ガミリア共和国 第29話 治療薬 (薬師・錬金術師・魔法使い)
荷馬車の裏でこれからの打ち合わせが終わる頃、きしと文官風の男がやって来た。
「あの人は?」
「俺の友人で薬師ギルドの職員だよ」
「これは、お初にお目にかかります。以後、よろしくお願いいたします」
軽い挨拶の後、一抱えの箱を受け取る。カチャカチャと瓶の音がする。
「それは、薬ですか?」
「ええ、しばらく前から依頼されていたのですが、瓶が不足していまして、やっと昨日揃える事ができました」
受け取りに、受領印をもらい職員は帰って行った。
薬を荷台にあげ。
「さて、何処に行くのかな?おっと。その前に、弟子を連れていっていいか?」
「弟子ですか」
「商売人になりたいと言うので、親戚から預かっている。
仲間の人手が足りないとかで、昨日まで行商の手伝いをさせていたのだが。たしか今日は、休みと言っていたはずだが。いいか?」
「その弟子さんは、町の中にいるのですか?」
「いや、あの建物にいる。仮眠室で寝ているはずだ」
承諾すると、一緒に来てほしいというのでついて行く。
ここに一棟だけ建っている大きな倉庫には、荷受け所や商談の部屋、そして夜遅く到着する行商人用の仮眠室があった。荷受け所で、弟子の寝ている仮眠室を聞くと、ノックもせずドアを開け。
「おい、いつまで寝ている」
「いて、だれ・・・親方。昨日遅く着いたんですよ、もう少し・・いてて、また殴った」
「起きろ、仕事だ。お前に貸してある荷馬車は、ここにあるな」
「馬と一緒に、外につないであります」
「よし、馬の世話をやったら、入り口に来い。俺の荷物を仕分けしておく、来たら積んで出発だ」
「まったく、人使いが荒いんだから」
「文句を言っていないで、サッサとやるんだ。これから村にいくからな」
「えー!今日は休みと言われているんですが」
「あいつらは、だろう。俺に関係ない」
「そんな」
小走りに部屋を出ていく弟子。身なりを整えて、馬の世話、荷馬車の支度と今日は、起きるなり散々のようだ。
弟子の荷馬車がやってくると、手分けして荷を積みかえる。
「わりいな、これでいつでも出れる」
「では、偏屈さんの工房に行きますか」
「偏屈?・・もしかして錬金術師のか」
「そうです。そこでアポ治療薬を積んだら出発です」
町の中を進みながら、今、村で起きている事を説明する。
「それでか、村に行った連中がそろって同じ事を言うんだ。
”近隣の村を廻ると、いつもと様子が違う。いく村々で、住人の具合が悪そうだ。行くときは薬を持って行ってくれ”と、こんな具合だ。
俺たち仲間以外には、商売の情報を流したりしないんだ。
これは、村はかなりひどい事になっている。そう思って薬師ギルドのあいつに、飲みやすいように瓶の薬を揃えてもらったんだが。もしかして不要なのか?」
「どうでしょうか。薬師の薬は、穏やかに長い薬効があるとしか知らないので、実際はよくわかっていないのです」
「そんな・・・それじゃ、もう一人連れていっていいか?
そいつは薬師なんだが、最近の瓶不足の影響で、煎じ薬が思ったより売れてもう素材が無いと困っていたんだ。冒険者ギルドに薬草の採取依頼を出しているそうなんだが、他の薬師も同じ状態だとかで、休職中なんだ。そいつがいれば、買った薬も使えるかわかるだろう、どうだ?」
「そうですね。・・・いいでしょう」
すこし考えて、ちょい悪い顔の姉さん。
工房裏に荷馬車を停める。工房に入って、偏屈さんとなにやら話す姉さん。
「それしかないか・・だが、誰がそれをやるんだ?」
「そこは、お任せを。それから大き目の空魔石をある分、持っていくよ」
雑用の2人が、工房から4箱と空き箱4箱を持ってくる。2箱ずつを、それぞれの荷馬車に積め込む。1箱は5列x5列、25本入れになっている。
「もう瓶が無いから、これで終わりになります」
「ご苦労様。では、まいりましょう」
途中、知り合いの薬師を拾い城門を目指す。その間、きしには弟子の荷馬車を操作してもらっている。
城門から、最も近くにある村が、シスターと最初に行った村になる。手続きが終わると、弟子の荷馬車はきしが操る。
御者となった弟子の直ぐ後ろで、姉さんは行商人・薬師に説明を始めた。
これから村で何をやるのか、持ってきた治療薬はどんな薬か、用法用量を厳守させる事、もし用法用量を守らなかった場合はどうなるのか。一通り説明していく。
「最初の村は、井戸の浄化は終わっています。聖水も、1度だけ飲んでいるはずです。
着いたら、村長にあいさつの後。村人の容態を見て回ってください。移動できる村人は、井戸まで集まってもらうように説明お願いします」
工房をでて、まだ日の高い時間に到着した。
村長に、挨拶と治療薬を持ってきたことを話す。その間、家にいた孫と村をまわり、容態をみながら、動ける人は広場に集まってもらう。
村の幾人かは、多少具合が悪くても畑に行ったとの事。治療薬と聞いて、村の全員が集まってくれた。
井戸を囲むように集まった村人が見えるように水を汲み、試験紙をつけてみる。桶に浮いた試験紙に、変わった様子は見えない。
「今日は、皆さんが具合を悪くしている原因が分かりましたので、その報告と治療薬を持ってきました。
その前に、井戸の水を検査しましたが、異常は見当たりませんのであんしんしてください」
桶から試験紙を取ると、近くの村人に手渡す。色が変わっていないのを見ると、安心して隣に渡していく。
「前回、この試験紙が朱色に変わったわけですが、それは魔素が多く含まれていたからでした」
「魔素ですか?それは、どこにでもある物じゃないですか」
さすが村長だろう、結構博識である。
「ええ、どこにでもある物です。でも有りすぎると困る物でもあります。
例えばですね、ここでも人糞を肥料につかっていますね。それを大量に撒けば、作物は大きくなりますか?」
「とんでもない、逆に枯れますよ」
「そうですね、少量なら肥料でも、大量になると毒になります。それは、魔素でも同じです。危険な濃度だと、試験紙が教えてくれたのです」
「それが、井戸と聖水に入っていたのですか?」
「そうだと考えています。結果、村で容態の悪い人が多くなったのでしょう」
「なんの為ですか?こんな小さな村を困らせて、なんの得があるというのです」
「以前も村が困るような事は、ありませんでしたか?」
「村が困った事ですか・・・昔ありましたね。村に盗賊が来るようになったのです。その盗賊、かなり変な盗賊で。
威嚇は、するのですが。物を取ったり人を連れ去ったりしないのです。ただ、”俺を村長にしろ”と脅すだけで、訳も分かりませんでした。
ここは、領主から最も離れた村です。騎士団に助けを求めても、一か月以上かかります。仕方なく、町の冒険者ギルドに依頼を出して、護衛してもらいました。その時は、それで帰ったのですが。また来たのです、さすがに村に余分なお金は残っていません。
そこで、隣村に使いを出しました。そこでも、村長にしろと脅していたようです。それならと、周囲の村が集まり、若い衆が自衛団を作って抵抗したら、それ以降来なくなりました。
またこんな事があると困るので、領主の息子に伝えました。”村の警備にあたる騎士団を、巡回させて欲しい”と訴えましたが、結果、近くの町の騎士団に治安維持を委託したと言われました」
「村長ですか、なんの為に?」
「盗賊達の話を聞いていると、この村近辺を独立させるつもりだったようです。それから、税を毎年取ると言っていました」
「そんな事が出来るのですか?」
「無理です。税を盗賊に払ったりしたら、領主の徴税官が来た時にまた払わされます。
税は穀物で払います、取れ高の40%です。80%も持っていかれたら、飢え死にしてしまいます」
「それで、領主が治安維持を委託したのですか。でも良く、それが間にあいましたね」
「ただ運が良かったという事です。当時、領主の息子がこっちの町に来ていたのです。視察だと言っていましたが、付きの人が海に遊びに来たと言っていました。
村の代表が集まって、直接談判したらこうなったのです。」
「それは運がいいのか、息子が優秀なのか、独断でしょそれ」
「だと聞いています、帰ったら領主に怒られたらしいです」
「今回もそれに近いのか?」
「今回のでは、税をとれませんが」
「そっちではなく。村がつぶれる方ですかね」
「村がなくなったら、税は取れないのでは?」
「そうなんですが」
これでは話が進まないと、治療について話す。
「今畑に行っている人は、動けるのですね」
「だいぶ具合は悪いようですが、畑をそのままにしておくと、荒れて作物を作れなくなります。それで仕方なくです」
「それでは村長。井戸を飲んだだけの人、聖水を飲んだ人、どっちも飲まなかった人に移動してもらいますか」
村長の声に合わせて、井戸に3つの集団が出来る。
どっちも飲まなかった村長家族と入口付近の家。5名と畑に出た3名。
井戸だけ飲んだ奥の数件の家。3名と畑に出た5名。
聖水を飲んだ残りの家。11名と畑には出ていなかった。
2度目の聖水は、シスターが追い返してしまったので誰も飲んでいなかった。
「という事は、聖水は11本飲んだという事ですね。」
姉さんは、騎士に手伝わせて14本の治療薬を、荷馬車から持って来る。
「この薬を飲めば、症状は治まります。ただ、いくつか約束があります」
程度がありますが、腹痛をおこします。すぐに薬を飲んでも効きません、飲むなら翌日以後にしてください。
この薬を再度飲む場合は、飲んで4日以上経ってから飲まないと腹痛が激痛となります。7日以上だと、最初より軽い腹痛で終わるはずです。
ただ、この村は、聖水を1回しか飲んでいないようなので、この薬で完治します。聖水を飲んだ人は、この薬1本です。
次に、井戸だけの人です。こちらは症状が軽いですね。
うなずく様子から、畑はきついが家に居るのは大丈夫のようだ。
この薬を1/3飲んでください。井戸の魔素は、聖水程濃くありません。これで、だいぶ楽になります。
最後に、これの代金として”聖水の瓶11本”と”この薬の瓶14本”を回収します。一緒に行きますので、家の容器にあけて聖水の瓶と一緒に返してください。
「それだけで良いのですか?お金は?」
「それは不要です、あとで徴収しますから。この村からは、取りませんから心配いりませんよ」
だれから・・という声が聞こえたが、あえて返事はしなかった。
その後、不在の家を除いて各家をまわり、容器に薬をあけ聖水の瓶を回収してまわる。不在の家には、薬を別容器に移し替え、村長家族が説明する事になった。
手元には、空容器が25本。
ちなみに、飲んだ村人はいずれも腹痛をおこし、薬を欲しがったので薬師に説明させて、売り上げる行商人。
まだ日が高いので、次の村を目指す。
途中、歩いていた冒険者が3名。
同じ村に行くと言う。
護衛をするので乗せてほしいと言うので、ここに盗賊はいないと思ったが乗せていく。
村には、以前仲間同士で結婚した夫婦が、実家に帰って農家をしているのだとか。その夫婦の見舞いに行くのだと言う。
手土産だと、下級薬瓶に入った薬を持っていた。
薬を作る者★★ 薬師・錬金術師・魔法使い(魔女・魔術師)
薬師・・・・素材は、草木・動物の干物。主として草や木を主原料に、乾燥後に薬研ですり潰して薬とします。これを自分で煎じるか、下級薬瓶に薬効を溶かし濾過した物を飲みます。
製法が漢方に似ています、実際に薬効も即効ではなく、飲み続ける事で効果が出てきます。
錬金術師・・魔道具を作るのだが、その過程で多種多様な素材を扱う。その知識を使い一部の錬金術師は、薬作製を行う者がいる。彼らは、求める薬効に応じてあらゆる素材を使います。金属や魔石であっても、必要とあれば躊躇なく砕き薬品の一部とするのです。
その薬は、血止めなどの即効性のある薬や大きな裂傷の治療など、冒険者達が狩場で緊急時に使用する物を多く扱っています。
魔法使い・・魔法使いには3種の魔法使いが在ると言われています。
★魔法使い・・四元素魔法・光と闇魔法・神聖魔法・空間と時空魔法・精霊魔法
この他に、魔力を使用して薬作成をする者。
一般的には、魔力釜に素材や液体を入れて、魔力を込めながら煮出す事で作る。
魔法使いが作る薬は、師匠から伝承された薬と自己開発した薬がある。
そのため出来てくる薬効は、同じ効果をうたっていても魔法使い毎に大分違う。
下級薬瓶だけは全員が使用するので、状況に応じて魔法使いが作る薬を選択する。
ただ、彼らの住む場所が辺鄙な為、その薬はほとんど流通していない。
★魔術師・・・魔法は詠唱により発動、魔術は魔法陣より発動する魔法と言える。
例えば、火の魔法を詠唱で発動か、魔法陣に魔力を込め発動かの違いとなる。
そのため、描かれた魔法陣を、魔法の様に大系毎に区別する事はない。
通常、魔術師が薬を作って売る。というのは聞いた事が無い。
では、まったく無いかというと村や辺境の一部で売っている話は聞く。
その作成だが、その土地の風土病の治療に使われるようだ。
魔術コンロで、薬草等を加熱し薬効を抽出する。
その際に、魔法陣により薬効の強化・抽出速度の調整などを行う。
売っているのが、極一部であるので購入は難しい。
★魔女・・・・その当時、呪術を行っていたのが、魔法使いの女性だった事から来ている。呪術は、禁忌の魔法と言われ、使用も研究・伝承が禁止される。禁止された時、全てを焼却し教会の監視下に置かれた魔女以外は、魔女狩りの対象となる。
薬師・・・・薬〇・瓶作製✕・魔法✕(瓶は市販品を購入)
錬金術師・・薬〇・瓶作製〇・魔法✕(魔力は使用しない)
魔法使い・・薬△・瓶作製△・魔法〇(釜に魔力を込め、薬を作成)
魔術師・・・薬△・瓶作製✕・魔法〇(素材に魔力を込め薬とする)
魔女・・・・薬△・瓶作製✕・魔法〇(薬は呪術の精神干渉用を作る)
※魔法使いの△、引退した者や争いを嫌う魔法使いが薬を作っている。
※魔術師の△、極一部の魔術師が作成、一般向けでない為、瓶は使用しない。
※魔女の△、呪術の補助として使用する。
※瓶作成は、下級薬の販売を行う場合には規定の瓶に入れる事が必須となる。作製しない場合は、瓶を作成してもらう必要がある。




