ガミリア共和国 第37話 北門の肉屋⑧
いったいこいつら何人いるんだ?
鬱陶しい事、この上ない。
俺たちが扉から出てくると、称賛の嵐で迎えられた。
良く思いついただの
アイデアが良いだの
どうやって作っただの
適当にあしらっていたら、豹変した。
最初は、仲間になろうとした。
パーティーに入れてくれ。
単に仲間になろうとするのもいた。
全部断ると。
話が扉に変わっていく。
「扉を使わせてください」
最初は、下でに来ていたのだが。
「俺たちも使うからな、よろしく」
図々しいやつまで現れた。
やんわりと断ると。
「いやー、別に俺たちは、困らないけどよ。あんたらが困るんじゃないの」
なんと、脅迫してきた。
最初はウザいだけだったが、ここまでくると、こいつら全員始末しないとヤバいんじゃね。
イライラする俺の顔つきが、変わってきたのだろう。
「おぃ、フレッド。俺たち、これを売ってくるから、あとは任せた」
さっさと、荷車を押して消える仲間。
全く、頼りにならない。
「これだけの人数と話しても、時間だけかかってしまう。
そこで、そっちはパーティーから代表を出してくれ。
ソロもいるだろうから、一緒に来てくれればいい。
ここじゃ人目につく、別の場所にいくから。
それで話しあおうじゃないか」
パーティーは、集まって話を始めた。
3人は立って見てくる、こいつらはソロだな。
話の纏まったパーティー同士が集まって、更に話し始めた。
そんな話し合いが、何度か繰り返される。
ソロ連中は、後ろから話を聞いているだけのようだ。
「決まったぜ、ここに居るのが、代表とソロだ。
いいぜ、話し合おうじゃないか」
8パーティーと3ソロ、それに俺を加えて門を離れる。
残りは、解散となって宿か家に帰って行った。
こんな所を館に見られて、変に勘繰られては命がいくつあっても足りない。
大人数が入れる建物は、そうそう無いが俺にはつてがある。
「爺さん、居るかい。場所貸してもらうよ」
まだ日も高く、工房の片づけをしていた爺さん。
俺の顔と後ろの面々をみると、察したようで。
あとは好きにしな、とばかりに片づけをやめて壁際に座り、面白い事が始まるとこちらを見ていた。
工房の戸を閉めれば、誰も来ない。
大声を出さなければ、通りに聞こえない。
工房に大人数でいても不思議ではない。
こうなったら、覚悟を決めて交渉しますか。
「そこに、掃除道具があるから、ここいらを綺麗にしてくれ。
ゴミは、そっちの箱にスライム袋が並んでいるから、それに入れてくれ。」
勝手知ったる工房、ぶつぶつ「掃除に来たんじゃねえ」とか言っているが無視して、指示を飛ばす。
ほほうと仕込み通りに動く俺たちを、見ている爺さん。
爺さんは、見物に徹するようで何も言ってこない。
さっさと仕切ってしまうか。
「それじゃ、そっちの作業台を持って来てくれるか。
椅子は、壁に箱が並んでいる、それを持って来てくれ」
全員が座った所で、開始。
「ここで何を話すかだが。
十分わかっているだろうが、確認だ。
”不正に門を出入りした者は、処分される”
門が館の管理以外で開け閉めされると、魔獣が町に入ってくる恐れがある。
扉に細工をしたと知られたら、関係した全員の首が飛ぶ。
理解して、”俺たちの門を使わせろ”と言っている。それで、間違いないか?」
言い方が気に障ったのか、数名が眉間にしわを寄せた。
ただ、かなり追い詰められているようで、それ以外は頷いてくれた。
「だったらルールを作る。
それに従うなら、使ってもいい」
ダメだと言っても、勝手に使うだろうし、強引に開け閉めされたらすぐに壊れてしまう。
もうこれしか方法が無い。
「わかった。使わせてもらえるならルール次第だが、それでいいぜ」
大方の意見がこの流れで話がまとまった。
爺さんは、予想していたのか無表情で聞いているだけ。
ルール1
不正利用がばれたら、全員が処分される。
「全員とは?」
「門を1回でも出入りした全員だ」
「わかった」
こうすれば、館に通報するバカが居ても、誰かが止めるだろう。
ルール2
使用料を取る、門を出る時に一人一人から徴収する。
「おい、前は取られてないし、東も南も取っていないぞ」
「それは、ギルドが払っているからだ。
お前たちは、ギルドに会費を払っているし、ギルドで買い取ってもらうときに手数料を引かれているだろ。
それに、この人数で使えば、早い時期に壊れるだろう。
誰が壊しただの、俺じゃないから金は出さないだの。
お前たち、必ず言い出す。」
「まあそうだが・・で、いくら取るんだ?」
「それは、これから決める。払えない時は、東でも南でも行ってくれ」
反応が薄い。東で、よほど嫌なことがあったようだ。
「使用料は、内訳を開示する。
その時に文句を言ってくれ。
ただ、不足する修理分は、人数で割るからな」
なんとか了解してもらった。
ルール3
北門に門番を雇う。門の開閉と使用料の徴収係になる。
「俺たちが、開けて閉めればいいだろう」
「あの扉は、かなり華奢に作ってある。
あんたが力を入れたら、一回で壊してしまうだろう。
奥の爺さんに作ってもらった、嘘だと思うなら聞いてみろ」
二人が席を立ち、爺さんと話している。
「嘘じゃないそうだ。変に力を入れると壊れるそうだ。
壊したら、修理できないかも知れないと言われた」
”人件費が”とか言っているやつがいたが、ほぼ全員納得した。
ルール4
門番は、以前と同じ時間にいる。朝開けて、夕方閉める。
居なくなれば、森から開けられない様にしておく。
東に行くか、野営してもらう。
これには、誰も文句を言ってこなかった。
前もそれでやっていたのだ、時間を自己管理すればいい。
ルール5
これを、俺たちだけでは管理できない。
そちらから人を出してもらう。
「何の人だ?」
「金の管理だな、徴収した金で門番を雇う。
あとは、修繕が必要になった時の支払い。
それを管理する人がいる。
俺たちは、除いてくれ。
全体を総括して管理させてもらう」
複数のパーティーから金庫番を出す事にした。
「人の管理、主に門番の事になる。
誰を雇う、門番の順番、急に休んだ時の対応などだが。
最初の門番は、こっちで決める。
あとは、門番同士で話し合って決めてもらおうかと思っている」
「こっちが最も大事なことだが。
館との対応。
北門に人が集まると、館から様子を見にくるだろう。
門番に対応してもらう」
ルール6
「これから血判状を作る。
今日は、ここにいる全員が署名血判してもらう。
明日中にパーティー全員に来てもらい、署名血判してもらう」
「なんだ血判状?聞いた事がないぞ」
「呪物て知っているか。
訳の分からない見た目の悪い物を、教会に持っていくのだが。
それを、呪物と呼んでいるそうだ。
その中に、巻物があるんだが、呪いがしみ込んでいる時もあるそうで、聖水と祈りだけでは浄化出来ない物もあるんだとか。
それをこれから作る、それを血判状にする」
全員の顔が引きつる。
これから呪いの契約をしようとしている。
こいつまともじゃない、だれもが思っていた。
「なんだ、怖いのか?」
煽ってやると、急に粋がりだした。
「だれが怖いと言った。
いいだろ、血判でもなんでもやってやる」
決まれば早い、俺は血判状の準備。
残った連中が、ルールの文面を決めていた。
「爺さん。ミスリルの粉末はある?」
鉱物のミスリルは、かなり高額で取引される。
でも、加工した際に出る破片や使い物にならないミスリルは、かなり安く手にはいる。
金属を扱う工房では、それを粉末にして魔力媒介として使う。
「あるぞ、その血判状に使うのか」
「インクと混ぜて練り潰したいのだが、出来るかな」
「はん、いつも面白い事を考える。
いいだろ、作ってやる」
おれが呪物の作り方を知っているわけでは無い。
協会に行っていた仲間が、偶然に呪物の浄化を見た事で、呪物の講習をしてもらった。
その時の話を思い出したのだ。
当然、呪物になるとは思ってもいない。
ただ、それらしい演出をしたかっただけだ。
爺さんがインクを作っている間、俺もルールの文章決めに参加する。
さほど時間もかからず爺さんは、やや灰色が混じったような薄いインクを持ってきた。
工房にあった、丈夫で厚での紙に決めたルールを書き込んでいく。
全員が内容に間違いないとなり。
俺、なぜか爺さんも参加していた、パーティーの代表、ソロの三人。
ここで、表がいっぱいになったので、明日からは裏に書き込んでもらう。
机の真ん中に血判状を置き、全員が手を伸ばす。
「じゃ良いですか、魔力を通すぞ」
魔力持ちで、多少魔法が使えるソロの男が、魔力を込める。
魔法陣が光っていくように、血判状の文字が光り出す。
魔法などほとんどの人は使えない、ただ誰にも魔力は存在する。
血判状が魔力を吸い込む、大量に出血したような脱力感と不快な気分。
魔力を込めている男以外、顔が青くなる。
「もういいでしょう。これで表は完成です。
明日は、僕がここに居て、来たパーティーに書いてもらって魔力を通せばいいのですね」
血判状は、工房で管理する事になった。
この爺さん、結構有名人で顔をしらない冒険者は居なかった。
「こんなところだが、。他に何かあるかな?」
急に思い浮かばないのだろう、これで良いとなった。
「今決めた事を、これから詰める。
要は、金と人の管理者になってくれる人だ。
協力してくれる人は、残ってもらえるな。
帰る人は、ここに連絡先を書いてくれ」
パーティ3人、ソロ1人が残った。
「面白そうな話じゃな、わしも入れてくれ」
爺さんが入って来た。
5人でルールの詳細を詰めていく。
「門番だが、俺の知り合いが門番をやっていたのだが」
閉鎖する時に居た、爺さん門番だ。
それぞれが、口の堅い年寄りを紹介しあう。
「だったら、適任がいるぞ」
爺さんが話してきたのは、引退した衛兵の隊長。
一人家にいるそうで、この仕事にうってつけだと言う。
明日、以前と同じ時間に扉に集合する事にした。
俺と爺さん管理人から2人、この4人で門番の面接をする。
結果、隊長と前の門番と更に4人、6人が交代で門番をする事になった。
隊長がそのまま、門番の隊長となる。
給金は以前と同じだが、時間給として計算する。
これで、昼で交代してもいいし、一日やっていても良い事になる。
都度開け閉めすれば、門が早く痛むと、爺さんが仮の扉を作ってくれた。
見た目は、同じ。ただ、縦横の桟に板を張り塗装しただけ。
これで、外した扉は森側に置き、日中は仮の扉を使う。
隊長が立っているだけだと、腰に来るという。
前の門番が、踏み台を持ってきた。
前も腰が痛い時、座っていたとか。
雨の時は、どうしていた?と聞くと。
門にへばりついて、雨宿りしていたとか。
城壁は地面側は、広くなっているが、それでも風が吹けば濡れる。
「だったら俺が準備してやる」
隊長は、衛兵が廃棄した詰所を貰って来た。
さすがにその大きさでは、館の許可がいる。
爺さんが家賃を持っていくと言うので、門前の広場を”老人達の憩いの場”にしたいから、簡単な建物をたてていいか聞いてもらった。
その場で、了解してもらえたとか。
爺さん、いったい何者なんだろう。
爺さんの指示で、詰所を解体、運搬後、修繕しながら組み立てる。
そこそこの大きさなので、物見の塔から扉を出入りする姿が見えない様に建てておく。
右の扉は、全部見えるから不審がる事は少ないはずだ。
簡易の長椅子が作られ、広場に並べると、三々五々老人達が集まって来た。
以前の門前は、入って来た長尺の木を切断する作業所になっていた。
長さを3mに切り工房に運ぶ。
荒く切られた枝を、ある程度切りそろえる。
一緒に運ばれた、枝葉を門外に作られた焼却場で燃やす。
薪は30cmに切られ、太い幹は細く割られる。
加工は、工房でやるが金にならない仕事はやりたがらない。
仕事のない工房が引き受けるのだが、それも無いと爺さんの工房に運び込まれる。
家主の横暴だと爺さんは憤慨しているが、これで館に恩を売っているのかもしれない。
門前の広場は、危険で老人達がうろつく場所ではなかった。
それが無くなり、椅子や雨宿り出来る場所があれば自然と集まってくる。
詰所の奥が見えない様に、椅子の位置を並べる。
冒険者達が出入りするが、昼の出入りは無い。
老人達は、朝の食後に来るので、冒険者達とは時間が違う。
夕方は、早めに椅子を片付けるので、夕飯の準備もあり広場に老人達の姿は無くなる。
館の対応だが。
上役から言われたとかで、この間の門番が不定期に現れる様になった。
扉に近づき、異常が無いか見て回る。
門の前でボードゲームをしている二人に。
「ここで何をしている」
「ゲームですよ。ここだと雨も風も来ないので、急に振って来ても大丈夫なんです」
ゲームを覗き込むと、”いつもやっているな、飽きないのか”と言って離れていった。
朝は、交代の関係で顔を出さない。
昼前だと、広場に老人達が集まって、持ち寄った軽食をつつき団欒をしている。
夕方に来るときもあった。
老人達が帰ると、冒険者も帰ってくる。
門に立った門番が、ノックの返事に「コン」と一回。
館に帰った後に「コンコンコン」。
扉を開けて、冒険者達が入ってくる。
門の管理は、次第に問題も起きなくなりうまくいっていった。
問題は、別の所から始まった。
町から安い薬が消えた。
正解に言えば、低級の薬瓶が次第に不足していった。
北門の肉屋が、二回目の納品の時もポーションを集めるのに苦労した。
いつもなら希望する本数を売ってくれるだが、その時は数量限定となり翌日も買い出しに行くことになった。
低級ポーションは、缶ジュース程度で買える。
中級ポーションになると、1本で低級が箱で買える。
高級ポーションは、庶民に手がでない。
気楽に使える薬ではないのだ。
なぜ、ポーション不足になったのか、当初は誰も知らなかった。
北門に、初級冒険者や初心者クラスの冒険者はいない。
門の近くには、彼らの狩れる獣の数が少ない。
奥なら結構いるが、護衛が必要になる。
彼らが狩る素材や採取では、門の使用料を払えないのだ。
北門のスライムは、結構遠方に居るのも問題だった。
北門の冒険者ギルドに、スライム収集の依頼は無い。
買取は、冒険者ギルドと買取業者がやっているので、他のギルドは無い。
ポーションは、一括してギルドが売っていた。
主に東門の初級冒険者や初心者クラスの冒険者達が、乱獲したことも、それにより、スライム生息地が奥地になってしまった事も知らなかった。
北門でスライムを収集している冒険者が居ないので、他の門の情報が入ってこない。
北門のギルドでも、なぜ瓶が作れないのか訳を知ろうとする者はいなかった。余計な業務を、抱えたくなかったのだ。
町のギルドまでポーションを買いに行って、初めてその理由が分かった。
例えばそうだとしても、スライム狩りでは見合うだけの収入が無い。
北門の冒険者達は、狩りをやめるか、無理をして狩りをするか、安全な方法を考え狩るか、選択を迫られていた。




