ガミリア共和国 第39話 北門の英雄② スライム瓶創製
俺たち3人とリーダー8人、なぜか着いてきた扉の爺さんは、工場主の爺さんから指示され、工場の片づけをやっていた。
新しい工房に来ると、必ず片付けさせられる。
文句を言ってもしょうがないんだが、思わず愚痴が出る。
魔道具を移動、道具を戻して、作業台を片づけて、床を綺麗に、ついでに蜘蛛の巣を取って・・あれ?
窓を開け放しているので、外が見えるのだが、次第に人が集まって来た。
近所の人が見に来たというレベルじゃない、北門周辺の住民が集まっている。
中に肉屋の主人が居たので、工場に招き入れる。
「この人たち、なぜ集まっているのですか?」
挨拶もそこそこに、知りたいことを聞いてみる。
「そりゃ決まってる。お前たち、ポーションを作ってくれるのだろ。
ここに来たのは、ポーションが無いので生活に困っている人たちさ」
「これ、前にここいらに住んでいた人たちですよね。帰って来たんだ」
「移住した先で、ポーションが無くなって生活出来ないと言ってる、それで戻ってきたそうだ。ただ、もう食う物がないとか。
お前たちが、何とかしてくれると言っているぞ」
「え?だれがそんな事を」
「違うのか?みんな”フレッドが全部解決してくれる”と言っているが」
「まてまて、俺はポーションのレシピの話しかしていないぞ」
「それって、ここでポーションを作る事だろう?」
「そう・・なのか?」
確かに、血判状のパーティーに作るつもりではあったが、他はレシピを売ればギルドが何とかしてくれる・・くれないのか?
「ここでポーションを作って、狩りや漁が再開されれば、町が生き返る。
すごいじゃないか」
「たしかにそうだが・・まて、漁ってなに?」
「お前は、市場に行かないのか?
ポーションが無くて、漁が出来ないでいる。
おかげで、市場には少しの干物しかないのさ。
漁師もポーションを待っているぞ。
お前は、この町の救世主だ。
頑張ってくれ、協力は惜しまないぞ」
なんだが、話が大きくなっている。
「食い物が無いって言っていたね。何人くらい?」
「そうだな、ここにいる住民の半分くらいだと思うぞ。
戻ってきたが食い物がないから、
くず肉を分けてくれとかなり来たからな」
「な・・・!」
窓の外を見ると、元衛兵隊長、今は門番を束ねる門番長がいた。
早速工場に呼び入れる。
「お願いがある」
外の住民を、いくつかのグループに分けて代表を出してもらう様にした。
門番長は、人数の多い住民代表になってもらう。
集まった住民の中にいた門番達に指示を出して、工場前の通りに集めてもらった。
肉屋の主人は、店舗代表。
店主と家族、住み込みなど家族同様にしている従業員らをまとめていく。
扉の爺さんは、工房代表。
木工工房、錬金工房、鍛冶工房、薬師工房などをまとめていく。
次第に増えていく漁師達も、一か所に集まってもらい代表を出してもらう。
さらに見知った顔達。
数は少ないが、買取業者達もいたので、まとまってもらい代表を出してもらう。
扉の爺さんに頼んで、武器と防具を扱う工房の代表を呼んでもらった。
武器と防具は、別々の工房だったので2名が工場に入って来た。
集まった所で、作業台を並べ、椅子代わりの様々な台に座ると、各自で簡単な自己紹介をする。
終わると、俺は立ち、挨拶となった。
「こんにちは。おれはフレッドと言います。
この町で、冒険者をしている者です。
いろいろあって、閉鎖した北門に少々関係しています。」
窓の外がざわついている、おれの噂が飛びかっているようだ。
「今回は、瓶が無くなって、町のみんなが困っているとの事だったので、て瓶を創ろうかと考えています」
更に外が騒がしくなる。
反応は、”あいつに出来るもんか”3割、”どうかお願いします”2割、”それよりも多いのが半信半疑の声”5割、が聞こえる。
「ですが、それ以前に、もう生活が出来ない人たちが出ているようです。
そこで提案です。
この工場に、大きな食堂と厨房がありました。
ここで炊き出しを出してもらえませんか。
そうですね、期限は7日間。
明日から朝、夜の2食をここにいる住民全員に出すようにしたいのです。
食材の提供をお願いします、厨房で作業する人もお願いします、それを整理する人もお願いします。
それぞれを、評価する人もお願いします。
7日後、その評価に応じて対価かそれに変わる物をお支払いします」
工場の中も外も、大騒ぎとなった。
大部分が、食うに困っていたので、感謝の声だが。
一部、ため込んでいたと思われる人たちから”そんな事は出来ない”と非難の声が上がっていた。
門番長に目配せをする。
門番達は、非難を言っていた人を集め、食堂に連れて行った。
しばらくすると、ぐったりした人達が門番に連れられて、こちらに向かってきた。
「フレッドさん、食材を快く提供してもらう事が出来ました」
にこやかに報告する門番長と、脇で少し引きつり顔の門番達。
査定する人を、門番長を頭に門番達にお願いする。
後を門番達に任せると、彼らは外に出て幾人かをピックアップしていく。
前に厨房や食堂で働いていた従業員達を、集めていた。
門番長は、それぞれの希望を聞き・・・もう大丈夫だろうと、こちらは瓶作製の打ち合わせに戻る。
「瓶作製にあたり、いくつかの班を作ります。
最初に、スライムの収集です。
ここいらにスライムが集まっている場所がないの・・」
「待ってくれ、そのスライムだが、生息地が近くにあるんだ。
門の外で、いらない枝や葉を燃やしていた場所があったろう。
その周りは、木の生えていない草地なんだが、そこは湿地なんだ。
底が深いらしくて、木が生えないと年寄り達が話していた。
そこにスライムが居たのだが、毎日火にあぶられて増えずにいたみたいだ。
その環境が変わったからか、最後に見た時はかなり増えていたぞ」
「数は?どのくらい居た」
「一昨日見た時は、100匹位かな、今日はもっと増えているだろう。
ただ、湿地なんだが、途中までは遠浅で歩けるが、急に深くなるそうだ。
それで、スライムを狩っていた新人達が、おぼれて死んだらしい」
「うわ・・・それじゃ、狩る前に調査がいるな。
狩るのは、君たちにお願いしよう。(さっき家に来たパーティー)
ただ、深くなる場所が分からないから・・
そうだな、ここにいるパーティー全員で調べてもらおう」
「待ってくれ、急に深くなるんだろ。危ないだろう」
「そうだね、だったら。一人が杖代わりの棒を持ち、湿地の奥に行く。
その腰に、紐を付けて、あぶなくなったら引き戻す。
これなら大丈夫だろう。
その棒の先に、赤い布を付けて深くなる所の手前に立てれば、危険な場所も分かるだろう。
それをみんなでやってもらい、棒を等間隔に並べれば、湿地が安全な狩場になるんじゃないのか」
リーダーたちは、窓際に集まり相談を始めた。
窓の外に、幾人かの老人達がいる。
彼らが教えてくれた人達だろう。
話がまとまったようで、明日北門に近い部分を調査すると言う。
森にはいる時は、ポーションが必要になるので、分けてもらったら残りの調査をするそうだ。
「明日の午前中に、スライムを狩って来てくれないか。
実験に使うから、そう多くはいらないから」
「それはいいのだが・・」
どうも反応が悪い。
その訳を聞くと。
ポーションが消えた日は、やりくりして何とかしのいだが。
次の日、一人の提案で”スライム袋”にポーションを入れてもらったそうだ。
常にスライム袋を持っている訳ではないので、5本分を分けてもらい狩りに行ったそうだが。
それ以後、狩りに行っていないそうだ。
スライム袋や普通の瓶に、ポーションを入れて売るのはギルドが禁止している。
ただ、”客の容器に入れて、売ってはいけない”という規定は無い。
あるのは、”ポーション瓶の使用期限は10日まで。再利用した場合も、その日数を加算する”という規定だけだ。
これも、10日を過ぎて飲んでも、責任は冒険者にあるとされていた。
だから規定違反ではないのだが、何かあった時に誰の責任かという問題が起きる。
「それでスライム袋が無いと?」
8パーティーのうち、3パーティーがそれに気づいたようで、スライム袋を持っていなかった。
そんな方法があったのかと、俺と5パーティーは思ったが顔に出さずにいた。
「わるいが工房にある分、それと冒険者達の持っている分を、提供してくれないか」
全部で、25枚集まった。
大きさはさまざまだが、スライム100匹分は入れる事が出来るだろう。
それを8パーティーに分配。
明日北門に集まり、持ち寄った布を棒に付けて、調査とスライム狩りに行くことになった。
「午前中に何匹いるんだ?」
「そうだな、20匹は欲しい」
「それで、スライム袋がなくなったら、次を作ってくれるのか?」
「いや、ここでは袋は作らない。
スライム袋が無くなったら、店から協力してもらって”麻袋”を集めておく。
それに入れてくれ、麻が混じっても問題ないようにしておく」
「わかった」
「それと、狩りすぎない様にしてくれ。
湿地の奥にいるスライムを残して置けば、問題ないだろう。
そうだ、深みにいるスライムを狩る時に、漁師が使う”柄付きの網”が丈夫そうでいいんじゃないか。
使い終わった、古い網を出してもらおう。
修理しながら使えば、いいだろう」
明日以降、瓶の生産が始まるまでの間、冒険者達には湿地の調査とスライム収集を頼む。
いよいよ、瓶の作製準備だが。
「爺さんに聞きたい事がある」
始まる前に、工場主に確認しておかないと。
「なんじゃ?」
「瓶は、使用期限が10日なんだよな」
「そうじゃ」
「もし、瓶にポーションを入れないと、何日持つ?」
「それは・・・瓶の精度によるのじゃが・・」
「もうひとつ。
スライムの核を壊せば、”スライムは死ぬ”と言われているけど。
実際は、核が分かれただけで、その核の大きさに対応する為に、分裂の準備を始めている。
そうじゃないのか?」
「おう、良く気付いたな。
まったくその通りだ。
それは、ギルドの極秘事項じゃぞ。
他言無用じゃ。」
「だとすると、瓶にいくらかの残余があるけど、そこに核も混じっているよな?」
「そう、それでじゃ。
ギルドが隠しておきたい理由じゃ」
「でも、10日規定を作ったんだ。
それも合わせて、理由があるのじゃないか?」
「しょうがないのう。
瓶を作る時、スライムの表皮を取り出して、みじん切りにするのだ。
それに、固化材と混ぜて瓶の溶液を作り、型に入れて出来上がり。
ただ、それだとうまく混ざらないので、多少の体液を混ぜるのだが。
その時にどうしても、スライム内部の残余物が入ってしまう。
それが、分解中の物だったり、スライムの核だったりする。
分解中の物なら、そう問題にならない。
ただ、核が入り込むと厄介になる。
いつの間にか、瓶がスライムに戻ってしまうのじゃ。
そこでわしらは、固化材に細工をしたのだ。
それで、スライムは活動しない様にしたのだよ」
「それって、固化材から酸素を排除したのでは?」
「な・・・・・」
「正解のようですね。
それで、使用期限が10日なのですね」
「う・・・・・」
「わかりました。それじゃ、これを準備したいのですが」
鞄から取り出した紙に、絵を描いていく。
作業台に二本の架台。
その上に、広口の壺。
壺の下から中空の管。
管の先に箱?
更に絵は、続く。
半分に描かれた壺の中に液体?
底には、ジョウロの口が書いてあり、丸い粒が出ている。
「これを作りたい。
最初は、実験になるので小さい物でもいいが、できれば大きい方がそのまま実用になるはずだ」
「まあまて、順に説明してくれ。
もしかして、これはスライムか?」
「そう、壺の中にスライムを入れる。
入れるスライムは、体液の方。
表皮は、そのまま瓶に加工する」
「だったたら、これは何じゃ?もしかして空気か」
「正解。で、これの箱が空気を送り出す魔道具」
「・・・・なるほど、わしの発想を逆にしておる」
「爺さんは、10日規制が気に入らなかった。
だから、何度でも使用可能な瓶にしたかった」
「そうじゃ」
「それで、高酸素の薬液を内側に散布して、使用期間を延ばそうとした」
「なんでそれを・・」
「だけど、そんな薬液、簡単にできなかった。
失敗に失敗を重ね、ついにパーティーを解散。
ここに流れ着いた。
しかし、4人の仲間は、何とか形にして、それぞれの工房で儲けている」
「そうじゃ・・・」
やっぱりそうだった。
「それは、爺さんの問題なので、ここでは関係無い。
で、爺さん。この魔道具、あっちの魔道具にある?」
「この箱ならあるぞ、この管に流すのも、簡単に出来る」
「あと、この空気出しは?」
「それもある。少しまっていろ」
爺さんは、魔道具の置いてある棚から、陶器製のジョウロの先を持ってきた。
「これは、スライム体液から異物を取り出す為に作った装置の一部じゃ」
一緒に、三徳を持っていた。
作業台に三徳を置き、ジョウロの先をセット。
その下に、広口の受け皿。
ジョウロの上に濾過紙を置いて、不純物を取り去る。
とは、うまくいかなかった。
スライムは、高粘性の生き物なので、濾過紙を通らない。
すぐに実験は失敗した。
「まあ、失敗はつきものさ」
そんな調子で、ギルドの依頼料を使い果たし、日々の仕事から研究費を捻出し、もうすぐ完成だと、ギルドから借金し、親類知人友人から借りまくり・・・。
「底の開いた広口の壺は、ありますか?」
「あるぞ・・」
説明を途中で止める。
濾過紙から、およその訳は想像できる。
「この空気放出口と壺の穴は、大きさが合いますか?」
「いや、壺の穴は小さいな。明日まで広げておこう」
「お願いします、それと、この口と壺の隙間ですが」
「それもあるぞ、瓶作製の途中で作った、高酸素の軟質板がある。
それを、細く切っておいてやる。
「口に巻いて、体液が漏れない様にすればいいのだろう」
「お願いします」
「あとは、スライムの加工に必要な道具ですね。
ここにありますか?」
「あるが、実験用じゃな、数が足りん。
まず、表皮を切り刻んで集積する作業台と人、その道具と入れ物じゃな」
「次に、固化材。これはギルドにあるレシピを買った工房なら、やり方・道具や必要資材を持っているだろう」
こっちは、別作業台を作って作る。
「更に、金型にいれて成型する。
しかし、ここには”2口”の金型が2個あるだけじゃぞ」
それは、工房から借りる事にした。
「型から抜いたら、乾燥させる」
それは、工房の外に作業台を作る事にした。
「瓶としては、最後。蓋を決めて、密閉作業だが」
こちらは、扉の爺さんが仲間を集めて、コルクか軟質の木を加工してくれる事になった。
「一緒に、フイルム状のスライム紙だが」
これは、別作業として作業台を作る。
スライム瓶溶液を、型に薄く入れて乾燥させれば出来上がる。
「では、ポーション作りだ。何をいれるのだ?」
「最低必要になるのが、”血止め”と”痛め止め”。これを作る」
「ふむ、どのレシピを使うのじゃ?」
「血液凝固促進効果のある”トロンブン”を、採取してもらいます。
それを、粉砕して液状化、魔素水に溶かして薬効をだしたいのですが」
「それだと、森の奥に行かないと採れないのでは?」
「そうだな。だが一般的なポーションじゃ。
薬師か錬金工房に多少ならあるだろう」
在庫を探してもらう事にした。
「次に痛め止めです。これは、”ロキタニン”を使います」
「うん、炎症や急な痛みようじゃな。これも一般的なポーションじゃ。
どこかに素材の在庫があるだろう」
「あとは、状況に応じて作っていきましょう」
明日から低級ポーション作りが始まる。




