ガミリア共和国 第30話 北門の肉屋① (北門)
村には、子だくさんの農家が結構いる。農繁期に人手がいるのと、常にも水汲み、雑草駆除、人糞運びと人手はいくらあっても困らない。
そんな村の生活を、一変させる事件が起きた。
ガラの悪い男たちが、村長の家に押しかけたのだ。
要求は、村長を変われと言う。
村を独立させて、税を取ると言い出した。
村では、冒険者ギルドに依頼して護衛を頼む。
護衛がいる間は寄り付かないのだが、いなくなれば再開した。
これには、村がこまってしまう。
仕方なく、周囲の村の状況を見に行く。
隣の村でも困っていた、更に隣の村でも。
一つの村が核となり、周囲の村の便利をはかる。
核の村の農民の数は、他と同じで大きい訳ではない。
あるのは、肉屋(乾燥させた肉と魚)、農具・日曜品や簡単な薬などを売る雑貨屋、農具や荷馬車の修理をする鍛冶屋、徴税官(従者用。徴税官は村長宅に泊まる)や行商人が泊まる宿などが建っている。
宿に、周囲の村からガタイの良い若い衆が集められた。
5人から6人が一組となって、交代で宿に泊まり、村の要請で自衛団として派遣される。村長に押しかけた男たちの人数により、多い人数で囲む事で威圧をかけるのだ。
無言で、村長の家を囲む。最初は、イザコザもあったが出来るだけ反撃しないようにただ囲んでいった。
相手が殴ろうとすれば、すぐに逃げる。周囲の男たちが寄って来て、腕をつかむ。それに文句をつけてきたら、手を放す。
馬鹿にされても相手にせず、ただ相手を見る。
そんな膠着状態が数日続くと、男たちは来なくなった。
自衛団は、一週間の待機の後、解散となった。
無事解決出来たと、解散前の宿で開かれた慰労会に出席した1パーティの話。
このパーティには、女性が一人いた。核村の村長の娘で、簡単な治癒魔法が出来た。治癒魔法と言っても、見えるケガや傷を血止めし表皮をかけなおす程度でしかない。
それでもパーティには、重宝された。
残りの男たちは、女性の幼馴染だという男と周囲の村から3名。計5人がパーティを組んでいた。
「なあなあ、おれたち凄くないか。あいつら盗賊だって言うし、そんな奴らを撃退したんだぜ」
「まて、盗賊とか村長が言っているだけだろう。本当はどうだか分からないんだぞ。盗賊なら、村を荒らすだろ。あいつらやらなかったし、なんかおかしいよ」
「だとしても、おれたちは村の依頼を・・」
「はいはい、わかったから。で、何が言いたいの?」
「前に”冒険者”が来ただろう。その時色々聞いたら、誰でも冒険者になれると言っていた。もちろん、こっちの村の者でも、なれるそうなんだ。どうだい、冒険者にならないか?」
「冒険者って、村の護衛に来ていたやつか?」
「そうだよ。海に大きな町があるだろう、そこに”冒険者ギルド”があるから、そこで登録すればなれるらしい」
「で。おまえは、冒険者になって何をするんだ?」
「冒険者の仕事は、最初は町の雑用でそれが終わると、”薬草採取”獣駆除”魔獣討伐”素材収集”、あと変わった依頼だと”魔獣調査”迷宮探査”。なんてのもあるそうだよ」
「それを、おまえはやりたいと?」
「村に戻っても一生畑仕事だぞ。それより冒険者、面白そうじゃないか」
この男の情熱が移ったのか、最後の言葉が響いたのか、このまま家に戻っても誰かの家に嫁がされるのね、と思ったのか。
言葉は違っていたが。
「これからの事だから、戻って相談しないと決められない」
それぞれ家に帰って、考える事になった。
しかし、期限だけは決めた。
「一週間後のこの時間、冒険者になる人はここに集まる」
家に帰った彼らは、話し合い(ごねる、言い負かす、脅すとも言う)の末、全員宿に集まっていた。背中には大量の黒パンを背負い。
冒険者は、成人の15才となっているが、12才でも見習いになれる。これは、町の浮浪児対策になっていた。
ギルド登録時に、申込書に記載が必要だが、文字を書けなくても問題ない。受付嬢が代筆してくれる、ただし、本登録(見習いがとれて冒険者となる)時は、自筆となる。試験管(受付嬢)が掲示板を指すのでそれを読める事。受付嬢の言う数字を足したり引いたりする、簡単な計算(数が分からないので失敗しました、ではギルドが困る)が出来る。
これらは、冒険者になるまでに出来れば良いのだから。
村長の娘は、ここまでの教育を受けて来たので、本登録用の申請書に書いていた。ただ、申請をしただけで、見習いに変わりはない。
他の四人は、申込書に書いてもらう。二階に資料室があるので、そこの石板を使い文字と計算の勉強をしなさいと言われた。
夕方前に帰り、井戸で体を拭き、軽い食事の後、夜暗くなるまで村長の娘から文字の読み方、数字を教えてもらう。あとは、備え付けの絵札を見て読む、石板に書いては消して覚える。
計算の初歩(1+1=2、2-1=1、1-1=無し)を教えてもらった後、これも備え付けの絵札(リンゴが〇個とジャガイモが〇個、合わせていくつ)を見て計算していく。
見習いになると、町の雑用を依頼される。ゴミ集め、ドブの掃除、お使い、店の手伝い(人気店の行列整理)など、多種多様にわたる。
その依頼料は、小遣い程度しかもらえない。そのままだと、宿にも泊まれない、食事も1食分にしかならない。
彼らは、受付嬢に交渉して”仮眠室”を借りる。仮眠室は、夜遅く帰って、宿の門限に間に合わなかった冒険者用に設置されている。が、宿は遅くてもカウンターのベルを鳴らせばだれかいるし、鍵の持ち出しが許されれば宿の人を起こす必要もない。したがって、常に空いている。これで、無料で泊まれる。
次に市場に行き、持てるだけの干し肉を買って来る。夜、近くの屋台から野菜クズのスープを買い。パンと干し肉、野菜スープで食事。
朝も、パンと干し肉、昨日残したスープを薄めて食事をとる。
これもギルドが課した試験となる。
一定期間、町の手伝いをする。・・一旦受けた依頼を放り出さない事。
低賃金で生活・・依頼中、金銭トラブルが起きても対応できる。
これらを見て、一旦依頼を受けたら簡単に放棄する恐れが無い事が分かると、次の段階に進む。
郊外の村々が、水路を引き川に戻していた。その水路を作り替え、旧城壁の中に入れた。新城壁の町までは、人糞を運びだす人夫がいるが、新城壁が出来ると旧城壁まで入ってこない。そこで、水路の水を各屋敷に引き込み簡易の下水道にした。
その末端、川の手前に沈殿池を作り、うわ水を放流していた。その周囲は、汚物で異臭があり、足元はぬかるんだ。
そこに大量発生したのが、茶スライムと呼ばれる池の清掃係。
ギルドから、雑用が終わり次の依頼に移ってくれ。と言われると、茶スライムの採取となる。このスライムは、臭気があり、残留物もボーション瓶に向かない。そこで、安価なスライム袋として加工される。この作業は、工房から常時採取の依頼がある。見習い職人の仕事として需要があるので、常時依頼となっている。
依頼料も、正規冒険者より安いが、毎日真面目に集めていると”安宿”2食分の食費”少し余るので貯金可能”と、ある程度の生活ができた。これが浮浪児対策として利用されている。
ここでは見るのは、嫌われる依頼でも受けることが出来るか。
ある規定量を超えると、見習い卒業の資格を得る。
ある日、茶スライムを納品すると受付嬢から、「冒険者になりたいか?」と質問される。「なりたい」と答えると、申請書を書かされ、掲示板を読み、受付嬢が読む計算に答え・・全部に問題無しと判断されると、その場で最低ランクの”冒険者”プレートが渡される。
以後、先輩冒険者と一緒に依頼をこなし、一定の技術があると言われると、その依頼を単独で受ける権利を貰える。
最初は、水スライムの収集となる。森の各地にため池や湿地がある、そこに生息するスライムを集めてくるのだ。不純物の無い良質なスライムは、高級薬瓶になる。
通常、どのスライムにも不純物が入っているので、下級薬瓶としての需要がある。少量だがとれる、ほとんど不純物の無いスライムは、中級薬瓶となる。
その生息地は、冒険者達には周知されている。
森のどの場所にいるのか。
付近の獣や魔獣の種類と分布は。
不幸にして肉食獣と居合わせた場合の対処法。
安全な採取地までの移動経路。
スライムの採取方法、持てる量の判断。
最悪、採取に夢中になり、途中で暗くなった場合にやる事。
などなど。
ギルドから依頼を受けた冒険者が付き添い、数度採取に協力する。新人冒険者は、買取スライムの依頼料から10%を、天引きされ先輩冒険者の指導料を支払う。
利息は付かないが、ギルドは肩代わりした依頼料を回収する。
いかに早く知りたい情報を聞き出し、回数を減らすかが、今後の採取依頼の課題となる。
なぜなら、冒険者ランクとは、”採取できる獣や魔獣”そのものだからだ。
初めて受ける依頼は、先輩冒険者から指導を受ける。
ただ、ある程度以上の経験があると判断されると、中級冒険者のプレートを渡される。以後、先輩冒険者の指導は不要となる。
極稀に、上級冒険者のプレートを持つ者がいる。ワイバーン以上のクラスになると、冒険者では手に余る。騎士団に依頼が行くのだが、それを討伐出来るパーティに与えられる。
ちなみに、どんなギルドでもいいのだが。初級プレートを持っていれば、城壁の入門料と出門料は無料となる。
それは、徴収する料金は門番の給金となるのだが、ギルドから寄付を受けている手前、徴収出来ないのである。
無事初級冒険者となったパーティ一行は、2度の引率採取を終え、スライムの単独採取の同意をもらう。
以後、指導料を早々に返して、次の採取へと向かう。
森には、野生の豚(猪)が多く生息している。それの採取依頼を受けるため、ギルドに採取依頼をだす『森の豚を採取したい』。
依頼書は、掲示板に張り出され、先輩冒険者の指導が始まる。
豚の生息場所。
場所毎違う罠の作り方。
武器で狩る場合の戦い方。
豚の採取依頼は、肉だけになるので。
丸々そのまま買い取らせる。ただし、経過時間により買取額が低下していく。
血抜きして運搬する。こちらは時間による価格低下は抑えられるが、狼などの肉食獣が襲ってくる。襲われる前にやる対処法。
ランクは、採取する獲物の種類が多くなるとアップする。初級でも中級でも買取額は同じだが、指導料がバカにならない。早めに中級となるのが、初級冒険者にとって急務となる。
なお、豚の買取はギルド以外に、町の肉屋でも可能であるが、毎月支払う指導料の最低額が決められているので、ある程度の数しか町で売れない。
件のパーティ、豚の指導料を早々に支払い終わると、武器と初期の防具を買い替えていく。
ある程度の資金がたまると、次の依頼を出した。『狼の解体を行いたい』
毛皮は、下級冒険者にとって革の装備となっていた。それを揃えたい依頼になる。当然、市販品もあるが、素材を工房に持ち込めば安く手に入る。それに、狼の革を着ていると、狼が寄ってこなくなる傾向がある。
さらに、戦い方を覚えると森の奥に入っても、対処可能になる。
その他、森にすむ危険な獣の対処法の依頼を出して覚えていく。
結果、十分な知識と経験があると判断され、中級冒険者となっていた。
指導者不要となった、パーティ一行。
最初に狙ったのが、豚が魔獣化した”オーク”。
森で幾度か遭遇していたが、四足歩行時は、豚以上に高速で走り。二足歩行時には、速度は遅いが振り下ろす前足は、太い枝を叩き折る。
四足で体当たりされても、二足で腕で叩かれても、一命に関わると言われている。
オークを討伐すると、採取部位として”大量の肉”食料となる皮”魔石”を得る事が出来る。
オーク肉は、やや筋張った野生の豚に比べ、その見かけによらない上級肉として売買される。
魔石は無属性となる。単純に魔獣化したオークは、魔力を身体強化に使う。高速移動や腕の強化を、雄たけびを引き金として発動させる。
通常、森での血抜きは大きすぎて出来ない。時間がかかる上に、大量の血の匂いに、肉食獣や魔獣が寄ってくる。
ただ、解体しないで運ぶ方法がない。2m~3mの巨体を、数名では持てないのだ。当然、指導者もいないので、中級になるまで待っていた採取となる。
そこで彼らは、北門から離れた場所にあった獣道の整備を始める。
幅20cm~40cm程の道幅を広げ、小幅の荷車が通れる様に拡張していった。
荷車を二台準備し、獣道の脇に隠す。道に放置すれば、目立ってしまうからだ。
獣道の最終地点は、低木しかない場所にする。木と背の高い草を刈り込み、見晴らしの良い広場にした。
更に準備は進む、獣道の手前に細く刃物では切れない獣の腱を、叩いて繊維状にほぐして糸を作り、それを編み上げてもらった。それは、狼の不要部材であった為、工房には大量にあった。
当初は、金属を張っていたのだが、血を浴びるとすぐに錆て使いものにならなかった。そこで、検討し改良した結果がこれである。
オークは、定住先を作ると1匹から3匹で狩りに出る。
食料となるのは、穀物がなる草・小動物・中型として狼・野生の豚・鹿・熊など自分より小さければ種類を問わない。
追われた小動物は、木に登る。オークはそれを待っている。
落下するまで、体当たりをやめないのだ。
落下して気絶するかケガを狙う。
その為、冒険者ギルドでは、オークから逃げる時は、木に登らない様に指導する。
その巨漢の為、定住先で作る群れは、10匹を超えない。
大食の為、群れを維持できないのだ。
10匹程になると、数匹が群れを離れ定住地から離れていく。
逆に、定住地を見つけた冒険者の格好の狩場になる。
1匹か2匹で移動しているのを狙う。
パーティの一人が、遠方より矢を射る。
気づいたオークが、追いかける。
あとは、広場に誘い込むだけである。
前足を腱の糸で切ると、つんのめる格好で地に伏す。
そこで、急所を狙い突き刺し仕留める。
あとは、荷車に載せて北門を目指す。
パーティは、このやり方で『北門の肉屋』と呼ばれていた。
ナバリアの北門
ナバリアが、まだ港湾都市を国としていた時代。大きくなった町を守る城壁を、旧城壁の外側に造った。
横にした馬蹄型の城壁の3方に門があり、それぞれに代々の網元の名を付けて、親しんでいた。
当時、網元と王は同義であり、気楽に町に出てくる王を、網元と呼んでいた。
イルミスから移住してきたという一族が、ナバリアに住みついた。
ナバリアは、もともと猟師町で気性の荒い男町。
移住してきた一族は、イルミスらしい文官が多くいたため、大雑把だった網元にとり得難い人材となった。
瞬く間に、館の実務を取り仕切る様になると、次々に改革を行う。
その一つが、北にある城門の閉鎖と名称の変更。
名称を、人の名から「北門」「東門」「南門」と変えた。
もう亡くなって、その人をしる人もいないのだから、覚えやすい名が良い。
それが、改称の理由だったが、町の人は納得しなかった。
慣れ親しんだ網元の名だと言ったのだが、聞き入れてもらえないと分かると、門の名前を使わない様にした。「二番目の漁村に行ってくる」これで、南門を通る事が分かる。「森に行ってくる」は、北門が閉鎖された為、東門を指していた。
北門の閉鎖理由は、無駄な維持費の削除となっていた。
旧城壁時代、北壁に網元の屋敷(現在の領主館)があった。その北に森があったので、開墾して新たな城壁を造った。その為、網元の館と新城壁の距離は、比較的短い。
開墾の途中、昼夜魔獣や獣に作業員が襲われた。それを護衛する費用がバカに出来なかった為、北の開発は進まなかった。結果、ゆで卵の寄った黄身(旧城壁内)の様に北の間隔が短い町になった。
北門は、館と近い森対策の為に設置された。
森が城壁まで生い茂ると、木をつたい魔獣や獣が町に入ってくる。
定期的な伐採と魔獣・獣の駆除を目的とした。
北門には、冒険者ギルドの北支部と買取業者の店、住民の家、冒険者達の宿、鍛冶と武器防具屋、各種商店とにぎやかな区画になっていた。
そこに館から北門を閉鎖する。と告示された。理由は、維持費削減と伐採費削減とある。
いくつか削減対象がある。門が無くなれば、門番の削除が出来る。
伐採には、木こり職人を護衛する冒険者が必要になるので、冒険者の削減になる。伐採された木は、森の日射の悪さから真っすぐには育たない。製材しても、たいした金額にならなかった。そこで、伐採をやめる。この経費削減で、木こりの費用が不要となった。
その代わり、定期的に城壁の上から、炎の魔法で近くを焼き払う事になった。これなら、魔法使い数名の費用で済む。燃え残った木は、再発火の監視を数日の間、付ければよかった。
これにより、北門の冒険者ギルドは廃止。各業者と店や宿も撤退していった。
残ったのは、冒険者達の家だけになる。
ゴーストタウン化した区画は、スラム街へと変貌していく。
残った冒険者達は、東門を使い森に行っていたが。
一部の冒険者は、北門を改造して、自分達専用の門とした。
館に気づかれれば、極刑もある危険な行為だが、彼らも生きている。




