フリードリッヒ王国 第9話 魔力減少と連携不全
「なんだ、その辛気臭い顔は」
「初討伐祝いを城下でやるだろうからと、帰るのを伸ばして待っていたら。まあいい、話してみろ」
「なんだ、連携の話か。今日初めて、討伐に行ったんだろ、いくら訓練で見知っているからって、どのタイミングで槍で突くとかわかるもんじゃないだろう。」
「そうだぞ、何年も一緒にやって、相手の癖と技量を体で覚えなければ、相打ちで叩かれたなどかわいいもんだ」
「それでは、困るのです。これからさらに、連携訓練に時間を掛けていられないのです。また、討伐に出てケガをすれば、その対策に別の訓練が必要になり、さらに支障となります」
「ケガって、そこのシスターが治してくれるだろう」
「ケガは治っても、受けた時の痛みや動けなくなった恐怖は、忘れられないのです」
「まあそうだな、解決は、連携を体に覚えさせるしかないか」
「そっちは、何とかできるかもしれないが、こっちはかなり深刻だぞ」
大男は、姉さんを見て言った。それが何を意味するのか、分かっているのは爺様だけのようだった。
「嬢ちゃん、魔力は回復しているかな?」
「はい、完全ではないですが」
「では、鍛練場にいってみようか、そこで見てもらおう」
人払いをして誰もいない鍛練場。
「では、ここの真ん中に、ゴブリンの群れでやった魔法を二発やってみてくれ。今ある魔力が無くならないように加減してやればいいよ」
「範囲を小さくしていいならやれます。・・・・じゃ、やります」
【バーストフレア】
ゴブリンの群れに放ったよりやや小さいが、それでも鍛練場に火球の雨が降り注ぐ。
「・・・・」
「え?魔法が」
「それを、経験した魔法使いは『ドツボにはまった』と言っている。
魔法のイメージは出来るが発動しない。
もっとも保有する魔力以上は発動しない様に体が制限しているのだが」
「ええ、だから今日は、2発で90%程に調整しました。」
「聞いた話から、消火に使った魔法は残魔力をあまり考えずに、大丈夫だろうと甘い制御で、イメージした範囲で撃ったのだろう。
甘い制御では、威力が弱くなるのだが、消火というイメージから威力を下げる事が出来なかったのだろうな。
結果、考えていた魔力より多い魔力が引き出された。それは、残魔力より大きかったのだが、無理やり引き出す必要がある。
魔力が0になれば魔力枯渇というが、これは魔力の過剰放出と言える状態になる。不足する魔力は、強引だが魔素を使うしかない。しかし、周囲から集める時間は無い。結果、体を構成している魔素を分解し魔力の補助とした。
そこで起こったのが、魔力枯渇と体内の維持不全という、精神異常と激痛。それこそ生きるのがつらいと思えただろう。
あとは、分かるだろう。魔法のリミッターがより強固になり、安全値が増え
たのだ。
魔力使用は、今までの70%から50%まで低下しているはずだ。だから、一発は撃てても次は、体が危険と判断して撃てなかった。という事だろう」
「え、じゃ魔法を使えないのは、体の問題ですか」
「そのはずだ、さっきより小さめで撃ってみればわかる」
「はい」
【レインウォール】
バーストフレアよりかなり小さな範囲で、水塀が立っている。
「出来ました、でもこれでは」
「そうだね、使用できる魔力が減る事になる。嬢ちゃんの魔力は、魔法使いとしては一般的な量だが、それに制限がかかる事になったのだが、それでは困るだろう」
「はい、どうすれば直りますか?」
「魔力の総量を増やすか、精神的な問題だからそれを克服するば、今までと同じ様になるけど、」
「総量を増やす事が出来るのですか?」
これには、兄さんも興味があるようだ。
「こっちは、錬金術の範疇だと聞いた事があるが、兄さんは、なにか聞いていないかい?」
「薬を開発したと聞いています。ただ、飲んでも総量が増えた魔法使いは少数でしかも期待していた量ではなかったようです。」
「そうだね、こちらの情報も同じだ」
「薬ですか、兄さんも作れますか?」
「聞いている範囲なら作れるが、おそらく重要な所は隠されているだろうね。
作り方は、それほど難しくない。上位体の魔石を砕いて飲むだけだ、ただこれだけでは、効果はないと分かっている。それに何かを混ぜ合わせているだろうと言われている」
「魔石を飲む・・」
「そう、魔石は魔素を蓄えるけど、それ以外に魔力を蓄える事も出来るのは、姉さんも知っているだろう。
空になった魔石に、魔力を補充するやり方は昔からやっていたので、魔石を体に埋め込んでやろうとしたけれど、魔力の受け渡しが出来なくて断念したんだ。
それで、体内に魔石を作らせようと考えられて、粉を体内にいれて魔石を作るという事なんだけどうまくいっていないようです」
「上位魔石って、どんな魔物から取れるんですか?」
「オークでは、失敗して。その上位のオーガで多少の結果が出た、と聞いてるよ」
「オーガ以上ですか」
「それよりも、使用できる魔力を戻した方が現実的ではないかね」
「そうですが、どうすればいいか分かりません」
聞いていた王子、何か閃いたようだ。
「私に任せてもらえるかな、あとで説明するよ」
「この様子では、もうしばらく滞在するしかないか」
「そうだな、村に連絡をいれるよ。連携がより早くできる方法だが、無いわけではない、どうするね」
「ぜひお願いします、でもどうやるのですか?」
「確実で短時間にできるやり方だと、型を決めて何度も繰り返すのが確実だな」
一の型。強敵な単体戦を想定。
ぼうが、矢を射った後、迂回して遊撃位置に待機。
兄さんも矢を射って、ぼうの反対に迂回、近接は苦手なので弓を準備して待機。
姉さんは、ほぼ同時に射られた直後に、魔物が使用する反属性の魔法を発動(反属性が不明、または無い場合は火魔法を使用)。
王子は、魔法の発動に合わせて接近、盾で相手の動きを止める。この際、剣を使用する事より、いかに動きを封じるかを考えて動くように。
きしは、王子より半歩遅く接近、封じられていれば剣で攻撃、まだの場合は盾を使用して、動きを封じる。
この後は、封じる役目と攻撃する役目を、お互いに意識して連携する。
姉さんは、次弾の準備。必要なら近接の二名に離れてもらうか、大型の標的なら撃つことを両名に理解させ、次弾を撃つ。
ぼうと兄さんは、迂回後、近接の二名の邪魔にならないように矢を射る。なお、小刀で効果が期待できる場合は、接近しても構わないが、事前に合図等で周知させる必要がある。相打ちを防ぐためである。
シスターは、後方待機。戦い全般の動きを見て支持をだす。
「えー?私が指示ですか、それは王子様の役目ですよね」
「余裕があるならいいが。強敵の場合、私ときしの連携で余裕がないだろう。全体を見渡せて指示する者が、いるんだよ。大丈夫だよ、君ならできるさ」
ぼうと従士隊は、王子に言われて野犬を捕らえてきた。もともと、貴族の夜間防犯用に飼われていたのだが、うるさいと苦情があったり、飼育に問題があり逃げ出したりと、王都には討伐依頼が出る程住んでいた。
特に気の荒い犬をと言われたので、口を布で縛って嚙まれないようにしてある。
杭を打ち、そこに犬を縛る。防護の箱で覆い、中でロープを外せる様にして準備ができたところで口の覆いをとる。
「では、半分の魔力で【アイスウォール】を作ってくれ」
【アイスウォール】
姉さんと犬の間に氷の壁ができる。
「こっちに来て。そう、犬が見える位置にね。」
王子は、クロスボウを犬に向け撃つ。攻撃されたと、王子に向かい猛烈に吠え出す。
「いいよ、離してくれ」
ロープが外され、吠えながら勢いよく王子に向かってくる。
隣の姉さんは、蒼白になり王子の手を握って震えている。
王子に噛みつこうとするが、そこまでの長さがないロープは、急激に胸を絞めて立ち止まった。
目の前で、吠えられる。いくら胸と前足を交差して縛ってあっても、怖いものは怖いのだ。
犬は、ぼうがロープを手繰り寄せて、さっきの位置に戻された。
「また放すよ。今度は、私はこっちで見ているかね。犬が来る前に、その氷壁の隣にもう一個つくるんだよ」
やる事は、理解できた。リミッターを解除するため、恐怖に打ち勝って氷壁を作らせようとしていると。
しかし、野犬の血走った目と牙から垂れる涎が恐怖を駆り立てる。もし、杭が引き抜かれたら・・・
恐怖で、魔法どころではなかった。
慣れていくと魔法のイメージは出来たが、発動はしない。安全だと体が理解したので、魔法はリミッターを外してまで不要なのだろう。
「しょうがないね。もう少し前に行こうか」
「え!嚙まれます」
「姉さんは、兄さんから魔力障壁を教わっているようね」
「まだ不完全です。怖いです」
「シスターも見ています。自信を持って発動してください」
「そんな無責任な」
「じゃ、外してくれ」
「キャー」
悲鳴と同時に
ギャ!キャンキャン・・
吠えながら向かってきた野犬は、急に立ち上がった氷の壁に鼻をぶつけ、キャンキャンと鳴きながら横になり苦しんでいる
一方姉さんは、かなり怖かったようで、座り込んで震えていた。
「ぼう、犬を始末してくれ」
一度リミッターが外れれば、あとは複数回同じ訓練をやればもとに戻るだろう。
「ほほう、こんな治療法があったか。いい土産話が出来た」
大男と爺様は、もう大丈夫だろうと村に帰っていった。
午前は、基礎訓練。午後は、型をなんどもやり連携訓練。暗くなる前に、姉さんの魔力回復訓練。
あと少しで、王都の訓練も終了する。




