ガミリア共和国 第42話 北門の英雄⑤ 瓶の量産は可能?
朝食の準備は、始まったばかり。
その前に、昨日言った魔道具を見る事にする。
搬入口に近い場所にそれはあった。
広口の甕。
大きさは、俺の胸の高さ。
最も、角材で底上げしてあるので、その分は高いが。
上からのぞき込む。
ジョウロの広がった先が見える。
その穴は、程よく小さい。
よほどゴミを取りたかったようだ。
底との高低差は、わずか。
徹夜で調整してくれたのだろうか。
今度は、下から。
底から伸びた、ジョウロが見える。
ジョウロの先から管が伸びていて、腰ほどの魔道具につながっている。
魔道具には、6か所の取り出し口があり、その1つを使っている。
もう5個、同じ装置が出来るようだ。
台に上がり、底を指さす。
「これに、パッキンを挟んでくれた?」
「おう、心配するな。ちゃんとついている」
「水で実験しても?」
「まあ、多少は漏れるだろうが問題ないぞ」
桶に水を入れ、カメの1/3程にする。
下を覗く、多少水滴が落ちているが、スライム体液の粘度なら漏れる心配は要らないようだ。
魔道具を動かしてもらい、空気を送り込む。
カメの中に気泡が生まれ、ブクブクと現れては割れていく。
体液ならもっと少なくてもいいのだろう。
調整を頼むと、気泡の数が半分になった。
いい具合だ。
管を折り、魔道具から外し、外に排水する。
あとは、スライム瓶の作成だが。
「知り合いに手伝いを頼んだ。朝来ていただろう」
机に並んでいた3人で間違いないようだ。
こちらの装置は、工房の手伝い程度の知識で出来る。
経験者は、瓶を作ってもらう事になった。
昼過ぎには、瓶の鋳型も100本分になるとか。
準備が大急ぎで進んでいく。
朝食後、作業台を並べ、瓶の製造工程に合わせる。
流れ作業で、一気に量産しないといけない。
おそらく、北門の注文だけでなく、町全体から瓶を買いに来そうだ。
もうひとつ問題がある。
血止めと痛め止め、薬草が全然足りない。
工場に残された薬草の粉末、手伝いの工房と薬師からも出してもらうが、10本も出来ればいいところだろう。
聞けば、町全体にも在庫は残っていないそうで、これから作る分は、採取する必要がある。
ポーションを作る工程も流れ作業が出来る様に、作業台を並べていく。
手伝いの工房と薬師から、器具をだしてもらう事にした。
工場の器具は、あくまで実験用。
規格はみたしているが、数が足りない。
昼過ぎ、一通り準備が終わる。
二人の冒険者が、荷車にスライムを乗せて帰って来た。
標準サイズ換算で、108匹。
湿地の周りにいたスライムを集めたようで、中央にはもっと居たそうだ。
一応、集めすぎない様に言っておく。
評価後、表皮を切り体液を壺に入れる。
表皮は、従来の製法で”スライム瓶”へと加工される。
108匹なで、10本か11本になるだろう。
壺が満たされると、カメに入れていく。
カメの1/3がスライムで埋め尽くされている。
小型のスライムプールのようで、表面がうねっている。
魔道具を動かし、空気を送る。
指の先ほどの泡が、ゆっくりと上がっている。
体液から出た泡は、割れるでもなく、下の泡に押されて上へ上へと増殖していく。
「これは」
泡が割れずに増殖するのは、想定外。
工場主を見ると、面白い実験を見ている様子の爺さんがいた。
「この泡、消せないですか」
「そうじゃな、体液の粘度が問題なのだろう。
薄い体液ならいいのだろが、そうじゃな」
爺さんは、寝場所に行くと、小脇に抱えて瓶を持ってきた。
俺の隣の台に上がり、瓶を軽く振り中身をまいていく。
魔法の様に泡が割れる。
「すごい、それなんですか」
「わしの寝る前の楽しみじゃ」
カメから、わずかにアルコールの匂いがする。
「ああ、それで」
いそいで酒屋に注文、準備が整う。
バタバタする事1時間後。
カメの中、スライムの表面が固くなっている。
工場にあった暖炉のひかき棒で集め、壺に入れていく。
瓶の制作机に持っていき、陶器の皿に流し込む。
「まだ柔らかいかな」
「どうでしょう、裁断してみますね」
結果、もう少し固い方が良いとの事。
放置する時間を、延ばしてみる。
半日で、108匹のスライム体液が半減した。
そこから、表皮300匹分が取れる。
これから、スライム100匹で700匹分の表皮が出来るだろう。
ただ計算上なので、常にスライムは補充する必要がある。
さらに嬉しい長所があった、通常スライムを裁断し体液を流し込んで原液を作るのだが、表皮と表皮付着している行程途中の体液だけで体液の補充が不要になった。
これにより1行程が不要になった。
もう一つ分かった事がある。
裁断後の攪拌により原液をつくるのだが、アルコールを入れすぎると、固化材を入れても体液のままだった。
後は、流れ作業になる。
今は1ラインだが、明日には瓶は2ラインに出来るとの事。
瓶がそろえば、薬草採取に人を裂き、ポーションも2ラインに出来るだろう。
カメの中を覗いていた仲間が、不思議なのか聞いてきた。
「なあ、空気を入れると皮になるのか?」
「そうだね、実際なっているし」
「だったら、最初からこうやればいいんじゃないか?」
「だれも体液が、表皮になると思っていなかったからだね」
「そうなのか?」
「今までの考えでは、
”表皮は特別な成分で作られていて、体液で作られ表皮に送っている”
と、考えていたからね」
「そうじゃなかったと・・それに気づいたのか」
「前から不思議だったんだ。
あの爺さんと話をして、確信できたのさ」
この実験がうまくいったので、カメを5個発注する。
ジョウロの口は、もう片方の工場主の手作りだそうで。
それも5個発注。
3日後に揃うようで、4日からフル生産体制が出来る。
その間に、
瓶製造ラインの増設。
ポーションラインの増設。
ポーションの種類を増やす。
瓶詰めラインの新設。
ライン要員の確保。
スライムと薬草採取。
瓶を入れる木箱の準備。
ここでは作れない、固化材の発注。
まだまだやる事はある。
4日後から、瓶だけの出荷も始まった。
各ギルドから、要望が日切りなしに来ていた対応になる。
5日目。
工場関係者に限ると、以前の状態に戻っていた。
6日目。
北門および港に出入りする住民は、ポーションに困らない。
東門と南門の冒険者も、ギルドに行けばポーションを買える様になっていた。
7日目。
一部の工房や薬師で、瓶が足りないようだが、全体でみれば以前の状態に戻っていた。
その夜、仕事を持っている従業員の解散式が行われた。
ただ、スライムはまだ回復しておらず、工房では瓶を作成できない。
これ以後も、工場は瓶を大量生産し、工房は工場から仕入れる体制へと変わっていった。
なお、このレシピは錬金ギルドに売られた。
裏話。
当初、瓶は比較的高額で売っていた。
しかし、事情が変わる。
この工場、元の所有者が破産して逃走。
出資していたギルドや工房の共同所有になっていた。
不正使用が発覚したのは、瓶工場になった後。
瓶を受け取りに来たギルド職員から聞いたギルド長は、頭を抱えてしまう。
しかし、爺さん達は、
レシピ代金や瓶の売り上げを使い、工場を買い取ってしまう。
さらに、全部の借金を返済すると瓶の値段を下げてもいる。
中級ポーション瓶や高級ポーション瓶の製造を始めるのは、もう少し後の話。




