ガミリア共和国 第31話 北門の肉屋②
オークの肉は、高級品だが店売りの単価はどこも同じ。ギルドに卸せば、転売の手数料を取られる。従って、町内の肉屋に卸している。
いくら繁殖が良いと言っても、毎日狩れば絶滅してしまう。
見つけた群れは、月一で数が減らない様に、且つ増えない様に調整していたのだが。
オークを卸さないと、ギルドから苦情?を言われる毎日。肉屋でも、もっと持って来てほしい。と、泣きつかれては重い腰を上げざるを得ない。
全ての人に魔力はあり、魔法を使うことが出来る。ある高名な魔法使いの言葉である。
彼は、独自の魔法理論を考案、それを実践する魔法大系を作り上げた。
それを書籍にまとめ、『魔法大全』として売り出した。とても高額であり、当時の本は、1冊1冊写本することでしか増刷出来ない。
結果、全冊を持つのは大国の王宮か、大規模な商隊を持つ商人など一部に限られていた。
それでも貴族や魔法使いは、1冊でもいいからと本を求める。ひどい時は、1冊を斬り離し『魔法大全。第3巻3/5分冊』として売り出した。
亡くなった彼が聞いたら、本が可哀想だと嘆いただろうか、印刷技術の未熟さを嘆いたのだろうか。
村長の娘は、治癒魔法の才があると指導してくれたシスターを訪ねる。本来なら、修道女として教会に入れ指導しなければいけないのだが、娘は村長の補佐として実務の一部をこなしていた。そこで、シスターの個人レッスンとして、指導することにしたのだ。
ある日、少し困った事があると言って、娘が訪ねて来た。シスターの私室に入れ、話を聞いてみる。
娘の相談は、「オークを狩っているのだけれど、常に複数で行動しています。それを引き離す方法は、ないでしょうか」
シスターは、本箱から手製の本を持って来る。
「これは、とても高名な魔法使いが残した本の一部を、書き写したものです。ここからここまで、読んでみなさい」
そう言い残して、教会に戻っていった。
頃合いをみて戻って来たシスターは、頭部の模型を持ってきた。
「読みましたか、では、実践です」
模型を机に置くと、四か所に〇を書き、指をさした。
「この所の先に、眠りを司る器官があると言われています。その場所をイメージしてみてください」
娘は、自分の指を印にあて、頭のどの位置なのかイメージしていく。
「位置は分かりましたか。この訓練はどこでも出来ます。人でも獣でも、その位置を瞬時に見いだせる様にしてください。
次に、意志を入れない魔力の事を『無属性魔法』というのですが、それに慣れたら、意志を入れた無属性魔法を使える様にしてください。
では、最初に意志を入れない魔法です。魔力を収束し、頭部の一点に移動させるのです。これは『睡眠』の魔法です。眠りの器官に、程よい刺激を与えて眠りを誘発します。次第に刺激を和らげて、眠りへと誘うのです。
優しく眠りに誘うのですよ、くれぐれも乱暴に入れないでください。
それが出来たのなら、次に覚えるのが意志のある無属性魔法です。
治癒魔法は、正常な状態の体をイメージして、その状態に持っていく魔法です。これは、意志のある魔法になります。
あなたは、そこまで修行できませんでしたので、初歩の魔法にとどまっています。
先ほどの、睡眠の魔法が出来る様になると、器官への魔力注入がイメージで出来る様になります。それと、無属性魔法の扱いも、意識しないで出来るはずです。
無属性魔法に意志を込める場合は、何をしたいか、何を結果で求めているのかを魔法に込めます。ただ込めるのでは、ダメです。
オークを瞬時に無力化したいのなら、『混乱』がいいでしょう。自分がパニックになったイメージを魔力に込めるのです。
混乱の魔法を、睡眠の位置に突き刺し爆発するように拡散させて、混乱を引き起こします。これは、相手の魔力抵抗との戦いになります。
こちらが弱ければ、弾かれてしまいます。抵抗に打ち勝っても、弾かれる量が多ければ、十分な効果を出せないでしょう。
最後に、強制させて眠らせる無属性魔法です。これは、睡眠の魔法を強化した意志を使います。
睡眠を誘発するのではなく、器官を刺激して睡眠を強引におこさせる魔法です。この意志の練り方は、写本にありませんでした。自分で工夫して探すしかないでしょう。
この無属性魔法を、写本では精神魔法と区別しています。意志を工夫すれば、何通りもの精神魔法が作れます。
そうですね、最初の『睡眠誘引』を初級魔法だとすると、『混乱』は中級魔法、『強制睡眠』は上級魔法になるでしょう。
初級魔法がほぼ無抵抗で、作用するように。中級魔法だと、抵抗されます。
『混乱』に最も抵抗するのが”兵士”です。彼らは、戦場で混乱すれば悲惨な結果になる事を知っています。それを訓練で、克服するのです。
反対に”騎士”は、本来の精神耐性だけで、混乱に対する訓練を行っていません。ただ、騎士の精神耐性は、かなり強固だと知っておくのが大切です。
耐性のある者に害のある魔法を使用し、それを耐えるか破られると、術者を特定しに動くでしょう。見つかれば、ただではすみません。心しておくように。
上級の『強制睡眠』を使用された場合、寝てはいけない状況にいるでしょう。当然、抵抗します。
この場合、魔法を使う者が持っている。相手の魔力を、体内に入れない様にする”魔力抵抗”。魔法そのものに抵抗する”魔法抵抗”があります。
そして、だれでも持っている”寝てはいけない”という精神抵抗が働きます。
それに打ち勝ち、十分な魔力を入れれば『睡眠』させる事が出来るでしょう。
これで講義は、終わりです。あとは自分で研鑽に勤めなさい。そうそう、私が教えたと言っては、ダメですよ。これでも、指導する立場のシスターですから」
お礼を言い、娘は帰って行った。
オークを誘い出す男の後ろに娘がいた。
「いいですか。俺より前に行っちゃダメですよ。あいつら鼻が利くんです。本当に危ないんですよ」
「はいはい、大丈夫ですよ」
いつもの待機場所に着くと。
「じゃ、ここで待っていてくださいね。俺は、辺りを見てきます」
「はい、気をつけてください」
20分程で帰って来た。
「いました。今日は2匹です。やるんですか?」
「ええ、協力してください」
「それじゃ、打ち合わせ通りにしてください。
あいつら、あと5分位でここに来ます。
魔法を使ったら、ここに隠れてください。絶対に物音を出さないようにしてくださいね。
俺が矢をいって、誘導します。見えない位になったら、後をついて来てください」
娘は意識を集中して、オークの頭を見据える。
突然暴れ出すオーク。隣のオークは、なにが起きたのか分からず辺りをキョロキョロと見ている。
男は、身構えたまま立ち上がり、矢を射る。オークに当たらず、草場に消えていったが、オークに気づかれてしまう。
一目散に逃げだす男とそれを追うオーク。興奮したオークには、後ろからついてくる娘に気づかない。
オークの混乱が収まり、隣に仲間がいないと気づいたが、辺りには誰もいない。仕方なく群れに戻っていった。
荷車のオークを、大急ぎで肉屋へ運ぶ。
到着すると、オークの足に足かせを付け、天井に付けた滑車で釣り上げる。
首に包丁を入れると、下の大きなタライに勢いよく血が流れだす。
あらかた流れ落ちたのだろう、タライを交換して腹を裂く。
小刀を手に持つと、腹に手を入れてこねるようなしぐさ。
ドサッと、内臓が飛び出すが、慌てずに食堂に刃を当てると切り離す。
それから、体表を切り分けて皮を剝いでいく。
あとは、手慣れた仕草で、各部位を切り分けて行った。
「どうかな、出来るかい?」
「なんとか、もうやるしかないでしょう」
「何度か実際にやってみてくれ、もっと肉が増える様にたのむよ」
冒険者ギルドに行って、依頼を出しておく。しばらく時間がかかるだろうから次の仕事だ。
出来上がるまで、森での探索チームに合流する。
彼らは、オークの群れは最初からそこにいなかった。と、思っている。
ギルドで調べても、オークを見かけたという報告がなかった。
最近、森の奥から群れを分かれて来たのだろう。
なら、群れを増やせばいい。ただ増やすと、他の冒険者に見つかった場合、狩られて群れが絶滅する。
そこで、不人気な狩場に移動させる必要がある。
最初は、場所の選定。いくつか候補地が見つかる。
次に誘導。
最近、狩りを控えているので12匹に増えていた。今度出産すれば、17匹から20匹になる。確実に、群れを分けるだろう。
数日後、無事出産したようだ。物陰にいるので、何匹生まれたか見れない。
群れがソワソワしだした。こちらも準備に入る。
翌日、若い大人のオーク5匹が群れを離れた。
途中で、血をだして倒れているウサギを見つける。
うれしそうに後ろに担ぐと、また歩き出した。
しばらく行くとまた血の匂いがする。
何度か獲物を拾い、生きていれば首をひねり担いで移動していった。
一匹が立ち止まる。
辺りは、低い木がまばらで、上を見れば日の光がまぶしい。
一声をかけると、背負った獲物を引きちぎり、互いに分け与えて食事になった。
終われば、邪魔な木を抜き広場を作る。その後、森の大きな木の下に、草をちぎっては敷き寝床を作っていく。群れの定住地にしたようだ。
戻って、最初の群れの観察を続ける。
最初は、乳で育てるが数週間もしないで、雑食に変わっていく。
森の穀物や果物から始まり、小動物や切り裂いた動物が与えられる。
ひと月もすれば、歩いて小動物を取って食べだす個体も現れる。
最初の群れから、群れの近くだが、狩りを始めた子供達が出始めた。
最初は、大人のオークがついていたが、数日すると2~3匹の子供達だけで狩りに出る。
分かれた群れにも、子供が生まれていた。こちらも、順調に育っていた。
そろそろ間引きの時間だ。交互に狩れば、お互いの群れを維持するだろう。こちらは、15日毎にオーク肉が手に入る。
最初の群れは、いつもの方法でやる。一匹が混乱している間に、広場に誘導すればいい。
次の群れが少し厄介だ。
2匹になったのを待って、混乱させる。
矢でおびき出したら、罠に誘導する。
低い位置に、罠を仕掛け足を取って、倒せばいい。
あとは、いつもの様に急所を一突きする。
ここでは、荷車が使えない。
大振りな枝に、滑車を取り付け、オークをつるす。
下に特注のスライム袋を置き、紐をつないでおく。
首に刃を入れて血を抜くが、匂いを出してはいけない、早々に上に引き上げオークに縛る。
大方抜けたら、紐を外し、匂いが出ない様にしばり、近くに放置する。
新たな袋を広げ、紐で持ち上げて枝に吊るす。
あとは、腹を裂き内臓を取り出せば袋に落ちる。
これも、紐でしばって血袋の脇に放置する。
あとは、皮を剥ぎ取ると、地上に降ろして滑車を外し、大き目に部位を切り取り、袋に入れていく。
男は20kg、女は10kgを目安に切り分けたら、2つの袋に穴を空けて戻っていく。
あとは、森がきれいに片付けてくれるだろう。
収入が増えて、余裕が出来る。
「じゃ、買っちゃう?」
家を一軒、購入した。
それからしばらく、「北門の肉屋」は繁盛していた。
問題が起きた。
一つは、幼なじみ同士で結婚すると言い出した。
反対できる雰囲気ではない。
なし崩し的に、同じ家の中に新婚カップルが出来てしまった。
それを超える問題が起きた。
館から北門に、告知文が貼られ。
冒険者ギルドに、通知がきた。
『北門を閉鎖する』




