲板へ向かった。


何をするつもりだ。


魔術で翼竜を攻撃するのか。


だが、魔族は攻撃魔術を使わないはずだ。


甲板を見渡せる窓を探し、様子を窺う。


クワンリは服を脱ぎ始めた。


全裸になった。


均整の取れた身体だ。


どぎまぎしながら幸せに浸っていると、クワンリは目を閉じ何かを唱えた。


赤い霧が身体を包み、激しく渦を巻く。


見えなくなった。


残念だ。


霧が一斉に散った。


甲板の上に、赤黒い鱗を持つ巨大な龍が立っていた。


龍というより、ドラゴンだ。


ドラゴンは甲板を蹴り、翼竜の群れへ一直線に飛んだ。


何がトカゲだ。


レッドドラゴンじゃないか。


獣落ちの正体は、トカゲではなかった。


クワンリは翼竜の周囲を旋回し、腹へ響く声で吠えた。


次の瞬間、口から青と黄色の混じった光を吐いた。


光は翼竜のすぐ脇を走った。


当てていない。


脅しただけだ。


翼竜たちは叫び声を上げ、雲の向こうへ逃げていった。


それを見届けたクワンリは、船の死角から甲板へ戻る。


すげえ。


クワンリ、無敵じゃねえか。

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