ガミリア共和国 第35話 北門の肉屋⑥
今回、数字にこだわりました。煩わしく思えれば気にしなくても、後に続きます。
突然の物音に、俺たちは音の方向に顔を向ける。
一瞬、城壁の上にいた男達の”なぜ”と、疑問の顔を見た。
男達は、動こうとしない、いや出来ないのか。
ただ、倒れている扉を見ている。
俺たちは、物見遊山もあって倒れた扉に近づく。
城壁に残った扉の丁番部分から釘が見えている、おそらくこれが原因だろう。
近づくにつれ、古い記憶がよみがえって来た。
門番の爺さん、たしか、網元がトリイを門につくった、と言っていたな。
門の上に散乱している金属の板、元は朱色に塗られていて。”円”の形が、しばらくすると真ん中の板が無くなっていたとか。
もしかして、あいつ”トリイ”に気づいていないで、魔術をやったのか。
だとすれば・・
扉の上で、死んだ様に硬直していた男。周りが静かなうえ、襲われてもいないと起き上がり顔を上げる。町にいると分かると、すぐに後ろを振り向くが、ゴブリンの姿は無い。もう安心だと、胸をなでおろしていた。
扉の上の男は、キョロキョロとあたりを見ている。
そんな男の前に立つ俺たち。
「おい、なんか変なこと考えていないか?悪い顔しているぞ」
耳元に子声で言ってくる、しかし、それは余計なお世話だ。
「おい、君。大丈夫か?」
急に声を掛けられ、少し緊張しているようだ。
起き上がると。
「はい、ケガもありません」
「君、かなりお金持ってる?」
「いえ、冒険者になり立てで、何もありません」
「だったら、上を見てごらん。男達がいるだろう、彼らが来る前に消えた方が良いと思うよ。この扉の弁償、出来ないだろう?」
顔に近づくと、小声で言ってみる。
上を見上げて、次第に顔が青くなる。
「逃げてもいいのですか?」
「俺らも冒険者だ。仲間の不利になる事は言わないよ」
「ありがとうございます」
お礼もそこそこに、脱兎の極走り出す。
そんな男を、怪訝そうに見ながら、男達は降りて来た。
彼らの興味は、倒した男ではなく、倒れた原因のようだ。
扉に近づくと、金属の板が散乱している。
すぐに原因を理解する男達。
小声で話し合っているのだが、聞こえなくても内容は想像できる。
「まだ悪い顔だぞ、何かやるのか?」
後ろにいる仲間。今の声が聞こえたのか、何か面白い事をやると思っているようだ。
「俺に考えがある。そうだ、荷車を2台とも持ってきてくれるか」
「おう、分かった。あとで、ちゃんと説明しろよ」
仲間が、荷台を取りに行っている間にやる事がある。
男達は、俺たちが扉のそばにいるので、門から少し離れた場所で話し合っている。俺たちが居たので、警戒したのだろう。
俺が近づくと身構える男達。
俺たちは、暇があると見に来ていたから、顔を覚えていたようだ。
「何の用かな、ご覧の様に我々は忙しいのだよ」
用はないから近づくな、または帰れ、という事か。
「俺の顔は、ここにちょいちょい見に来ているから知っているだろう。ここの冒険者だ。この扉について提案がある、悪い話じゃないと思うよ」
男達の視線が、一人の男に集中する。
自分を、責任者だと言っていた男だ。
男は、俺をどうしようか判断しているのか、ジッと見ている。
隣の男達の視線が、俺から離れて遠くを見ている。
つられて見ると、こちらに向かって男たちがやってくる。
先ほどの話から、昨日、館の完了前の巡察があったのだろう。
そして今日は、最後の点検を全員でやっていて、終わった者からここに集まっている。
だとするば、集合が終われば、全員で帰るのだろうか。
あまり悠長にしている時間は、ないはずだが。
「このままにしておく事も出来ない。その提案を聞こうじゃないか」
まだ上から目線だが、まあいい。
「俺は、これを作った工房を知っている。それに、まだ職人が残っていて、元に戻す事は出来ると思っているのだが」
少し鎌をかけてみる。
「ほう。それは重畳です。それで、対価が欲しいのですか?」
「それもいいが、あの館が誰もが満足する金額で、依頼を出しそうもないのだが?」
「君は、状況を良く分かっているようだね。賢い者は好きだよ」
お前に、好かれても困るのだが。
「俺は、金より欲しい物がある」
「なにかね」
食いついてきた。本当に館は、依頼料を出し渋ったようだ。
「俺は、扉の復元に少し細工をしたい。それを見逃してくれるのが条件だ」
「・・・・・」
少し間、無言でお互いを見る。
俺が信用できるのか、見定めているのだろう。
「それには、こちらも条件がある。私も立ち会う、もしこちらに不利な事をしていれば、この話は最初から無い事にする」
「いいだろう。ただ、俺たちはそれで良いが、工房には支払ってくれよ」
「もちろんだとも」
「君の名は?」
「俺は、”フレッド”。仲間も来るが、そっちは良いだろう。俺が窓口だ」
「私は、”アスラン”という。良き関係になる様に祈っておくよ」
「お互いに」
アスランは仲間に支持を出す、破損した扉を城壁の下にまとめさせている。
金属の板を見て、忌々し気に見えたのは気のせいか。
門の周囲から人払いをすると男が一人、門があった場所に歩いていく。
杖を町に向けると、先に大きな魔法陣が浮かびあがった。
一瞬光り、すぐ消える魔法陣、それに合わせて町から一陣の風が門に向かって吹く。風で舞い上がった砂やほこりが、男に向かう。
風が起きると、向きを外に変えて、杖を突き出す。
先ほどまであった門の場所に、四角の魔法陣が張られる。
風が魔法陣に当たると、なにをしているのか理解できた。
門がある、いや、正確に言うと門のような壁があり、それはくすんだ土の色になっている。
土やほこりが、魔法陣にぶつかって吸着したのだろう。
扉を再現した魔術なのか、いやこれは、隠蔽魔法と同じではないか。
逃げている時に、岩陰に隠れた姿を隠す魔法と同じに見える。
俺が遠くから見れば、かなり微妙だが扉に見えなくもない。
「あの魔術は、維持するため魔力を消費し続ける。彼の魔力が尽きるまでやるが、切れれば元に消えてしまう。
私が帰るまで、仲間がここ周辺の人払いをするので、遠目に見るだけなら大丈夫だろう。
これからだが、全員が集まったら館に挨拶に行き、それでここでの依頼は終了となる。
集合まで、そう時間がある訳ではない。それを理解してやってくれるかな」
「了解した。ちょうど仲間が戻って来た。積み込みを手伝ってくれないか。おれは丁番を見てくる」
その工房は、城壁の工事が始まると造られた。
建設資金は、館から出ていたが、土地は網元が持っていたので、建物を建てて貸し与える契約になっている。
決められた家賃を支払えば、受ける依頼に制限はない。ただ、門の作成・設置だけは当初の契約に含まれていた。
工房の仕事は、主に木工とそれに関する鍛冶全般をやっていた。
工房に着くと爺さんが一人、片付けをやっていた。
「よう爺さん、元気でやってるか」
「ああ、あんたか。もう閉めるんでね、その後片づけさ。なんか用かい」
「最後の仕事を持ってきた、外を見てくれ」
爺さんは、工房から出て荷車を見る。
子供のおもちゃが無くなり帰って来た時、こんな顔になるのだろう。
思わず、扉と閂に触って、その感触を確かめている。
「これがどうしてここにある?」
訳が分からないのだろう、扉を触りながら聞いてきた。
「訳ありでね」
簡単に、扉が外れた説明をする。
「これを元に戻したいのだが、手伝ってもらえるよね」
「それはもちろんだ、まさか再度やれるとは」
これは、爺さんが作成した扉ではない。当時はまだ弟子になったばかりで、手伝いをしながら作業を見ていた。
爺さんは、工房を片付けてくれと、俺たちに工房に広がっている魔道具やら木材を指示された所に移動させる。なんだか、後片付けを手伝っている気になって来た。
「この作業台に、こいつを掛けてつないでくれ。
終わったら、扉を載せてくれればいい」
作業台は、一つが3x3mの大きさ、それに厚い布をかぶせて、養生材とする。2台を並べると3x6mの作業台になった。
まだ用の無い閂は、工房の壁に立てておく。
扉は、閂の金具を上にして並べられた。
「ほうほう。すごく綺麗に釘が抜かれたようだね。余計な傷がない。この釘はあるかい。あれはもう作れないからね」
「それなら丁番についていたよ。閉まったまま倒れたから全部残っている。それは見て来た」
「閉まったまま?」
爺さんは、丁番の跡をそばにあった道具でつつく。
「これは、見事に炭化している。しかも均等に。なにか魔法を使ったのか」
爺さん、伊達に年をとっていない。
一通り説明をすると、分かったのだろう。
「それで、この扉を修復したいのか。でも、どう直すのだ?」
俺は、工房にあった紙に出来上がりを書いてみる。
「どうだい、出来そうかな?」
「この程度でいいなら、戻せるさ。
ただ、この金属板を留める釘が足りないようだな。いや、まだ捨てずにあったはず。悪いが探すのを手伝ってくれ、それと一緒に資材を持って来る」
爺さんが、倉庫に仲間の一人を連れていく。
その間に、扉から閂の金具を取り外す事にした。
まわりを叩くと音が変わる、大きな中框が入っているようだ。
閂の寸法は、90x120mm、それが1m間隔で3本ついている。
扉の左右に2か所、閂を入れる金具が取り付けられていた。
金具は、120x120mmの金属板に”凵”型の金具がついているので、中框も120mmあるのだろう。
金属板の両側に3本ずつ取り付いている釘は、太い逆目釘になっている。
無理に引き抜くと、扉を傷付ける。
「アスランさん、お願いできますか」
あまり乗り気では無いようだが、それでも協力はしてくれた。
釘の頭に極小の魔法陣、釘に沿って若干炭化させる。
工具で釘をつまみ引き抜く、スポッと抜けた。
全部の金具を取り終わると、爺さんたちが帰って来た。
扉を裏返しにする。
特に変わった様子はない。
ただ、金属板の跡だけは、出来た当時の色のままになっている。
爺さんは、千枚通しの形をした道具を、金属板の跡に刺していく。
「ほう、見事なもんじゃ。炭化は、どれも扉の4/5程か。そこに衝撃がきて釘が抜けたのだな。でこれを切り落とせばいいのじゃな」
「大丈夫ですか」
「わしを誰じゃと思っている、黙って見ていろ」
魔道具に定規を取り付けて、幅を金属板に合わせる。
作業しやすいように、扉の1枚を別の養生してある台に移動。
残った扉をスライドさせて、切る部分を作業台からはみ出る様に出す。
「動かない様に、上に載ってくれ。あっ、その汚い靴は脱いでくれよ。誰か、切った物を持ってくれ、扉に余計な傷をつけない様にな」
定規を扉に当て、ためらいもなく切り落としていく。
どこが爺さんだよ、その姿は現役そのもの、言うだけの事はある。
金属の板がついていた扉の上部・側面を、切り落とす。
「その図だとこっちも切るようだが、やるのか?」
「お願いします」
アスランは、何か言いたそうにしていたが、中止させる事もなく見守っている。
終われば、残りの扉と入れ替えして切り離していく。
この作業で、当初1500x4000mmの扉が、1360x3900mmになった。
縦框は、かなり余裕をもって作っていた、測ると250mm程。
爺さんが覚えていた、「もし扉が破壊された時、丁番に無理が掛かって框が割れるだろう、その時は框を切り落として補強材を入れれば、補修出来る様にしておく」。当時の親方が言っていたそうだ。
「この扉を、こっちに持って来てくれ」
扉を作業台から降ろし、先の扉の上に載せる。
いつの間にか、布を巻いた四角い棒が置いてある。
「この台をここに移動してくれ」
言われた通りに移動させる、20cm程の隙間が出来た。
「その扉を作業台に、この金属板の跡を切り落とす。この隙間に入るようにしてくれ」
言われた通りに、台にあげ位置を調整する。
爺さんは、金属の長い板と締め付け用だという魔道具を持ってきた。
「この扉の中を切るのだが、こんなに長い定規はないからな」
寸法を測り金属の板を置くと、魔道具で締め付ける。
切り落としに使った魔道具の定規を外し、別の定規を取り付ける。
金属板の溝を示し。
「ここに溝があるじゃろ、この定規のここが溝にはまる。
これで切り落とす時にブレない様にするんじゃ。どうじゃ、簡単だろ」
「そっちにいてくれ。これを動かしてそっちにやる、うまく受け取ってそのまま切ってくれ」
なにか難しい事を言ってきた。
「待ってくれ。俺は、それを触った事もないんだぞ。無理だろう」
「そうだな」
そう言うと、奥に来るように言う。
奥の使っていない台に傷のある板を置き、上に厚みのある板を置いた。
「下まで切れるが、作業台は切れないから好きに切ってみろ」
爺さんは、別の魔道具を持つと、端を切って見せる。
魔道具を俺に渡す、定規は付いていないので、思い通りに切れるようだ。
おっかなびっくりで、魔道具を動かし板を切ってみる。
「ほう、筋がいいな」
3回切ると。
「慣れたか、ではあっちにいくぞ」
「さっき言った通りだ。この定規をこの板の溝に入れる、魔道具を動かして、真っすぐに切る。慌てる必要はない、ゆっくりでいいからな。わしは反対に行くから、それを受け取る」
「わかった」
実際にやってみるとすんなり出来た。
「よし、次だ」
無事に2枚の扉を上下に切り分ける事が出来た。
大きい扉が、1360x3060mm。
小さい扉が、1360x940mm。
扉を片づけ、作業台を掃除。
再度作業台を合わせて、残っていた金属板の跡を切り落とす。
小さい扉は、1360x840mm。
これで、”トリイ”の跡は無くなった。
「それで、切り落として短くなった部分はどうするんじゃ?」
俺は、作業の間に書いていた図面を爺さんに見せる。
「なるほどな、この程度ならここでも出来る。わしは、この部材を作ってくる。その間、ここを掃除しておいてくれ」
爺さんは、倉庫から材料を取ってくると工房の端で、加工し始めた。
爺さんが居なくなると、アスランが近づいてきた。
「先ほどの紙を、見せてもらえるかな」
図面をみて分かるのだろうか?
最初に書いた略図を、持って聞いてきた。
「これだと、この部分だが」
略図の左下を示し。
「強度に問題は、無いのか。どの程度を想定している」
「確かに、他の部分より弱いだろう。全体で言えば、作った当時ならオークが叩いても持つが、突進されれば破壊される。
これを修繕した場合は、オークに叩かれたら持たないだろう。持って、中型の猪の突進までだろう。そして、この部分はゴブリンがしばらく叩けば、壊れる程度だろう」
「それでは」
「俺たちは、冒険者だ。日々狩りをするか、採取で生きている。昨日までは、行き来出来ないが、これなら可能になる。協力してくれないか」
「それは理解している、しかし」
「なら、魔よけの魔術は無いのだろうか。それをやっておけば、扉が破られる事もなくなるのではないか」
「魔よけ?・・・魔獣よけか、ないわけではない。ただ、小型には効くが、大型には効かない。
それでも、あればマシか。毎年追加の作業があるから、その時に切れない様に魔力を補充すれば、なんとかなるか」
「では、いいのか」
「いいわけではない、ただ、見ていなかった。という事だ」
「それで充分だ、それじゃ作業を始めよう」
掃除が終わり、手持ち無沙汰なので、扉を観察する。
最初に、切り落とした後を見てみる。
側面には、新たな木肌が出ていた。
作業中、爺さんが「框は大きく取ってあるから、多少切り落としてもゆがんだりしないよ」と、言っていた。
工房にあった木槌で叩いてみると、確かに結構残っている。
問題は框のない部分、魔道具の受け渡しをして切った部分だが、中が見えていた。
「これは、獣の毛?」
まだ色も艶も残っていった。
「この匂い、森狼じゃないのか」
「そのようだね」
森狼は、魔獣指定になっている。
魔力を周囲の毛に宿し、斬撃に対して耐性が出来る。
他にもメイスやハンマーに対する、衝撃耐性も持っている。
革鎧と裏地の間に入れてあるのだ、狩りの前に魔力を込めると、衝撃をある程度だが抑えてくれる。
扉の中に魔石を埋め込んで、魔力が切れない様にしていたのだろう。
ただ、あれからかなり時が経った。魔力が残っているか疑問なのだが。
毛が見えているのは、小さくなった扉の方。
大きな扉には、閂の金具を取り付ける框が入っていた、框の表面を削りながら切り落としたようだが、問題はないだろう。
爺さんが戻って来た。
いく本かの木棒と違う魔道具を3台、同じようだが?
「この魔道具は、どっちも溝を掘る道具じゃ。雄と雌で一組になっている」
作業台に置くと、定規がある所から、箱を2つ持ってきた。
「これが溝を削る刃じゃ。これを見てみろ、こっちが雄でこっちが雌なんだが」
見た事もない形の道具が入っていた。
「実際にやってた方が、分かるじゃろ」
魔道具に、それぞれを取り付け、位置を調整。
その間に、台に置いた木棒を測ってみる。
寸法は100x200x1600mm。
「最初に、こちらを加工する」
魔道具を置くと、壁に固定してある作業台に持っていく。
そこには、締め付け用の魔道具が取り付けてあった。
そこに、木棒をセットする。
魔道具を持って来ると、木棒に当て緩やかに削り出す。
横からのぞき込むと、”▼”状に残る様に削っている。
端まで行き削り終わると、寸法を確認。
思い通りに出来たようだ。
「どうだ面白い形だろう”鎌”と言っているが、こっちが雄だ」
木棒を取り外すと、今度は横にして取り付ける。
もう一つの魔道具を持って来て、別の箱から刃を取り出し取り付ける。
寸法を調整し、ゆっくりと削っていく。
削っている形は、”■”。
終わると、寸法を確認。
向きを交換して、同じく削っていく。
再度、寸法を確認。
満足したようだ。
魔道具と木棒を、作業台に移動。
俺たちに、台の掃除を命じておく。
「今度は、ここに溝を入れるのだが、扉は3m程ある。
そこでじゃ、この床を開けてくれ。
最近使っていないから、キツイだろうがやってくれ」
見ると、足元に2枚の板がはめ込んである。
大きさは、2x1mが2枚。
指が入る穴があるので、引いてみるが動かない。
強引に引き上げて開けると、ブワァとホコリが舞い上がった。
「悪いが中を掃除してくれ。
そこは長尺物を入れる穴なんだが、使っていないからゴミ箱になっている」
仕方がないので、大きなスライム袋を持って中にはいる。
深さは、2mといったところか。
床が綺麗になった所で、敷台だという木棒を渡される。
床に敷き、壁に付いた梯子で上に戻る。
「これから、穴に扉を入れる」
爺さんは、蓋の1枚を戻すと。
「最初に切った扉を持って来て、穴に入れてくれ」
と、蓋のそばに入れる様に指示するので、言われた場所に扉を入れ持っている。
「その作業台を、この扉の傍に」
台を持って扉の傍に置く。
爺さんは扉が垂直になる様に、位置を調整する。
作業中に棚から、固定用の魔道具を持って来て台に取り付けると、動かない様に扉を固定する。
「これでは作業しづらいので、調整する。そこの箱を、3つ持って来てくれ」
壁に高さの違う箱が、高さ毎に積まれている。
指さされた箱を、3つ持っていくと、穴の両側と中央に置き。
幅広で厚みのある板を、立てかけてある壁から持って来て箱に渡す。
爺さんは、がたつきがないか歩いて確かめている。
十分だったようで、刃が雌になっている魔道具を持ち、刃を調整する。
扉の端に魔道具を当て、ゆっくりと削っていく。
今度は、扉の框を”▲”の形で削る。
端まで行くと、寸法を確認。
魔道具を台に置くと、棚から広口のスライム瓶を持ってきた。
中にスライムの体液に似た、ドロッとした液体が入っている。
いま削った溝を、綺麗に掃除すると、液体を端に少量垂らす。
「さっき作った木棒を持ってきてくれ」
持って来ると。
「そこに木づちがあるだろう。向きはこう、この部分と形が同じだろう。ここに嵌めて、静かに端を叩いてくれ。ゆっくりでいいからな」
言われた通りに木棒を当て、木づちで軽くたたく。
「もう少し強く」
すこし力をいれる。
「そのまま、ゆっくりと入れてくれ」
爺さんは、液体が隙間に入って無くなると、切れない様に補充していく。
こちらの残りが50mm程になると。
「もういいだろう」
扉に、切り落とした金属の板幅分の木棒が取り付けられた。
両端に飛び出ている余分な木棒を、切り落とす。
「これの小さい扉を持って来てくれ」
左右に残っている框を測り、今取り付けた木棒から框部分を切り取る。
謎の液体を、取り付けた木棒、削った”■”に少量塗っていく。
終わると。
「それじゃ、扉を持って・・・向きはあってるな、静かに溝にいれてくれ」
扉の自重で、削った部分に半分程沈みこんだ。
「二人で台に上がって、木づちで叩いてくれ。このあてぎを忘れないでな」
無事に沈むと、はみ出た液体を、別の溶剤を付けながら丁寧に拭きとる爺さん。どうも大事な作業のようだ。
固定していた魔道具から外すと、扉を台に置く。
穴の上の板と箱を戻し、残りの蓋をする。
床に敷台を置いていき、固定の魔道具の位置を変える。
扉を床に置き固定すると、先ほど取り付けた木棒が見える。
棚から小型の魔道具を持って来て、起動させる。
ブィーンとなる魔道具を持って、木棒の切り落とした面にあて、こする様に動かしている。
触ってみると、先ほどまでバサバサしていた面が削られた様に、ツルッとしている。
さっきはやっていなかったなあ、と爺さんをみると苦笑い。どうも忘れたようだ。
後は先ほどと同じ作業、刃を交換して”▲”に削り取る。
今度は忘れていないようで、魔道具を当てて平滑にしていく。
終われば、台の反対に移動。
長い木棒を持って来て、台に固定。
今度は、2本連続で”▼”に削っていく。
軽く魔道具で平滑にしたら、この作業は終わり。
工房の入り口を開け放して、木棒を外にだす。
爺さんは、その間に”▲”と扉の上面に液体を垂らす。
「よし、いいぞ。ゆっくりと叩いてくれ」
二人が木棒を持ち、一人が力を加減して木づちを打つ。
爺さんは、液体が切れないように垂らしていく。
端が少し残るまで入ると。
「これで終わりだ」
はみ出た液体を拭きとり。
余分な両端を切り落とし、魔道具で小口を綺麗にする。
固定を外して反対向きに、取り付けた木棒の小口を綺麗にすると。
こちらも”▲”に削りとって、上部を平滑にする。
あとは同じ、液体を垂らしながら木棒を差し込んでいく。
液体を拭きとって、両端を切り落とす。
それを綺麗にすれば、扉の完成になる。
扉を2枚に斬り離したので、つなぎ合わせても、木棒の部分が極端に弱い。
軽い衝撃で、扉は分解するだろう。
それを補強する為、70mmの木棒を作り両端にはめ込んだ。これで扉が一体化する、こっちは、猪程度がぶつかっても大丈夫だろう。
完成した扉を、一旦壁に立てかけておく。
両側に70mmの補強材、金属板の板の跡を切り取り100mmの木棒に交換した。1500x4000mmとなって一体化している。
次は、かなり厄介だ。
大きな扉を台にあげ、中框に切り目を入れる、深さは50mm。
作業用の穴を再びあけ、扉を入れ固定する。
また框に切り目をいれる、深さは30mm。
縦と横、切り目が合わさるようにしてあるので、30x50の木片が切り出される。この切り出した後を、小型の魔道具で綺麗にする。
作業が終われば、穴を掃除し、敷台を撤去して蓋の板をはめる。
次は、対になる木棒の加工。
同じく、30x50の切り出しをやり、綺麗にする。
木棒の幅が90mmになるように、両端の”■”を削り落とす。
扉の縦框がぶつからない様に切り取って、魔道具で綺麗にしておく。
削り取った■と縦框部分に液体を挟み、小さな扉に組み込む。
組み込んだ小さな扉の加工は更に続く。
このままだと、接合部分がふらつくので両側に補強材を挟む。
扉を台にあげ固定すると、両側の幅を40mm切り落とす。
補強材100x40mm2本と心材30x18mm2本を準備し、両側の縦框と補強材に”□”の溝30x10mmを入れる。
加工後を綺麗にし終わると、爺さんが縦框に液体を塗り、心材をはめ込む。
更に、全面に薄く塗り、補強材を張り合わせる。
同様の作業を、反対の縦框に行う。
乾燥するまで放置し、余剰の部材を切り落として綺麗にしておく。
これで、小さな扉1300x930mm(1300x980)が出来た。
今度は大きな扉の加工になる。
先ほど使った加工場所に、扉を移動。
縦框に”▲”を削り込んでいく、平滑にすれば、反対にして同じ加工。
次第に厄介な加工になっていく。
扉の両側に付ける補強材の木棒を、作業台に固定し”▼”の加工をする。
終わると、小さな扉部分の不要な”▼”を撤去する。
長さを測り、”▼”部分に切れ目を入れ、大きな扉と小さな扉を分ける。
手作業で慎重に、所々に切れ目を入れて、余計な所が裂けないように道具で削っていく。
終われば、大きく出ている所は削り、仕上げに魔道具で平滑にする。
台に固定して、下になる小口から100mmの位置に横線を書き入れる。
その中心50mmから小口へ10mmの縦線を書く。
その線に魔道具を当て、幅10mm深さ10mmの溝を掘る。
振動でぶれない様に、定規は忘れずにつけている。
補強材それぞれに、溝は対になる様に削り込む。
補強材の端から中心に削り、そこから下に、”Γ”型となった。
あとは組み立てるだけ、大きな扉に、加工した木棒を両側に取り付け、小さな扉の位置(940mm)の先と反対の小口を切り落とし綺麗にすると、この作業は終わりになる。
扉を片付け、工房を清掃して、今度は色合わせとなる。
作業台を5台持って来る、2台ずつつなげて、扉をおく。
最初につくった扉は、右側。
今作った大きな扉は、左側に。
小さな扉は、大きな扉の隣の別の作業台に置く。
この時に注意するのは、丁番側にするのは反対の縦框。
丁番側の縦框は、100mm切り落としているので、40mm切り取った反対の框より幅が短くなっている。
次に、最初に組み立てた扉は、もとと同じに上部に持っていく。
つまり、以前の裏表を入れ替えして、取り付ける事になる。
最後に組み立てた扉。
こちらも丁番側は、反対の框を使う。
小さな扉は、隣と違い下に持って来る。
こちらも、裏表が反転する事になる。
ここで色目が問題になる。
新たに組み込んだ木棒と金属の板の跡は、真新しい木肌が見えている。
他は、くすんで黒く汚れた木肌になっている。
爺さんは、俺たちを連れて倉庫に。
そこにあった大型の魔道具を持ってこさせる。
起動させると、さっきから使っていた、表面を細かく削って綺麗にする魔道具の大型版。
大きくても一人で操作できるように、円形の魔道具から操作用に伸びている。手持ちのバーにスイッチがあり、それで向きを変えたり動かしたり出来る。
俺たちは、悪戦苦闘して扉の表面を綺麗にしていく。
さすがに、長期間しみ込んだ跡は消せない。
爺さんの合図で、反対も綺麗にする。
最初は町に向いていた方、金属板の板がないので全面がくすんでいるが、新しい木棒は分かる。次に磨いたのは森を向いている方。
「これを、塗ってくれ」
渡された広口瓶、中にくすんだ色の液体が入っている。
一緒に渡された刷毛で、塗ってみる。
組み込んだ真新しい木棒が、くすんだ木の色になる。
近くで見れば、色違いが分かるが、もう開けない森側の門なら問題ないだろう。
再度、表裏を入れ替えする。
ただ、塗りたてなので、台に付着しない様に、架台をいれておく。
真新しい木棒に、先ほどの液体を塗っていく。
爺さんは、その間に別の液体を準備していた。
こっちは、くすみが薄い?幅広の刷毛で扉部分を塗っていく。
古い扉部分が、以前より明るい色に変わった。
新しい木が古くなった色へ、扉の色のくすみが薄くなった。
「まだ新しい木だと分かるだろう、乾いたらそこを2度か3度塗れば、かなり目立たなくなる」
「乾く時間ですけど、どの位?」
「そうだな、半日もあれば乾くだろう」
「そんなには、・・・そうだ、アスランさん。これ乾かせませんか」
「そんなに便利使いされても、困るのだが。そうだな、少し待て」
杖の魔石を取り外し、斜めにする。筒が一つ出て来た。
手帳を取り出し、筒の中の紙を挟み込む。
手帳の別のページを開いて、魔法陣が書かれた紙を筒に入れ杖に戻す。
扉に行き、杖の上部に魔力を込める。
扉の上に魔法陣が発生、次第に色あせて消えていく。
「これで、乾いたかな」
触ってみると乾いている。
色の薄い部分を、塗りこんでいき、乾かしてもらう。
3度塗りこむと、色の変化はまじかでなければ、見分けがつかない程になっていた。
更に全体を、ひとぬり。
乾かしてもらい、裏面も全面をひとぬりする。
最後に、金属板の板と閂の金具を取り付けるのだが。
爺さんから一言。
「なあ。出来るならでいいが、こいつらを塗りなおして悪いか?また新たに組み込むんだ、化粧してやりたいのだが」
俺は、アスランをみる。
当然困った顔になる、ただでさえ危険な注文を黙認しているのだ。
それでも結論は、早かった。
「いいでしょう。ただし、作った当時の色ではなく、色あせた状態の色ならですが」
「それで結構です、艶を消して少しくすんだ色を作って来ます」
その間にと、爺さんが言ってきたのは”閂を魔道具で綺麗にして、液体をひとぬりする”と”閂の金具をこれで塗りなおしてくれ”。
渡された液体を塗ると、すこしくすみ、艶の無い黒になった。
元の色が、風月で傷んだくすんで黒いいろだったので、遠くでみれば気づかない程度だろう。
手分けして、閂を魔道具で綺麗にし液体を塗っていると、爺さんが帰って来た。
塗装用の台に広げて、並べる。
爺さんは、少しくすんだ、艶の無い朱色を”トリイ”に塗っていく。
アスランは、眉を動かしていたが、作業を中止させる訳でもなく、ただ見ていた。
これらも、アスランが乾燥させると組み立てとなる。
森に向く面になおして、”トリイ”を取り付ける。
持ってきた釘では足りないので、爺さんが探してきた釘を使い取り付けが終わった。
「この真ん中の板は?」
爺さんが聞いてくるが、俺たちが門を使いだした時には、何もなかった。
「そこには、中の毛を活性化させる魔石を組み込んでいたのだが、そうか無くなったか」
さっき小分けしたのだろう、瓶を持ってきた。
「これで釘の頭を塗ってくれ」
小さな瓶を3本渡されたので、釘の頭を塗っていく。
アスランが、乾かすと裏返す。
今度は、町に向かう面になる。
閂の金具は、扉の1m毎に中框があり、それに取り付けられている。
俺は、爺さんに確かめたい事があった。
「門番の爺さんに聞いた話なのだけど」
から始まる当時の裏話。
工房から閂をもっと太くして、扉の両側に金属の補強板を入れれば、門の強度はこの図面より強くなる。
そう提案して、実際に補強板を見せたのだが、網元から”トリイ”を取り付けるから、森に板は付けられない。
そう返答され、図面の通りにつくった。
「その時の補強板は、まだありますか?」
「そんな事もあったね。どうだろ、見てくるかい?」
「ええ、こちら側に使いたいのです」
「だったら、これ用の釘も必要かね。もしも片方だけ許可された時用につくっていたはずだ」
倉庫に俺たちも付いて行く。
扉に関する物は、ここに纏まっておいてある。
爺さんの言葉通りに、補強板もその釘もすぐに見つかった。
補強板を6枚持っていく。
付ける事を、想定していたのだろう。
金具に合わせてた釘穴、補強板を留める釘穴は、開いていた。
ただ無塗装で多少錆が浮いていたので、魔道具で綺麗にして塗っていく。
乾燥してもらい、組み立ていく。
上中下の3か所x左右、計6か所に補強板を取り付ける。
それに開いている釘穴に合わせて、金具を取り付ける。
釘は、問題なく中框に効いたので、終了となる。
最後の作業になる。
「爺さん、ここに刺すダボはある?」
「ああ、それなら在庫に合わせて掘ったから問題ない」
爺さんは、寸法線を扉に書き込むとダボを打ち込んだ。
これですべての作業が終わった。
扉と道具を荷車に付けて、北門に向かった。
北門が見えてくると、男達と館の門番がもめている。




