ガミリア共和国 第36話 北門の肉屋⑦
なぜもめているのかわからない。
荷車を隠し、とりあえずアスランと俺で様子を見に行く。
「だから!門の様子を見てこいと言われたのだ、そこをどけ」
「何度も言っているでしょう。門は点検中で、”危険だから誰も通すな”と言われていると。終わったらお通ししますので、もうしばらくお待ちください」
門番と男たちがもめている原因は、分かった。
でも、門が無くなったと知っているのか?
いや、”見てこい”なら、”なんか変だな”程度か?
いずれにしても、早めに手を打った方がよさそうだ。
「アスランさん、あの門番を眠らせるとか、意識を短時間飛ばすとか、できますか?」
明らかに嫌な顔だが、状況が状況なので顔だけにとどめたようだ。
「かなり興奮しているな、強制睡眠があるが短時間で起きるだろう。それでいいか」
「はい、お願いします」
杖を取り出し、魔石を外して中の魔法陣を入れ替える。
杖の上方、今の魔法陣を握ると魔力を込める。
門番の上に魔法陣が現れ、緩やかに光っていくと輝きを失っていった。
男たちは、魔法陣が何を意味しているのか知っているのだろう。
素早く門番の後ろにまわり、崩れないように支えている。
一人は、門の踏み台を物置から取り出すと、城壁前に置いた。
2人で門番を抱え、踏み台に座らせる。
一人が隣に座り、倒れない様に支えていた。
門番が静かになると、荷車に手を振る。
”早く”・”こっちにこい”
分かったようで、足早に門に移動していく。
つられて爺さんも、小走りになっている。
その姿が滑稽で笑いそうになったのは、誰にも言えません。
疑似門を作っていた男は、半分意識が飛び、青い顔になっている。
これは俺でも分かる、魔力枯渇の危険サインだ。
爺さんもそれが分かったようで。
「もういい、ご苦労様でした。あとはわしに任せていいぞ」
声が聞こえたのだろう、疑似門は消え、辺りに砂埃が舞い散る。
「その門は、ここに立てかけて。そっちは、ここに。閂は、邪魔になるから、城壁に立てかけてくれ」
門と閂を降ろし城壁に立てかけると、爺さんは門番に近づく。
肩を2度ゆすってやる、すると意識がもどった。
「どうした、誰か倒れたと聞いて来てみれば、おまえさんか。どうしてここにいる。門番はどうした?」
「ん・・ん、だれだ・・・おまえは・・・ああ、毎月くる爺さんか。なんでここにいる?」
「わしか?わしは、あの人に門の点検を頼まれたんじゃ。今まで、取り外して色を塗り替えていたのだが、おまえさん、ここに居るという事は門番をやめたのか?」
「馬鹿をいうな。おれは館に言われて、門を見に来たんだ」
「門なら、取り外すまであっただろう」
「それだ。門が無くなったから?さっきまであった気がするが?気のせいか?」
「門は取り外してあったよ。ただ、塗装が終わると、立てて乾かしていたが、それを見たんじゃないか」
「そうか・・そうかもしれないな」
「ところで、門が無くなったとか、よくわかったな?」
「それな、ちょいと面白い事になっていてな。
執事がぼやくんだが。
門に異常があると言うのは、かなり前に知っていたとさ。
それで、物見の塔に登って門を見たんだが、特に変わった事がないので、上役が来るまで、そのままにしておいたそうだ。
さっき、あの男たちが館に来るからと、戻ってきたんだ。
その時に、門の話をしたら”馬鹿者、なぜすぐ見に行かなかった”っと大目玉だとさ。
ついさっきだ、執事の野郎があわてて俺に言って来たんだ。”門になにか異常が起きた、行って見てこい”ってな」
「ほう、異常が起きたか。よくわかったな、わしらが作った時は、そんなものは付けなかったんだが」
「作った?爺さん、これを作ったのか?」
「なんだ知らなかったのか。毎月館にいくのは、工房の家賃を持っていくからじゃぞ」
「それは知っている」
「工房が門を作ったのは、知らなかったのか?」
「ああ、それで門を外したのか?」
「なにか高度な魔術?を使ったから、異常がないか見てくれと頼まれたからな。あまり汚れていたから、ついでに塗装してやったんだよ。
危険な薬品を使うから、そばに人を近づけるなと言っておいたが、それで騒いでいたのか。うるさくて集中できなかったぞ」
「そうか、それはすまん」
「ついでじゃ、見ていくか。乾燥の魔術で、いま終わった所だ」
「へえー」
門番は、門と閂を眺めると館に戻っていった。
「この門に、仕掛けがあるんですかね?」
「そんなものは、無かったぞ」
「そうですよね、じゃこっちか?」
丁番を見てみるが、何か付いている様子もない。
「早速ですが、門を設置してもらえませんか。お前たちも、手伝ってくれ」
爺さんの指示で、程なく取り付けは完了した。
爺さんは、物置に入るとなにやら探している。
「あった。だが魔石が無いな」
爺さんは、カゴ?が着いた金属の板を持っている。
「魔石ですか?」
「そうじゃ、ここに入れておくのじゃが、持ってないか?」
「魔石ですか。あったらすぐに換金しますよ」
「じゃな、無くて付けておくか」
爺さんと話していると、アスランが近づいてきた。
「魔石ならありますが、属性は必要ですか?」
「いや、属性はいらない。あればそこに入れてもらえれば、中の毛が活性化する。多少の衝撃には耐えてくれるのじゃ」
「それでは、これを入れてもらえますか」
「おおきな魔石じゃな。いいのか、売れば結構すると思うが」
「こちらの魔術にも、必要ですから」
「そうか。じゃ手伝ってくれ」
俺を見て言うので、あとをついて行く。
「奥に脚立があるだろ、あれを持って来てくれるか」
爺さん、何気に俺にキツイ。
森側に出て、門を閉める。
カゴに魔石を入れて、脚立に登る。
"h"状の取り付け金具が上下についているので、差し込めば終了。
「乱暴に閉めると、外れる様になっている。知らない門番が閉めて落としたのだろう」
「それでは、こちらでも施術します。離れてください」
アスランは、準備しておいた魔術を行使する。
門の下から斜め上に、丸いおおきな魔法陣が現れた。
いつもの魔法陣とは違い、しばらく輝いていたが急に消えてしまった。
「この魔術は、魔石から魔力を貰い、斜め下に魔獣や肉食獣が嫌う振動を感じさせます。あくまで感じるので、無視されれば効果はありません。効果の範囲は、先ほどの魔法陣の先になります」
「それって、真っすぐに出せば広場の端まで行くのでは?」
「頭に振動を感じさせる必要があるので、拡散すれば効果が薄まり効かなくなります」
「そうなんですか」
「この魔法陣が必要な魔石より、大きいのを入れました。次に来るまで持てばいいのですが」
「だったら、俺たちが見ておくよ。無くなったらオークの魔石でいいんだろ」
「オークは、無属性なのか?なら、いいだろう」
門を開け、町側に戻ると静かに閉める。
閂も静かに嵌めると、脚立と踏み台を片付けて終了。
男たちは、片手を上げ挨拶すると館に向かっていった。
「さ、フレッド。一体どうしたんだ、教えてくれるのだろ」
「周りを見ていてくれよ、見つかったら首が飛ぶぞ」
「ははは、首が飛ぶか、そうだろうな。
わしはもう年だから飛んでもいいがな。
見張りなら、わしが見ておこう。
おまえらは、それを試したいのだろう」
俺は、左の扉に向かうと腰を下ろす。
「そっちに行って、同じ様にしてくれ」
仲間の一人が壁際に行き、腰を下ろす。
「扉の下に隙間があるだろう、そこに指を入れて、ゆっくり上に上げてくれ。ただ、少ししか上がらないから、無理してあげないでくれ」
力を入れると、とびらは10mm上がる。
「次にゆっくりと手前に引いてくれ。
外れると下に落ちないようにな、指を挟むなよ。
それから、外れる前に扉を押さえておいてくれ、急に森に向かって倒れるからな、脇を押さえて倒れない様にしてくれ。
・・・いいか、引くぞ」
言われた様に出来たようで、三人で支えた扉は、右の扉に移動させる。
「なんだよ、扉の下が開いたぜ。こんなの作っていたのか」
「おれは見ていて、大体わかったぜ」
「本当か?」
「戻す時は、これを逆にやる。やってみるぞ」
「もしかして、これで狩りに行けるのか?」
「まて、協力者がいる。いまは爺さんが居るからいいが、誰かに見つかったらどうなるかわかるよな」
「そうだな・・・でも、誰に頼むのだ」
「肉屋の爺さんはどうかなと、思っている」
「あの爺さんか・・でもどうやるんだ?」
「狩りに行くときは、いまと同じに爺さんに見張ってもらう。
帰りは、時間を教えて、ここで待っててもらう。
あとは、そうだなノック3回で、帰った合図とかだな。
誰か居て危険な時は、”コン”と1回、3回なら安全とかすればどうだ」
さて、狩りの準備は整った。
あとは、幼なじみが帰ればいいのだがと、心配していたのは向うも同じだったようで。
「帰ったよ、門はどうですか」
双方が、現状を報告しあう。
「それじゃ、門は大丈夫なのだな」
「そうだ、あとは肉屋の爺さん次第だ。そっちはいいのか?」
「村の半分が寝込んでいる。起きていても、動くのがつらいようで家でジッとしているようだ。俺らの家は、まあ・・その通りだ」
「戻って来て大丈夫なのか?看病がいるんだろ」
「それは、家の者が交代でやってるから何とかしている。ただ、畑を放置しているのが気がかりのようだ」
「そうだろうな。明日、肉屋の爺さんに言って、協力してくれるなら、そのままオークの群れにいこうぜ。終わったら、看病に戻ったらどうだ?」
「そうさせてもらうよ。
実はな、門は駄目だろうと思っていたんだ。
ここに来たのも、薬を頼まれたからなんだが。
オークを納めたら、薬を買って帰るよ」
「そうしてもらうと、こっちも助かる」
爺さんは、快く協力してくれた。
肉屋にいつも卸してくれる俺たちに、感謝していたからだとか。
問題が一つ解決すると、見えていなかった事が見えてくる。
荷車は、問題なく扉を通るだろう。
だが、今日行くのは最初の群れ。
いつもなら、オークを荷車に載せて肉屋に行っていた。
幅は、問題ないだろう。
特注の荷車は、重いオークを積みやすいように車を小さく作ってもらった。
なんとか頭は通っても、あのデカい腹でつかえる。
荷車から降ろすしか、方法は無いようだ。
だが、俺たちだけで扉から引きずり出せるのか?
あまり時間を掛けていると、見つかる可能性もあるんだが。
肉屋の爺さんに相談すると。
大きな麻袋を持ってきた。
これに載せて、みんなで引けば通るのでは?
実際にやってみると、重いのほか簡単に町に引き入れる事ができた。
ただ、もう少し腹が出ていれば、つかえるだろう。
そっちも考えておかなければ。
次は、奥の群れになる。
こちらは、解体するので問題ないだろう。
解体の話になり、妙案が出て来た。
腹がでているのなら、大きなスライム袋を準備して、はらわたを入れれば小さくなる。
袋を町から離れた所に、放置すれば次第に袋は解けていくので、森が綺麗にしてくれる。
解体に慣れた今なら、ほとんど血を流さずに、腹を切る事が出来る。
一気に解決した。
肉屋に降ろすと、店は閑散としている。
爺さんは、家が別にあったので肉屋には来ていない。
どうしたのか聞くと。
この店は主人だけで、解体して売れる様に小分けしているとの事。
売り上げは大丈夫なのか聞くと。
近所の人は、取り置きを買いに来るとか。
完全予約制と言っていた。
それ以外は、浜に近い所に店を借りたそうだ。
店番は、奥さんがやっていて、従業員は品物の配達と運搬おわったら店番と忙しいと言う。
ギルドから高い買い物をしたから、無理でも頑張っているとか。
俺たちも、頑張ろう!
オークを卸したら、幼なじみは戻っていった。
次の日から俺たちは、小遣い稼ぎに狩りをやっていたのだが。
扉を何度か開閉すると、ダボが気になる。
なんとなくだか、緩んできた?
工房の爺さんに相談すると、ダボに負担がかかっているらしい。
扉の下に、荷重を負担する台をいれて置けばいい、と言われた。
なにが良いと聞くと、軽石なら水を吸ってもすぐに乾くからいいが、割れやすいから大きい物か数を揃えろという。
軽石なら、鉱山都市からくる行商人が売っている。
商業ギルドに依頼を出そうとしたら、止められた。
この町で、軽石の需要は無い。
それなのに、大きな軽石で数が欲しいとなれば、誰がいるのか・どんな需要なのか・儲け話の匂いがしないか、など商人なら必ず調べにくる。
自分で首を絞めるようだと、あきらめた。
軽石がダメなら、他になにかいいものは?
普通の丸い石、川にある小石を敷き詰めれば、指を入れる隙間も作れるし、崩れれば簡単に直せる。
おれは天才だと鼻を高くすると、あいつらは確かに天災だという。
やってみると、扉を支えてくれるのでダボの負担が少なくなった。
閉める前に均せば元にもどるし、何処にでもある石なので目立つ事も無い。
問題は、次々にやってくる。
北門で狩りをやっていた冒険者が、東門に行った。
そこで、門同士のいざこざが発生。
分の悪い北門の冒険者達が、帰って来た。
海をまわるとか、城壁を乗り越えるとか・・すぐに諦めたのだが。
俺たちに気づいた。
前と同じにオークを卸している。
その訳を見つけようと、手分けして俺たちを監視している。
俺たちも、見られていると気づいたので、狩りを自重していた。
しばらくすると諦めたようで、見張りが消えた。
小遣い稼ぎに狩りに出る。
戻って、扉をノックすると返事が3回。
町に入ると、爺さんを囲んで、見知った冒険者達がいた。
あとは、想像の通り。
「俺たち、友達だよな」
いつから友達になった?
「いやいや、おれたちの方が付き合い長いだろ。」
おまえ達と、狩りにも行ってないし付き合っていないだろう。
「仲間だよな」
いつから仲間になった?
馴れ馴れしいやら、脅すやら、もう知られたなら面倒だと、ルールを決めて解禁するしか無かった。
こんなに大勢で出入りしたら、館に見つかるのも時間の問題なのでは?




