フリードリッヒ王国 第3話 訓練前期
政務から解放されても、討伐の指揮からは逃げられない。
午前は、近衛兵と一緒に隊の訓練。午後も訓練がある場合は、引き続き訓練となる。ただ、屋外での訓練だと、参加は難しいので自主鍛練となる。
そんな一コマ。
王宮の入り口近くの応接間にて、ギルド職員と一緒に来た冒険者から話を聞いていた。
「ワイバーンとやるときは、翼を狙うんでさぁ。あいつら、地に立って戦わないんで、落とす事からはじめるんでさぁ」
劣化竜といわれるワイバーンの素材を取りに行った冒険者の話。
「フォレストドラゴンは、森にすむ中型の竜なのです。特徴は、足が速いという事でブレスは持っていません。ただ、嚙みつかれると、簡単に体が半分になります」
亜竜と言われるドラゴンの話。
「地竜の動きは、鈍いですが尻尾はとてつもなく早く動きます。見ていないと、一撃で内臓が破壊されます」
竜としては、弱い方だと言われている、属性竜の話。
素材採取の為、冒険者達は様々な竜と戦っている。その話を聞いてそれぞれの戦い方を聞いていると、竜の恐ろしさが次第にわかってきた。
竜の格が上がると「血一滴、鱗一枚、毛一本。竜の全てが金になる」と、命と引き換えに竜に挑む者がいる。そんな彼らの話を聞くことから討伐準備は始まっていた。
☆☆☆
王都騎士団の仕事は、主として王都防衛、それに辺境伯軍と合同での他国との紛争対処。それには、籠城戦と野戦がある。防衛時には、野戦は、こちらが有利の時だけ打って出る。互角あるいは、野戦に不利となったら籠城戦となる。そのため、訓練は、弓・弩級などの城壁からの遠距離攻撃主体となる。
ただ、門が破られたか城壁に登られた事を想定して、対人戦も重要な訓練となる。紛争対応は、竜討伐と無関係と訓練になる事はなかった。
長距離を飛ばす必要があるため弓は、長弓を使用する。ただ、成年にもなっていない体では、弓を引くこともできない。体ができるまで短弓を使わされていた。当然、剣は木剣、槍は木の棒、盾は鍋蓋のような木製に革のベルトがついたものを使用する。
また、討伐隊は未成年であり十分に体も出来ていない。そこで騎士見習いの部隊と一緒の訓練となっていた。
それでも、王子補佐の副隊長が、自分の隊の訓練の合間をみてアドバイスをくれるのはありがたく思っていた。
話は少しずれる。討伐隊メンバーが全員集まったのは、謁見の間に行く直前。お互い顔も名前も知らない、ただ、この人たちと竜討伐にいくのだろうとは感じていた。
謁見の間の後、そのまま自己紹介をするようにとアミッド王子が、一室に案内させた。
そのときは、名前や素性を言い、互いの情報を交換しあった。のだが、以後、名前を言い合う事はなかった。錬金術師は、王子以外では唯一の成人なので「兄ちゃん」「兄さん」などで済む。従士見習いは騎士希望なので「きし」猟師見習いは、気配を消して近づいては驚かしてばかりいたので「ぼう」(いたずらっ子のぼうずから)、とシスター見習いは「シスター」、魔法使い見習いは一つ年上なので「姉さん」、と呼び合っていた。
訓練の様子を聞こうと王子は、顔合わせした部屋に討伐隊を集めてみた。
(きし)騎士としての訓練は、竜討伐とすれば違うと思う。
以前の辺境伯従士隊の訓練は、越境してくる敵を迎え撃つ事・害獣となった獣を駆除する事・籠城戦となった場合に備えての弓の訓練や交代で城壁に常駐しての夜間訓練など多種多様にわたっていたので分かる。竜討伐に、集団での野戦訓練・籠城戦の訓練は必要ない。屋外で獣狩りをした方がよっぽどましなのでは。
(ぼう)山での狩り以外したことがないので、ここの訓練は新鮮だが、竜に関係していないと思う。
(シスター)私は、教会しかしらないから。
(姉さん)自分もギルドにしか行っていないから、どうなっているのかわからない。
(兄さん)まってよ、以前は走ったり弓を触ったこともないんだよ。毎日死にそうだよ、実際、死なないように訓練は必要だと思っているけど。
それを聞いたアミッド王子。
「”シスター”が教会で、武術や体術の訓練を受けているのを知っているかい?」
顔を下に向ける”シスター”。シスターに体術訓練など通常無いのを知っているので恥ずかしくなったのだ。
「そうなんですか。どんな訓練か見てみたいです」
とシスターに武術の訓練があると、ちょっと驚いた男子達の反応。
魔法使いも武術や体術が必要かな?、ちょっと想像してみた。3匹の害獣。それに向かっている王子と”きし”。兄さんは・・あてにできそうもないな。王子と”きし”がそれぞれ一匹に向かい剣をふるう。その横を害獣がすり抜ける。向かってきた害獣の頭に一発メイスを叩きつけるシスター。またやられると今度はこっちに・・・ああ、かなりヤバイかも。急に興味のわいた姉さん。
翌日、教会に集合しシスターの訓練を見学する。皆の反応は、一致した。ここで一緒に訓練を受けたい。ただ、いま住んでる騎士寄宿舎(姉さんは、戦乙女隊のいる寄宿舎、別棟)と教会鍛練場は少し距離がある。毎日通うのは、門番がいるので都度検査を受ける必要がある。つまり面倒なのである。
では、戦乙女隊はというと、彼女らは頻繁に出入りしているので顔パス、つまりフリーなのである。しかも移動は、馬を使用しているので時間もかからなかった。
男子は、教会騎士と同じ宿舎へ、女子は、修道院に寝泊まりする事になった。姉さんは、毎日門を出入りしていたので、都度の身元・身体検査に辟易していたので、大賛成だった。
戦乙女隊の任務は、いくつかある。騎士隊本来の、籠城戦に参加すること。野戦訓練の遠征時には、騎士団より先行して、現地の状況を報告する事。周囲の村々からの要請を受けて害獣の駆除、ただこれには条件がある。本来害獣駆除は、村の要請を受けた冒険者ギルドが請け負う。当然それには、依頼料が発生する。一時村で建て替えて、ギルドより領主に駆除報告されて補助金が出される流れなのだが。その補助金は、年間いくらと実績に応じて中央官庁から村を管理する領主に支給されるのだが、それをくすねようとする領主や代官が多くいる事だ。
わずかな補助金しか支給されないと、次の支払いができない。そこで、騎士隊に駆除依頼が来ることになる。なぜ騎士隊へ直接来るのかだが、中央官庁へ苦情を出すと、必ずどこかで隠蔽され苦情そのものが立ち消えてしまうからだ。騎士隊は、本来の業務でないので遊撃隊としての存在の戦乙女隊に駆除命令をだす事になる。
害獣駆除あるいは魔獣駆除は、攻城戦とは違う訓練が必要になる。
単数の害獣には、餌を置いておき、近づいたら四方から追い立てて駆除する。群れを作る害獣は、住処まで追跡し寝込みを襲うなどなど。都度の対応が求められる。
教会鍛練場は、神官が武装して訓練している姿を見られた時、よからぬ噂になるのを防止する為、周囲を高い塀で囲っている。
それとは逆に騎士鍛練場は、周囲を立木で囲ってあるだけなので、いくらでも覗き見る事ができる。急いで対応する時は、武器だけ変えて出発できるのが理由となっている。
戦乙女隊の変わった訓練には、見えないという事が幸いとなっている。
女騎士が、枯葉の上をソロリソロリと歩いている訓練を想像すれば、どんなに怪しげかわかるだろう。気づかいなく訓練できると、移動の不便より好評なのである。
騎士隊とまったく違う訓練は、竜退治に有効だと気づいた討伐隊。カルガモの親子よろしく、常に戦乙女を注視し、それを模倣した訓練をやっていた。




