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黒猫魔族の異世界社会見学【改稿版】黒猫になった俺がポンコツ魔王の娘を人間社会で教育してたら、世界を救う羽目になってしまった  作者: 5414


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第11章 クワンリからのご褒美

旅に出てから、初めての村へ着いた。


案内書によれば、乾季には木材を伐る者や買い付け商人で賑わうらしい。だが、雨季の今は通りを歩く者も少なく、商店や食堂、宿まで休んでいるところが多かった。


少し高かったが、湯の使える宿を選んだ。


クワンリも一応、年頃の女の子である。


もちろん、ペットも泊まれる。一角鹿の世話までしてくれるという。


実に良い宿だ。


宿の主人へ薬を売ってよいか尋ねると、特に許可はいらないらしい。


この村にも薬屋は何軒かあるが、あまり効く薬はなく、雨季には店を閉めているところが多いという。


俺たちは鹿車を宿の前へ出し、移動薬局を開いた。


最初は薬を少量ずつ試してもらい、効いたら周りへ教えてほしいと頼む。


初日こそ暇だったが、二日目の朝には、開店前から人が並んでいた。


虫刺され、腰痛、腹痛、古傷の痛みに悩む者。


クワンリは、症状を診てから調合しなければ効きが悪いと言い、作り置きをしない。


虫除けのように誰でも使える物だけは並べて売ったが、それ以外は一人ずつ話を聞いて薬を作る。


人と話すのは苦手なくせに、頼られると張り切ってしまう。


日が暮れ、宿の主人が夕食の用意ができたと呼びに来るまで、クワンリは働き詰めだった。


さすがに、ぐったりしている。


薬を売るのは三日間だけと決めていた。明日一日頑張れば休めると励まし、食事を済ませ、風呂へ入る。


クワンリは寝台へ横になった途端、眠ってしまった。


俺は構ってほしくて腹の上に乗り、前足で頬を押した。


起きない。


仕方がない。


接客が苦手なのに、今日はよく頑張った。


お疲れ様でした。


おやすみなさい。


   *


最終日の朝になっても、クワンリは起きなかった。


心を鬼にして、鳩尾へ飛び込む。


「んにゃっ」


『ぐふっ』


二人で変な声を上げた。


なぜか俺まで、着地と一緒に声が漏れてしまう。


飯は食ったか。顔は洗ったか。薬草は持ったか。


ふらふらしているクワンリを送り出し、俺は納屋へ向かった。


今日は、この村の野良猫たちの集会へ招かれている。普段は夜中に開くらしいが、俺の事情を考えて昼にしてくれた。


クワンリが、挨拶代わりの干物を木箱へ入れてくれている。


野良猫たちが集まり、鼻や身体を擦り合わせ、匂いを嗅ぎ合う。それぞれが落ち着いて毛繕いを始めた頃、俺は木箱の蓋へ爪をかけた。


干物が姿を現す。


ミャー。


ニャー。


ワオオ。


納屋の中に、どよめきが起こった。


よし。


これで、この村の情報も集めやすくなる。


   *


昨日の夕方、へろへろになって帰ってきたクワンリが言った。


『ノルよ。いつまでもお前に頼ってばかりでは情けない。明日は一人で買い物の練習をしてみたい』


買う物は決めてある。余計な物は買わない。


可愛いことを言う。


帰り道が分からなくなったら、野良猫へ助けを求めれば宿まで連れてきてくれると教えた。


それならばと、一人で行かせることにした。


何を買ってくるのか、少し楽しみでもある。


どうせ、ろくでもない物を掴まされるのだろう。


だが、それを見てみたいと思ってしまう。


朝から雨だった。


仕事の日には起きなかった女が、さっさと支度を済ませ、宿の主人から合羽を借りて意気揚々と出ていった。


楽しそうなので、水を差すのはやめておく。


そこまで野暮ではない。


野良猫たちが交代で後をついているから大丈夫だと、自分へ言い聞かせた。


どうやら俺は、クワンリのことが相当に好きらしい。


猫の身でありながら、お恥ずかしい限りである。


雨なので、宿の中を巡回して過ごした。


途中でネズミを見つけたが、見逃してやる。人としての理性は、まだ残っていた。


さすがにネズミは咥えたくない。


昼寝をしていると、クワンリが帰ってきた。


おかえりのニャーで迎える。


寂しかったので仰向けになって甘えてみると、クワンリはにやにやしながら目を細め、腹を撫でた。


買ってきた物は、革紐、釣り竿、それに造花や羽根で飾られた派手な帽子だった。


釣り竿は、旅の途中で新鮮な川魚を捕まえるためだろうか。


帽子は、クワンリには似合いそうにない。


だが、本人が可愛いと思ったのなら黙っておこう。


クワンリは鹿車の荷台で魔術具を作ると言い、買った物を抱えて部屋を出ていった。


しばらくして、昼寝をしていた俺の目の前で鳥の羽根が揺れた。


右へ。


左へ。


周りに薄い膜が張られたように、音まで聞こえなくなる。


羽根が揺れている。


揺れている。


我慢できずに飛びついた。


ひらりと躱される。


追う。


跳ぶ。


また躱される。


くそぉ。


あと少しで届くのに。


もう一度跳び、今度は爪へ引っかけた。


羽根を咥え、お気に入りの寝台の下へ持っていく。


息が上がっている。


だが、ものすごく楽しかった。


何なんだ、これは。


寝台の下から顔を出すと、クワンリが釣り竿を持っていた。竿についた革紐は、俺が咥えている羽根へ続いている。


今、はっきり分かった。


猫じゃらしだ。


あの帽子の飾りは、この羽根を手に入れるためだったのか。


『ノルよ。いつも世話になっている礼だ。気に入ったか?』


クワンリは少し照れたあと、俺の腹を見た。


『最近、少し太ったのではないか? 寝てばかりで運動が足りないと思ってな』


余計なお世話だ。


『それに……私も、お前と遊びたかったのでな』


クワンリさん。


ありがとうございます。


   *


三日ごとに開かれる市の日が来た。


近くの農家や旅商人が集まり、静かだった村が朝から別の場所のように賑わっている。神殿広場には、色も形も様々な屋台と天幕がひしめいていた。


中東のバザールみたいだ。


行ったことはないけど。


クワンリは、一人で買い物ができるようになった成果を見てほしいと言った。


今日は二人でショッピングデートである。


猫の姿なのが残念だが、俺も浮かれている。


早速、色つきヒヨコの露店に捕まったクワンリへ、ただのヒヨコに色を塗っただけだと教えて引き離す。


次に足を止めたのは、三つの小箱から印の入った一つを当てる賭け事だった。


客を何度か勝たせて掛け金を上げ、最後に中身のない箱とすり替える。


古典的なやつだ。


俺がついている。社会勉強として、一度やらせてみた。


クワンリは全部当てた。


店主の手元へ視力強化を使っていたらしい。


少しずるい気もするが、向こうも人を騙している。店主が可哀想になってきたところで切り上げた。


屋台の食べ物は味が濃いので、俺はクワンリから少しだけ分けてもらう。


ベンチでイカ焼きを食べながら市場を眺める。


ろくに買い物はしなかったが、活気のある市を歩くのは楽しかった。


途中、人混みに酔ったクワンリがぐったりしてきたので、宿へ戻る。


猫の姿ではなく、人の姿でデートしたかったな。


明日は一日休み、明後日から再びカイゼルへ向かう。


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